No.2


「王者の劫渦(バシリオス・ディーネー)!」

金髪の巨漢の手による大剣が、容赦なく木偶に振り落とされ、砕け散る。
――人類の手により生み出され、はや千年。

もはや聖遺物といって良い“それ”は、宝具属性すら帯び。
加えて、担い手による暴風が如き一撃は。
“それ”本来の威力こそ損なわれているもの、
マスターの適性試験として配置されていた人形を
微塵に打ち砕くには、充分過ぎるものであった。

魔力を秘めた超常の人形が、無数の破片となり試練場の伽藍に舞い――。
それらも程なくして、空気に溶け入るように消える。

だが、それと入れ替わるように。
虚空より滲み出るように、一人の蒼き魔人が姿を見せた。

パン、パン、パン、パン――。

魔人は黒き竜を従え、巨漢の勝利に賞賛の拍手を贈る。

だが、その手の鳴り響きには。
喩えるなら召使いを呼び出すような、
あるいは良き見世物を見せて貰ったと感謝するような。
見下した者に対する賛辞のようなものが含まれていた。

「――良いぞ。実に良い」

そして、蒼き魔人は口を開く。

「出来損ないの屑とは言え、仮にも英雄の模型を鎧袖一触か。
 所詮は命綱程度に過ぎぬとは言え、この我を従えるのだ。
 それに相応しき威厳と力量を持つものでなければならぬ」

誰よりも傲岸不遜に。
誰よりも傍若無人に。
この場の、もといこの世全ての存在を嘲笑うように。
猛獣の笑みを浮かべて、巨漢に対峙する。

「――何者だ?」
「元デイン国王、アシュナード。
 存命の頃は“狂王”とも呼ばれておったがな。
 テリウス史に名を轟かせる、言わば反英雄よ。
 この度はライダーの座を聖杯に与えられ、
 この聖杯戦争とやらに加わる事になった。」

巨漢の誰何に、魔人は答える。
己の出自を。
己の存在を。
既にこの世の存在ではないと、その纏う気が傲然と示していたが。
魔人――、アシュナードはその言葉で明らかにする。

巨漢にとっては目の前に立て続けに沸いた、超常なる現象の連続。
だが、それに一切臆することはなく。
ただ己の身に降って湧いた現象にのみ彼は疑問を抱き。
魔人に負けぬ傲慢な視線で彼を値踏み、状況を問いただす。

「聖杯戦争、だと?」
「ククク…、貴様は何も知らぬのか?
 我の方では、少々調べさせては貰ったのだがな。
 ベルン動乱の元凶、狂気の解放王ゼフィールよ」

だが、アシュナードにはその問いには答えず。
金髪の巨漢の名を、ただ暴露するに留める。

「無能も極まる父を手にかけ、正当なる地位を掴み。
 公正なる世を目指し、竜を駆り世の変革を望んだ。
 エレブ大陸における、覇道の体現者。我と同じ覇王の魂よ。
 ――相違あるまいな?」

警戒の気配を増す巨漢――、ゼフィールにアシュナードは
歯を剥き出しにして、声も無く笑う。いや、晒う。
――だが、その笑いは。

大型の猛獣が獲物を目の前にして歯を剥き出しにする、
攻撃の前兆にも等しきおぞましいものでしかなった。
――だが、その晒いを。

「…下らぬ。
 世の誰が何をほざこうが、わしには興味すらない。
 たとえ行く手に何があろうが、わしは全てを踏みしだき己が理想を貫く。
 ただそれだけの事だ。貴様がそう思うなら、好きに言えばよい。」

ゼフィールは鼻であしらう。
その瞳には一切の恐怖も、憤りすらもなく。
血肉の通らぬ鋼を思わせる、只の無感動と虚無に彩られていた。
それは覇王と称される者には、相応しくない眼光ではあったが。

「――それは肯定と見倣すぞ?
 だが、貴様の覇道も落日を迎え。
 根城をも包囲された貴様は、もはや討ち取られる寸前。
 だがここに来て貴様の渇望が聖杯にすら届き、ここに召される奇跡が起きた。
 それが我が知る、貴様のこれまでの経緯だ」

元より他者を塵芥程度にしか看做さぬ、狂える王の興味を引くものではなく。
ただアシュナードは、知りうる限りの知識を与え――。

「誇れ。この聖杯に、この我に。
 ――貴様はまさに、選ばれたのだぞ?」

彼にとっての最大の賛辞を、ベルンの王に贈る。
あくまでも、格下を相手取るように。
だが、ゼフィールはその不敬を一切咎める事なく。
ただ、無言でその先を促す。
ゼフィールは、確信に近い感情を抱いていた。

このようなおぞましき蒼き魔人が、一切の目的も無く近づくはずがない。
そして、その内容が決して穏やかなものであるはずがない。

そうでなければ、ここまで塵相手に手間暇をかけて説明を為す理由がないだろうから。

「さあ、その先には貴様と我の野望を叶える万能の願望器――。即ち、聖杯がある。
 ただそれを我らが手に取るには、貴様のような令呪持つ者どもと主従関係を結び。
 我らと同じ立場を持つものども、計二十四組――。
 即ち、四十八名の雑兵を全て屠らねばならぬ。それがこの“聖杯戦争”の仕組み。
 だが我らが元いた世界で為した所業を思えば、実にささやかな数よ。
 …さあ、貴様に決断を求めるぞ。…是か、否か?」

――ああ、やはり。
ゼフィールはその要求がほぼ想像通りであることに、深い溜息を付いた。
魔人が覇王に求めるものなど、所詮は暴力と殺戮のみ。

つまり、この蒼き魔人は殺し合いの為の道具として己を求めたのだと。
それが、たとえ“所詮は命綱程度”の存在であろうとも。
この男には、この私が主として必要なのだと。

渇望は、確かにこの胸にある。
理想は、確かに思い描いている。

奇跡に縋ってでさえ、叶えたい願望はある。
そのためにたかが老若男女問わず四十八名殺戮するなど、今更どうと言うことはない。
これまでに己の理想のために手にかけて来た人間の数など、それこそ桁が違うのだから。
だが――。

この魔人と手を組む事だけは、人としてしてはならぬのだと。
この狂王の願いだけは叶えてはならないものだと。
本能のどこかが、強く警告を発していた。

あれはただ破壊の限りを尽くし、ただ全てを無に帰すのみの存在だと。
唯一それが、この理性ある猛獣の飼い主となる事を躊躇わせていた。
だが――。

「今更退こうとも、元の世界でただ無意味な死が待ち受けるのみ。
 だからこそ、あそこで退かずここまで進んだのであろうが?
 だが、征くか退くか。決めるのはあくまでも貴様次第だ」

機転を制するように、狂王の饒舌は続く。
ゼフィールにとって癪に触る言葉ではあるが、それが彼の身に置かれた、
事実であり現実でもある。ただ、その逡巡を臆病と看做したのか。
狂王の弁舌は、直ちに血臭を帯びたものへと変じ。

「我はどちらでも構わぬぞ?
 貴様が我との契約を拒むならな、直ちに令呪ごとこのラジャイオンの餌とし、
 我の魔力炉とするまでの事。しばしはそれで自立出来るだろう。
 あとは魔力が切れるまでの間に、他の未契約の主を捕らえるか、
 なければ他の有像無像の召使いを一つ潰し、座を作り出せばよい。
 我にしてみれば、乗り掛る船が変わる。ただそれだけの話よ」

彼の後ろに控えた騎竜が、脅迫に呼応して咆哮を上げ――。
迅速なる決断を促す。

「それとも我を滅し、貴様が新たな臣下を探し聖杯を得るという選択もあるぞ?
 もっとも、我はあの木偶とは訳が違うがな」

狂王は不敵に笑い、ゼフィールを挑発する。
だが、ゼフィールは既に悟っていた。
たかが人間の身では、魔人には決して適わぬのだと。
ならば――。

「――では、改めて問おう。貴様は我が主足りえるのか?」

そして狂王は最後通告を迫る。
貴様が主なのか、と。貴様が主に相応しい者なのかと。
ならば――。

 ――その問いの答え、もはや考えるまでもない。

「痴れ言を。それこそ愚問というべきものだ。
 貴様が何者であれ、貴様を使役せねば我が望みは決して果たせぬというのなら。
 貴様を従え、聖杯とやらを掴み、我が見果てぬ夢を叶えよう」
「よかろう。これで正式に契約は為された」

ゼフィールの承諾と、アシュナードの宣誓に同意するように。
ゼフィールの手の甲にある令呪が、一度だけ閃光を放つ。

ベルンの狂気の解放王と、デインの狂王。
ともにその元いた大陸に比類なき悪名を轟かせる狂気の王達は、
今、まさにこの時に主従の契約を果たした。

今更惜しい命でもなく、魔人に手を貸すなど癪に触るが。
狂王の分析通り、元より後戻りなど出来ぬ身ではある。
この魔人が何者であれ、聖杯戦争とやらが何であれ。
退いた所でどうにもならぬのであれば、前に進むしか道はない。

そしてその手段がなんであれ、どれほどの災禍を引き起こすものであれ。
結果として理想を叶えられるなら、それに優るものはない。
狂王の処遇については、その闘争の間に考えればよい。
過ちがあれば、速やかに正すのみ。
ゼフィールはそう判断し、アシュナードと手を結んだ。

「聖杯戦争とやらの基本的な知識とルールは、追って説明する。
 貴様と繋がった以上、お互いの知識と記憶はいずれ共有されるだがな。
 さて、参ろうか。エレブ大陸の、もう一人の狂王よ」
「…フン。貴様こそ、わしの足を引かぬ事だな」

二人は足並みを揃え、伽藍の先にある扉を潜り。
作られた試練場を後にした。

共に戦乱の渦を生み出した、二人の狂える王達による主従の契約。
この二人が何を齎すか、今はまだ分からない。
ただ、一つだけ言えることは――。

彼らはただ、蹂躙するに特化された存在であるという事実のみである。


【参加者No.2ゼフィール@ファイアーエムブレム@覇者の剣】
【サーヴァント:ライダー(アシュナード)@ファイアーエムブレム@蒼炎の軌跡】





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