No.19


「運命とは、誠に数奇なものと思わぬか、愛しい蝶よ
紅世の徒の願望を叶える神より依頼を受け、かの神を護っていたこの俺が
今度は、願いを叶えるために他者を殺せと依頼を受けた
いや依頼を受けたというのは過ちか
今一度お前に会うことを望んだのはこの俺の方
聖杯とやらはその願望を汲み取ったに過ぎぬ
言うなれば俺のほうが聖杯に依頼したということか
であるなら最後の一組になるまで殺しあうというのは、俺にとっては願いを叶える条件ではなく、聖杯に手渡す報酬だ
俺にとっての刀剣類のように、聖杯は命を喰らう
これも、我ら“紅世の徒”の生の因業か
人を殺して存在の力を奪い、それをもって我らが望むことをなす
なるほどな、そう考えればこの地に俺が呼ばれたのも納得だというもの
願いを叶える聖杯とは正しく“祭礼の蛇”であり、願いを叶えるために殺しあう我らは皆等しくして“紅世の徒”というわけか
この殺しあいとやらも存外、都喰らいのように、莫大な存在の力を得るための、手順なのかもしれぬな

ふむ、だが聖杯があの創造神に類するものだとすれば、俺はそれを前にして、またあの感覚を味わえるのだろうか
かって、見たあれほどの大きさを前に抱く畏れを
抗することなど不可能と分かる畏れを
なにをもってしても埋めがたい畏れ
圧倒的な力を前にした者の、どうしようもない感覚を
俺はまた、抱けるのだろうか
抱けるのならば、願ってもいない僥倖だ
願ってもいないものさえ叶えてくれるとは、流石は願望機というべきか
お前と再会した時に、俺がようやく抱けたこの想いをお前と共有するには、あれを共に見るのが一番速い
そうすれば、お前も分かってくれるだろう
この世には、俺などが及びもつかない、大きな者が存在することを
俺も、お前も、そいつから見れば大して変わらぬ存在なのだと
お前が俺に及ばぬことを、怒ることはないのだと
お前が小さなことを、恨むこともないのだと
俺はお前がいなくなってから、お前のことばかりを考えていた
お前は既に俺を振り回せる存在だったのだ

いや、待て、俺は未だ聖杯への報酬は揃えていないのだ
これでは取らぬ狸の皮算用もいいところではないか
それに、そこまで都合良く考えるのはあまりにも迂闊
未だ目にしておらず、色も形もしらない聖杯に期待をし過ぎるなど
俺としたことが、少し浮き足立っていたのかもしれん
聞けば聖杯は、剣をドリルに改造するなどという愚行を犯すあのイカれた“教授”が好き好むようなカラクリだと聞く
期待に値するようなものではない可能性も大いにあり得る
最悪のキチ○イが、ひょこひょこいずこより顔を出して、巨大な鉄巨人へと変形できるよう改造しだす可能性もないとは言えぬ
いつ出くわすとも知れぬ者へと気を散らすのは依頼遂行の邪魔になるが
“教授”に限らず万一の場合は考えておくべきか
怪しい者は、出会う先から皆殺しにしてしまえれば、楽に仕事を終えらるたのだが
それでは、ペナルティを受けてしまうというのなら、仕方があるまい
課せられた条件のもと、依頼を遂行する
いつものことだ

ああ、条件といえば一つ、マスター<依頼主>より課せられたものがあったか
殺戮は一日一時間だったか、記憶に誤りはないだろう
問題はあるまい
油断をするつもりは欠片もないが、俺とマスターの特性を考えれば、並の相手では一撃で勝負は決するだろう
否、敢えてマスターの顔を立てれば、“一喰い”で決まるというべきか
ふん、“一喰い”が人食いを札として引き当てる、か
マスターとサーヴァントは似た者同士が惹かれあうというが、正しくその通りなのだろう

蝶よ
我がマスターはお前とは似ても似つかぬ少女だ
人の身でありながら、その強さ、その力、お前が妬むほどだろう
だがな、蝶よ
そのマスターが俺に言っていた言葉を、俺もお前に伝えたい
この言葉を俺のものにできたのも、また一つの運命だろう

強いは弱い、弱いは強い

まったくもってその通りだと俺は万雷の喝采をもってこの言葉を称えよう
俺は強かった
強かったからこそ、お前が何故俺の元を去ったのかにも気づけなかった
お前は弱かった
弱かったからこそ、お前はあれほどの畏れを前にも足掻くことを選べた
まったく、なんという馬鹿な俺たちだろう
掴みたかった強さも、共感したかった弱さも、既に共に手にしていたというのに

愚かといえば、俺のマスターもまた、愚かなのだろう
マスターはこの言葉を口にしながらも、自分の弱さを未だに理解しきれていないと見える
理解しきれていないことは理解している所が、またかつての俺と姿を被らせる
マスターの願い、それは弱さを見つけることだという
自分に欠けている弱さ、それを探したいという
おかしな話だ
願いを叶えるために、殺し合いの頂点を目指す
それはつまり、弱さを得るために、己の最強を証明するということだ
矛盾極まりない話だが、その矛盾こそが、俺のマスターなのだろう
強さに特化して生み出されたが故に、強くしかいられないアイデンティティ
弱くいられない弱さ
強いは弱い、弱いは強い
……そういうことだ

もしかしたら、マスターの真の願いは、完膚なきまでの敗北かもしれぬな
そして完膚なきまでの敗北とはこちらが全力を出しきり、その上で届かぬことでなりたつ
俺はいつものように、与えられたその場その場における最適を目指す
マスターもこれまでのように、標的が無関係でも関係なく標的が無抵抗でも抵抗なく標的が没交渉でも交渉なく、貪るように喰らい尽くす
ただそれだけだ

最後に一つ、戯言だ
お前からもらった短剣、あれが俺の宝具だそうだ
正直、あのイカれた男に改造された愛剣ヒュストリクス――とは違い、名ばかりの宝具だが
俺にとって、使い潰す気にならないこの剣は確かに宝物だろう
喜べ、“戯睡郷(ぎすいきょう)”メア。
お前の名前は、お前の存在は、世界に、ムーンセルに、この剣に、この俺に
確かに刻まれている

ではな
マスターがこれ以上呟き続けるようなら令呪を使って黙らせると言って聞かぬ
そろそろ“殺し屋”二人、依頼を果たすとしよう
ああ、そういえば、この短剣
お前のではなく今回の契約への報酬にとマスターから頂戴したのだが
マスターの得物は素手だというのに、やたら出し渋ったのだ
今にして思えば、俺とマスターが似ている以上
この短剣は俺にとってのお前のように、マスターにとっての弱さを得た上で逢いたい誰かのものかもしれぬな
もしも俺の考え過ぎでなかったなら
すべてが終わった時に、お前にそうするように、この短剣もマスターに返すとしよう」



【参加者No.18――匂宮出夢@戯言シリーズ】
【サーヴァント――アサシン(“壊刃”サブラク)@灼眼のシャナ】




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