No.3


あの光景は俺の記憶に鮮烈に
いつまでも焼きついて忘れる事など出来ない。
地獄の中で見た、一筋の光明。
掛け替えの無い思い出。
そして、別れ。
一月にも満たない短い時間。
だけど、その全てが今の俺を形作り、
そしてこれからの俺を支えてくれる。
そう、淡い月光の中で佇む彼女の姿、
あれが彼女との出会いだった。

………………………………………

「……ってぇ!!」

目の前に示された扉を開けた途端、
足の踏み場の無い空中に放り出されて
前のめりに思いっきり地面に転がる。
空間転移なんて高度な魔術をあの糞神父が
使える筈はないが、
俺に対する当て付けの様なこの行為は
間違いなくあいつの意向だと思う。

「てててっ……は? ここは家の土蔵?」

体に付いた埃を払いながら辺りを見回す。
見間違える筈が無い。
いつも魔術の鍛錬に使っている場所なのだから。

「あいつ、一体何のつもりだ?
 いや、それよりもなんであいつが!?」

協会で見たあいつの姿。
だけど、あいつは間違いなく半年前に死亡している。
それもあいつが言っていた聖杯による賜物なのか?
そうだ、あいつもそうだが『聖杯』がまだ存在していた?
いや聖杯は確実に破壊している。
あの日、柳洞寺の地下に広がる大空洞で
様々な犠牲の果てで、確かに破壊した。
何もかもが分からない事だらけだ。
でも、これだけは言える。

「どんな形であれ聖杯は破壊する。
 あれはあっちゃいけない!」

復活したのならまた破壊する。
あれは破滅しか齎さないものだ。
半年間、俺だってただボケッとしてた訳じゃないんだ。
遠坂から魔術だって教わっている。
あの頃よりはマシになっている、と思う。
迷いを振り切る様に自分の力を信じる為に魔術回路を
起動しようとして違和感に気づく。
消えた筈のものが自分の右手に再び刻まれている。
右手の令呪を眺め、彼女の姿を思い出す。

優しく、厳しく俺の力になってくれた騎士。
俺が未熟だった為に泥に呑まれ、
そして、彼女は最期に微かに微笑みながら俺が振り下ろした剣に消えた。
全部、俺が未熟だった所為だ。
胸に込み上げる思いを振り切れずに俯く。

…いや、まてよ?

令呪が存在する以上、そこに必ず“従者”も存在する。

サーヴァント。
神話、伝説に残るような英雄を使い魔として召喚する、
通常ならば有り得ない秘儀。
聖杯と言う媒介を通す事によって初めて成し得る奇跡。

ならば、俺には『誰』が召喚されたんだ?
疑問が頭を過ぎるのと同時に背後に魔力の流れを感じる。
魔力感知が苦手な俺にすら、
ハッキリと判るほどの濃密なそれに振り返る。

お膳立ては最初から整えられていたんだ。
それに気づかなかった俺が鈍すぎるってだけなんだと思う。

差し込む光の中、あの時と変わらぬ壮健で美麗な姿で
彼女が俺を見つめている。

「…セ―」

「―問おう」

俺が踏み出すよりも早く、
彼女が真剣な眼差しで俺に問いかける。

「貴方が私のマスターか?」

彼女の意図を察し、俺もだらしなく歩み寄りそうになる身体を
止めて、姿勢を整えてしっかりと彼女を見つめる。

「あぁ!」

俺の返事を聞いた後、満足した様に彼女は表情を崩し
軽い笑みを浮かべる。

「息災そうですね、シロウ」

懐かしい独特なイントネーションで俺を呼ぶ彼女。
その声、その姿に自然と目頭が熱くなる。

「……セイバー」

月明かりの中、あの日と変わらぬ姿で微笑む彼女。
例え、これが悪魔の仕業なのだとしても、
今、この瞬間だけは感謝する。

零れ落ちそうになる感情を堪えて彼女と向き合う。
目的が目的である以上、これはいつまでも続く事じゃない。
だからハッキリと聞いておかなくちゃいけないんだ。
彼女の意思を。

「聖杯を破壊する。
 力を貸してくれるか、セイバー?」

「シロウ。
 私は貴方の剣だ。
 貴方がそれを望むのなら、
 私は全霊を以って、それに応える」

真剣な眼差しで彼女も偽り無い気持ちを答えてくれる。
お互いの気持ちは確かめた。
ならば、いま少しだけは。

「……エッ!? あっ、シロウ、何をっ!?」

彼女の側に歩み寄り、思い切り抱きしめる。
例え、目覚めれば消える一時の夢であろうと
これだけはしっかりと言っておきたかったんだ。

「おかえり、セイバー」

最初は慌てていた彼女も諦めたのか
困った様な表情を浮かべながら、
最後は笑いかけてくれる。

「ただいま、シロウ」

この束の間の安息を今はしっかりと覚えておこう。

【参加者No.3衛宮士朗@Fate/stay night】
【サーヴァント:セイバー(アルトリア・ペンドラゴン)@Fate/stay night】




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