柳洞寺で一つの戦いが終わった。
キャスターのサーヴァント・蘇妲己によって嘘と策略で聖杯を掴もうとした主従の目論見は暴かれた。
そして最後には騎士王の聖剣によってある主従の謀略と戦いに幕が下りた。
だが聖杯戦争そのものはまだ終わっていない。
その戦いの一部始終を目撃した者がいるのならば、尚更だろう。





「あれがあのセイバーの宝具か、見ると聞くじゃ全然違うな」
「………」

先ほど三組を相手にした大立ち回りを演じた切嗣と士は近場の安ホテルに身を潜めていた。
作戦上軽トラックを使い潰す以上、事前に荷物を別の場所に移す必要に迫られたからだ。
そうして使い魔に搭載された小型カメラから送られた柳洞寺での戦闘の一部始終を分析していた。
無論それだけでは不十分なので、短時間ながら士のペガサスフォームも併用したが。

「しかしあの赤毛のマスターの魔術は何なんだ?
どれもこれも宝具ばかりだったぞ、あのセイバーの剣も贋作だったようだしな。
知らずに戦っていたらさすがに危なかったな」
「…恐らく投影魔術(グラデーション・エア)の一種だと思うがね。
あれほどの精度、それも宝具を再現する魔術など聞いた事がない。
見る限り真名解放すら出来るらしい、すこぶる厄介な獲物だな」

二人の会話は自然とセイバーのマスター、赤毛の魔術師の戦力分析になる。
騎士王の能力の詳細は切嗣が正確に掴んでいる以上何も問題はない。
紅剣のセイバー主従も異色と言えば異色だが彼らは既に敗れ死んだ人間。
であれば注目すべきは今生きている者で能力の全容を掴みきれない赤毛の男だ。

「恐らくは投影魔術に特化しきった魔術師なんだろう。
そしてマスターの適性そのものは低いと見える。
セイバーの能力をあそこまで落としていては宝の持ち腐れだな」
「ああ、そして今の戦いで連中は相当魔力を消耗した。
ライダーじゃないのが癪だが、現状一番潰しやすいのはこいつらだな」

衛宮切嗣はかつてセイバー、アルトリア・ペンドラゴンを使役していた。
それ故に彼女のサーヴァントとしての本来のスペックも把握している。
言い換えれば、現在のアルトリアのステータスを見ればマスターの力量もおおよそは掴めるということだ。

見る限り赤毛の男の魔力量は平均的な魔術師を大きく下回る、つまり三流と予想される。
その分特殊な投影魔術らしきものを駆使する戦闘能力に優れたマスターなのだろう。

だがそれは過去の話に成り下がった。
謎のアサシンともう一組のセイバー主従相手にあれほどの激戦を演じ、アルトリアに至ってはエクスカリバーまで使ったのだ。
つまり今の二人はほとんど魔力を使い切っていると判断して良い。

「そうと決まれば話は早い。
ライダー、君は柳洞寺の階段正面で待機していてくれ。
柳洞寺の結界はサーヴァントにとっては有害だがマスターにはその限りじゃない。
その点を存分に突かせてもらうとしよう」
「おいちょっと待ってくれマスター。
さっきの今じゃさすがに魔力が足りないぞ」

士の『世界の破壊者(ディケイド)』は魔力生成機能を備えている。
これによりディケイドはサーヴァントの中でも低燃費を誇るのだが、さすがに限度というものがある。
そんな士の当然の指摘に切嗣は手の甲に浮かぶ令呪を見せる。

「わかっている、こういう時のための令呪さ。
これを使えば魂喰いをせずとも君の魔力を完全に回復できるだろう」
「随分と大盤振る舞いだな、俺としては歓迎だがあんたはそれで良いのか?
事実上あと一回しか使えない切り札だろうに」
「確かにね、だがこの聖杯戦争は色々と特異な点がある。
魔術師としての力を持たないマスターがいるらしい、というのが最たる例だろう。
そういうマスターに“協力”してもらえば失った令呪を補填する事もできるだろうね」
「…ああ、そういう魂胆なわけか」

やはり切嗣は切嗣でしかなかった。
主人の非道さには辟易するばかりだが、そのやり方が的外れでない限り止める気もない。
相手が魔術師ならば切嗣の独壇場と言って良い、マスターの心配はしていない。
とにかく作戦は決まった、あとは実行に移すのみだ。






賢明な読者諸兄はもうお気付きかもしれない。
今の切嗣と士は先ほど衛宮邸の土蔵で練った隠密行動という方針を完全に無視している事に。
何故プロフェッショナルたる彼らがこれほど拙速な行動に出るのか。
それを語るにはしばらく時を遡らなければならない。







切嗣と士が柳洞寺へ向かうルルーシュやこなたら一行を補足した時の事だ。
作戦を定めた切嗣の何気ない疑問が切っ掛けだった。

「…わからないのは、連中が何故こんな真似をするのかだな。
他の陣営に対抗するための同盟だとしても数を増やしすぎだ。
三組でもギリギリの大同盟だというのに五組とはどういう事だ?」

切嗣は柳洞寺に篭る一派の思惑を計りかねていた。
優勝を狙うためにマスター同士で同盟を組み、他の勢力の自滅を待つ。
ここまでは分かるが問題はその人数だ。

聖杯戦争に参加するマスターは須らく聖杯に掛ける願いを持っている。
そして願いを叶える権利を得られるのは勝ち残った最後の一組のみ。
つまりどんなマスターも最後に自分達が勝ち残るという意思を持っているという事。
そういった人間がただ人数を増やして同盟を組んでも裏切りや内部崩壊が起こる可能性の方が高い。
五組ものマスターとサーヴァントがいて誰もその事に思い至らないとはさすがに考えられない。
沈思黙考する切嗣の横から士がふんと鼻を鳴らしながら自身の見解を告げた。

「マスター、あんたは確かに戦いのプロだが少しばかり頭が固いな。
優勝狙いと考えると辻褄が合わないなら、それは前提が違うってことだ。
例えば、連中の目的が聖杯の破壊だとか、殺し合いを阻止する事だとしたらどうだ?」
「……何を馬鹿な。誰が何の得があってそんな真似をするというんだ」
「ああ、確かに聖杯戦争で殺し合いを止めるなんて言い出す奴はよほどの馬鹿だろうな。
だが世界にはそういう事を本気でやる大馬鹿野郎が意外なほどいるもんだ。
そう考えればこれだけ同盟者、いや、仲間を集めようとするのもわかる。
何より奴らの中には仮面ライダーがいる、まず間違いない」

どこか感慨深げに、かつ自信満々に言い放つ士に対して切嗣は未だに半信半疑だ。
通常の魔術師なら殺し合いを止めるなどというヒューマニズムを持っている可能性など皆無だ。
だが、ここにはその通常の魔術師に該当しない、あるいはそう思われる人間も参加している。

例えば先ほど矛を交えた娘の仇、鳴上悠。
力こそそこらの魔術師に比べて抜きん出ていたがその精神性は果たして魔術師と呼べるものだっただろうか。
例えばこちらを出し抜き同盟を結ばせ、ほどなく散った枢木スザク。
奴からはそもそも魔力すら感じられなかったし、動きは魔術師よりむしろ軍人のようでさえあった。

「……確かに、最悪の可能性は視野に入れておくべきだな」

誰にでもなくそう呟く。
現状、柳洞寺の一派が士の言う殺し合いの打破を目的とした集団かどうかは判然としない。
だがこの先連中が常に団結し、内部崩壊が起こらないとなればそれは脅威どころではない。
三組ですら手出しが困難だというのにさらに増え、内部で牽制どころか連携する事すら考えられるのだ。
そうなれば切嗣と士ではどうあっても太刀打ちできなくなる。

となれば、やはりここで多少の無理をしてでも柳洞寺のライダーを撃破するのは極めて大きな意味を持つ。
綱渡りな策ではあるが勝算はある、ここまで準備してきた武装とライダーの能力ならば成功するはずだ。
そして魔術師殺しは銃を取り、大一番ともいうべき策を実行に移す。








そして時間は現在まで巻き戻る。
果たして切嗣たちの策は成功し、目下最大の敵だった柳洞寺のライダーは消滅した。
そして残る四組のマスターとサーヴァントはそれぞれバラバラに動き出した。
中でも一番動きが大きかったのが赤毛の男が向かった柳洞寺だ。

小型カメラを搭載した使い魔を放ったところ、驚くべき事実が次々と判明した。
まず事前情報にはなかった侍姿のサーヴァントとレオタード姿のキャスターと思しきサーヴァント。
映像を見る限り赤毛のマスターとは敵対していたらしく、どちらもほどなくして消滅した。
知らぬうちに生じたイレギュラーが勝手に消えてくれたのは幸いである。

そしてステータスの低いセイバーを従えた少年主従の動向。
映像を分析する限りどうやら彼らは柳洞寺の一派を裏切ろうとしていたようだ。
しかし結果的には返り討ちにされ、赤毛の男とアルトリアの消耗に一役買っただけに終わった。

まさに今が好機、切嗣と士はそう判断した。
山奥の柳洞寺ならば白昼堂々戦闘を行なっても注目を浴びにくい。
コンプリートフォームを使った事で一時的に隠蔽能力を失っている士の戦力を他陣営に知られずに済むというものだ。
それにこの先ルルーシュやオーズのマスターと合流されては元の木阿弥だ。
そうなる前に、令呪を使ってでも確実に葬り去る。

士としては仮面ライダーであるオーズを倒しに行きたかったのだが、今はそれが難しいことも理解はしていた。
自分達の存在を隠匿していた先ほどまでとは状況が変わった。
切嗣のやり口を警戒しているだろう敵の仮面ライダーが素直にサーヴァント戦に付き合うとは考えにくい。
向こうもこちらと同等の機動力を持っている以上、マスターを連れて逃走される可能性の方が高い。
そうなれば魔力消費が大きく、令呪の数も少ない自分達はいたずらに消耗を重ねるだけだ。
街中でカーチェイスなどしては目立つし、そこを他陣営に襲撃されては目も当てられない。
ルルーシュも襲撃の候補ではあったが、上手く身を隠しているのか使い魔でも未だ居場所を特定できていない。



そして今、切嗣は山の側面から柳洞寺に侵入し、既に敵マスターを狙撃できる位置に陣取っている。
サーヴァントの能力を落とす柳洞寺の結界も生身の人間には用を為さない。
結界があるから敵は正面からしか侵入してこない、その先入観を魔術師殺しは存分に利用する。

ワルサーのスコープを覗くと大木の下で休息を取っている赤毛の男とアルトリアが見えた。
こちらに気付いてはいないらしい、当然だ。
アルトリアの索敵性能の低さはマスターだった切嗣が誰より知っている。
発砲しない限りそうそう発見されるようなことは無い。
だが、このまま引鉄を引いたところであの赤毛の男を弾丸が貫く事はない。

騎士王アルトリア・ペンドラゴンが有する直感のスキルはランクA。
マスターの奇襲など到底通用する望みはない。
どころか一度撃てば最後たちまちのうちに狙撃地点を見切られ、即座に切嗣は切り捨てられるだろう。



だというのに、衛宮切嗣の指は迷いなくワルサーの引鉄を引き、一発の銃弾を発射していた。

「っ!シロウ!!」

シロウと呼ばれた赤毛の男目掛けて放たれた弾丸は当然アルトリアによって阻まれた。
だがそれで良い。そのように動いてくれなくては困る。
響く風切り音。それが作戦の第一段階の成功を意味していた。

「ぐっ、かはっ……!」
「セイバー!?」

銃弾を剣で弾いたはずのアルトリアの横腹を弾丸らしきものが貫通していた。
それは切嗣とは別方向からの狙撃があったということ。
一瞬の後、超高速で駆け抜けた人影がさらにアルトリアを強襲する。

「がふっ…!貴様は……!?」
「悪いな、お前には俺と遊んでてもらう」

その影こそは先ほどと同じファイズに変身したライダーのサーヴァント、門矢士である。
切嗣の指示で柳洞寺へ続く階段に待機していた士は念話による合図と同時、銃弾を迎撃したアルトリアをライジングペガサスの力で狙撃していた。
そして即座にファイズ・アクセルフォームを発動。
離れたアルトリアとの距離を一瞬にしてゼロにしたのだ。

これが切嗣の抱く自信の根拠。
あらゆる状況への対応力と他の追随を許さぬ機動力。
一時令呪を失ったとしてもこれだけの性能を持つサーヴァントなら戦略次第で問題なく勝ち抜ける。

「切、嗣……!」

そして作戦の第二段階。シロウの目の前に切嗣自身が姿を現した。
何やら自分を個人的に知っているようなニュアンスを感じるが知ったことではない。
目の前にいるのはただの敵だ、それも早急に始末しなければならない類の。

先ほど、セイバー二騎の戦闘を士のペガサスフォームで偵察させる間、切嗣は使い魔でマスター同士の戦いを観察していた。
そして態度にこそ出さないものの、赤毛の男、シロウの戦い方に自分自身を重ねていた。

近接戦を得意とするアサシンへの狙撃。
英雄の半身たる宝具を雨あられと投射し、爆破する戦術。
凡庸ながら切嗣から見ても機能美に満ちた双剣を用いた剣術。
英霊の誇りを足蹴にし、ただ勝利を、効率を優先するあの男の在り方はあまりにも切嗣に近い。
そうでありながら騎士道を信奉し、我の強いアルトリアに奇襲という作戦を取らせる人心掌握術も持ち合わせている。

長く放置するのは危険、消耗している今こそ確実に葬らなければならない。
一般人と思しきオーズのマスターを敢えて放置し、この主従に狙いをつけたのも要はそうした直感からだった。



士がアルトリアを引き離したことを確認し、キャレコの引鉄を引く。
五十発分の弾倉を数秒で空にする9mmパラベラム弾の弾幕を、シロウは卓越した体捌きで回避する。
先ほどの変身能力を持ったマスターとの戦いでの疲労が残っているだろうに、よくやるものだ。

「爺さん……!くそっ……!!」

弾倉を交換する一瞬の隙を突き、シロウが何かを言いながら寺の本堂へと入っていく。
だが、これも全て予定通りだ。
逃げ場の多い外ではなく屋内に退避するというその行動。
それはすなわち、シロウにはまだ切嗣を打倒する何らかの切り札が存在するという事だ。
あれほどの数の宝具を扱う以上、それが何かを明確に絞りきることまでは出来ない。

だがそれも投影魔術によって生み出される何かである、というところまでわかっていれば十分だ。
魔術回路をフル稼働させたその瞬間を狙って起源弾を撃つ、それで全て終わる。
こちらは相手の魔術のメカニズムを看破しているが、シロウはそれを知らない。
故に若干攻め手を緩めて敢えて切り札を投影させる、今後を考えればキャレコの弾薬はなるべく節約するべきだ。

屋内を駆けるシロウを切嗣が追う。
時折キャレコの銃撃を見舞い、それを寸でのところでシロウが躱すといった展開が続く。
一方的な戦いだがそれも当然の話だ。
疲弊しているシロウに切嗣を牽制するだけの余力は残っていまい。
ある和室の障子を突き破って廊下から庭に躍り出たシロウがここでついに反撃に転じた。

「ハッ!」

映像で見た双剣を投影、それを左右に弧を描くように投擲した。
その技はすでに見ている、要は双剣を弾こうとせず大きく動けば良いのだ。

「Time alter――double accel!」

相手がこれから何をしようとしているか、その意図を読んだ切嗣は固有時制御で急速に後退する。
構わずシロウが続けて双剣を投影、別のある場所へ投擲した。

「壊れた幻想(ブロークンファンタズム)」

呪文と共に爆破された双剣は建物の支柱を複数箇所破壊していた。
これだけで寺全体が崩壊する事は無いが、切嗣のいた一角は倒壊し、生き埋めにされる形となる。
切嗣が倒壊に巻き込まれた事を確認したシロウが今が好機とばかりにある剣を投影した。



「―――紅の暴君(キルスレス)!!」



地面に突き刺したその両刃剣こそは先ほど消滅したイスラ・レヴィノスが所持していた魔剣、その贋作であった。
だがこの魔剣は元より異界の宝具、衛宮士郎にその性能を全て再現するほどの力はない。
本来この魔剣に封じられていたある者の意思は贋作には宿らない。
だが、辛うじて再現できたある機構、それさえあれば十分だった。

「令呪を以って命ずる!セイバー、負けるな!!」

令呪に宿った莫大な魔力を負傷した己の従者に供給する。
それだけではない、投影した紅の暴君でも可能な他人や土地からの魔力の吸奪。
柳洞寺という最上の霊地から得た魔力もアルトリアへ供給する。
さらに士郎自身の枯渇した魔力も瞬きのうちに充填された。



そして、その瞬間を待っていた男がいた。



「なっ!?」

寺の一角の倒壊に巻き込まれたはずの衛宮切嗣が何事もなかったかのように瓦礫の山、正確にはその背後から姿を現した。
手には起源弾が込められたトンプソン・コンテンダー。一瞬の躊躇もなく発砲した。

切嗣は最初から家屋の倒壊に巻き込まれてなどいなかった。
瓦礫が崩れる音と巻き上がる埃をカモフラージュにして物陰に身を潜めていただけだ。
すぐさま反撃しなかったのはシロウに魔術回路を最大限励起させるだけの切り札を投影させるためだ。

とはいえ投影した剣は切嗣の予想を裏切るものではあったが。
何しろシロウが地面に突き刺している紅剣はつい先ほど消滅したサーヴァントが持っていたものだからだ。
映像と士に聞いた話から魔力を消費して所持者に特殊な力を付与する宝具だと考えていたが、それは正確ではなかったらしい。
あるいは土地から魔力を吸収するこの性質こそあの宝具の真骨頂なのか。
どちらにせよ上手い手だ、一撃に賭けるより枯渇した魔力を補う事で活路を見出すとは先を見ている。
この主従の場合、魔力さえ確保できれば大抵の敵は圧倒できるだろう。

だがそれも相手が魔術師殺し・衛宮切嗣が相手でなければ、の話だ。
宝具使用と令呪の発動に神経を割いた一瞬の隙を突いて放った一発。
回避は間に合わない、直撃を避けるなら紅剣で防ぐしかないがそれも間に合うかはギリギリ。
そうなるタイミングを狙ったのだ、切嗣としてはむしろ防いでくれた方が有難い。

だが、事はある意味で切嗣の想定外の方向へ進んだ。

「―――I am the born of my sword(体は剣で出来ている)。
―――熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)!!」

右手に紅剣を握ったまま、突き出したシロウの左手から四枚の花弁を模した障壁が出現した。
切嗣でも一目見ただけでわかる、あれもまたあの男の投影した宝具なのだと。

(まさか防具まで使えるとはな、しかし―――)

結果は変わらない、あれも魔術回路を通して生み出された物である以上術者へのフィードバックは避けられない。
絶対的な自信を持って投影した盾なのだろうが、起源弾には逆効果でしかない。

そして衛宮切嗣の起源が内包されたスプリングフィールド弾は赤い障壁に命中した。
だが赤毛の男、シロウには何の異常も、異常を起こす兆候も見られない。
本当に何事もなかったかのように障壁を消しただけだった。

「な、に……?」

ほんの一瞬、忘我状態に陥った切嗣の呟きが漏れる。
起源弾が通用しなかったのか?一体何故?分析が間違っていたというのか?
衛宮切嗣の生涯において、起源弾が何の効果も示さないという事態は今まで一度も起こらなかった。
先の鳴上悠にすら、本人へのダメージは無かったとはいえ一定の効果があったのだ。
それが何故シロウには通用しなかったのか、瞬時にいくつもの可能性を検索するが答えを絞りきれない。



本来、今の起源弾によって衛宮士郎は無力化されている筈だった。
例え宝具の神秘といえど術者の魔術回路と直結する盾で防いだ以上回路へのフィードバックは避けられないはずなのだ。
その当然の結果を歪めたのは士郎が懐に入れていた反魔の水晶だった。

反魔の水晶は持ち主に中ランクの対魔力を付与する効果がある。
そして切嗣の起源弾は特殊なカラクリで成り立っているとはいえ本質的には一工程相当の魔術でしかない。
それ故に起源弾に仕込まれた魔術的効果そのものがキャンセルされたのだ。
そうなれば起源弾もただの強力な銃弾に成り下がる。
贋作とはいえアイアスの盾には歯が立たずあっさりと弾かれる結果に終わった。

では切嗣はこの反魔の水晶の存在を見落としたままこの作戦に臨んだのか。
答えは半分イエス、半分ノーだ。
使い魔が記録した映像には士郎が天海陸らの正体を暴き、糾弾する場面も含まれている。
その際に士郎が陸の前に突き出した嘘の証拠品たる反魔の水晶も当然目にしている。

だが使い魔が記録したのはあくまで映像のみであり、音声は無い。
そして切嗣は反魔の水晶がいかなる経緯で用意されたものなのか、その事情と顛末を一切知らない。
故にそれがどういう代物で何の意味を持つのかまでは詳しく把握できなかったのだ。
いくら聖杯からマスターに与えられたサーヴァントの能力を確認する透視能力といえど万能ではない。
単に反魔の水晶を視認しただけでは具体的な効能までを読み取ることは流石に出来ない。

つまり切嗣は映像で見た水晶がサーヴァントが用意したものだという事すら知らなかったということ。
しかしこの一事を以って切嗣を迂闊とは断じられない。
そもそも陸の嘘を暴く際偶然手に入れた物品がピンポイントで起源弾に効果を発揮する事を予見しろという方が酷なのだから。



「衛宮、切嗣―――!」

切嗣がその場に硬直した一瞬の隙を見逃さずシロウが距離を詰める。
その手にはいつの間にか奇怪な短剣が握られていた。
まともに人間を殺せるかどうかも怪しい歪な形状、あれも宝具なのか。
だが切嗣の本能は短剣に対して最大限の警鐘を鳴らしていた。

あれを受けるわけにはいかない、何かはわからないがあれは自分に対して最悪を齎すものだ―――!

先ほどまでとは攻守が逆転した戦場。
シロウが迷いなく短剣を握った左手を切嗣へ向けて振りかぶった。











Interlude

士郎と切嗣が戦う柳洞寺から数百メートル離れた山林の中。
奇襲でアルトリアを吹き飛ばした士はデフォルトの形態である仮面ライダーディケイドの姿で騎士王と対峙していた。

「…この手際の良い奇襲、我々の動きを監視していたか」
「お前らが不用心すぎただけだ。
それともこのやり方はご自慢の騎士道とやらにでも障ったか?」
「…いや、これは切嗣の手口を知っていて注意を怠った私の失態だ。
ならばこそ、その失態は私自身の手で取り返す―――!」

負傷しながらも全身から魔力を猛らせるアルトリアだが、ディケイドはその勇姿を一笑に付す。

「根拠のない強がりはそこまでにしておけ。
お前がさっき俺と対等に戦えたのはオーズがいたからだ。
セイバーが最優のサーヴァントなんてのはただのまやかしだ、そいつを今から証明してやる」

ライドブッカーを開き、カードを読み込ませる。
アルトリアが息を呑む、今度はいかなる攻撃が飛び出すのか―――



〈〈ATTACK RIDE・ILLUSION〉〉



「これは……!?」

電子音とともに信じ難い現象が起こった。
目の前のディケイドが六人も増え、合計で七人になったのだ。
幻惑の類か、その思いは一斉に発射されたライドブッカーの掃射の前に打ち消された。
己の直感が告げている、あれは幻ではない、全て紛れもない実体―――!

「まさか、これも多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)の一種か!?」
「魔術の世界じゃそういう呼び方をするらしいな。
だがお前らが戦った侍のつまらん技とは次元が違う」

弾丸を迎撃するアルトリアの隙を突き、七人のディケイドは散開し包囲陣形を取る。
そのうち分身体の三人がソードモードで前に出て、本体を含めた四人がガンモードで敵を追い詰める陣形だ。

度重なる包囲射撃を潜り抜け、斬撃を凌ぐアルトリアだが数の差に徐々に追い込まれる。
驚愕すべきことにディケイドが生み出した分身体はその全てが本体と同等の性能を持っている。
雑兵ならばともかく質の高い、統率の取れた集団に連携を取られては最優のサーヴァントといえど突破は困難だ。
そしてアルトリアが苦戦する理由はそれだけではない。

「切嗣からお前の能力は全て聞いてる。
お前は普通の人間レベルの身体能力を魔力放出のスキルで補ってるらしいな。
だがそいつは裏を返せば魔力が足りなければ戦闘力がガタ落ちするってことだ」
「っ……!」

そう、エクスカリバーを撃って間もない今のアルトリアは魔力が不足している。
先ほどディケイドと戦った時と比べてすら些か力を落としている。
現に分身体の放つ斬撃すら完全に押し返せてはいない、剣技の差で辛うじて凌いでいるだけだ。
さらに本来持つ高い再生能力も魔力不足故に十全に発揮しきれておらず、傷を負ったままの戦いを強いられている。

これがアルトリア・ペンドラゴンのサーヴァントとしての長所であり欠陥。
魔力の供給量と残量で戦闘能力が大きく増減するムラの大きいサーヴァントなのだ。
しかも今はマスターである衛宮士郎自身の魔力が尽きかけているために満足な供給も期待できない。
逆にディケイドは事前に使用された切嗣の令呪によって魔力は全快まで補われている。
先の戦闘で受けたダメージもある程度回復している、コンディションは万全に近い。

有力な敵が弱ったところを狙い打つ、それが聖杯戦争。
皮肉にも先ほどイスラに対して行なった対策を今度はアルトリアがされる側になった。

「お前と違ってこっちはペース配分を考えなきゃならないからな。
悪いがここで終わらせてもらうぞ、アーサー王」

言葉と同時、六人の分身が全方位から一斉にガンモードの集中砲火を浴びせる。
並のサーヴァントならばこれだけで倒されるほどの猛烈な火力だ。

「まだだ、まだ―――!」

だが騎士王は倒れない、圧倒的な弾幕から致命傷になり得るものを瞬時に見抜き躱し、時に切り払う。
背後の弾丸にすら対処する超人的な反応だが、全て防ぐことは叶わず全身の至るところを削られる。



〈〈FINAL ATTACKRIDE DE・DE・DE・DECADE〉〉


そしてその隙にディケイドは悠々とカードを読み込ませ、空高く跳躍する。
出現した十枚のエネルギープレートを通過して放つ必殺の飛脚・ディメンションキック。
弾丸の迎撃で力を使い果たしたアルトリアに避ける術はない。



“令呪を以って命ずる!セイバー、負けるな!!”

だが、そこで運命を覆す奇跡が起こった。



突如アルトリアの身体に力が、魔力が漲る。
令呪の力だけでは有り得ない圧倒的な魔力供給に誰よりアルトリア自身が驚いた。
だが思索に耽るよりも早く、反射的に身体は動いていた。

迫り来るディケイドのディメンションキック。
必殺の勢いを得たはずの飛脚を聖剣エクスカリバーで受け止める。
そして瞬間的に可視化できるほどの魔力放出で以って逆にディケイドを弾き飛ばした。

「何だと!?」

必殺を期して放った技を力で防がれ驚愕するディケイドだが、どうにか後ろに跳躍して態勢を立て直した。
だが敵は待ってはくれない、アルトリアは即座にディケイドに斬りかかる。

令呪によるブーストとかつてない出力の魔力放出に加え、風王結界の応用である風のジェット噴射。
それによって生み出される速力は亜音速にも達し、今までとは懸絶の差がある。

「調子に乗るなよ…!」

だがディケイドを庇うようにライドブッカーを構えた分身体が立ちはだかる。
愚直な突進を迎撃するために放った分身体の斬撃を騎士王は篭手で受け流し、横一文字に分身体を切り捨てた。

「馬鹿な、一瞬だと!?」

これこそ超一級の剣の英霊にのみ許された直感と魔力放出によって成される超絶神技。
同じ事が出来るのはこの聖杯戦争では既に散った微笑のテレサのみであろう。
そのままアルトリアは身体を反転させて一歩を踏み、更なる加速でディケイドの懐に飛び込む。

「いざ、覚悟!!」
「う、おおおおお!!」

だがディケイドもまた英雄、類い稀な直感で先んじてアルトリアの間合いから離脱を図る。
しかしここは騎士王が上回った。全身の力を乗せた刺突がディケイドの生命線、腰のバックルに突き刺さった。

「しまった、ディケイドライバーが……!」

咄嗟の反応で身体ごと刺し貫かれる事は避けたものの、ただの負傷以上の損害を被った。
ライダーカードを読み込ませる部分が破損し、火花を散らせている。
これではディケイドの特殊能力が使えない。

「その腰巻きが仮面ライダーの力の源泉である事はオーズから聞いている。
その有り様で先ほどと同じ威勢を張れるか、仮面ライダーディケイド!」
「ぐっ……!」

再び対峙したアルトリアから放たれる魔力とプレッシャーは先ほどの比ではない。
ディケイドによって負わされた傷もいつの間にか塞がっている。
イリュージョンはまだ健在とはいえ今のアルトリア相手では分が悪すぎる。
ライダーカード抜きでどうこう出来る相手ではないことを悟らざるを得なかった。







唐突だが、ここで一つある疑問を呈したい。
第五次聖杯戦争において、アルトリア・ペンドラゴンは不完全な形で召喚された。
さらに彼女を召喚したマスターである衛宮士郎が当時未熟な魔術師だった事もあり、多くの能力が低下していた。

では月で行われているこの聖杯戦争ではどうか。
今回のアルトリアはムーンセルの定めた正規の手順で召喚されている。
マスターである衛宮士郎も今や自分の魔術回路を十全に開き、活用出来ている。
つまり、今回アルトリアに能力的な不備は本来有り得ない筈なのだ。
加えてこの聖杯戦争には一般人がマスターを務めているにも関わらず高い能力を備えたサーヴァントが少なくない。

では、何故彼女は今回も第五次聖杯戦争と同じ低い能力で戦う事を強いられたのか?

その解答は、地上の聖杯戦争の結末に起因する。
第四次、及び第五次聖杯戦争はいずれもアルトリアの持つ聖剣か、その贋作によって聖杯が破壊されるという結末を迎えている。
それ故にムーンセルは彼女を危険因子と判断し、能力と情報量に意図的な制限を設けた。
しかし完全なロックを施しては公平性を著しく損なってしまうため、能力制限に僅かな綻びを残していた。

そしてたった今、その封印が解かれた。
令呪と投影した紅の暴君を用いた本来有り得ない圧倒的な魔力供給によってアルトリアに填められた見えない枷は外された。
今ここに、常勝の騎士王は本来の力を取り戻したのだ。








「っ……!調子に乗るなと言ったはずだ!」

五体の分身体が一斉にアルトリアを襲う。
再び全方位から浴びせられるガンモードの銃撃。

「ハアアアアアッ!!!」

だが本来の実力を取り戻したアルトリアには豆鉄砲も同然。
魔力放出を用いた全方位への一閃、それだけで全ての弾丸が跳ね返された。
さらにその勢いを駆って突進、ソードモードで迎え撃った分身体の腕を逆に斬り飛ばし、返す刀で首を撥ねる。
その隙に二体の分身体が背後からライドブッカーを構え突撃した。

「仮面ライダーディケイド、貴方は確かに強い。
私にはそれだけの多彩な能力を扱いきる事は出来ないだろう。
だがそれだけだ。貴方はただ強力な力を持ち、ただそれを使いこなしているだけだ」

二体の分身体の同時攻撃。
それをアルトリアは片手の聖剣で止め、もう片方を篭手で刃を滑らせ受け流す。

「貴方の力には磨き抜かれた技が無い、積み上げられた想いが無い。
英雄豪傑が一生涯を懸けて築き上げた魂の結晶が決定的に欠けている―――!」

篭手で受け流され態勢を崩した分身体の背後へくるりと身体を回し胴体を斬り落とす。
もう一体の分身がすかさず斬りかかるが自由な左手で手首に肘鉄を当ててライドブッカーを落とさせる。
そして武器を失い無防備になったところを黄金の剣で袈裟斬りに切り捨てる。

アタックライド・イリュージョンによって生み出された分身体は間違っても弱い存在ではない。
それぞれが本体と同等のスペックを持つという、ある意味でコンプリートフォーム以上の反則極まる性能だ。
だが如何に高いカタログスペックを誇ろうとその分身には真の意味で魂が宿っていない。
意思なき人形では完全復活を遂げた騎士王を退ける事は出来ない。

「貴方にアサシンを侮辱する資格はない。
英雄の末席に連なる者として、貴方に膝を屈するわけにはいかない!」

残る分身はあと二体、ディケイド本体を守るようにアルトリアの前に立ち塞がる。
少しでも足を止めようと前方から激しい銃撃を浴びせるが最早虚しい足掻きだ。
五体でも止められなかったのに二体では話にならない。

超速で踏み込み、放たれる弾幕を剣で、鎧で、篭手で弾きながら一切スピードを緩めず猛進する。

「これで、終わりだ!!」

懐に入り渾身の力を込めた一閃。反応すら許さず二体の分身をただの一撃で同時に撃破した。
士郎の令呪が発動してから三分足らず、それだけで全ての分身が倒された。
だが―――

〈〈ATTACK RIDE・INVISIBLE〉〉

響くはずのない電子音が響き渡り、唐突にディケイドの姿が掻き消える。
アルトリアが分身と戦っている間ディケイドも何もしていなかったわけではない。
魔力をつぎ込んでディケイドライバーの応急修理を行い、ギリギリのところで間に合わせていた。
姿を消し、逃げに徹したディケイドを捉えることは流石に出来ない。

「このような手札まで隠していたとは…敵ながら鮮やかな引き際です」

次に会った時には必ず決着を着ける。
その思いを胸に、アルトリアもまたマスターの元へ駆けた。

Interlude out











最初に思ったことは信じられない、という陳腐な感想だった。
銃を向けられ、発砲された時にどうして、と思った。
悪い夢を見ているようだった。

いや、わかってはいるのだ。
これは悪夢より尚性質の悪い、眩暈がしそうな現実なんだと。
六年ぶりぐらいに会った切嗣は俺が知っている切嗣とはまるで別人だった。
聖杯戦争の時に言峰から聞いた親父の人物像そのものだった。

俺は昔の切嗣がどういう人間だったのかをよく知らない。
せいぜいセイバーや言峰が話す冷酷な魔術師殺しとしての切嗣ぐらいだ。
例えば子供の頃はどんな性格だったのかだとか、どうして正義の味方になりたいと思ったのか、とか。
例えば奥さんはどんな人で、実際のところイリヤをどう思っていたのかとか、そういう事を俺はちっとも知らないのだ。

ただわかるのは、今の切嗣はイリヤを失って後戻りが出来なくなっているのだろう、ということだけだ。

俺はまたイリヤを守れなかった。
ランサーにイリヤを殺され、ランサーのマスターには歯が立たずに返り討ちにされた。
だからこれはある種当然の報いなのだろう、二度もイリヤを死なせた衛宮士郎に生きる価値などない。

けれど、価値がなくても生きたいという意思がある。
俺自身に価値なんかなくても、そんな俺を好いてくれた人がいる。
どんなに無様で滑稽でも、俺にはまだ帰る場所がある―――――!

「衛宮、切嗣―――!」

切嗣に殺されない、切嗣を殺さない。
その矛盾する二つを両立できる唯一の可能性がこの契約破りの短剣。
桜とこの世全ての悪の契約すら断ち切ったこの短剣ならば、ライダーとの契約を絶つことなど容易い。
この瞬間を逃せばきっと次はない、全身の疲労を無視して切嗣の懐に飛び込む。

「Time alter――double accel!」

短剣が空を切る、親父の方が一瞬早かった。
千載一遇の機会を逃してしまった。
ならば、その銃だけでも持っていく―――!

「壊れた幻想(ブロークンファンタズム)!」
「っ……!」

短剣ルールブレイカーを投げ、切嗣の手元で爆破する。
低ランクの宝具故に威力は期待できないが、そんなものは最初から期待していない。
だが切嗣の切り札であろう拳銃、トンプソン・コンテンダーを破壊するには十分過ぎる。

その銃から放たれた魔弾を防いだ直後には、それらがどういう構造で如何に悪辣な仕掛けが施されているかは解析できていた。
もし天海が落とした反魔の水晶が無ければ俺もその魔銃の犠牲者の一人になっていただろう。

「くっ…!作戦は失敗か……!」

しかし予想以上に切嗣の立て直しは早かった。
咄嗟にコンテンダーを手放し負傷を避け、懐から丸い物体を取り出した。

「くあっ!?」

強烈な閃光が走る。しばらくして目を開けた時、既に切嗣の姿は消えていた。
バイクらしき駆動音がする、事前に用意していたのだろう。

「シロウ、無事ですか!?」

少し遅れてセイバーが戻ってきた。
どうしてかえらくステータスが上がっている、令呪の効力はもう切れていると思うのだが。
だがそれよりも切嗣を追わなければ。
今の切嗣は誰にも止められない、これ以上犠牲が出る前に追いつかないと―――

「―――あ?」

どうしたことか、駆け出そうとしたのに地面が近い。
視界が暗くなっていく。手足に力が入らない。
セイバーの声が遠くなっていく中、俺の意識は途絶えた。







「まったく、貴方という人はいつも無茶を…!」

倒れ込んだ士郎を抱き起こしながら憤りの言葉が口をついて出た。
地面に突き刺さった紅の暴君が見える、恐らくあれを使って自分に魔力を供給したのだろう。
しかしそんな真似をして無事で済むはずはないのだ。
切嗣と戦いながら限界以上にパスを広げてアルトリアに魔力を供給した以上、魔術回路に相当な過負荷を強いたはずだ。
加えてここまでに蓄積した肉体・精神面での疲労。これで倒れないはずがないではないか。
現に士郎は今疲労がピークに達したのか気絶している。

「ともかく、安静にさせなければ……」

またしても破壊された柳洞寺の中から使えそうな部屋を探すしかないだろう。
万全を期すなら日が暮れるまでは休ませるべきか。
一応紅の暴君も持っていくことにする。

「………?」

ふと違和感を感じ、士郎の懐を探る。反魔の水晶が消えていた。
アルトリアは知らないことだが、イスラが召喚した物質は元々長時間現界させることは出来ないのだ。
反魔の水晶に限っては多くの魔力を注ぎ込むことで長時間存在を保たせていたがその限界がたった今訪れた。

「…コナタへの説明がますます困難になってしまいますね」

ため息をつくが無くなったものは仕方ない、誠意を込めて事情を話すしかないだろう。
そしてもう一つ脳裏を過ぎるのはあのサーヴァント、仮面ライダーディケイドのことだ。
先ほどの実体のある分身、あれは上手く使えばマスター殺しにも利用できたはずだ。
いや、そもそもあの狙撃の時点で士郎を殺せたはずなのにそうしなかった。

「ディケイド、貴方は切嗣に配されるべくして配されたサーヴァントなのかもしれませんね」

きっとそこには彼なりの、譲れない誇りがあったのだろう。
切嗣もまた、正義を為すために敢えて悪になりきる男だ。
そういった点をムーンセルは汲んだのかもしれない。

だが彼らのやり方は決して認められない、それとこれとは話が別だ。
オーズの手を汚させるわけにはいかない、あの二人は自分が止めなければならないのだ。

【深山町・柳洞寺/午後】

【衛宮士郎@Fate/stay night】
[令呪]:2画
[状態]:疲労(特大)、魔術回路への負荷(中)、気絶中
[装備]:携帯電話、ICレコーダー
※反魔の水晶は消滅しました
※紅の暴君の投影に成功しました。
柳洞寺から魔力を汲み出すことが出来ますが、伐剣覚醒を始めとした魔剣の力による恩恵は一切受けられません
また、破壊されたり破却した場合は再度投影し、土地に剣を突き立てる必要があります

【セイバー(アルトリア・ペンドラゴン)@Fate/stay night】
[状態]:ダメージ(微)、魔力充実
[道具]:紅の暴君(投影)@サモンナイト3
※ムーンセルに課せられていた能力制限が解除されました
これ以降の基本ステータスは以下の数値に変化します
また、ムーンセルに関する知識を得られたかどうかは後の書き手さんにお任せします
【筋力】B 【耐久】A 【敏捷】A 【魔力】A 【幸運】B 【宝具】A++
クラス別スキル「騎乗」:B→A












予め決めていたポイントで合流しホテルに戻った切嗣と士には重い沈黙が流れていた。
必勝を期し、令呪まで消費した電撃作戦。その結果は惨憺たるものに終わった。
切嗣自身は固有時制御の反動を除いて負傷の類は全くないが切り札たるコンテンダーを失った。
流石に銃器の予備パーツまでの持ち込みは許されなかったため修復も不可能だ。
だがそれ以上に頭の痛い損害が切嗣の知らぬところで発生していた。

「…ライダー、もう一度言ってくれ」
「だからイリュージョンはもう使えないと言っている。
ムーンセルにそう決められていてな、令呪が残っていたとしても無理だ」

士の持つアタックライド・イリュージョン。
切嗣もたった今その存在を聞かされた反則的な切り札には二つだけ、ある制限が設けられていた。

一つ、生み出せる分身体の上限は六体。
二つ、破壊された分身体は令呪を含めたいかなる手段を使っても補充はできない。

恐らく分身体の乱用を防ぐための処置なのだろうが、そんなことはどうでもいい。
問題はこの事を今の今まで黙っていた士だ、他人を怒鳴りたいと思ったのは何年ぶりだろうか。

「君は自分が何をしでかしたかわかっているのか?
使い方次第で労せず勝ち抜ける切り札をむざむざドブに捨てたんだぞ?
それともオーズの所へ向かわせなかった僕への意趣返しか?」
「俺も使い捨てる気はなかったさ、誰かさんが敵マスターに令呪を使わせるようなことにならなければな。
むしろ勝てるチャンスをドブに捨てられたのはこっちの方だ」

にも関わらずこの居直り方である。
魔力補給に令呪を使ってしまったことが悔やまれるが過ぎた事は仕方ないと割り切る他ない。
どのみち行動を縛る目的で令呪を使えばこの男は切嗣を見限っていただろうから。

「…確かに僕にも落ち度はあったな、自分のやり方に固執しすぎた事は認めよう。
だがライダー、君は手を抜くとはいわないまでも全力は尽くしていなかったな?
消費を厭わなければ、弱体化したセイバーを確実に倒す手札は他にもあったはずだ」
「………」

切嗣の指摘に士は沈黙するしかなかった。
実際、他のライダーカードで弱ったアルトリアを倒すことは出来た。
そうしていれば敵マスターは令呪を使う間もなく脱落していた。
そうしなかったのはつまるところ、オーズを気にしていたからだ。

士としてはアルトリアを倒した後、すぐにでもオーズを破壊しに行く心算だった。
だからこそイリュージョンやディメンションキックより消費の多い他の技や形態を使う事を意図的に避けていた。
多少出し惜しみをしても問題なく倒せる相手だ、そう考えて慢心した結果がこれだ。

「…黙秘か、まあいい。君の宝具の修復はどのぐらいで終わる?」
「普通にしてればあと六時間以上はかかるな。
魔力を大量に注げば三時間で直せるし俺もそうしたいが、一時的に戦闘が難しくなる」

アルトリアに傷つけられたディケイドライバーの修復はまだ終わってはいなかった。
外装こそ戦闘中の応急修理で繕えたが、他の機能にも支障が出ているのだ。
その機能というのが魔力の生成機能だった。現在は一時的に機能が停止している。
士の見立てでは完全に宝具を修復しない限り魔力生成機能も復旧しないとの事だ。

実際のところ、アルトリアが復調したといってもまだ互角に戦える目は十分残っていた。
ただしそれにはコンプリートフォームの使用が前提となる。
消耗の大きさから考えて宝具に不備を抱えたままでは勝てないと判断して撤退した。

「…わかった。これから僕達は身を隠しながら新都へ向かう。
どうも氷室道雪市長が過労で倒れたらしい、奴を探るなら今が好機だ。
奴を利用するなり令呪を奪うなりすれば状況は大きく改善される」
「俺がまたオーズを気にして独断で手を抜かないように奴から距離を置かせるわけか?」
「言葉を選ばなければそうなるだろうね、だが今の君がオーズに勝てるのか?
君のことだ、僕がオーズのマスターを殺しての決着など望んでいないだろう?
態勢を整えつつ後顧の憂いを絶つための戦略だ、悪いがわかってもらう」
「…ああ、わかってる。そのぐらいわかっているさ」

そっぽを向いて霊体化した士に構わず荷物をまとめる。
下には暗示を使ってNPCから手に入れた軽トラックもある。
痛手は負ったが決定的な損失ではない、魔術師殺しの戦いはこれからだ。

【深山町・安ホテル/午後】

【衛宮切嗣@Fate/zero】
 [令呪]:1画
 [状態]:固有時制御の反動ダメージ(中)、魔力消費(大)
 [装備]:ワルサー、キャレコ 、携帯電話、鉈、大きな鏡、その他多数(ホームセンターで購入できるもの)
  ※携帯電話には枢木スザクの番号が登録されています。
  ※深山町内にCCDピンホールカメラ付きの使い魔を放ちました。映像は無線機があれば誰でも受信出来ますが、暗号化されています。
  ※トンプソン・コンテンダーが破壊されました。少なくとも自力での修復・復元は不可能です
【ライダー(門矢司)@仮面ライダーディケイド】
 [状態]:ダメージ(小)、魔力消費(中)、隠蔽能力再発動まであと約四時間、ディケイドライバー損傷
  ※ライダーカード≪龍騎≫の力を喪失(コンプリートフォームに変身するだけなら影響なし)。
  ※ライダーカード≪電王・モモタロス≫破壊(コンプリートフォームに変身するだけなら影響なし)。
  ※ライダーカード≪キバ≫の力を喪失(コンプリートフォームに変身するだけなら影響なし)。
  ※ステータス隠蔽能力には以下の制約があります。
  • コンプリートフォームを発動したか否かに関係なく真名を知ったマスターには一切効果を発揮しない
  • 最後にコンプリートフォームを発動してから六時間経過するまで隠蔽能力は消失する
  ※アタックライド・イリュージョン再使用不可
  ※ディケイドライバーが損傷しています。それに伴い魔力生成機能が一時的に停止しています。修復が完了すると同時に再び稼働します

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