どうしてこんなことになってしまったのだろうか。

最初は願いのために殺し合いに乗っていくつもりだった。
悟史くんを生き返らせるため。いや、これまでの己の罪で死んでいった皆を生き返らせるために。
なのに、出会った相手は自分のサーヴァントとは比べ物にならない強さを持った人ばっかり。

巨大なドラゴン、変な人形を操る男。
このバーサーカーでは勝てそうもない相手ばかり。
それでもこのバーサーカーを悪く思うことをしなかったのは、きっとこの少女が私に似ていたからなのだろうか。
あるいはこんなサーヴァントでも、私のようなヘボマスターでなければもっと頑張れたのだろうか。

もしそうなら、これは私への罰なのかもしれない。
あれだけの罪を犯し、今もまた殺し合いなどという名目で人を殺し、今までの罪すらも消して身勝手にこれまで通りの生活を続けようとした自分への。

バーサーカーは目の前で体を壁に貼り付けられてピクリとも動かない。
もし死んでいれば消滅しているはず。あれだけのナイフを突き立てていられようと生きていることは確認できる。だがそれだけだ。
もはや目の前の男、アーチャーが少しでも手を加えればそれで私達の命は終わるだろう。

「なるほど、君はこれまでに犯した罪を清算して元の生活に戻りたいと願うのだね」

このサーヴァントの前で、何を話したのか分からない。
色々なことを口走った気がするが、よく思い出せない。

「私はね、『天国』というところに行きたいと考えているんだよ」

突如話し始めるアーチャー。
天国?それこそ私には縁のないものだ。どうせ私は地獄に落ちるのだから。


「違う違う、意味じゃない。もっと精神的なものだ。
 金でも名誉でも満たされない真の幸福がそこにある。
 そこへ辿り着くことで、皆が幸せになれるというものだ。
 そして私はね、君も含めて全人類を幸せにしてあげたいと思っているんだよ」 

言っている意味が分からない。もしその天国とやらに行くことができれば、悟史君や沙都子、他にも殺してしまったみんなを生き返らせることができるのか。

「それは無理だろうね。でも、君も含めてその皆を救うことはできるかもしれない。
 自分の罪にもそれまでの行動にも苦しむこともなくなる。そんな世界を作りたいと思っているんだ」


皆が救える————?本当に———?


詩音はその会話を受け入れる。
じっとこちらを覗き込む赤い瞳。その中になぜか引きつけられるものを感じる。
この男になら従ってもいいと。きっと自分を救ってくれるのではないか、と。
そんな根拠のないはずのことを、理由もなく信じてみたくなってきた。なってきてしまった。

倒れ伏せたバーサーカーの目が開いて詩音を見つめる。
狂化された思考にはアーチャーのカリスマは届かない。故にその危険性を本能で感じ取ることができた。
それはダメだ、となけなしの思考で呻こうとするさやか。しかし声は届かない。

DIOの差し出す手を取ろうとする詩音。
おそらくここでそれを取ってしまえば彼女は彼の支配から抜け出すことはできないだろう。

そんな時だった。


「アーチャーさん…?」

アーチャーのマスター、鹿目まどかがその場に現れたのは。


街には若干の騒がしさがあった。恐らくここでも何かしらの戦闘があったのだろう。
しかしその喧騒にも脇目を振らずに走り続けた。
ここで止まってしまえば他の参加者に襲われる可能性が高くなってしまう。
目指す場所はあの、詩音と出会ったマンション。
脇目も振らずに急いだことが功を奏したのか、参加者らしき人物に出会うことはなかった。

そして、そのマンションに辿り着き、扉を開いた。



「アーチャーさん…?」

そこにいたのは、己のサーヴァントであるDIO。
そして、その目の前にいるのは、他でもない詩音だった。

「…マドカ、君か」
「詩音さん…?アーチャーさん、これはどういう…?」

詩音の有様に気付いたまどかはDIOを問い詰めるような口調で質問を投げかけた。
彼女は数時間前にあったとき以上に髪や衣服は乱れ、汚れていた。
血や土で汚れた服、体中に見える多くの擦り傷、火傷のような跡。そしてその目は虚ろで焦点すらはっきりしていない。
何かあったようにしか見えない光景。もしそれが己がサーヴァントの仕業なら———

「誤解しないでほしい。私は彼女に手を差し伸べていたんだ。
 恐ろしい目にあったようで、自分の進むべき道に迷っていたようだからね。」

DIOはそれに対して特に動揺することもなく、あくまで冷静に答える。
彼女は怯えていた。恐怖していた。だから救おうと手を貸したのだと。
嘘は言っていない。しかしそれが真実というわけでもない。
確かに怯えていた。自分の道に迷っていた。しかしボロボロで歩いていた詩音に戦闘を仕掛け、追い詰め、逃げ道を封じたのは他でもないDIO自身なのだから。


しかし詩音にはそれを否定することはできなかった。
精神が大きく疲労した上に、DIOのカリスマに心を奪われつつあった彼女にはそれを告げるほどの気力はなかった。
ただ一つ、

(ああ、やっぱりまどかさんもマスターだったんですね…)

そんな、分かりきっていたはずの事実を改めて現実として突きつけられた。そんな感覚を味わった。

しかし、この場にいるのはこの三人だけではなかった。
もう一人、忘れてはならない存在がいた。

それは、他でもない————園崎詩音のサーヴァント。

「…——■■■」

ふと起き上がりながら、うめき声を上げるバーサーカー。
その存在をまどかは認め。

彼女の中の時が止まった。



「え……?さや、か…ちゃん…?」

青い短髪、青い瞳、真っ赤に染まってこそいるがその服は紛れもない、見滝原中学校の制服。

最後の会話はお互いが傷付くようなやり取りしかできなかった、そしてその魂は同じ魔法少女である子と共に消え去っていった、大切な親友。

まどかの中にあったのは、喜び以上に困惑だった。
なぜ彼女がこんなところにいるのか。
なぜそんなに血まみれの格好で立っているのか。
その体に刺さったナイフは何なのか。
そして———なぜそんなにも獣のような眼光を発しているのか。

「マドカ、彼女はシオンのサーヴァントだ」
「…嘘……」
「嘘じゃない。私も彼女に襲われかけた。身を守るために反撃してしまったが。
 彼女は今理性を奪われている。君の友達は、狂戦士——バーサーカーのクラスで呼び出されている」

理性を奪われて。
その言葉に衝撃を覚えるまどか。
心当たりはある。あの影の魔女と戦っていたときの、痛みを消しての特攻自体はまさしく狂戦士だったとも言える。
しかし、それで今の美樹さやかの姿として納得できるかといわれればできない。

「この聖杯戦争に呼ばれたってことは、私のように彼女にも願いがあったのだろうね。
 他の人間を殺してでもやり遂げたいことが」
「そ、そんな!そんなのおかしいです!だって、だってさやかちゃんは——」

その後の言葉は、まどかの口からは続かなかった。
なぜなら、全身のナイフをふるい落としたバーサーカー———さやかがその姿を瞬時に魔法少女のものに変え。
また瞬時にその手に作り出した剣でアーチャーに斬りかかったのだから。

「チィ…」
「さやかちゃん?!」
「■■■■■■■■■!!!」

アーチャーはかわしつつ、ナイフを投擲する。
別に殺しても構わなかったのだが、マスターの手前、あえて手や足などを狙った。狙いは手加減をして、しかし威力は全力で。
投げつけられたナイフは肩を貫き、血と肉をぶちまけながら腕ごと吹き飛ばした。
まどかが顔を背けたくなるような姿を晒してもしかし、さやかは止まらない。
吹き飛ばされた部位はまたしてもグロテスクな音を立てながら再生、元の姿を作り出す。
斬りつけられた剣をナイフでかろうじて受け流したアーチャーは、その目から高圧の液体を射出する。

空裂眼刺驚(スペース・リバー・スティンギー・アイズ)。
人体をも易々と貫く威力を誇る、DIOの能力の一つ。
仮にもCランクの宝具に分類されているそれを受けては、再生能力を持ったさやかとはいえ一たまりもないだろう。

事実、それは彼女の剣ごと眼球を貫き、さらにその脳まで到達した後後頭部から飛び出していった。
飛び散る脳髄、血液。
しかし、それでもさやかは倒れなかった。
後ろに仰け反りそうになった体を、足で踏ん張って支え、回復するまでの一瞬の中でさらに剣を作り出して斬りかかる。


高速の滅多斬りはアーチャーの体に傷をつけるが、行動不能にするまでには至らない。せいぜいかすり傷程度だ。
さらにその攻撃速度に目が順応し、剣筋を一つ一つ確実に見切っていく。
そして左腕で手首を、右腕でさやかの首を掴み上げる。
すると、触れている部分が恐ろしい速度で凍りつきはじめた。

気化冷凍法。己の天敵である攻撃に対抗するために編み出した技。
波紋使いなど時代遅れであり、この場に波紋使いがいるとは思えない以上使い道はないと思っていたが、さやかの動きを止めるのには役立ったようだ。
全身が凍り付いて身動きが取れなくなったさやか。その、まるで氷像のような姿と化したさやかを見て、まどかは声を上げる。


「止めて、アーチャーさん!こんなのってないよ!」
「現実を受け入れろ!!彼女はもはやサーヴァントでしかない。ただの世界のシステムでしかないのだ!」
「…!」
「マドカ、今までは時間が必要だと思って黙っていたが、そろそろ言わせて貰おう。
 戦うのか、戦わないのか、それを今ここで決意するのだ」

話している間にもさやかの体の氷は解け、その身の自由を取り戻しつつある。
凍らせた体に魔力を通したことでダメージや状態異常から治していたのだ。
アーチャーがまどかを攻撃範囲から退けたときには、足や腕の関節の氷は溶け、既に動き始めていた。

剣をナイフで弾くたび、金属のぶつかり合う音と衝撃が周囲に鳴り響く。
空いた手で突き出した拳はさやかの体を吹き飛ばし、壁を砕いてビルの外まで押し出した。
しかしアーチャーは構えを解かない。

「マドカ、もし君に戦う意志があるというのなら、私は彼女との戦いに本気を出そう。
 しかし戦えないというのなら、これまでみたいに手加減して戦う。
 彼女の再生力は把握している。恐らく本気で戦わなければ殺しきることはできないだろうな。つまり、ずっと彼女は傷付き続けることになる。
 決めるんだ。生き抜き、戦い抜くのか、それともここで戦いを放棄するのか」

アーチャーの言葉。それはおそらく本当だろう。
彼の本気がどれほどのものなのか、まどかは知らないとはいえ、さやかの再生能力は他の誰よりも知っている。
つまり、ここで戦うことを選ばないのであれば、彼女が傷付き続ける姿をずっと見せられることになる。
そして、それが何を意味するのか。
サーヴァントの仕組みは知らないとはいえ、再生能力もただ無尽蔵に再生できるわけではない。回復には魔力を消費するのだ。
では、魔力が切れたときはどうなるのか。サーヴァントが魔力の塊である以上、消滅するだけ———
とはいかないことをまどかは知っている。おそらく、またしても穢れきったさやかの魂は”アレ”を生み出す。

魔法少女の成れの果てを。呪いから生み出た存在、魔女を。

しかし、それでもまだ、まどかには戦う決意はできなかった。
戦う決意をするということは、人を殺すかもしれない決意をするということ。
まどかにはまだ、それを決めるには、あまりに状況が突然すぎた。

しかし迷っている間にも、さやかは立ち上がり地面を蹴ってアーチャーに突きを放ってきた。
その速さはまどかには捉えきれるものではない。しかし、狙いだけははっきりしていた。
そしてそれを迎え撃つ姿勢を、アーチャーは固めていることも分かる。
アーチャーの拳はおそらくそのまま飛びかかるさやかの頭を叩き潰すだろう。
それでもさやかは死なない。しかしダメージは確実に魔力を穢し続ける。

だからこそ、まどかは。

アーチャーの前に飛び出した。

「なっ、バカ———」

そして、轟音と共に近付くさやかの刃は、

まどかの目の前で静止した。


まどかは信じていた。もし彼女の中にまだ心が残っているのであれば、と。
そしてそれはたった今、確信に変わった。

「もう止めて、さやかちゃん。こんなことさやかちゃんが望んでたものじゃない。そうでしょ?」
「——■」

まどかの呼びかけに対し、声になっていないうめき声を上げるさやか。
その手の、まどかに突きつけられた剣は震えているが、未だ戦意は衰えていない。

「さやかちゃん…?」
「———■■■■■■■!!!」

まどかは、さやかが元に戻るのではないか、と一瞬の期待を持った瞬間。
さやかはまどかを避け、横からアーチャーに突撃した。

「さやかちゃん!!」
「ではこうしよう。マドカ、今の俺でも動きくらいなら止められる。
 もし戦う意志があるのなら、—————バーサーカーを殺せ」

そう言って、アーチャーはまどかの足元に1本のナイフを投げた。

「君なら彼女の弱点も分かっているんだろう?覚悟があるというならできるはずだ」

次の瞬間には、さやかの半身は凍結させられ、腕をナイフで串刺しにされて壁に縫い付けられていた。
しかし、それが氷を溶かし腕のナイフを外し取るまでには10秒もかからないだろう。

迷っている時間はない。
これ以上、彼女に苦しみが続くのならば———






(さやかちゃん…、ごめん…)





詩音はそんな彼らの戦いを、見つめることしかできなかった。
もう彼女には戦う意志も、戦える力もなかった。
さらには戦うさやかの消費する魔力は詩音の体力も奪っていく。

こんな私が生き残ろうとしたのは、勝ち抜こうなどと思ったのは間違いだったのだろうか。

そんな時だった。
バーサーカーの前に飛び出すまどかの姿を視界に収めたのは。
そしてその剣をまどかの目の前で止める光景を見たのは。

最初はどうして彼女が剣を止められたのか分からなかった。
しかし、それまでの詩音の戦い方、そしてあの、まどかの名前を出したときのバーサーカーの反応を思い出してもしかしてと思い当たる。

(あの子、まどかさんを守ろうとしている?あのサーヴァントから———)

もし本気で殺すつもりで戦うのであれば、サーヴァントよりもマスターを狙うのは定石だろう。
相手があの強力なアーチャーであるならなおさら無力なまどかを狙うことが勝ちに繋がる。
しかしバーサーカーはアーチャーのみを執拗に狙い続けた。
そして決定的なのは、まどかを前にして自身の剣を止めた。
バーサーカーはまどかの存在を認めていた。だからそれが予想外ということはない。

理性を奪われた彼女には、サーヴァントの死がそのまままどかの死に繋がることが分からない。
それでも彼女なりにまどかを助けようとしているのではないか。
バーサーカーにはそれほどまでに思える友達がいる。

——羨ましいと思った。
私にはそれほどまでに思ってくれるような、正気を失ってあんな風になってまで助けようとする友達はいただろうか。
変わり果ててなお、友達と認識してくれるような友達は、仲間はいただろうか。


そう思って、そんなことを考える資格が自分にはないことを悟った。

私は最も大切にしていた人のお願いすらも無碍にし、多くの人を傷つけてきた、殺してきた。
そして今また、多くの人を殺して全てを元通りにしようなどと願った。
聖杯などというものに絆され、今際の際の言葉すらも忘れかけてしまった。
きっと自分の心の奥底にあった、隠された願いだったのかもしれない。
でもそれは、私にはやっぱり不釣合いなものだったんだ。
自分のしたことを受け入れられない人間に、そんな願いを叶える資格なんて、あるはずもなかった。
きっと、これまでの戦いはそんな私への、神様の罰だったのかもしれない。

今、目の前ではまどかはバーサーカーを殺そうとしていた。

もう、自分の命はどうなってもいいと思った。仮にも一度死んだ身。最後に見る夢としては上等なものだったと思う。
だけど、今を生きているあの少女は、こんな最低な罪を背負ってはいけない。それをしてしまえば、後戻りの道を失ったまま迷い続けることになる。
では、それを止めるにはどうしたらいいか。
ふと、詩音の視界に、地面に落ちているそれが入った。

あの時、ギブアップしろと言われたとき、果たして本当にギブアップしようと思ったのだろうか。
ギブアップの方法を知っていたのではないだろうか。
もしかしたら、未練があったのかもしれない。
もしかしたら、ギブアップの後にあるものが怖かったのかもしれない。

それでも、あの時のライダーや今目の前のアーチャーとの戦いの中、彼女の心は、意志は折れてしまった。
いや、まどかを殺せなくて良かったなどと考えた時点で、きっと私に戦い続けることなんてできなかったのだろう。
だけど、後悔はない。むしろそれでよかったのだと思えた。

だからこそ、詩音は、地面に落ちているもの———アーチャーのナイフを手に取り。
己の首に、突き刺した。


「えっ?」

まどかがさやかのソウルジェムにナイフを構え、突き立てようとした、まさにその時だった。
さやかの体が、黒く綻び始めたのは。

「…う…、ゴホッ…」
「詩音、さん…?詩音さん何をやってるんですか?!」
「ダメ、で…すよ。そんなか…おで、友達を…、殺す…な…て」

座り込み、体を壁に預けた詩音は、その首にアーチャーのナイフを突き立てていた。
傷口からは血が流れ、彼女自身が声を発するたびに血は彼女の気管に流れ込んでいる。
何より、彼女の体が綻ぶのはさやかよりも早かった。
それが意味するもの、園崎詩音という存在の死を示している。

「詩音さん待って!まだ私、あなたと全然お話できてない!助けてくれたお礼だって——」
「いいん、ですよ、ゴホッ…、だって私なん、か、あなたにお礼言われるような、話し相手になれるような人間じゃ、…ないか、ら」

声を出すのも苦しそうに話し続ける詩音。
まどかがその傍に近寄ろうとすると、その進行を手で差し止めた。

「…友達は、大事にしなきゃ。私は、…こんな死人の願いしかなかったけど、まどかさんなら、きっと———」
「詩音さん…!」

ああ、私の本性を知らないとはいっても、こんな私のためにこんな場所で涙を流してくれるんだ。
優しい子だなぁ。
やっぱり、この子を殺してなくて、本当に良かった。
そして、詩音は最後に、首に刺さったままのナイフを握り、引き抜く。
大量の血が噴出、周囲を染めつくしたところで、詩音は声を絞り出す。

「■■■」
「バーサーカー——いえ、さやかさん…、令呪を持って命じます…」

呼ぶ名は、クラス名ではなく彼女自身の真の名前。
そして手を前方に掲げ、自身のサーヴァントに最後の命令を下した。

「まどかさんと、お話をしてあげなさい」

その言葉を最後に。
園崎詩音の肉体は霧散し、消滅した。












まどかがいた。
アーチャーがいた。
アーチャーとまどかはまるで保護者と子供のように話していたような気がする。

それで、なんとなくまどかがこのアーチャーのマスターなんだってことは分かった。
だけど、こいつがまどかの傍にいてはいけないと思った。
本能で察した。こいつの心はドス黒い色をした、私にとっても倒さなければいけないような存在ということに。魔女に並ぶくらい危険な存在だって。
だから攻撃した。倒そうと思った。

でも、まどかはそんな中でも私のことばっかり気遣っていた。
今一番気にしなければいけないのは、何より自分のことだというのに。

ああ、そうなんだ。
あんな風に変わり果てていく私のことを見ても。
あんな言葉を投げかけた後でも。
まだまどかは私の友達でいてくれたんだ。
それなのに、私は結局謝ることもできなかった。

「ま、どか———」
「さやかちゃん…」

「まどか、私、間違っていたのかな…?
 人間止めて、皆のために戦いたかったっていいながら、結局自分のために戦ってて。
 皆に呪いを振りまく存在なんかになって。
 全部自業自得なのに未練たらたらで、こうやってまたたくさんの人を傷つけようとして。
 私なんて、いなかったほうが良かったんじゃないかな…?」

結局こんなところにきても自己否定するような言葉しか出てこなかった。
こんな自分が許せなかったから。

「ううん、さやかちゃんは間違ってなんかない。
 上条くんの腕を治したのも、マミさんの跡をついで戦おうとしたことも、間違ってなんかないんだよ」
「そう、なのかな?」
「うん。さやかちゃんが祈ったことも、そのためにがんばってきたことも、とっても大切で、絶対、無意味じゃない。
 だから、もっと胸を張っていいんだよ」

そんな自分を、まどかはこんなにも肯定してくれる。
気休めや気遣いなどではない、本心から。
ああ、こんなになってしまった私にも、まだこんなにも想ってくれる親友がいたのだと。
そう思ったらほんの少し、心が軽くなったような気がした。

詩音。
ごめんね。こんなダメサーヴァントで。
そして、ありがとう。最後にまどかと話させてくれて。

私の体が、魔力が消えていくのが分かってきた。
もうそろそろ時間だろう。

だから。
生前の悔いの一つを果たそう。

「ごめんね、まどか。あんな酷いこと言って。私の気持ちなんて分からないなんて…。あんたも苦しんでたのに」

傷つけたまま終わってしまった、親友との繋がり。
せめて一言だけ、謝っておきたかった。

「いいの。もう、いいんだよ。さやかちゃん…」
「それとね」

体にノイズが走る。
もう私の色すらも、まどかは認識することができなくなっているだろう。
視界が滲んで、まどかの顔も見えなくなりつつある。
だからせめて、最後くらいは笑顔で別れよう。

「こんな私と、友達でいてくれて、ありがとう————」

そういったさやかの、満面の笑みと瞳から零れ落ちた涙を最後に。


美樹さやかは、運命に翻弄された一人の少女はこの地から消滅した。



「彼女は、己が過去に犯してしまった罪を無くしたいと言っていた。
 友達や家族を殺してしまったことを。
 死の淵でその罪の苦しみから解放されたはずであったのに、それでも諦めきれない想いが、彼女を聖杯戦争に呼び寄せたんだろうね」

消え去った親友を前に、まどかはしばらく泣いていた。
傍にいる己のサーヴァントを気に留めることもなく、泣き続けた。


そして涙を拭い、発した第一声。

「アーチャーさん。私、戦います」

それは、まどかの覚悟の言葉だった。

(ほぅ…)

「ようやく戦う覚悟を決めてくれたか。しかし、その戦うという覚悟にはそれに見合うだけの目的というものも必要になってくる。
 特に戦いというものにおいては、意志の強さだけではなく意志の質というものも必要になってくる。
 だからこそ聞いておきたい。マドカは聖杯に何を願うんだ?」

大体の予想はついている。
あの友達を人間に戻したい、あるいは救いたい、などといったことを、この心優しき少女は願うのだろう。
そのくらいの願いならば、自身もやりやすいと考えていた。

「いいえ、私は何も願いません。聖杯なんて、いらない」
「何…?」

だからこそ、まどかの答えにDIOは眉を寄せた。

「どういうことかい?願いもないのに戦うというのか?」
「ここにいる人たちは、みんなお願いがあって戦っているんだとは思います。
 でも、詩音さんも、さやかちゃんも優しい子でした。
 こんなところで願いを叶えるために殺し合いをするような子じゃないって。
 もしも彼女やそれ以外にも頑張って頑張って苦しんで戦い抜いて、その果てに死んで。
 そんな人たちが、またこんな戦いに呼び出され、なおも戦いを強いられて苦しみ続けるというのなら。
 そんなものから生まれる願いなんて、私はいりません。そんなもの、あっちゃいけないんです」

そして、まどかははっきりと、こう言い切った。

「私は、聖杯を壊したい」
「…!?」

聖杯を壊す。
その言葉の意味、まどかは分かっているのか、と。
そう思いはしたが、口には出せなかった。それほどに、衝撃の方が大きかった。
まさかこんな少女の口からそんなことが言われるなど、想像もしていなかったのだから。

「分かっているのかマドカ!それはこのゲームのシステム、そして私を含めて全ての願いを持つサーヴァントたちを敵に回すということだぞ?!」
「はい。覚悟はあります」


まどかの言葉には、迷いはなかった。
親友の姿をあのような形で見せられることになったまどかは、その選択を選ぶことを迷わなかった。
そして——

「アーチャーさんにも願いがあるのは分かっています。私の願いと相容れないんだろうなってことも。
 それでも、こんな理由だけど、それでも私は戦いたいんです。さやかちゃんや、他のこんなところに呼ばれてまた苦しみを続けるシステムを無くすために」

そういうと同時、まどかの手の甲が輝き始めた。
令呪。サーヴァントに対する3つの絶対命令権にして、このムーンセルにおいての生命線。


「だから、お願いします。力を貸してください。アーチャーさん…いえ、ディオ・ブランドーさん!」

そうして、まどかは自身のサーヴァント、悪の帝王に己が願いを託した。


予想外ではあった。

どうやらこの少女、自分の想像していたよりも遥かに強い意志を持っていたようだ。
このDIOが、こんなチンケな人間に若干の敬意を払いたくなるほどには。
それが果たして本心からか、あるいはこの令呪による効果なのかどうかは分からないが。
令呪によるサーヴァントへの命令。
曖昧であり、拘束力は薄いはずの命令にも関わらずDIOはその指示に従わなければならないという考えが生まれているのを感じていた。
つまりは、それほどにマスターとしての素質は強い、気高い精神を持っているということなのだろう。

「分かった。君の戦いのための力となろう」

いいだろう。覚悟を決めたというのであれば上々。
今のこの少女であれば、聖杯戦争を生き抜く力ともなり得る。
この懇願という名の命令も、今は甘んじて受け入れよう。



しかし、彼女自身の願い——聖杯の破壊。これを聞き入れるかどうかは話が別だ。
このDIOには望みがある。それを叶えるためには、聖杯による奇跡が必要なのだ。
聖杯を破壊されては困る。
今はまだいいだろう。令呪もあるし、しばらくは願いを聞き入れることもやぶさかではない。
だが、もし参加者が減ってきて聖杯の存在が目前となってくる時までには、このマスターにはなにかしらの手を打っておかねばならないだろう。
他のマスターを探し出すか、まどか自身の考えを改めさせるか。無理であれば難易度は跳ね上がるが聖杯が破壊される前に己の願いをかけるしかなくなる。

あるいは鳴上悠とランサーの活用法についてまた別のものを考えるべきだろうか。
いずれ捨てる駒、別にどのように使ってその結果失うことになったとしても特に惜しいとは思わないが、それでも可能な限り有効に使いたい。

それでも、今はモラトリアムに浸ろう。時間もちょうど朝になるところだ。
だから。その時がくるまでは失望させてくれるなよ、マスター。




街には朝が来たことを告げる日差しが差し込んでいる。

多くの人間が散り、消えていった夜が明けた。

壁の穴から空いた光を確認すると同時、DIOは霊体化してまどかの視界から消えていった。

そして、まどかはその日差しを眺めながら、己の令呪を握り締めた。

強い意志と想いをその胸に抱いて。




【園崎詩音@ひぐらしのなく頃に 死亡】
【バーサーカー(美樹さやか)@魔法少女まどか☆マギカ 消滅】


【新都・蝉名マンション/朝】

【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】
[状態]:疲労(小)、令呪残り2画
 ※行動方針:聖杯を破壊するために戦う(具体的な行動方針は不明です)

【アーチャー(DIO)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:魔力消費(中) 、令呪(まどかの戦いに力を貸す)
 ※宝具“ロードローラー”は破壊されました。再召喚は不可能です。
 ※鳴上悠より、彼が交戦した全てのマスター・サーヴァントの情報を得ました。
 ※携帯電話を入手しました。鳴上悠の携帯電話のナンバーを記憶しています。

※鋼鉄の腕(アイゼン・デア・アルム)@エンバーミング 、鋼鉄の腕の予備弾@鋼鉄の腕(アイゼン・デア・アルム)が放置されています。
 拾うかどうかは以降の書き手にお任せします

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