《A》

「はあ——おいしい」
温かいココアはリラックス作用をもたらしてくれる。
暖房の効いた室内で、泉こなたは一息ついた。

「あ、こなたちゃん起きた?」
部屋の外からこなたのサーヴァントである火野映司の声がした。
扉を開けて個室へ入ってきた映司の手には、湯気の立つ味噌汁とおにぎりを載せたお盆があった。

(そういえば、さっき入ったレストランでも飲み物を頼んだだけで何も食べてなかったっけ)
一度空腹を感じると、とたんに食欲が湧いてくる。
こなたは受け取った朝食をあっという間に平らげ、映司から受け取ったお茶を啜った。

泉こなたと火野映司、天海陸とセイバーは、遠坂凛が亡くなったレストランを離れたあと、24時間営 業しているインターネットカフェに潜り込んでいた。
日付が変わる前から動き続け疲労したこなたと陸の体力を気遣い、映司が休息を提案したためだ。
目の前で仲間である凛を失った精神的な負担、回復したとはいえ重症を負ったイスラのこともあり、誰も反対する者はいなかった。
こなたはゲームや深夜アニメなどで徹夜は慣れているが、さすがに殺し合いともなれば普段通りともいかずこなたは個室に入ったとたん眠りに落ちた。

「夢じゃないんだよね——やっぱりさ」
目が覚めたら自分の部屋で、同居している父と従姉妹におはようと言って、いつものように大学に行く。
そんな日常に戻っていることを期待してこなたは眠りについたのだが、やはり現実はそう甘くはなかった。
手の中 のカップの温かさも、隣にいる火野映司の存在も、遠坂凛の死も、すべてが本当のもの。

「凛ちゃんが死んだのも、本当なんだね——」
「安心して、とはいえないけどさ。こなたちゃんは絶対に俺が守るよ。約束する」
「うん、ありがとう、映司さん」
しかし、凛を失っても、まだこなたは一人ではない。
自分のサーヴァントであるライダー・火野映司と、仲間である天海陸とセイバーがいる。

「そういえば、陸くんたちももう起きたかな?」
いくつか離れたブースでは天海陸と彼のセイバーが休んでいるはずだ。
サーヴァントは霊体化できるからいいとして、恋人関係でもない男女が同じ部屋で眠るのも良くないので部屋は別々に分けた。
聞けばセイバーが昏倒したこなたを介抱し てくれたのだという。
彼がこなたたちと合流してから回復宝具を使ったのは、その宝具が自分だけでなく他人をもカバーできるものだったからである。
強力な反面消費魔力も多く乱用はできない。
そのためセイバーは自分の怪我を押して、傷ついて戻ってくるはずの映司や気絶したこなたらが全員揃うまで待ってくれたのだ。
このネットカフェで休むことにしたのは消費したセイバーの魔力を回復させるためでもあった。

「セイバーさんがその、あまり強くないっていうのは聞いてたけど。代わりに怪我を治せるんだからすごいよね」
「うん、そうだね。正直、あの人はセイバーというよりはキャスターに近いと思うよ」
MMORPGも嗜むこなたからすれば、パーティを組む上で一番不可欠な人材は アタッカーではなくヒーラーだ。
どんなに攻撃力のある戦士がいても、敵の攻撃で受けたダメージを回復できなければいずれは沈む。
一人回復役がいるだけで、集団の生存率は飛躍的に上昇するのだ。

「さっきの戦い——俺はこなたちゃんに謝らないといけない。
 サーヴァントが軽々しくマスターから離れるべきじゃなかった。俺が残ってたら、凛ちゃんだって助けられたかもしれないんだ」
「あのとき襲ってきた人、結局サーヴァントじゃなかったんだよね」
「うん、さっきのNPCの人みたいに誰かに操られてたんだと思う。助けなきゃって思っちゃって、それで——」
「映司さんは間違ってないと思うよ。私だって、できたら助けてあげたいと思うし」
「ありがとう、こなたちゃん。でも、これからはもう俺はこなたちゃんの側を離れないようにするよ。セイバーさんもいるしね」
セイバーが戦闘向きではないとわかった以上、必然的に戦闘は映司の役目になる。
回復能力を持つセ イバーが後方支援としてこなたと陸を守ってくれれば、映司も安心して敵と戦える。

「じゃあ、そろそろ行こうか」
睡眠と食事を取り、体調は万全になった。
個室を出ると、ちょうど陸とセイバーも休憩を終えたようだ。

「おはよう。泉さん、火野さん」
「おはよう、っていうのもなんか変な感じ。でもおはよう。りっくん、セイバーさん」
陸たちもぐっすりと眠れたようで、疲労している様子はなかった。
会計を済ませ、明るくなり始めた街へと歩き出す。

「ええと、凛ちゃんの家に行くんだよね」
「そうだけど——凛ちゃんの家がどこか、誰か知ってる?」
映司の問いに、みんな首を振る。
陸が懐から折り畳んだ紙を取り出した。

「調べてみたら、遠坂ってこの冬木 市では結構な名家だったんだ。地図もコピーしてきたから」
「りっくん、準備いいねー」
「中々眠れなかっただけだよ。じゃあ、行こう」
メガネ男子のイメージに漏れず、陸は几帳面な性格をしている。
出会ったのが凛と陸でよかったとこなたは思う。
最初に襲ってきた白髪の男のように好戦的ではなく、殺し合いをする気がないのになぜか参加してしまった一般人。
天海陸という、自分と全く同じ境遇で同世代の少年がいたことは、こなたに親近感と、理不尽な境遇は自分一人ではないという安堵を覚えさせていた。
戦う覚悟のないこなたがどうにか取り乱さずにいられるのは、側で自分を支えてくれる映司だけでなく、陸の存在も大きい。

「そうだ、泉さん。セイバーと話したんだけど さ」
「ん、なに?」
「火野さん——ライダーさんのこと。名前で呼ぶのは止めた方がいいと思う」
サーヴァントにとって、真名を看破されるということは能力だけでなく弱点をも相手に知られるということである。
どれだけ強力なサーヴァントであっても、生前苦手としていたことや死因を再現されるとあっけなく敗北するもの。
ゆえにマスターたちは血眼になって真名の隠匿に奔走する。
宝具は強力な反面、真名に直結するものも多いのでおいそれと使用することができないのだ。

「そっか、そうだね。ごめん映——じゃなかった、ライダーさん。あたし、迂闊だったね」
「いいんだよ、こなたちゃん。俺もちょっとうっかりしてたよ」
「僕も真名を明かさなければフェアじゃないんだが、済まないね。どうしてもそれだけはできないんだ」
セイバーが申し訳なさそうにこなたに謝った。
しかし、もしこなたが敵に捕まって、彼の真名を喋ってしまったら一大事だ。
信用している仲間であっても、真名とは隠し通さなければならないものなのである。
こなたもそれが決して悪意から来るものではないとわかっているので、頭を下げるセイバーに気にしないでいいと言った。
真名を明かさずとも、セイバーには怪我を治療してもらった恩があるため、信用を損な う理由にはならない。

「——! セイバーさん、二人を!」
「ああ、わかっているよライダー」
歩き始めて数十分、突然、映司が突然こなたと陸を背中に庇って前に出る。
その手には既に彼の宝具が出現していた。
火野映司の宝具は使用することで自身を変化させるタイプだ。
通常時と戦闘時でステータスが激しく変化するため、真名の隠蔽や撹乱に役立つという利点がある。
そのため映司はまだ変身せず、セイバーも剣を構え、こなたと陸を守る構えだ。
いかにセイバーのステータスが貧弱と言えども、映司が変身する時間を稼ぐことくらいはできる。





  《B》


「俺に言いたいことがあるなら、はっきり言ったらどうだ」
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアがセイバー——アルトリア・ペ ンドラゴンに投げかけた言葉は刺々しかった。
空はすっかり青みがかり、鳥たちが横切っていき、窓を開けたルルーシュの頬をさわやかな風が撫でる。
騎乗のスキルを持つだけあって、セイバーの運転は実に快適なものだった。

「大方ガウェインのことだろう。あいつが俺の命令に従うのがそんなに不満か?」
「別に——そういうわけではありませんよ」
名高い円卓の騎士の中でもランスロットと並び称されるほどに高名な、太陽の騎士ガウェイン。
生前はセイバーの臣下であり、甥であり、親友でもあった。
ガウェインにとって王とはアーサー王のことであり、アーサー王にとってもまたガウェインは無二の忠臣だった。

「サーヴァントとして召喚されたからには、我らには生前の忠義 など意味を持ちません」
「ほう——ならなぜ、お前はガウェインを避ける?アーサー王の伝説ならば俺も知っている。裏切りの騎士ランスロットと違い、やつは最後までお前に仕えたはずだ。
 結果的に双方討ち死にしたようだが、こうして再び話す機会を得たのだから、語るべきことなど山ほどあるだろう」
金田一一にギアスを使ったあと、ガウェインは暗い顔でルルーシュの元へ戻ってきた。
しかしガウェインは、とても生前の主君に会えて感激しているという感じではなかったのだ。

「——あなたに隠す意味もありませんね。さきほどのランサーとの戦い——ランサーのマスターが持っていた剣、あれは私の友ランスロットの剣なのです」
「なに?」
「つまり——この聖杯戦争には、私と、ガウェインと、ランスロット——かつての円卓の騎士が三人、招かれているということです」
セイバーの表情は暗い。
ルルーシュにもその意味はわかる。
ガウェインはともかくランスロットといえば、円卓の騎士が崩壊する元凶とも言える最悪の裏切りを引き起こした騎士だ。
生前の忠義に意味は無いとセイバーは言ったが、生前の恨みまで忘れるということではない。
セイバーとランスロットは出会えば敵対が決定的といってもいいのだ。
ガウェインと再会したといっ ても——彼もまた、ランスロットに運命を狂わされた騎士。

「ガウェインがあなたに従うのが不満かと言いましたね。逆ですルルーシュ——私は、彼があなたのような王に仕えることが嬉しい。
 王としていたらなかった私よりも、聖杯がもたらす奇跡を否定し自らの意思で道を決めるあなたのような強く迷いのない王ならば——
 私などよりよほど、ガウェインを輝かせられるでしょう」
ガウェインが無念の死を遂げた原因の一端は、ランスロットだけではなくガウェインの忠言を聞き入れなかったアーサー王にもある。
ゆえにセイバーはガウェインに対して負い目があったのだ。

「こうして再び会うことができたガウェインの目に曇りはありませんでした。私以上の良き王に巡り会えたのだと— —どうしました、ルルーシュ?」
セイバーが横目でルルーシュを見ると、ルルーシュはセイバーの言葉を聞いていないかのように何事か考えていた。

「アーサー王、ランスロット、ガウェイン、衛宮、俺——」
「ルルーシュ?」
「セイバーよ。マスターがサーヴァントと契約する際、その英霊と縁のある聖遺物があればほぼ確実に引き当てられるのだったな?」
「え、ええ。実際私は生前持っていた鞘で切嗣と——シロウの養父と契約しました。その鞘が士郎に受け継がれ、いまもこうして」
「聖遺物がない場合はどうなる?」
「その場合、マスターと精神的に類似しているサーヴァントが割り振られるようですが——
 あなたとガウェインを見るに、他の条件もあるかもしれませんね」
ルル ーシュとガウェインは、よい主従ではあるがとても似たタイプではない。

「あるいは、マスターがその英霊と何らかの縁を持つ人物である場合はどうだ?たとえば——アーサー王の伝説を強く信じる、ブリタニアの王族であるとか」
「ええ、断言はできませんが、まったく無関係のサーヴァントよりは結び付きが強いのではないかと思います」
「——俺には、ガウェインという名と浅からぬ縁がある。といっても、やつ本人とはまったくの無関係ではあるがな」
ルルーシュはかつて、まさにガウェインと言う名のナイトメアフレームに乗っていた。
英国に端を発するブリタニア帝国が、国家の守護者として精鋭であるナイトオブラウンズに与えたナイトメアフレームの名も、やはり円卓の騎士。
ル ルーシュがサーヴァント・ガウェインを引き当てたのがこれに関係があるのだとしたら——

「ランスロットのマスターは——あるいは、俺の友なのかもしれん」
「なんですって!?」
その名は、枢木スザク。
ルルーシュの親友にして、裏切りの騎士と呼ばれ、ナイトメフレーム・ランスロットを操り、最後はゼロという記号になった男だ。
ルルーシュがガウェインと結びついたのなら、スザクがサーヴァント・ランスロットを呼び出たとしても、何もおかしくはない。

「だが、あいつはゼロとして——いや、そもそも俺がこうして生きてこの場にいるのだからあいつがいても不思議ではないか」
「もしその人物が本当にいたとするなら、ルルーシュ、協力を求めることはできませんか?」
「協力?」
「ええ。ランスロットのクラスはおそらくバーサーカーですが、その武芸の冴えは狂化していてもいささかの衰えもありません。
 私と肩を並べることはできないでしょうが、聖杯を破壊するためのこの上なく頼もしい味方になるでしょう」
かつてセイバーは狂ったランスロットを前に剣を振るうこともできずに激しく打ちのめされたが、あの時とは状況が違う。
士郎との戦いの日々を通じ、かつて征服王に指摘された自分の王道の歪みに気付けたのだ。
今ならば、戦い以外の道を選ぶことも——

「彼のマスターがあなたの友だというのなら、可能性はあるはずです。ガウェインもきっと喜ぶ」
「スザクと、か——」
セイバーはランスロットとの和解の可能性を見出し、鼓動が早まるのを感じていた。
かつては憎み合うしかなかったが、この聖杯戦争でなら、いまの自分なら、ランスロットと再び轡を並べることができるかもしれない。
アーサー王と、ランスロットと、そしてガウェインと——円卓の騎士の再結成ができるかもしれない。
バーサーカーといえども令呪の強制には逆らえない。アーサー王を襲うなと命令すれば、戦うことはなくなる。
友に令呪を強いるのは心苦しいが、それでも期待に胸膨らませるセイバーと対照的に、ルルーシュは。

「スザク——」
か つてルルーシュは、スザクに後を託し悪逆皇帝として世界中の憎しみを集めて死んだ。
スザクに最後のギアス——枢木スザクを捨て、ゼロとして生きろというギアスを残して。
未練はなかった。別れは済ませたし、スザクは誰よりもルルーシュを理解してくれていると知っていたからだ。

(もう一度——お前といっしょに戦えるのか?スザク——)

知のルルーシュと、武のスザク。
二人が力を合わせれば不可能などない——とルルーシュは確信している。
士郎や金田一のことは信用しているが、やはりスザクへの信頼とは比べ物にならない。
それに、もしこの聖杯戦争に敗北するとしても——自分の命などどうでもいいが——

(スザク——お前を死なせるわけにはいかないんだ)

枢木スザク——否、ゼロだけはなんとしても生還させねばならない。
ブリタニアが崩壊し、大きく動き始める世界にゼロは必要だ。
最愛の妹ナナリーを守るためにも——
枢木スザクを、この聖杯戦争で失ってはならない。

「——そうだな、やつを探そう。あの体力バカとバーサーカーとの組み合わせではいつ自滅するかわかったものではない」
「ルルーシュ——!」
セイバーが喜びの声を上げた。
この瞬間、ルルーシュの中で最優先目標が天海陸・泉こなたの捜索から、枢木スザクの保護に入れ替わった。
もちろん天海陸たちをないがしろにするわけではないが、やはりどちらが重要かというと親友でありゼロを継がせたスザクなのだ。

「よし、そうと決まればまずは——」
ルルー シュはセイバーに車を停止させ、降りて手近なNPCを掴まえた。

「アッシュフォードの頂きで、ゼロレクイエムを奏でよう——この噂を広げろ」
テストを兼ねて、ギアスを発動させ命じる。
無関係の人間が聞けば意味不明な伝言だが、ルルーシュとスザクの間では通じる暗号だ
アッシュフォードとはルルーシュたちが通っていた学園の名前、頂きとはすなわち学園で最も権力を振るっていた生徒会の拠点、生徒会室。
冬木市における学園は月海原学園しかないため、アッシュフォードが学園を指すとは他のマスターは理解できない。
そしてゼロレクイエムとは、憎しみを集め世界から消すための計画であり、ルルーシュが殺し合いに乗っていないという宣言でもあることが、スザクにだけは通じる。
もしスザクがいるのなら、これを聞けば必ずやってくるだろう。

「ふう……ギアスに異常はない。やはり効かないのはサーヴァントだけか」
「それがあなたの力ですか。まるで令呪だ」
「そうだな、本質的には同じだ。だからこの力を使うのはNPCをか、危険なマスターだけ——」
やはり他人を無理やり従わせるギアスはセイバーには不評のようだ。
それも当然かと、ルルーシュが振り向く——セイバーはその瞬間、一瞬で鎧を身にまといルルーシュの前に立ちはだかった。

「セイバー?」
「ルルーシュ——サーヴァントです!それも——二体!」
セイバーの鋭い声にルルーシュは気を引き締める。
まさかいきなり出くわすとは思わなかったが、本来はそのために山を降りてきたのだ。
セイバーが睨む方向を、ルルーシュもじっと見つめる。
現れたのは、ルルーシュと同じくらいの年齢の少年と少女に、宝具を構えた二人の男だった。
日本人らしき男がおそらくライダーだろうが、いまは鎧をまとっていない。
しかし外見はキャスターから聞いた情報と一致する——天海陸たちに間違いあるまい。

「お前たちは——天海陸とセイバー、そして泉こなたとライダー、だな?」
「!な、なんで俺たちの名前を!?」
ルルーシュが告げると、天海陸はうろたえる。
どうやら間違いないようだ 。

「こうも早く会えるとはな。やはり——遠坂凛はいないか」
「凛ちゃんのことも知ってるの!?」
泉こなたが凛の名前を聞いて色めき立つ。
だがルルーシュが見ていたのは陸ただ一人——そしてルルーシュは見ていた。
凛の名前を出したとき、陸が一瞬、たしかに震え、目を泳がせたのを。

(この反応——そしてあの目。わかるぞ——こいつは俺と同じタイプだ)
ルルーシュは、直感的に陸が嘘をつく人間だと見抜いた。
ゼロとして世界中を欺いてきた経験と、事前に録画した映像で他人と会話を成立させるほどの卓越した洞察力がもたらす天啓の閃きだった。

「ああ。俺の名はルルーシュ・ヴィ・ブリタニア。こいつはセイバーだ」
セイバーが油断なく陸のセイバーとこなた のライダーを視線で牽制している。
ステータスを見る限り敵のセイバーとライダーは、こちらのセイバーの敵ではない。
陸とこなたもこちらのセイバーのステータスの高さに驚いている。
もちろん宝具という奥の手があるため絶対有利とはいえないが、少なくとも主導権は握った。

「俺が遠坂凛の名前を知っている理由はな——やつのサーヴァントとあったからだ」
「な、なんだって?」
ルルーシュの言葉に、四人は動揺する。
中でも一番過敏に反応したのはやはり——陸だ。
陸のセイバーは表情を変えないが、マスターである陸はそうはいかない。

「彼女が死んだ時のことも、はっきりわかっている——天海。俺が何を言いたいのかわかるな?」
「え、どういうこと?りっくんが どうかしたの?」
「泉こなた、すまないが少し黙っていてくれ。そっちのライダーもだ。俺は天海に確かめたいことがある——遠坂凛の最後のことでな」
口を挟もうとしていたライダーが止まる。ライダーとしても、遠坂凛の名前を持ちだされては無視することはできない。
陸が凛を殺していないのなら、正直に言えばいい。
ルルーシュとしては、もし陸が凛を殺した犯人だとしても、いきなり敵対する気はない。
こんな状況だから我を忘れて暴走することだって決して不自然ではないし、キャスターは信用しきれないからだ。
だから、罪を認めて遠坂に謝るというのなら——ルルーシュは陸を仲間に迎え入れるつもりだし、騙していたこなたとの仲も取り持つ気だった。
もし認めずにセイバーが 襲いかかってきても、こちらから手を出さなければライダーは敵対しないだろう。
セイバー同士の対決なら、こちらのセイバーが百%勝つ。

「さあ、どうだ?言っておくが、俺たちは戦う気はない——お前の返答次第だがな」
「く——」
陸は沈黙している。緊張のあまり、激しく汗をかいている。
こなたも陸とルルーシュの間のただならぬ空気を察したか、ライダーの傍で成り行きを見守っている。
陸のセイバーは微動だにしない。こちらのセイバーが視線で牽制しているからだ
静寂のまま一分が過ぎ、二分、三分——

「——五分、経ったな。天海陸、これがお前の答えか」
「お、俺は——」
チャンスは与えたが、陸は答えなかった。
この分では何時間待っても同じだろう。
凛の死に無関係なら黙る理由はない。
黙るということは、何らかの形で関わっているということ——それをこなたらにバレると困る から、黙るのだ。

「——もういい。時間がない、少し強引だが——喋ってもらうぞ、天海」
「た、戦う気か!?」
「言っただろう、俺たちに戦う気はないと。だが——」
ルルーシュはコンタクトレンズを外す。
ギアスを制御する特別製のコンタクト——

「俺の質問に偽りなく答えろ——天海陸!」

ギアスは解き放たれた。
視線はばっちりと陸の両目と合っている。
狼狽していた陸が一瞬無表情になり——人形のように固まる。

「リク!?」
「りっくん!?」
「戦う気はないって言ったのに——陸くんに何をしたんだ!」
「攻撃ではない。だがいまは天海は俺のいうことを拒否できない状態にある。さあ、天海陸——答えてもらおう!遠坂凜が死んだ時の状況を!」
「俺は、遠坂を——」
今にも飛び出しそうだったライダーを、他でもない陸の声が押しとどめる。
遠坂凛の最後——それはライダーも知らない、天海陸とセイバーだけが知っていることだからだ。
陸のセイバーがようやく表情を変える。
歯を食いしばったような、してやられたという痛恨の顔。

(チェックメイトだ)
ルルーシュは、勝利を確信した。
自分から認めるのであれば更生の余地はあったが、こうなればそうもいかない。
残念だが、陸はここで倒しておかなければならない——こなたとライダーは、凛を殺したのが陸だと知れば邪魔はしないだろう。、
凛を殺したのに嘘をついて、自分たちは味方だとずっと騙していたのだから。
みんなの視線が陸に集中し——



「——見殺しにした」
——その一言は、ルルーシュの予想から大きく外れたものだった。

「俺は——死ぬのが怖かったから、敵と戦ってる遠坂を助けないで、ずっと隠れてたんだ——遠坂が、俺を助けてくれたのに。
 でも、セイバーが大怪我してるって聞いて、セイバーが死んだら俺も死ぬって思って、怖くて、俺——」
「ま、待て!どういうことだ——遠坂を殺したのはお前じゃないのか?なら遠坂は、一体誰に襲われたんだ!?」
「わからない。でもあれは多分——キャスターだったと思う。自分のマスターを、操っていたように見えた」
陸は淡々と呟く。どう見てもギアスに支配されている者特有の喋り方だ。
ギアスは正常に機能しているのに、陸は凛を殺していない という。
陸の一言ごとにルルーシュの組み立てた推論や確信が消し飛んでいく。

「なら、お前は何か、特殊な能力を隠していないか!?」
「昔、剣道をやっていた——いまは、もうやめた」
「なっ——」
違う。望んでいた答えではない。
そんなちゃちな特技で、魔術師である凛やサーヴァントと渡り合えるわけがない。

「だったら遠坂凛のサーヴァントを言ってみろ!見ていたのなら知っているだろう!どんなサーヴァントだった!?」
「遠坂のサーヴァントは——アーチャーだ」
迷いなく言い切った陸の言葉に、ルルーシュは今度こそ言葉を失った。
しかし——セイバーは驚愕の声を上げた。
まさか、と思った。
やはり、とも思った。
士郎が自分を引き当てたのなら、遠 坂凛が召喚するサーヴァントもまた「彼」であっても不思議ではない。

「アーチャーだと!?どんなアーチャーだ?」
「白髪の男だ——武器は、刀を使ってた——」
「刀だと? それならセイバーだろう!でたらめを言うな!」
「剣や槍をいくつも召喚して、それを飛ばしてきたんだ」
「ふざけるな、そんなアーチャーがいるわけ——」
「いいえ、ルルーシュ。彼は嘘を言っていないと思います。私とシロウは、前回の聖杯戦争でそんなアーチャーと出会ったことがある。そして彼は——リンのサーヴァントでした」
「な——なにっ!?」
反論しようとするルルーシュだが、セイバーの言葉がそれを許さなかった。
衛宮士郎が再度アルトリア・ペンドラゴンを召喚し、ルルーシュ・ヴィ・ ブリタニアが因縁あるガウェインと契約したのなら——
遠坂凛がかつてのサーヴァントを呼び出すことに、何の矛盾があろうか。
白髪で、矢の代わりに剣や槍を飛ばすアーチャーなどどんな伝説を見てもそうはいない。
凛に召喚されるという条件を付け加えれば、もう確定といってもいい。
凛はアーチャー——赤の弓兵エミヤを召喚し、そして敗北したのだ。

「ば、馬鹿な——こんなことが」
ルルーシュのギアス——絶対遵守の力。
金田一に使用した通り、その力は決して失われてはいない。
ギアスの効果は誰よりもルルーシュが知っている。
かつてあれだけ強く日本人との融和を願ったユーフェミアでさえも逆らえなかったのだ。
ならば、ギアスにかかった陸が嘘をつき続けられるはず はない——

「——あ、れ? え? 俺、いま?」
「リク!大丈夫か!?」
ルルーシュの質問が途絶えたことにより、陸にかかったギアスもまた解ける。
ギアスが作用している間、受けた人間は記憶に欠落が生まれる。
よろめく陸を彼のセイバーが抱きとめた。
一度術中に落ちれば、決して逆らえないはず——陸の様子から見ても、ギアスは問題なく発動した。

「ルルーシュ。あなたの力が本物ならば、リンを殺したのは彼らではなく——」
「——やつだと言うのか!?」
なのに、遠坂凜を殺したのは陸ではなく、遠坂凛のサーヴァントがキャスターではなくアーチャーだというのなら——
凛とアーチャーに撃退され、マスターを失ったキャスターが、凛殺しを陸に押し付け、凛の令 呪を奪いなおも勝ち残りを目指している、ということになる。

(だが、おかしい——それなら何故、キャスターは俺達の前に現れた? こうして天海たちと話せば一瞬で露呈する嘘を何故ついた?
本当にギアスは通じたのか? キャスターの言っていることは嘘だったのか?
どちらかが嘘を付いているのは間違いない。だが、天海が嘘を付いているのなら、ギアスでそれを暴けたはずだ。
だとするとキャスターか? ライダーもあいつには気をつけろと言っていた。キャスターはそもそも裏切りが多いクラスだし、奴があの悪名高い蘇妲己ならばおかしくはない。
最初からハメるつもりで俺たちに接触したと考えると辻褄は合う。こうして別働隊が天海に接触し、嘘がばれようとも、その間に目的を 果たせたのなら。
柳洞寺は冬木市屈指の霊穴だ。キャスターがそこに陣取ればセイバーと言えども攻め落とすのは難しい。
前の聖杯戦争では柳洞寺を制圧したキャスターがアサシンを召喚したという。俺たちの戦力を分散させ、その隙に——?)

「——これで、はっきりしたな。お前たちは敵だ」
思考に沈むルルーシュを引き戻したのは、怒りに満ちた眼で己を睨みつける陸のセイバーだった。
右手には赤く輝く剣、左手に意識を取り戻した天海陸。
魔術師ではないルルーシュが見てもわかる、とてつもない禍々しさを秘めた剣だ。
騎士王はルルーシュを背にしているが、剣を彼に向けてはいない。
当然だ、この状況を招いたのは100%ルルーシュのギアスに非があるのだから。

「せ、セ イバーさん、落ち着いて! まだ敵って決まったわけじゃ——」
「ライダー、君にだってわかっているだろう! いまリクは、こいつに支配されていた!
 もしこいつが質問に答えろではなく、死ねと言っていたなら! リクは死んでいたかもしれないんだぞ!」
冷静さをかなぐり捨て、陸のセイバーが叫ぶ。
ギアスとはそういう力だ。他者の意思と尊厳を踏み躙り、望みどおりに操る力だ。
うまく使えば人を導くことも、嘘を暴くことも、そして人を自害させることもできる。
マスターの生死を弄ばれたサーヴァントが激怒するのは当然の事だ。
その負い目があるからこそ、騎士王は危険とわかっていながらも先制攻撃を仕掛けられずにいるのだ。

「——りっくん、悪いことしたの?自分 の命が大事ってそんなにいけないことなの?」
泉こなたの呟き。
こなたは戦う覚悟のある人間ではない——同じ一般人である陸の取った行動を否定しないのは当然だ。
たとえ凛を見殺しにしたのが事実でも——自分の命がかかっていたのだから仕方ないじゃないか。
そう——それを責める権利など、誰にもありはしないのだ。

「そ、それは——」
ルルーシュには確信があった。
天海陸は嘘をついている、と。それは事前の情報だけでなく、本人と会って確信したことでもある。
陸は、昔の自分と同じ目をしていたからだ。
本心を仮面の下に隠し、望まぬ偽りの生活を強いられていた頃の自分と。
ギアスを使えば本性をあぶり出せるはずだった。
だが失敗すればこの通り——陸のセイバーだけでなく、泉こなたが自分を見る目は、完全に非友好的なものに変化していた。
失策だった。
普段のルルーシュならばこうも性急な手段は取らなかっただろう——だが彼は、降って湧いた枢木スザクとの再会の可能性に気を取られていた。
先を急ぎたいのに、陸が喋らないせいで時間が浪費されていく——それ に我慢ならなかったのだ。
まだ話が通じそうなのはライダーくらいだが、それにしてもどう説得すれば通じるというのか。

「非礼は詫びます、紅剣のセイバー。しかし、私たちにも事情があるのです。あなたたちを見定めなければならなかった理由が」
「だから許せというのか? はっ、笑わせないでくれ。もし君が僕と同じ立場だったなら、君はそいつを許せるのか?」
陸のセイバーの反撃に、騎士王は言い返せない。
その沈黙こそが答えだ。
彼女もまた、ルルーシュのギアスが他人にどれだけの屈辱を与えるのか理解している。
陸のセイバーはもう、いつ切りかかってきてもおかしくない。
ステータスを見るに、騎士王ならば容易く返り討ちにできるだろうが——そんなことをできるは ずがない。
もし陸のセイバーを討てば当然、泉こなたのライダーをも敵に回すだろう。
勝つにしろ負けるにしろ、殺し合いを止めるどころか、逆に促進させるだけだ。

(どうする、どうすれば状況を打開できる? 倒すのではなく、対話をするには、どうすれば——!)

泉こなたにギアスを使う——論外だ、火に爆弾を突っ込むようなもの。
逃げる——この場は切り抜けられても対立は決定的になってしまう。最悪、ルルーシュを始めとする殺人者集団が柳洞寺に集まっているなどの噂を流されかねない。
土下座、命乞い——そんなふざけた行為が通じる空気ではない。
打てる手が——ない。
そのとき、風が吹いた——

「——私はブリテンの王、アルトリア・ペンドラゴン。紅剣の セイバーよ、重ねて非礼を詫びる。どうか、剣を収めてはくれまいか」
風は騎士王から放たれている。、
騎士王の手の中で、目も眩むような黄金の剣が、燦然と輝いていた。

「真名を明かした——のか」
愕然と、陸のセイバーが呟く。
ルルーシュもまた驚きに打たれ立ち尽くしていた。
サーヴァント同士の戦いで真名を明かすということは、弱点を晒すと同義だ。
騎士王はその世界的な知名度から宝具を見られれば即座に真名を見破られるとはいえ——自分から明かすなど、自殺行為以外の何物でもない。
彼女には、衛宮士郎のセイバーとしては何一つ利することはない。
禁忌を犯してまで真名を明かしたのは——当然、しょせんは赤の他人であるルルーシュを救うためだ。

「無論、都合がいい話だとは思う。だが私たちにはもう、あなた方と敵対する理由がない。無駄に血を流さずに済むのなら、私の真名など安いものだ」
堂々と、まさに王の風格を漂わせ——騎士王が言う。
対峙していた陸のセイバーとライダーも、セイバーの威容に呑み込まれたかのように動かない。
好機だ、ここで追撃の一手を——そう理解していても、ルルーシュもまた騎士王の輝きに目を奪われ、言葉を発せなかった。

「——セイバー、もういい。剣を下ろしてくれ」
固まった空気を動かしたのはルルーシュではなく、陸だった。
こなたから一連の流れを聞き、ようやくギアスのショックから立ち直った陸は軽く頭を振ってセイバーの手をそっと抑えた。

「リク—— しかし!」
「いいんだ、セイバー。ルルーシュが俺を疑うのは当然のことだ。実際、俺は遠坂を助けられなかったんだから」
「——わかったよ、リク」
セイバーが渋々剣を下ろした。
その様子を見届け、騎士王もまた剣を収める。

「感謝します、リク」
「勝手に命令されたのは不満だけど、こんな状況じゃ仕方ない、ってのもわかる。それに俺たちが戦ったら、敵の——あのキャスターの思う壺だ」
「天海——お前たちが戦ったのは、本当にキャスターなのか?」
「多分、そうだと思う。さっきのレストランでもNPCのを操ってたようだし、マスターもきっと——」
ライダーが戦ったという大剣を持ったバーサーカーのようなマスター。
キャスターが自らのマスターを操り、スキルを使 用してサーヴァントにすら通じる武器を作成したのだとしたら、マスターがサーヴァントと渡り合えても不思議ではない。
ルルーシュは知る由もないが——とある世界では、キャスターに支援されたマスターが最優のクラスであるセイバーを追い詰めたこともあった。
マスター個人の資質によらずそれだけの強さの手駒を手にできるならば——マスターを失ったとて、別のマスターを見つけられればキャスターにはいささかの問題もない。

「——天海、そして泉。俺からも謝罪させてもらう。すまなかった」
「もう、いいよ。結局、俺への疑いは晴れたのか?」
「ああ——もう、それどころではなくなった。セイバー、すぐに柳洞寺に戻るぞ。衛宮が危険だ」
「シロウが——!? どういうことで す、ルルーシュ」
「もしやつが——あのキャスターが最初から俺たちを謀るつもりだったのなら、現状は戦力を分散させた愚策でしかない。
 やつがマスターを操れるのなら、狙われるのは衛宮か金田一だ。戦闘力のある衛宮の可能性が大きい」
いくらガウェインが控えているとはいえ、ガウェインはあくまでルルーシュのサーヴァントだ。
士郎との間に繋がりはないため、士郎がキャスターの催眠を受けても察知できない。
一度操られてしまえば、顔見知りに手を下すのは難しい。
金田一はもちろん、士郎がアルトリアのマスターであることから、ガウェインもまた。
いかにガウェインと太公望と言えども、身中に潜り込んで人質を得た蘇妲己という猛毒を相手にするのは困難だ。
ガウェイ ンとの念話もこれだけ離れてしまうと不可能。
携帯電話なら通じるが、キャスターに気付かれる可能性が高く危険だ。
すぐに戻る必要があった。

「天海。できれば、お前たちも来てほしい」
「俺たちも?」
「無論、無理にとは言わない。だが、いま柳洞寺にはお前たちが遠坂凜を殺したと告げたキャスターがいる。
 もしかしたら——いや間違いなく、お前たちが戦ったやつだろう」
正直なところ、ルルーシュは天海陸への疑いを完全に捨ててはいない。
世の中にはギアスの通じない者も——C.C.やコードを継承した父シャルルのような者もいた。
陸もそうだという確信があるわけではない。
理屈ではない、感情の一番深い所で——ルルーシュは、陸に対しやはり疑心を捨て切れないでいる。
しかし、それでも、キャスターとどちらが怪しいかといえば——現状、キャスターになる。
そう、あのキャスターには不審な点が多 すぎるのだ。
凛が死んだ瞬間を把握しておきながら、なぜ何も手を打たなかったのか。
士郎を守れという令呪があるとはいえ、まるで見殺しにしたかのように何もしなかったのは不自然なのだ。
どちらかが嘘をついているのなら、対面させればどちらかの言い分には穴が生まれるはずだ。
戦闘になったとしても——最悪の場合、太公望の宝具を使えばそこにいるすべてのサーヴァントの宝具を無力化できる。
そうなれば相手がキャスターであれ、陸のセイバーであれ、素のステータスが圧倒的に優れているセイバーを二人擁するこちらの勝ちは動かない。

「——わかった、俺は行くよ。遠坂の敵討ちってわけじゃないけど、あいつは許せない」
「やれやれ——リクが行くって言うなら、僕には 止められないね」
「泉さんはどうする?」
「わ、私も行くよ。一人でほっとかれる方が怖いし——私はりっくんを信じてるからね」
乗用車の運転席にセイバーが乗り込み、助手席にルルーシュ、後部座席に陸、こなた、陸のセイバーが乗り込んだ。
ライダーは席がないため、自前のバイクを召喚し護衛を兼ねて横を並走する。

「さっきはそっちのセイバーとリクに免じて引いたが、僕はまだ君を信用していない。忘れるなよ、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア」
「ああ、わかっている——」
ルルーシュの真後ろで、陸のセイバーが言った。
いつでも心臓を貫ける距離だ。
だが、ルルーシュにとってこれは当然のリスク。陸を疑い、無理矢理ギアスを使った負い目がある。
今の状況で凶行 に走るほど陸のセイバーは愚かではないだろうし、その程度で同行を許可してくれるなら安いものだ。
こうして彼らは一路、柳洞寺へと取って返すことになる。





  《C》


(アハハハハ——ハハッアハハハハハハッ! 見たかいリク! あいつの顔、傑作だったな! アハハハハハハ!)
(うるさいぞ! 少し静かにしてろよ!)
(む、無理だよリク——ハハハハハハハッ! はぁ、はぁ——ハハハハ! アハハハハハハハハハッ!)
(なんでおまえはそう——!)
必要はないのにわざわざ念話を繋げてまで爆笑するイスラを、脳内でこれでもかと殴る。
天海陸はイスラほど図太くはない。
気持ちはイスラと同じでも、頭の中で笑いつつ表情はぴくりとも動かさないという芸当はできそうにない。

(はぁ——ああ、笑った笑った。一生分は笑ったかもしれないよ)
(言ってろ。とにかく——お前の読み通りだったな)
(備 えあれば憂いなし、ってね。まさかあのセイバーの真名まで聞けるとは、本当に予想以上の成果だよ)
ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアのギアスは、当然ながら天海陸には通じていなかった。
いや、正確に言えば陸は確かにギアスにかかったのだ。
だが、それはとても「絶対」遵守といえるほどの威力ではなかった。
陸がどうやってギアスを切り抜けられたのか——話は数時間前に遡る。





「リク、僕の——僕らの、と言ってもいいが、弱点がなにかわかるか?」
「弱点——それは戦力って意味でか?」
「それも含む。答えを言ってしまうとだね、それは魔術だ」
休息のために借りたネットカフェの個室で、陸はイスラからこう切りだされていた。

「まず僕だが、セイバーのクラ スでありながら僕には対魔力スキルというものがない。遠坂凛にしてやられたのもそれが一因だね。
 彼女が一流の魔術師だったこともあるが、人間の魔術師であれならキャスター相手じゃ言わずもがなさ」
「つまりお前は、接近戦が不得手なだけじゃなく魔術も苦手——自分以外のあらゆるサーヴァントが天敵ってことかよ」
「そうだね。だけどリク、さすがに弱点しかないわけじゃないよ。僕には僕の強みがある」
「宝具か?」
「宝具じゃない——いや、結果的には宝具になるのかな? まあとにかく、僕はね、本業は剣士と言うよりは召喚師といったほうが近い」
「召喚師? 魔術師じゃなくて?」
「魔石を通じて異界の住人を呼び出し、使役するのが召喚師だ。まあ正当な召喚師とも言い きれないんだけど、とにかくその力はいまも使えるんだ」
実体化したイスラが陸の顔に手を伸ばす。
彼が手にしたのは陸がかけていた眼鏡だ。

「もちろん、いまの僕はキャスターのクラスじゃないから召喚術を使えるといっても本職ほど万能じゃない。
 でもね、いま必要な力を得るには十分なのさ」
「魔術に対抗するための力か」
「そう、それは君にとっても同じ話だ。誰かが君のついた嘘を暴こうとするなら、何が一番手っ取り早くしかも確実だと思う?」
「その場にいて見てた目撃者を探すとか?」
「それじゃ回りくどいね、リク。もっと柔軟な発想を持ちなよ。嘘を暴こうとするなら——簡単さ。嘘をついたやつに自白させればいい」
「自白——!? そんなこと!」
「しない? そりゃそうだ、自分から言うわけがないね。問題は、君が誰かに魔術をかけられて口を割らされそうになったときってこと」
「でき るのか? そんなこと」
「僕には無理だが、キャスターならどんな英霊だろうと可能だと思っていい。
 そしてさっきのNPC、あれをやったのは遠坂凛のサーヴァントと見て間違いないと思う。
 マスターを失って短時間存在し続け、さらにマスターの令呪を必要とする——おそらくキャスターだろうね。
 キャスターなら自分だけで令呪の移植も可能だろうから」
「つまり、俺たちが遠坂を殺したのはもうバレている可能性がある——?」
愕然とする陸。
それでは苦労して凛を葬った意味が無いではないか——

「楽観は危険だ。バレてると思ったほうがいい——だがまだ、覆せないわけじゃないよ」
「え?」
「いいかい、まず僕がリンを殺したとき、キャスターは来なかった。つまり僕らは、というかコナタとライダーは実際にキャスターを確認していないんだ」
こなたと映司が最初に凛と出会ったとき、映司はたしかにそこにサーヴァントの魔力を感じたが、姿は確認できなかったと陸たちに言った。
彼らは知る由もないが実は、いかに蘇妲己とて霊体化したままでは宝具も魔術も使えないため、
霊体化を解いた瞬間に宝具【金霞帽】を使って姿を隠していたのだ。
逃げた間桐雁夜とアサシンを追跡するにも【金霞帽】を使う必要があり、
必要以上にサーヴァントの能力を開示するのを嫌った凛も特に姿を見せろとは言わなかった。
もちろん妲己には妲己なりの思惑があって、意図的に姿を見せなかったのだが、
負傷したこなたや戦闘を終えたばかりの映司は、結果的に妲己にさほど注意を払って いなかった。
だから陸が凛のサーヴァントについてそれとなく二人に尋ねても、これといって具体的な情報は得られなかった。

「向こうはリンから念話なり視覚共有なりで僕らを認識しているだろう。が、僕らはキャスターを捕捉していない」
「それは——駄目なんじゃないのか?」
「情報戦で遅れを取っているのは事実だ。だがこれを逆手に取ればいいのさ。そう——遠坂凛のサーヴァントは、《キャスターではない》ことにするんだ」
キャスターが陸たちの情報を掴み、それを別のマスターに伝えたとしよう。
その情報を信じ、別のマスターが襲撃してくる——だが証拠はない。
目撃者は既にイスラが根こそぎ消滅させ、レストランの監視カメラも念入りに壊しておいた。
根拠はキャス ターの証言だけだが、そのキャスター自身が疑わしいとなればどうなるか?
少なくとも、こなたと映司は陸たちにつくだろう。
その上で言うのだ。遠坂凛のサーヴァントはキャスターではなく別のクラスだった、と。
ならばそのキャスターは何者か?答えを提示する。凛を殺した敵のサーヴァントだ、と。
陸が刃旗で変化して映司を襲ったことも説得力を増す材料になる。
キャスターに操られたマスターが襲ってきた。マスターはなんとか倒したものの、キャスター本人には逃げられてしまった。
マスターを失ったキャスターが必要とするものは——令呪だ。敵対していた凛の腕を奪った理由になる。

「かなり苦しい理屈じゃないか?」
「僕もそう思うよ。でもね、信じさせるのが目的じゃない。別のマスターがリンのキャスターに不信感を抱けば御の字なんだ。あとはライダーが勝手に僕らを庇ってくれる」
「じゃあ——キャスターとは別の、遠坂のサーヴァントの設定を俺たちで考えておかなきゃいけないな」
「セイバーはやめておこう。対魔力持ちのクラスがキャスターに討ち取られるのは不自然だ。同じキャスター、制御のきかないバーサーカーも除外。
 必然的に候補はランサー、アーチャー、ライダー、アサシンに絞られるね」
「ランサー、アーチャー、ライダー、アサシンか——」
「真名まで凝る必要はないが、多少のリアリティは必要だ。君がいままでに戦った、 一番手強い相手でも思い浮かべたらどうだい」
陸が戦った、一番の強敵——言われ、思い浮かべたのは【刃旗狩り】タカオの姿だった。
結果的に武部洋平が命を落とすことになった、あの戦い——タカオはいくつもの刃旗を操り、棺守化した上に刃旗使いとなった陸さえも圧倒した。

(勝てたのは偶然、もしくはネーネのお陰だ。あいつをサーヴァントに当てはめるなら)
タカオはただの日本刀でやすやすと刃旗使いの意識圏を斬り裂いた。つまりセイバーか——否。
本気のタカオは刃旗で生み出した刃を射出してきた。
その脅威たるや日本刀など比較にならない。
一発一発が砲弾のような威力の刃旗が雨あられと飛んでくるのだ。
必要なのは柔軟な発想——そう、タカオをサーヴァントと して定義するなら、刃旗を弾丸とするガンマン——アーチャー以外にありえない。

「白髪で筋肉質の男。普段は刀で戦って、本気をだすと複数の刃物を生み出してそれを弾丸みたいに撃ってくる——アーチャーだ」
「おや随分と具体的だね。まさか本当にそいつと戦ったことがあるのかい?」
「ああ、俺が知ってる中で一番強いやつだ」
「いいと思うよ。どうせもう消滅していることにするんだしね。おっと、脱線したね。話を戻そう。
 とにかく、君の刃旗はサーヴァントを傷つけられるほど強力だが、キャスターの魔術に対抗できるかというとおそらく無理だ。
 こればかりは魔術師じゃないとね」
「俺たちは二人揃って魔術師に弱いのか」
「そこで、これさ」
と、イスラが陸から取り上 げた眼鏡を示す。
イスラが何気なく剣を抜き、眼鏡に剣先を押し当てる。

「おい! 何するんだよ」
「壊しはしないよ。リク、僕らリィンバウムの召喚師はサモナイト石と触媒を媒介とすることで異界の住人と誓約を結ぶ。
 その触媒となる物はなんだっていい——たとえばフォークでも本でも包帯でも、それこそ石ころでもね」
「ず、随分とアバウトなんだな」
「もちろん、媒介にしたからと言って全部が全部成功するわけじゃない。いや、大半はハズレ、何とも契約できない結果になる。
 だけどもし、用いた物が強い力を持っていたり、強い思いを込められていたりするなら——成功率は桁外れに高くなるんだ」
「でも、俺の眼鏡は別に特別なものじゃないぞ」
「そうかい?これは 単に視力矯正用のものじゃないだろう。これは——君にとっての《仮面》だ。嘘をつく自分を守るためのね」
「——それは」
「僕は君の人生なんてこれっぽっちも知らないが、目を見ればわかるよ。なにせ僕にそっくりだからね。
 嘘をつくのに慣れてしまって、もう呼吸をするも同然に嘘をつける——」
違う、とはいえなかった。

(そうだ、眼鏡をかけるようになったのは、天音姉がいなくなってから——誰も信用できなくなって、
 でも生きていくために周りに合わせないといけなくなってからだ)
その頃から剣道もやめた。視力も落ちた。何もかもがどうでも良くなって——嘘をつくのが日常になった。

「君が意識しなくてもこの眼鏡には君の嘘がたっぷりと染み込んでいる。触媒としては、これ以上ない——」
イスラの剣が赤く輝く。
光が外に漏れないように、陸は慌てて毛布をドアにかぶせた。

「嘘を貫き通す力。誰にも侵されない力。君と僕が互いに望むのは、《他者を拒絶する》力——」
光が途切れ、イスラが剣を収めると、陸の眼鏡の横に、手のひらに握り込めるくらいの大きさの水晶が落ちている。

「イスラ、これは?」
「やはり——素晴らしいよ、リク。これこそ、僕らの必要とする力——【反魔の水晶】だ」
イスラには確信があった。
陸が一番恐れることは嘘がバレることだ。
陸の嘘を象徴する眼鏡を、同じく嘘を得意とするイスラが誓約の儀式に用 いるのだ。
導き出される結果は、当然のごとく嘘をより強固に塗り固めるものになる。
すなわち——他人からの干渉を緩和する【反魔の水晶】である。
宝具へと昇華されたこの無属性召喚術は、所有者に対魔力スキルを付与する。
マスターが持てば魔力経路を通じてサーヴァントにもその効果は伝播する。
人間の魔術師は当然、キャスターの魔術もある程度防げる。
対魔力スキルを持たないイスラの欠点をもカバーすることができる、陸とイスラにうってつけの召喚魔法だ。





時間は戻って、車内。
陸がルルーシュのギアスを受けてもルルーシュに従わなかったのは、この【反魔の水晶】の恩恵である。
【反魔の水晶】の効果はあくまで威力の緩和であるため、陸はギアスを掛 けられている、ということは認識できた。
頭の中で声が響く。ルルーシュの問いに偽りなく答えろと。
しかし、響くだけだ。何の強制力もない声だ。
ルルーシュの目論見を見破った陸は、ギアスにかかったふりをして自分に都合のいい《事実》を話しただけ。
捏造したタカオ=アーチャー説を予想以上に強く敵のセイバーが信じたことが誤算といえば誤算だった。ただし、プラスに作用した誤算だが。
ちなみに、ネットカフェにあった物で試したところ何一つ誓約の儀式は成功しなかった。
ムーンセルが用意した物に異界の住人が宿る物はないということだ。
こればかりはあくまでセイバーでありキャスターじゃないイスラではどうにもならない。
イスラが誓約できるのは、陸の眼鏡のように マスターがもともと所持しているものだけのようだ。

(とにかく、これでルルーシュたちの懐に潜り込めそうだな)

陸は手の届くところにいいるルルーシュをあえて見ないようにしている。
どうもルルーシュはまだ完全にこちらを信用したわけではなさそうで、時折り鋭い視線を感じるのだ。
ルルーシュ同様、陸もルルーシュを自分と同じタイプだと——嘘つきだと本能的に察している。


(ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア——こいつは危険だ。遠坂や泉さんみたいに騙し通せるとは思えない)
車が柳洞寺に付く前に、どうにかルルーシュを排除しておきたいところだが——間桐邸に向かうように言うのはどうだろうか。
セイバーことイスラと映司ことライダーは当然、間桐邸が倒壊した音は聞き取っていた。
だがあえてこなたにはに告げていない。
音の大きさからしてかなりの破壊があったことは間違いない。
当然、強力なサーヴァントがいる可能性は大きく、戦えるサーヴァントが実質的にライダーしかいない彼らが向かうことは自殺行為である。
ライダー一人で偵察に向かうことはできたが、それをやって凛は死んだ。
映司はもう二度とこなたから離れな いと決めていたため、気になるけれども向かわないという決断をしたのだ。
イスラは陸に伝えたが、彼らはもとより危険が予測される場所に向かうつもりはなかった。
もしサーヴァントがいれば戦うのはライダーと向こうのセイバーだ。
つまりルルーシュは無防備になる。
柳洞寺に残る他のメンバーへの説明役には、女のセイバー一人いれば十分だ。
謀殺するチャンスと言えるが——

(こいつは未だに俺たちを疑っている。下手に手を出すと手痛い反撃を受けそうだ)

ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと天海陸,、そしてイスラ。
一人と二人の嘘つきの戦いは、まだ始まったばかりだ——



【深山町/午前】


【ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア@コードギアス反逆のルルーシュ】
[令呪]:3画
[状態]:健康
[持ち物]:乗用車、携帯電話

【セイバー(アルトリア・ペンドラゴン)@Fate/ stay night】
[状態]:健康
[装備]:勝利すべき黄金の剣(投影)@Fate/ stay night


【泉こなた@らき☆すた】
[令呪]:3画
[状態]:健康

【ライダー(火野映司)@仮面ライダーOOO/オーズ】
[状態]:健康


【天海陸@ワールドエンブリオ】
[令呪]:3画
[状態]:健康
[持ち物]:反魔の水晶@サモンナイト3

【セイバー(イスラ・レヴィノス)@サモンナイト3】
[状態]:健康、魔力200%


《Information》 —— セイバー(イスラ・レヴィノス)のステータスが更新されました。


(スキル)
誓約の儀式:A+…サモナイト石の剣である「紅の暴君」(キルスレス)と、剣や本などの物質を媒介に機・霊・獣・鬼・無の五属性の召喚獣と誓約を結ぶ儀式。
         本来はキャスターのクラスでこそ真価を発揮 するスキルのため、セイバーのクラスではムーンセルが創りだした物を媒介にすることはできない。

(召喚)
ランク:B 種別;召還宝具 レンジ:— 最大補足:—

「反魔の水晶」
召喚術の効果を緩和する不思議な水晶。確かな力を感じる・・・
 「魔障壁生成」:召喚効果を減少する障害物。物理攻撃で破壊可能
           マスターとサーヴァントに対魔力:Cを付与する

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