人影もまばらな早朝。
深山町ではさほど珍しくもない、純和風建築の家屋。
人気の感じられない寂れに寂れた屋敷の片隅にある古びた土蔵の中で、衛宮切嗣とライダーのサーヴァントは休息を取っていた。

「起きたか、マスター」
目覚めた切嗣が時計を確認すると、鳴上悠及び枢木スザクとの交戦から数時間が経過している。
この土蔵は魔術師の工房というにはややお粗末なものだが、セーフハウスとして使う分には何の問題もなかった。
地面に描いた即席の魔法陣の中心に座したライダーが、切嗣へとハンバーガーと水の入ったペットボトルを投げてよこした。
衛宮邸に着く前に買っておいたものだ。
冷たい水が意識を覚醒させる。
切嗣は、この土蔵に到着した後、自己催眠 ・暗示によってストレスを識域もろとも消し飛ばす荒療治——
精神の解体清掃(フィールドストリッピング)を行った。
この方法なら普通に睡眠をとるより遥かに高効率で体調を回復することができる。
およそ二時間ほどで切嗣は目覚めた。
疲労はすっかりと消え失せ、意識も冴え冴えとしている。
この方法の欠点は無防備となることだが——傍にサーヴァントを待機させているならそれ以上の守りは必要ない。

「僕が眠っている間、何か動きがあったか?」
「何も。退屈なものだったさ」
ライダーが鼻を鳴らして答える。
アインツベルン城や柳洞寺ほどではないが、この土蔵は霊脈から溢れる魔力を集めやすい場所に建っている。
そこに魔法陣を敷けば効率的に魔力を充填できる。
ライダーを回復させるにはうってつけの場所だった。

「調子はどうだ、ライダー。もういけそうか?」
「万全——だ。腹立たしいことにな」
「どういう意味だ?」
「枢木スザクが敗退したようだ。おそらく、だがな」
聞き捨てならない情報だった。
ついさっき同盟を結んだ相手が、もう敗退したなどとは——

「どういうことだ? 偵察に行ったのか?」
「いや——龍騎、あのバーサーカーに奪われた俺の力がな。ついさっき、弾けるのを感じた」
スザクのサーヴァント、バーサーカーは他人の宝具を自らのものとする能力を持つ。
ライダーの力の一つである龍騎を支配されたために、先ほどの戦いは敗北したとさえ言える。
しかし、バーサーカーに支配されたとて召喚したのはラ イダーだ。
バーサーカーが龍騎を支配し続ける間、龍騎を維持する魔力は常にライダーから出て行くことになる。
それまでの消耗に加えさらにバーサーカーに魔力を食い潰されては溜まったものではないと休息を取っていたのだが——

「まあ、龍騎が砕かれたおかげで俺の魔力もほぼ回復したんだがな」
「今のバーサーカーを打ち破るほどの敵がいるということか——」
由々しき事態だった。
龍騎を駆るバーサーカーは、人馬ならぬ人龍一体。
機動力に加え龍騎それ自体の戦闘力も高く、狂化しているとは思えない武芸の冴えを見せるバーサーカーとの連携は
ライダーとランサーを同時に相手取っても凌駕するほどだった。
それ以上に強力なサーヴァントが存在している——

「——少し、方針を変えなければならないな」
スザクとの同盟はもうアテにできない。
元々それほど信用していたわけではないが、それにしても一戦もしないうちに瓦解するとは思っていなかった。
スザクとバーサーカーを用いた柳洞寺に居座るマスターたちの排除も、これでは断念するしかない。
柳洞寺にいるマスターとサーヴァントの情報は、詳しくはわからずともライダーがある程度偵察している。
セイバー——アルトリア・ペンドラゴンのように、真名を看破できたサーヴァントがいることは、情報的に大きな優位だ。

「ライダー、これからは可能な限り戦闘は避けていこう。身を隠しつつ他のマスターの脱落を待つ」
「随分、消極的だな」
「目的は勝ち残ることなんだ。別にすべての敵を僕らが倒さなきゃならないわけじゃない」
「無用な消耗は避ける、か。確かにそれが合理的だが——」
「それに——柳洞寺や、枢木との同盟を見ても、そろそろ他のマスターが手を汲み出しているころだ。
 単独で動き回る僕ら は常に数的不利を負うことになる。
 出会うやつすべてと戦っていたら、いくらなんでも身が持たないだろう。
 これからはよほど勝算があるとき以外は、敵と遭遇しても撤退する線で行く」

ライダー——真名は門矢士、あるいは仮面ライダーディケイドというこのサーヴァントは、強力だ。
純粋な戦闘力で言えば以前切嗣が所有していたセイバー——アルトリア・ペンドラゴンには及ばないだろう。
だがライダーはセイバーに比べ、状況への対応力が突出して優れている。
この衛宮邸に来るまでに使ったバイクの他に、クウガ・アギト・龍騎・カブトという四つの移動宝具に加え(龍騎は破壊されてしまったが)、多数の武器も所有する。
ペガサスフォームという偵察に特化した能力や、クロッ クアップという戦闘にも逃走にも有用な高速移動能力まで備える。
複数の形態へ変化することで、まったく別の性質を獲得する変則的なサーヴァント——
純粋な魔術師ではない切嗣にしてみれば、セイバーなどより格段に扱いやすい。
通常形態では人間とさほど変わらない戦闘能力でしかない一方、宝具を用いて真の力を発揮する。
戦闘中は常に宝具を使用する関係上、一見消耗が大きそうに見えるが——
ライダーの場合、『世界の破壊者(ディケイド)』 自体が魔力を生成する機能を備えている。
ペガサスフォームのような極度の魔力を消費するフォームを多用しない限りは低燃費のサーヴァントである。
だが、逆に言えば——龍騎のように破壊されてしまえばそれだけ手札は減り、自力での戦いを強いられる。
これからの戦いを勝ち残れるかどうかは、どれだけライダーの力を温存できるかにかかっているのだ。

「大体わかった。おおむね賛成だ、と言いたいが一つ、条件がある」
「他のライダーは例外——か?」
「そういうことだ」
このライダーが、他のライダーを撃破することに執着しているのは出会った時に聞いた通りだ。
柳洞寺のライダーを見逃したのは、あの時突っ込んでも勝てなかっし、切嗣がまともな精神状態ではなかったか らである。
それに柳洞寺のライダーが発動した宝具が気がかりでもある。
ライダーが見たところ、その場で他の宝具が起こした効果をすべてキャンセルさせるもののようだ。
常に宝具を発動させるライダーが効果範囲に踏み込めば、その場で変身が解除される可能性が高い。
ライダーにとっては天敵といっていい——対策もなしに単騎で勝てる相手ではない。
それでも、いつかは倒す相手——とライダーは決めていた。


「それに——戦略的な意味もある。一部のライダーだけだが、俺が倒せば力を吸収できるやつがいるかもしれない」
「力を——吸収? 魔力を奪うということか?」
「少し違う。龍騎のように——そいつのサーヴァントとしての力を丸ごと俺が取り込むということだ。
 柳洞寺のライダーは無理だがな。できるのは俺と同じ——『仮面ライダー』と呼ばれる種類のライダーだけだ」
『仮面ライダー』をこのライダーが倒せば、更なる力を獲得することができるなら、重要な戦略要素だ。
それ以外のライダーも一応自分が倒すと決めているのは、ライダーが完璧主義者か天邪鬼だからだろう。
もしライダーの言葉通りの『仮面ライダー』がこの聖杯戦争に参加しているなら、無理をしてでも 倒すべきかもしれないと頭の片隅に書き留めておく。


「ああ、あと——少し、気になることがある」
「なんだ?」
「その無線のことだ」
ライダーが示したのは、切嗣が眠る前に準備しておいた無線機のことだ。
警察の無線を傍受するように調整しておき、切嗣が眠っている間にライダーが聴いていた。

「昨夜から何件か、窃盗だの喧嘩だの——とにかく色んな事件が起こったらしくてな」
「それがどうしたんだ? 何かマスターが関わっていそうな事件があったのか?」
「それはわからん——不自然なのは、それらの報告が逐一すべて、何故かこの冬木市の市長へと上げられていたことだ」
立てこもり事件や火災事故など、市政に大きな影響を与えるものなら何の不思議もないのだが ——
窃盗や喧嘩など、明らかに市長が時間を割くべき重大事件ではないだろう。
現場の負担や自分の仕事が増すとわかっていて、にも関わらず報告を徹底させる——
そうしなければならない理由があるということかもしれない。
今、そうしなければならない理由など、切嗣が思い当たるものは一つしかない。

「たしか、この冬木市の今の市長は『氷室道雪』——だったな。そんな小さな、どうでもいい事件さえも自分に報告させる——」
「臭い、と思わないか? もし——」
「もし、市長が僕と同じマスターだとすれば——この聖杯戦争の情報において、凄まじいアドバンテージを得ていることになる」
「ああ。俺も経験があるんだが——組織のトップが情報を掌握し、状況をコントロールす る。戦いにおいてこれほど厄介な敵はいないぞ」
かつて、門矢士が『剣の世界』で出会った、株式会社「BOARD」の社長——四条ハジメは、アンデッドでありながらアンデッドを狩る企業の長だった。
表向きはアンデッドから人々を守ろうとしておきながら。裏では会社の業績を上げるために暗躍する——

「市長はマークしておく必要があるな」
「すぐに仕掛けないのか?」
「さすがに、情報がなければね。市長ともなれば、手に入る情報、動かせる人員は僕らとは桁違いだ。
 もちろん、所有するサーヴァントも不明。迂闊には仕掛けられないな」
「だが、ヤサは割れているな」
「ああ。冬木センタービル——市の行政の中心だな。
 市長という身分が受けるメリットの反面、常に行動をメデ ィアで監視されるというデメリットもある。
 やろうと思えばいつでも仕掛けられる。とりあえず、彼については様子見で行こう」

そう言いながら、切嗣の頭脳はセンタービルを爆破するために必要な爆薬の量を検討していた。
どのくらいの爆薬を、どの位置に仕掛ければセンタービルを倒壊させられるか——

「センタービルといえば、近くにハイアットホテルもあるな。マスターがこの冬木市の地理に明るくなければ、利用する可能性は大きい」
「センタービルと、ハイアットホテルか。だが市を一望できる高層ビルを同時に二箇所も攻めるとなると、目立つことこの上ないな」
「やるとするならその二つのビルに他のマスターが居ると裏付けが取れてからだな。爆薬も今から入手するとなると すぐにとはいかない。
 そうだな、どこかでガソリンを満タンにしたタンクローリーでも調達しておこうか——」
手早く支度を整えて、切嗣はライダーを伴って深山町へと赴いた。
24時間営業しているホームセンターに立ち寄り、必要と思われるものをかき集めていく。
接近戦に備えた大振りなアウトドア用の鉈、双眼鏡、冬木市の地図、その他色々。
荷物が増えたため、移動用の足とと拠点を兼ねて軽トラックをレンタル。運転手はライダーだ。
車を運転するならドライバーという方が正しいが、幸いライダーの有する運転技術は車にも対応していた。
切嗣は助手席で、ホームセンターで購入した様々な品物を組み合わせて即席の戦闘装備を作り上げていく。

「器用なもんだな。それは爆弾か?」
「いや、閃光弾だ。マグネシウムと着火剤があれば作るのはさほど難しくない。
 僕は物を修理するのは苦手だが、改造するのは割と得意でね」
切嗣の起源は『切って、嗣ぐ』こと。一見修復したように見えるが、物質に不可逆の変質をもたらすものだ。
たとえば壊れたパソコンを修理しようとする。見掛けだけは元の状態に戻せるが、
内部の配線は全く別物へと変化しているので、結局直せないということになる。
だが、元々違うもの同士を組み合わせて新たな何かを創造するのであれば、さほど支障はない。

「それはなんだ?」
「使い魔さ。少々、アレンジしてはいるがね」
「鳩に小型カメラを括りつけるとはね——つくづく、魔術師ら しくないマスターだ」
そしてもう一つ、切嗣は野生の鳩を捕獲し、魔術によって暗示をかけて使い魔とした。
鳩の脚に小型の機械を取り付ける。それは切嗣が前の聖杯戦争でも使用した、超小型のピンホールカメラだった。
この鳩を市内に放つことにより、遠く離れた場所の出来事であっても切嗣は視界に収めることができる。
一般の魔術師もよく使う方法だが、切嗣はさらに仕掛けを施す。
視界共有の魔術に加え、機械を通して映像を受信することができるようにしているのだ。

「送信された映像は無線機があるなら誰でも受信できるが、暗号化してあるからその受信機以外では中身を確認できない。
 こっちの居場所が割れる心配もないってわけか」
「君のペガサスフォームの力は多用 できないからね。こういった手段も使うさ」
窓から鳩を放つ。
切嗣は空へと消えていく鳩を見送った。
市内を走るトラックに乗る切嗣とライダーは、一見しただけでマスターと判断することは難しいだろう。
当面は情報を集め、敵と遭遇すれば撤退し、他のマスターの脱落を待つ——

「さて、どうなるかな」
方針を定め、主従は騒がしくなり始めた街の喧騒へと消えていった。



【深山町/朝】

【衛宮切嗣@Fate/zero)】 (残令呪使用回数:2)
 [状態]:健康
 [持ち物]:トンプソン・コンテンダー、ワルサーWA2000、キャリコM950、携帯電話
      軽トラック、鉈、手製の閃光弾、その他ホームセンターで買える物多数
  ※携帯電話には枢木スザクの番号が登録 されています。
  ※深山町内にCCDピンホールカメラ付きの使い魔を放ちました。映像は無線機があれば誰でも受信出来ますが、暗号化されています。

【ライダー(門矢士)@仮面ライダーディケイド】
 [状態]:健康
  ※ライダーカード≪龍騎≫の力を喪失(コンプリートフォームに変身するだけなら影響なし)。
  ※ライダーカード≪電王・モモタロス≫破壊(コンプリートフォームに変身するだけなら影響なし)。

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