二次キャラ聖杯戦争@ ウィキ

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「知ってるか? 缶ビールの一気飲みの方法」

ジョン・バックスの元に戻ってきたアサシンのサーヴァント、ファニー・ヴァレンタインは開口一番、そう言った。

アサシンはバックスの返答を待たず、右手に缶ビール、左手に万年筆を持ち、ペン先で缶ビールの下部に穴を開けた。
中身がこぼれないよう穴に口を当て、その体勢を保ったまま上部のプルタブを引っ張り開口する。
すると大気圧の作用でビールが一気に穴から噴出した。
アサシンはビールを一滴もこぼさぬよう喉へ流し込んでいく。うめき声をあげて飲み込む必死な形相。
その姿を眺めるバックスは、きちんと味わえているか疑問に思った。
「ブハァーーーッ!! イエスッ、イエスッ!」
ビール缶を一気に空にして、満足そうに何度も腕を上下に振るアサシン。バックスの脳裏に幾つもの思考が浮かぶ。

彼は一体何をしているんだ? いや、何をしているかは分かるが何でビール飲んでいるんだ? サーヴァントは食事を必要としないんじゃなかったのか?

開戦時、マスター全員のポケットに配られたクレジットカードはマスターのみが使用できるが、引き落とした金はサーヴァントも使える。
偵察に出る前渡したその金でアサシンは、何故かビールと栄養ドリンクを買ってきた。

一瞬以上、逃避しかけた思考を現実に引き戻し、バックスはアサシンに問いかけた。
「ビールが何か聖杯戦争に必要なのか? それともそれは前祝いの酒か?」
「いや。必要なのはこっちだ。ビールはついでに買ってきた」
と、アサシンは栄養ドリンクを指差した。
「そろそろ偵察の成果を報告してもらってもいいかね?」
内心やや苛立ちながらバックスが促すと、アサシンは空の缶ビールを机の上に置いた。
「わたしが目撃、及び戦闘したのはアーチャー、バーサーカー、セイバーの三体だ。
 アーチャーはわたしと同じスタンド使い。能力は恐らく“時間を数秒止め、その中を自分だけが動ける”」

戦闘中、バーサーカーが突然肉片と化し吹き飛ばされ、アーチャーがセイバーから離れる際、瞬時に空間を移動した。
単なる超スピードでは説明がつかないこれらの事実からヴァレンタインはそう推測した。
ヴァレンタインの生前、仕えていた部下の一人に時間を操作する能力者がいた事もこの推理に繋がっている。
その部下、リンゴォ・ロードアゲインは時間を6秒戻せるスタンド使いだった。
時間を戻すスタンド使いがいるなら、時間を止めるスタンド使いもいるだろう、といういささか乱暴な憶測ではあったが、正鵠を得ていた。

「それは、とてつもない能力だな……」
驚愕の表情を隠せないバックス。だが、アサシンは余裕の態度を崩さなかった。
「なに、この聖杯戦争ではマスターを殺せばサーヴァントも自動的に消滅する。これによりどのマスターも平等に勝利するチャンスが与えられている。
 サーヴァントを倒すマスターなどそういるものではないからな。
 問題はアーチャークラスはマスターを失ってもある程度生存できる単独行動スキルを保有している事だが、
 魔力の供給が為されていない状態で宝具など使えまい。
 話を続けるぞ。バーサーカーとセイバーの反応からすると、サーヴァントにはスタンドが見えるようだ」

アサシンが召喚されてすぐ、宝具を確認するためアサシンはバックスの目の前でD4Cを出現させた。
だが、バックスにはアサシンのスタンド「D4C」が見えなかった。
「スタンドはスタンド使い以外の人間には見えない」。このルールはマスターといえど例外ではなかった。

「バーサーカーは剣を魔力で創造する力と、心臓や頭を粉砕されても死なず必ず再生する二つの能力。
 セイバーは未だ宝具やスキルの詳細は不明だがアサシンの真似事が出来る以外、大した事は無い。わたしでも十分仕留められる。
 マスターの方が要注意だ。セイバーを足止めに使い、自らマスターを倒しに行った。単独の戦闘に相当自信があるのだろう。
 サーヴァント同士の戦闘は全力の宝具戦でもない限り、まず短時間では終わらない。
 サーヴァントを倒すには魔力を供給するマスターを倒す方が効率的だ。この聖杯戦争の本質を心得ている」
「マスターなどサーヴァントには弱点以外の何物でもない、というわけだな」
バックスの言葉にアサシンは同意し、頷いた。

マスターの戦力ではどう逆立ちしてもサーヴァント同士の戦闘に役立たない。バックスのような一般人では尚更だ。
このマスターとサーヴァントの関係は、未来日記の所有者と、未来日記そのものの関係にやや似ている。そうバックスは考える。
未来日記は所有者の周囲で起こる未来を記述する、サバイバルゲームで勝利するために有益な物だが、少しでも破損すれば所有者は消滅する弱点でもある。
バックスが事前に得た聖杯戦争の情報から自分を未来日記、アサシンを所有者に見立て、序盤は自分が殺害されないよう出来るだけ自身の存在を秘匿し、戦闘以外でサーヴァントのサポートをする、という戦略を立てていた。


詳しい戦闘の経緯をアサシンから聞いたところで、バックスは一つの疑問を口にした。
「セイバーのマスターはどうやってアーチャー、バーサーカーのマスターの居場所を知ったのだ?」

バーサーカーが霊体に戻った時セイバーは「あっちはうまくいった様だな」と発言している。バーサーカーのマスターを捕獲した事を指しているのだろう。
この時点でのアーチャーの反応から、アーチャーは自分のマスターにバーサーカーのマスターが近づいている事実を知らなかったとみていい。
セイバーとそのマスターはアーチャーのマスターとバーサーカーのマスターがかなり近い場所にいて、近い内に接触すると知っていたとしか考えられない。
例えばだが、とバックスは前置きし、推論を語り始めた。
アーチャーがマスターと離れる場面を目撃し、セイバーが足止めを担当。セイバーのマスターがアーチャーのマスターの捕獲に向かおうとした。
その時、アーチャーがバーサーカー達を遅い、アーチャーとバーサーカーの戦闘中バーサーカーのマスターが離れ、偶然アーチャーのマスターがいる場所に向かう。その全てをセイバー達は見ていた。
こう考えれば説明がつくが、偶然にしては出来すぎている気がする。
そうバックスが仮説を述べたところでアサシンが口を挟んだ。
「セイバーは相手を見ずに位置を特定したのかもしれない。
 サーヴァントは生前の魔力の有無を問わず、全員が魔力を感知する能力を優劣の差こそあれ所持している。
 セイバーは優れた探知能力を保有し、それでマスター達の居場所を知ったとすれば」
「偶然目撃したよりも説得力はある、か」
二人とも腑に落ちないと言いたげな表情になった。結局両方とも推測でしかない。
「できればセイバーの、いや三人のサーヴァント全員の詳細な情報を知りたいところだが、現状では難しいか」
学園の図書室に設置されているコンピュータはサーヴァントの特徴を入力、検索することでステータスのみならず略歴、スキル、宝具まで表示される。
だが検索を実行できるのはマスターのみだ。いかにジョン・バックスにHOLONのサポートがあろうとも、この市長室からの操作、ハッキングは不可能である。

「そっちの方はどうなった?」
アサシンが聞いたのは、ライダー組との同盟の話である。
「同盟は成立だ。その代りいろいろ条件や注文があったがね。ライダー達の本拠地はここから南西の冬木ハイアットホテル、その最上階の1フロア全てだ」
バックスはアサシンに具体的な同盟の内容、そしてバックスの思惑を語った。

基本戦略はアサシン組が情報収集、ライダー組が戦闘を担当。
情報をライダー達に提供、さらにバックスの権限が及ぶ範囲でライダー達の安全の確保と情報操作を行う。
そして情報を元にライダーが弱点を突き仕留める。ただし、攻撃するタイミングはライダー達が決める。
さらにバックス自身の思惑としては、ライダーが敵サーヴァントを抑えている間に、アサシンがマスターを暗殺できれば尚良い。

現状考え付く限り最悪の事態は、バックスを殺害するため市長室のある冬木市センタービルごと爆破されることだ。
サーヴァントの中にはそれが可能な宝具を持つ者もいるはずだし、兵器を持ちこめたマスターがいる可能性もゼロではない。
例えばバックスの世界で行われた未来日記のサバイバルゲームの参加者、テロリストの雨流みねねなら爆薬さえあれば平気でやってのけるだろう。
よってバックスはできるだけ移動を避け、マスターである事を他のマスターに知られないようにする。
それに次ぐ最悪はバックスが見限られる事。監視カメラと盗聴器により、この同盟は一時的なものにすぎないとライダーのマスター、ゼフィールは考えている。
バックスより有能でより多くの情報を手に入れられるマスター組がいたなら、そしてもし同盟を結んだならゼフィール達は不意の暗殺を避けるためバックスを殺しに来るだろう。
そのようなハッキングの可能なマスター、もしくは情報収集に向いたスキル、宝具を持つサーヴァントがいたとすれば、ライダー達が知る前にバックスが突き止め、アサシンが暗殺する。
この戦略も敵に知れ渡れば修正もしくは変更の必要があるだろうが、それまでの間はこの方針で行動する。
市長のパーソナルデータを改竄したマスターがいると知れ渡るのは恐らく二日目以降、それまではこの戦略で通用するとバックスは踏んでいた。

条件の他に注文されたのは地図に二人分の当世風の衣装と、ライダーが使用する足としての自動車だ。
地図などその辺のコンビニでも購入できるだろうと疑問に思ったが、ゼフィールの容姿から常識そのものが違うと判断し、表情に出すのを辛うじて避けた。
ゼフィールの世界の文明レベルは地球の中世かそれ以前に近いようだが、その時代なら地図は国家機密に近いだろう。どこに道が通じ、何が建設されているか。
その詳細な情報が分かれば攻守共にどれだけ優位に立てるか。容易に想像がついたからだ。

地図をゼフィールに手渡し、冬木ハイアットホテルの最上階を確保。その後購入したのはリンカーン・コンチネンタル。
アメリカ合衆国大統領、エイブラハム・リンカーンにちなんだ名前の高級車だ。
もう一台、深山町のアインツベルン城や柳洞寺への山林からの強引な侵入を考慮してメルセデスベンツ・ウニモグを発注。
舗装道路でも最高時速は100km/h程度だが、いかなる悪路や傾斜をものともしない高い不整地走破能力を誇る。
さらにアシュナードの専用に、自動二輪車のホンダ・XR250を用意した。
服装は流石にバックスも頭を抱えた。目立たぬよう当世の衣装を、と言われてもあれほど長身で筋骨隆々ともなると、どんな服を着ても似合わない上目立ってしまう。
悩んだ挙句、結局いかなる場所でも最大公約数的に合うスリーピーススーツと靴下、革靴を注文した。
一国の軍事指導者とそのSSという面持になってしまうだろうが、ある意味事実ではあるから仕方がない。

「注文した後、きみが戻るまで時間が空いたから、少しこの聖杯戦争について考えていた」
「聖杯を手に入れる前にその考察とは、随分余裕だな」
皮肉というより友人に対する軽口な調子でアサシンは言った。
「これから先そんな余裕はなくなるだろうからな。こんなことを考えられるのも今の内だけだ」


ムーンセルがデウスに接触し、サバイバルゲームが中断された後。聖杯戦争の参加を決める前バックスは、デウスの元に尋ねいくつかの質問をした。
並行世界の移動は可能か。答えは「意味は少々違うが可能」
神になった後で過去に移動すれば「神を失い滅ぶ世界」と「過去に移動した神が創造した新たな世界」の二つが発生する。
確かに見方次第では並行世界に移動したといえる。
ただこの方法は一つの世界が消滅し、もう一つの世界が出来るだけだ。
ではデウスの力で異世界に移動できるのか。答えは「否」だった。
デウスの力でも知らない異世界への移動は不可能だった。
この事実もバックスがデウスに見切りをつけ、聖杯戦争に参加する動機にもなったのだが。

「並行世界への移動能力を持つ何者かが、ムーンセルを操る黒幕だ。これは間違いない」

ではなぜデウスに接触する必要があったのか。これだけの力があれば、初めから誰かランダムにマスターを選び拉致すればよかったではないか。
未来日記の所有者だからか? だとすれば何らかの特殊な力を持つ人間を選んだのか。
「特殊な力」それを製造する提案をした張本人であるバックスは、ある一つの疑問を抱き、デウスに問いただした。
余りにも基本的過ぎて尋ねるまでもなかった質問。
「神となって世界を維持するとはどういうことか」
その質問の答えとしてデウスは「全宇宙の記録(アカシックレコード)」の存在を明かした。

それら聖杯戦争に参加する以前に得た情報から、バックスは聖杯戦争、それを開催したムーンセルに対し一つの仮説をたてた。
「ムーンセルはマスターの参加よりもデウスの力を必要としたのでは。「全宇宙の記録」を聖杯戦争を開催する手助けにしようとしたのではないか」と。
いくら地球の発生以来、有史全ての記録を持つムーンセルでも、並行世界の知らない人物を再現するなど不可能だろう。
だが、逆に言えば観測さえできれば、並行世界の英霊でも再現は可能と思われる。
さらに思考を進めれば別次元の世界を一から観測するより、観測している何者かから情報をダウンロードする方がはるかに楽だ。

桜見市に設置されているHOLONは三台のスーパーコンピュータが並列接続され、計算を分散処理している。
バックスはHOLONと類似したコンピュータシステムで、異なる機能や資源を結びつける仕組みを連想し、一つの結論に辿り着いた。
「このムーンセルは本来の機能より拡張された、並行世界の神や聖人といったリソースと接続し一つの膨大な演算装置を構築しているグリッド・コンピューティング。それが私の推測だ」



バックスが言葉を切ると両者とも押し黙り、広い市長室の内は静まり返った。
市長室は冬木市センタービルの最上階にあり、地上の喧騒はここまでは届かない。耳鳴りがしそうなほど静かな空間。
「ならばなおさら、この聖杯をどこの誰とも知らないクズの手に渡すわけにはいかないな」
その静寂を破ったのはアサシンだった。アサシンは憎悪と、固い決意の念を込めて言った。
「しかしそれだけの力を宿したムーンセルを使って、やる事が「殺し合いの果て、最後の勝者に聖杯を委ねる」とは。どういうわけだ?」
「勝者だけが持つ何かが必要か、犠牲それ自体が必要か」
「なんにせよ、聖杯戦争という仕組みを何者かが利用しているであろう事は確かだろうな」
推測でしかないその言葉。だがヴァレンタインは確信に満ちた表情で呟き、バックスは同様の態度で頷いた。

この二人が確信を持っている理由は、彼らがかつて開催に携わった行事に由来する。
バックスの場合は未来日記のサバイバルゲーム。デウスに選ばれた人間の中で殺し合いをし、最後に残った一人が神の座に就く。
選定の基準はなく、ムルムルが勝手に決めたらしい。バックスは最初に選ばれた人間だった。
サバイバルゲーム自体はデウスの企画だが、バックスがそれに手を加え「未来日記」のシステムを考案。
幾つかの「原初未来日記」を試作した後、それらの日記を覗き見る日記「The watcher」を作り自分の能力にした。
アサシンの方は北アメリカ大陸横断レース、スティール・ボール・ラン。
本来スティーブン・スティールが考えた馬一頭だけで大陸を横断するレースの企画にヴァレンタインが介入し、ある地図のルート上にコースを設定させ、アメリカ国内のどこかにある、聖人の遺体を集めるための陰謀に変えた。
コース上のどこかにある遺体が持ち主を選ぶのを待ち、全てを回収し、所有するために。
つまり二人とも誰かが考案した企画に手を加え、自分の目的を達成するための手段に変えたのだ。
この聖杯戦争も同様の陰謀が行われているという発想を思いつくのは自然だった。

「私から振った話題だが、これで余興は終わりだ。君にはこれから柳洞寺へ向かってもらう。柳洞寺から警察に通報があった。
 『変な神父が殺し合いをしろって言っている』と。間違いなく柳洞寺を本拠地としたマスターがいる。
 開会式の詳細を知っているのはマスターだけだからな。ただし、これを持って行ってもらう」
そう言ってバックスが懐から取り出したのは、携帯電話だった。
「これで私の「The watcher」にテレビ電話機能を利用して、映像を送信してくれ。そうすればこの場でもサーヴァントのステータスを読み取れる」

気付いた切欠は単なる偶然だった。
携帯電話「The watcher」の機能をチェックするため、ゼフィール、アシュナードのいる応接室の監視カメラの映像を「The watcher」に転送し確認してみたら、なぜか「携帯画面に映るアシュナード」のステータスがバックスには読み取れたのだ。
不可解に思い色々試してみた所、次の事実が判明した。
「カメラで撮影された映像、それも録画ではないライブ映像を直接リアルタイムで「The watcher」に転送し、再生された画面だけがサーヴァントのステータスを読み取れる」。
さらにこれは「The watcher」自体にも当てはまる。カメラのズーム機能で冬木ハイアットホテルに向かうアシュナードを見るとステータスが読み取れたが、録画や写真では読み取れなかった。
おそらく、「The watcher」を破壊されればバックスも消滅する、いわば魂でつながった分身であることが関係しているのでは?
バックスはそう推測したが、証明できる手段は何もない。あるのは「The watcher」でもステータスを読み取れるという事実だけだ。
理由は不明だが、この事実を生かさない手はない。

「使い方がよく分からないが」
「サーヴァントは現代の知識を持っているんじゃないのか?」
「『知っている』と『使える』は違う」
アサシンに使い方を説明し、映像が送信できるか、ステータスを読み取れるかアサシンを使って確かめた。
そこまでで1時間かかってしまった。

「理解した。それでわたしが柳洞寺まで行ってやるのは撮影だけか?」
「チャンスがあるなら殺しても構わない。だが決して存在を知られるな。
 「警察に電話した後、アサシンが来た。タイミングが良すぎる」と考え警察内部の情報を知るマスターがいるのではと疑われる可能性がある。
 遅かれ早かれ他のマスターも分かる事実だろうが、自ら明かす必要はない。
 その後は昼12時まで月海原学園に潜入、情報を求めるマスター、サーヴァントを確認し私の「The watcher」に映像を送信する事。
 隙があるなら暗殺してもいい。当然学園の外でだ。
 正午を過ぎたらマスター達の中で暗殺は不可能だと思われる者達を追跡し、本拠地を突き止めてくれ」

情報を求めるなら新都の冬木教会に居る監督役の言峰綺礼に尋ねるか、深山町の月海原学園にある図書室で調べるかだ。
この二つはそれぞれ冬木市東西の端にあり、各サーヴァントに場所の知識が与えられている。つまりこの両者を見張っていれば、確実に情報を求めるマスター、サーヴァントが現れるわけだ。

「万全を期すなら冬木教会も監視したいが」
「NPCを使えばいいではないか」
実はバックスも同じく考え、部下のNPCを冬木教会に配置、監視させようとした。ところが。
「はっきりと「それはルール違反です」と言われた。恐らく黒幕がNPCを操作してな」
バックスは頭を振って言った。
考えてみれば当然だろう、とバックスは思っていた。例えば銃を所持した警官のNPCにマスターを殺すよう指示できたとしたら、この聖杯戦争の根幹が崩れてしまう。
NPCは聖杯戦争に対し干渉しない。よってバックスの部下のNPCもまた聖杯戦争に直接かかわる命令は拒否する、というわけだ。
だが、それは逆に言えば直接聖杯戦争に関わらない形ならいくらでも命令できるだろうともバックスは推測していた。
監視カメラはマスターだけでなくNPCも撮影する物だし、実際に映像を見たのはバックス一人だ。
警察の情報も必ずマスターが通報するわけでもない。バックスは冬木市で起こった事件や通報された情報をこちらにも連絡しろ、と指示をした。
それがたまたま聖杯戦争に関連する情報だっただけだ。

「では、魔力を消費するが『私』を二人にし、片方を教会に当たらせよう」
そう言ってアサシンは机にあるビニール袋からビールを二缶取り出した。
それを両手に一缶ずつ持ち、思いっきり振り回して器用に片手でプルタブを開けた。
当然のように降り注ぐビールを浴びるアサシン。全身ずぶぬれになるはずが。
「どジャアァぁぁぁーーーーーーン」
まるでビールに溶けるように、アサシンの身体が分裂し床面に降りていった。宝具「D4C」の能力が発現したのだ。
スタンド「D4C」が並行世界へ移動する、または移動させるための条件は何か物と物の間に挟まる事。
挟む物はスタンドの拳だろうと、ビールのような液体だろうと構わない。
数秒間、市長室が静寂に支配されたが、窓枠のカーテンがはためく音でそれは破られた。カーテンが大きくなびくと、ひだの間から二本の『右腕』が、『右足』が生え、隙間から這い出ようとしている。
さらにカーテンのひだが広がり、ついに「二人」のアサシン、ファニー・ヴァレンタインが現れた。
「……君の宝具は既に聞かされていたが、こうして実際に見ると驚くほかないな」
バックスは息をのみながら言った。

アサシンのサーヴァント、ファニー・ヴァレンタインの宝具でありスタンド「Dirty deeds done dirt cheap(いともたやすく行われるえげつない行為)」。
略して「D4C」は並行世界にヴァレンタインを移動させるだけでなく、並行世界の人間や物を自由に連れてくることもできる。
ただし、他の次元の物や人間同士が接触すると、破壊されお互い消滅してしまう。例外は本体のヴァレンタインだけだ。
その特性を生かし、今ヴァレンタインは並行世界の自分自身を基本次元である聖杯戦争の舞台に連れてきた。
「D4C」が無い以外、同じ「アサシンのサーヴァント」であるヴァレンタイン。さらにクラス補正により、並行世界から連れてこられるヴァレンタインには全員、気配遮断スキルが備わっている。
宝具がない為、戦力としてはサーヴァントどころか下手をすればマスターにさえ敗北しかねない程度の強さだが、諜報員としては十分に使える。

「ふむ、やはりスタンドが宝具として再現されているせいか、魔力の消費が予想以上に大きい。
 市長、初めに謝っておくぞ」
何? と尋ねようとした瞬間、バックスの身体に異変が起こった。
急に全身から力が抜けだし、一瞬で何日も起きていたかのような疲労を感じたのだ。
額から脂汗が吹き出し、動悸は激しく、息切れもする。立っているだけで目眩がし、今にも倒れてしまいそうだ。
「だ、大統領……これは……一体……?」
崩れ落ちそうになる身体を机に手を付いて支えながら、バックスは尋ねた。
「それはわたしに魔力を、生成できる限界まで供給しているからだ。
 マスターから吸い上げる魔力は、サーヴァント側である程度調整できる。そしてこれから君はデスクワークでわたしのサポートをする。
 なら君は殆ど体力を使わないだろう? さしあたってサーヴァントが攻めてくる気配もないし、ギリギリまで魔力を供給してもらうぞ」
「この、疲労は……どのくらい……続くんだ……?」
「そうだな、フルマラソンで2時間30分の記録を狙う程度には体力を消耗するんじゃあないか? 詳しいことはわたしにも分からないが」
「それは……全力疾走と言わないか……。私には……できそうもない……」
息も絶え絶えで、バックスは断言する。
マラソンの総距離42.195kmなどバックスには歩いてもかなりきつい。まして時速約17kmで走破するなど不可能だ。
「心配するな、適当なところで補充を切り上げる。それまでは頑張ってくれよ」
はっとして、アサシンと購入してきた袋を交互に見つめた。
「待て、それじゃその栄養ドリンクは……もしかして?」
「そう、きみのために買ってきた」
アサシンは袋の中から栄養ドリンクを取り出し、バックスに向け差し出した。
栄養ドリンク程度の薬効で魔力などという得体のしれない物が補充できるのか、とバックスは問いたかったが、その余裕もなくアサシンの手からドリンクをもぎ取るように奪い、一気に喉へ注いだ。
一滴も残さず飲み干した後、深く深呼吸し体調を確かめる。
バックスには信じられなかったが、多少効果があったらしく呼吸が落ち着いてきた。
ただ単に乾いた喉を潤したから呼吸が楽になったのかもしれない、とも思ったが。



アサシンが市長室から出た後、バックスは深く椅子に座った。
2人目のアサシンが持つ携帯電話を部下に用意させ、アサシンが出陣するまでさらに一時間。窓の外は既に空が白んでいる。
早ければ8時ごろに登庁する職員もいる。これからは市長の役職とマスターの兼業を行う必要がある。
偽りの市長と言えど“氷室道雪”市長としての責務を怠れば、市の行政の混乱からパーソナルデータを改竄したマスターがいると気付かれる可能性がある。
聖杯戦争が長引けば未来日記のサバイバルゲームと同様、結局気付かれるであろうがそれまでの優位は最大限に生かす。

別世界での聖杯戦争の話になるが、バックスと同様にパーソナルデータを操作し他人の肩書を手に入れたマスターが存在した。
だが、そのマスターはNPCの設定を手に入れても名前を変更することは出来なかった。
本来登場するNPCを削除、その空白の席に自分を組み込むよりあらかじめ存在するNPCのデータに、自分のパーソナルデータを上書きする方が無理が少ないからだ。
バックスも同様のハッキング方法によりデータを改ざんしている。よって同一人物でありながら“ジョン・バックス”はこの聖杯戦争で戦う一マスター、“氷室道雪”は冬木市市長となる。

椅子の背もたれによりかかり、安静にして体力の回復を図るバックス。その心中は聖杯の事で占められていた。

もし私の推測が正しければ、ムーンセルを手に入れた者はどれだけの力を得られるだろうか。
だが、あくまで私の求める物は人間の進化であり、大統領が言う「自分の事しか考えない"ゲス野郎"」にはならないという事を心の内で戒めておこう。


【新都・冬木センタービル内、冬木市庁舎市長室(最上階)/早朝】
【ジョン・バックス@未来日記】
[状態]:疲労(大)・冬木市市長・残令呪使用回数3回
[装備]:「The watcher」
[道具]:栄養ドリンク
基本行動方針:最後の一人になり、ムーンセルを必ず手に入れる。
1.魔力の供給中、安静にして体力を回復する。
2.アサシンから送信された映像を「The watcher」で確認。サーヴァントのステータスを読み取る。
3.部下のNPCに指示しゼフィール、アシュナードの衣服、乗用車を準備させる。
4.警察、消防署に配置したNPCからの情報を逐次チェックする。
※参戦時期は、天野九郎死亡後から、雨流みねねにHOLON�(の一部)を破壊されるまでの間からです。
※ムーンセルへのハッキング工作により、冬木市市長の役職を得ています。
また、聖杯戦争に関するある程度詳細な情報を得ています。
※冬木市市長の名義は「氷室道雪」です。
※警察署、消防署に部下のNPCを配置。情報を入手できます。
※聖杯戦争の推測:このムーンセルは並行世界の情報処理システムとリンクしたグリッド・コンピューティングでは?
 そのシステムを構築するためにデウスと接触を図ったのでは?
 並行世界を移動できる何者かが黒幕にいる?




「それでは分かっているな」
「ああ、上手くやってみせる」
アサシン達は市長室を出た後、バックスの指示にない作戦を打ち合わせた。それは「アサシンが脱落したと思わせるため、自分を殺させる」というものだ。

アサシンの宝具「D4C」が並行世界から「連れてくる」行為は「召喚」とほぼ同義だ。少なくともこの聖杯戦争では。
よって自分を含めたサーヴァントを並行世界から連れてくる場合、聖杯に頼らず自前の魔力で最低限サーヴァントの身体を維持する分の魔力を消費する事になる。
マスターも魂は本人だが仮初の身体であるアバターはサーヴァントと同じだ。よってこちらもまたサーヴァントに準ずる。これらにD4C発動の分を加えれば魔力の消費が激しいのも当然なのだ。

三人目のファニー・ヴァレンタインには初めから身体を維持する最低限の魔力しか供給されていない。偵察を終えた後は消滅を待つだけの運命しか残されていない。
だが、ただ偵察した後に消滅するのでは、連れてきた分の魔力に見合うとは思えない。そう考えたアサシンはわざと自分を殺させるよう、三人目のヴァレンタインに指示した。
上手くすればすでにアサシンは死亡した、少なくとも一名脱落したと思い警戒心が緩むかもしれない。そうなれば偵察、暗殺に有利となる。
成功失敗に関わらず初めから死を前提とした作戦。だがそれを実行するヴァレンタインに悲壮感など全く無い。あるのは“自分”を勝利へと導くための冷徹な計算。そして聖杯を入手する期待のみ。
「無事、ナプキンをとってくれ」
「もちろんだ、ありがとう」
2人のヴァレンタインは足早にそれぞれ自分の目的地へと向かった。


【新都・冬木センタービルの正面入口/早朝】
【アサシン(ファニー・ヴァレンタイン)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康(二人目)・魔力消費(中)(回復中)・気配遮断
[装備]:拳銃
[道具]:携帯電話
[思考・状況]
基本行動方針:ムーンセルは誰にも渡さない。わたしが手に入れる。
1.柳洞寺に向かう。
2.柳洞寺に居るであろうマスター、サーヴァントを確認し、バックスの「The watcher」に映像を送信した後、隙があるなら存在を知られないよう暗殺する。
3.暗殺の実行中止、成否にかかわらず星海原学園に移動、潜伏しやって来るマスター、サーヴァントを確認。バックスの携帯電話に映像を送信する。
4.その中で暗殺は困難な強敵と推測されるマスター達を追跡する。

【アサシン(ファニー・ヴァレンタイン 並行世界)@ジョジョの奇妙な冒険】
[状態]:健康(三人目)・魔力消費(大)・宝具「D4C」無し・気配遮断
[装備]:拳銃
[道具]:携帯電話
[思考・状況]
基本行動方針:ムーンセルは誰にも渡さない。わたしが手に入れる。
1.冬木教会に向かう。
2.教会を尋ねるマスター、サーヴァントを確認し、バックスの「The watcher」に映像を送信する。
3.その中で強敵と思われるマスター達を追跡する。
4.タイミングを見計らって携帯電話を処分し、殺される。
※スタンド「D4C」はサーヴァントには見えますが、スタンド使いではない人間ならマスターでも見えません。
ペルソナ使い、刃旗使い、魔術師など特殊な能力者のマスターに見えるかどうかは他の書き手さんにお任せします。


拳銃:1890年代当時のリボルバー式拳銃。装填数は6発、予備の弾丸は無し。
サーヴァントにはダメージこそ与えられても大して脅威ではないが、弱いマスターなら急所に当たれば死ぬこともある。
D4Cで連れてこられたヴァレンタインは、全員この拳銃を所持している。

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