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茶会~マッド・ティー・パーティ~」(2013/10/29 (火) 05:37:44) の最新版変更点

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時刻は深夜、冬木ハイアットホテルの一室にて、四人の男たちが向かい合っている。 一人は英国人、アーチャー・DIO。マスターは鹿目まどか。 一人はアメリカ人、アサシン・ファニー・ヴァレンタイン。マスターはジョン・バックス。 一人はアメストリス人、キャスター・ゾルフ・J・キンブリー。マスターは羽瀬川小鳩。 一人は日本人、ライダー・門矢士。マスターは衛宮切嗣。 いずれも人間ではなく、サーヴァントと呼ばれる魔力で構成された過去の英霊たちである。 彼らは今、ある一つの目的を達成するために一時的に協力関係にあった。 「…以上が、僕が学園で取得した敵の能力です」 そして、ここにはいない人物の声がテーブルに置かれた携帯電話から漏れた。 その声の主は枢木スザク。同じく不在のバーサーカー・ランスロットのマスターである。 バーサーカーを代理で会合に出席させることは不可能なので、彼だけはこのような方法で参加している。 「ある程度予想はしていたが、なんともでたらめなメンツだな」 「戦闘力に特化したセイバーが二騎、再生・ダメージ耐性能力持ちのランサー、多彩な能力を持つライダーとキャスター。  そして戦闘力に優れたマスターが三人。ふん、癪だがまさに鉄壁の布陣というわけか」 「対してこちらはアーチャー、ライダー、アサシン、キャスター、そしてバーサーカー。  純粋な戦力で劣る上に安定性にも欠ける。やれやれ、分の悪い勝負になりそうですねぇ」 「やはりネックはセイバー二騎だな。こっちの陣営で奴らと正面から対峙できるのは…おそらくバーサーカーだけだろう」 「バーサーカーか…私は以前別のバーサーカーと遭遇したが、奴は紛れもなく弱兵であったぞ。  元々バーサーカーというクラス自体、能力で劣った英霊を何とか使い物にしようとひねり出されたようなものだ。  はたしてそこまで期待できるものか?」 「それについては俺が保証しよう。魔力の供給さえ対処できれば、やつの戦闘能力は一級品だ」 DIOはマスターの親友であったらしい美樹さやかというバーサーカーを思い出す。 あれも再生能力を持ってはいたが…戦闘能力の点で言えばお粗末もいいところだった。 弱い英霊をいくら強化したところで、絶対なる強者には太刀打ちはできないとDIO自身がたやすく証明してみせた。 「加えてあのバーサーカーには他人の宝具を支配する力がある。俺との相性は最高だろう」 「ほう…? ライダー、お前は自分の能力を我々に明かすのか?」 「組む以上はある程度の能力の開示はマスターから許可されている。さすがに真名を明かす気はないがな」 実のところスザクはライダーの真名はもう知っていたのだが、それをこの場で明かすのは避けた。 切嗣との関係をいたずらに悪化させる必要はないし、当の切嗣にしてもスザクがライダーの真名を掴んでいることは察していた。 なにせ敵のライダー、仮面ライダーオーズの情報をスザクに漏らしたのは切嗣自身だ。 同じ仮面ライダーである以上、そこから仮面ライダーディケイド・門矢士に辿り着くのは難しくない。 スザクが真名を明かさなかったため、切嗣も士もそれ以上は触れなかったが、もし暴露されていれば取るべき作戦も少し変わっていただろう。 士がディケイドの能力をざっと話す。もちろん本当の切り札や弱点は伏せておいたが。 「当然、お前たちの能力も聞かせてもらうぞアーチャー、アサシン、キャスター」 「無論だ、ライダー。向こうは間違いなく情報を共有し、完璧な連携を取ってくるだろう。  ならば我らがお互いの手の内を知らぬまま向かっていったところで蹴散らされるのが道理だ」 ヴァレンタインが士に同意した。ヴァレンタインもまた、ジョンからある程度の能力開示の指示を受けている。 D4Cの詳細を他者に知られると色々と不都合ではあるが、アサシンというクラスの性質上直接の戦闘能力は低い。 にも関わらず能力を秘匿するのは、集団に属するにおいて完全にマイナスに働く。 役に立たない、いつ裏切るかもしれない駒を置いておく理由はないのだから。 ヴァレンタイン自身がこの集団になにか貢献する要素を提示しないと、敵と戦う前に味方に排除されかねない。 「私の能力は…見てもらったほうが早いな」 その時、部屋のドアをノックする音が響いた。 立ち上がりかけたサーヴァントたちを手で制して、ヴァレンタインは自ら来訪者を出迎えに行く。 「初めまして、と言うべきかな。私もアサシンだ」 そして入ってきたのは、今まさにドアを開けたアサシンと瓜二つ…ではなくまさに同一人物のアサシンだった。 「分身か?」 「ここまでまったく私達に気配を感じさせなかったということは、分身もまた気配遮断スキルを保有しているということですか。  驚きましたね…いや、アサシンにはうってつけの能力ですが」 「…過去にもそういうアサシンはいたと俺のマスターが言っているが。やれやれだな」 「群体型…いや、違うな。本体と全く同じ姿、独立した意思を持ち、別個に活動する…ふん、なるほど。貴様のスタンドはそういうタイプか」 ヴァレンタインはあえて詳しい説明は避け、見たままを理解させることにした。 分身が可能である・その分身にも気配遮断スキルはある、ということだけ理解させれば戦力としては十分なはずだ。 だがDIOは二人のヴァレンタインを見て、どういうタイプのスタンドなのかおおよそ察しがついていた。 かつて戦った時は間違いなく近距離パワー型のスタンドを備えていた。 にも関わらず本体が二人いる、ということは… 「本体を複製する能力…では、『本当の本体』はどちらだ?」 「そこまで言う気はないな。特にアーチャー、お前にだけは」 「ふっ…まあ、よかろう。見当は付いている」 「それはこちらも同じことだ。アーチャー、貴様の能力…それは『時間停止』に間違いないな?」 ヴァレンタインの言葉に士、キンブリーの顔色が変わる。電話・念話の向こうのスザクと切嗣も同様だ。 ただ一人、当のDIOだけは泰然とヴァレンタインの言葉を受け止めていた。 「やはり貴様も見破っていたか。まあ、同じスタンド使いだものな…当然か」 「お前が私の能力を見切ったのと同じことだ。アーチャー、いやサーヴァントとしても規格外のその能力…  この集団で最も強力だといえるだろう。中核となるのはお前だ」 いかに強力なサーヴァントであっても、時間を止めてしまえば無防備だ。 かつて猛威を振るったクー・フーリンでさえも、DIOの前になすすべなく敗れたくらいなのだから。 「ということは…アーチャー一人でも勝てるのでは?いかにセイバーなどが揃っていても、時間を止められるのなら敵ではないでしょう」 「あいにくそうもいかん。私とて所詮サーヴァント…契約と魔力という鎖に縛られる身だ。  一度に止められる時間は決まっている。もし初撃で敵全員を仕留め切れなければ、目も当てられん事態になる。  いくら時間を止めても、さすがに五騎のサーヴァントを一気に始末するのはいささか荷が重い」 「では、せいぜい一騎…いや二騎くらいまでなら問題ではないと?」 「無論だ。が…一人、敵には私とすこぶる相性の悪い者がいる。ガウェイン――太陽の騎士と名高い、円卓の騎士三番手だ。  こいつを前にしては私の能力はほぼ無効化されると言っていい」 「ほう…何故だ?ガウェインが規格外に強力なのは認めるが、今の時間だと全力を発揮できるわけじゃない。時間を止めれば勝てない相手じゃないだろう」 「宝具の相性の問題だ。私の真名に関わることなので詳細は言えんが、弱体化していても私はこいつとは戦えん」 DIOの宝具はザ・ワールドというスタンドだが、DIO本体の身体は吸血鬼という生物である。 本来の吸血鬼とはまた違った種別なのだが、太陽光――紫外線が天敵だということに変わりはない。 そして件のガウェインの宝具は、内部に擬似太陽を収めているという。 いかに時間を止めてガウェインの心臓をぶち抜いたとしても、時間が動き出した瞬間太陽光に灼かれてDIOもまた滅びる。 さすがにこの情報だけはDIOも開示しなかった。 いかにヴァレンタインとてスタンド能力と全く関係のない吸血鬼の情報までは入手していない。 戦略的に意味のない弱点をわざわざ教えてやる義理はDIOにはない。 「ガウェインと戦いたくないから嘘をついている…って訳でもなさそうだな」 「口を慎め、ライダー。貴様ごときならこのコーヒーを飲み干す片手間に縊り殺してやれるのだぞ」 「おっと、そいつは悪かったな。だがそうなるとあんたを宛てにするのは不可能ってことだな。なんせ向こうはセイバーを前に出してこない理由がない」 「そうなるな。なんとかガウェインを無力化するか、引き離せば私が一気にカタをつけてやるのだが」 「ふむ…まだ検討の余地はあるが。では次、キャスター。君について聞かせてもらおう」 ヴァレンタインが促すと、キンブリーは飲んでいたコーヒーカップをテーブルに置いた。 そして、指を三本立てる。 「3、2、1…」 キンブリーがすべての指をたたむと同時に、ボンッと音を立ててカップは弾けた。 ごく弱い爆発だったので破片はさほど飛び散るわけでもなく、サーヴァントたちに被害はない。 「とまあ、これが私の能力です。簡単に言えば、爆発物の作成ですね」 「爆弾か。迎え撃つ戦法が信条のキャスターらしい能力であると言えなくはないが」 「敵のキャスターとはかなりタイプが違うようだな。向こうは転移やサーチなど色々できるようだが、お前はどうなんだ?」 「残念ながら、私の本分は錬金術…等価交換を原則とする学問です。魔導の方面にはさほど明るくありませんね」 「魔術師のクラスではあるが錬金術師、か。破壊には適していそうだが」 「ああ、必要なら武器の作成も致しますよ。さすがに宝具と対等とまでは言いませんが、ある程度の品質は保証します」 「なら俺と同じでバーサーカーとの相性はいいってことだな」 「ふむ…ならば私も頼もうか。キャスターよ、例えばそうだな…ナイフを作ったとしよう。  そのナイフを敵に突き刺した後、先ほどのように爆発させることは可能か?」 「強度と威力の両立ですか。まあできるでしょう。基本的には使い捨てになりますがね」 キンブリーが作成した武器を敵に投げ、刺さるか弾くかされた瞬間に爆発させる。 原理的には衛宮士郎の『壊れた幻想』と全く同一だ。 爆発させるのは宝具でこそないが、こちらは純正のサーヴァントが作成しているだけに威力は折り紙つきである。 「では私とキャスターの役割は後方援護ということになるな。キャスターが作った武器を私が投げ、前衛を援護する」 「なら前衛は俺とバーサーカーだな。ん…ああ、わかった」 DIOに続いて発言した士だが、急にマスターである切嗣から指示が入った。 同調させた視覚から、二人目のアサシンが持ってきていた大剣を見咎めたのだ。 「アサシン、その剣は何だ?」 「ああ、これか。これは以前あるマスターが持っていた剣でな…だがこいつも宝具のようだ。  よほど神格が高いのだろうな、マスターの所持品とはいえサーヴァントをも殺し得る一品だ」 「あのランサーのマスターの剣か。そういえば私も持っているな」 ヴァレンタインが持ってきたエッケザックス、DIOがアサシンと接触する前に適当な場所に切り札として隠しておいた封印の剣。 ともにライダー・アシュナードのマスターであるゼフィールの剣である。 ヴァレンタインが言った通り、この二振りは宝具であるのでたとえマスターが振るったとしてもサーヴァントを傷つけられる。 「剣…剣の宝具がそこにあるんですか?」 反応したのはスザクだった。 彼は音声で室内の状況を把握しているため、どうしても一歩遅れてしまう。 「もし剣の宝具があるなら、僕のバーサーカーに使用させてもらいたい。  生半可な武器ではセイバーとは打ち合えないが、元が宝具ならばバーサーカーが使えば十全に威力を発揮できる」 「そいつはいいな。なんせその辺の鉄柱で俺やランサーと渡り合ったんだ、剣の宝具を使えばどっちのセイバーを相手にしても見劣りしないだろうよ」 スザクと士の声が明るくなる。スザクは求めていた剣が見つかり、士は自分のライダー能力を使う必要がなくなるからだ。 「ってわけだ、アーチャー、アサシン。その剣を渡してもらおうか」 「と言ってもな。あの剣は私が苦労して手に入れたものだ。いかに必要であるとはいえただでくれてやることはできんな」 「そう来るか。だがな、この同盟がイーブンな関係で成り立っているとするなら、現在の状況は少し気に入らん。  俺とバーサーカーのマスターは名前も知られているが、アーチャー、アサシン、お前らは違う。  何ならそこの枢木のように実際に電話に出てもらうのがスジが通っているんじゃないか?」 「それを言うならキャスターもだが?」 「キャスターは武器を提供するだろ。お前らと違って宝具じゃなく、そいつが作ったものだが」 士の言葉に、DIOとヴァレンタインは押し黙った。 切嗣とスザクは元々協力関係にあったためお互いを知っているが、DIOとヴァレンタインのマスターは未だ不明のまま。 まどかにしろジョンにしろ、切嗣とスザクほど戦闘に長けていない。どんな些細な情報も漏らす訳にはいかないのだ。 キンブリーはマスターである羽瀬川小鳩とほぼ一体化しているという、言うに言えない事情があったが。 どのみちキャスターごときなら相手ではないと士は思っていた。だからこそキャスターをダシにして残り二人を揺さぶったのだ。 「わかった、くれてやる。どうせ私が持っていても投げる以外には使わんしな」 「こちらも了承だ。私とアーチャーが使う武器ならキャスターが作るもので事足りるだろう」 「私の方はある場所に隠しているのでな。後で取ってくる」 ヴァレンタインからキンブリーが大剣を受け取る。後でスザクを通じバーサーカーに渡すためだ。 その間、DIOはアシュナードを撃破した時のことを話した。食いついたのは切嗣と士だ。 「つまり、その剣には竜を封じる力があると?」 「見ただけだから断定はできんがな。相当強力な封印であることは間違いないだろう」 「なら、女のほうのセイバーには効果が期待できるらしいぞ。あいつは竜の因子とやらを持っているそうだからな」 封印の剣は竜を封印することに特化した剣。 完全な竜ではないセイバーを瞬時に封印することはできないだろうが、バーサーカーが振るうことにより切り札となり得る。 またここにいる誰もが知らないことだが、エッケザックスにも竜に対する追加ダメージという特殊効果があった。 「が、武器があろうとバーサーカーの魔力消費の問題はどうするのだ。数合打ち合って力尽きては何の意味もないぞ」 「そこは私にお任せを。バーサーカーの稼働時間を伸ばす方法は用意してあります」 DIOの疑問にはキンブリーが答えた。 元々持っていた患者の石をバーサーカーに与えれば、魔術師ではないスザクの魔力供給問題は問題なくクリアできる。 ちょうど一つ『予備』が手に入ったため、一つ分け与えてもキンブリーには何の影響もない。 「これでバーサーカーが真価を発揮できるわけですが、さて敵の前衛に彼一人で対抗できるでしょうか」 「敵のライダーは俺が対処する。キャスターはアサシン、全体の援護をアーチャーとキャスターがやるとして…奴一人でセイバー二騎とランサーの相手はさすがに無理だろうな」 「セイバー二騎だけならこちらも剣が二振り、私が援護すればまあ不可能ではないかもしれんがな」 「ネックはランサーか。ある意味こいつが一番厄介だな」 「再生・進化する能力か…」 ランサーの能力はほぼ詳細に把握できている。問題は一度受けたダメージに耐性を持つということである。 「一撃で殺し切れればいいが、そういった宝具を持つものはいるか?」 「セイバーのエクスカリバーのような、か。残念ながらあそこまでの威力の武器はないな」 「私が時間を止めたとて、そのコアとやらの位置がどこにあるかわからんからな。通常のサーヴァントなら首をはねるか心臓をぶち抜くかすればいいだけだが」 「バーサーカーとは逆に、私とライダーは相性が悪いようですね。いかに武器を作ろうとも、一度耐性を作られてしまえばもう通じない」 「…それについて、私のマスターが提案があるそうだ」 手詰まりになりかけた一同を、ヴァレンタインが止めた。 「このランサーの再生能力はナノマシンに由来するもの…魔力で構成されたサーヴァントとて、ここに変化はない」 「ナノマシン? なんだそれは」 ナノマシンとは0.1~100nmサイズの機械装置の名称である。最近や細胞よりもなお小さい、最先端技術の結晶だ。 残念ながらここに集まったものの中にはそういった知識を持つものはいなかったが、ヴァレンタインのマスターであるジョン・バックスは違う。 彼は現代に生きる桜見市市長であり、未来日記というオーバーテクノロジーの創造主であり、国内第三位のスーパーコンピュータ・HOLONⅢを手中に収める者である。 当然、ナノマシンについても理解があった。 「機械の細胞と理解すればいいらしい。重要なのはこの機械という点でな。  ランサーは全身をこの増殖する機械細胞で構成することにより、無類の再生能力を真価能力を備えているのだそうだ」 「いわゆる…サイボーグというやつか?」 「それとはまた違うのだろうな。なにせ英霊だ、機械の細胞を人の意志で強靭に支配しているのだろう。  生前は、いわば新人類とでも呼ばれていたんじゃないか」 「で、それがどうしたのです?機械ならなにか有効な手があると?」 「いかに人の意志で制御していると言っても、機械であることには変わりない。  ならばそこにウイルス――病原菌を流しこんでやればいい、というのが我がマスターの秘策だ」 ジョンはすでにHOLONのサポートを得て対ランサー用のウイルスを開発させていた。 スザクが入手してきた情報、ヴァレンタインが提供したサーヴァントの基礎構成情報、それらを統合した特別製の猛毒(ヴェノム)だ。 「もちろん急拵えで作るのだから、ランサーを打倒できるほどではないだろうが…能力の低下は見込めるはずだ」 「ウイルスか…だがどうやって奴に流し込む?まさかランサーに直接コードを繋げると言う訳じゃないだろう」 「それについてはキャスター頼りだな。一度我がマスターがプログラムの素体を作り、それをキャスターに再構成してもらう。それならばサーヴァントにも通じるはずだ」 「プログラム、ですか…やったことはありませんが、私がまずランサーの身体を貫ける武器を作り、その武器にプログラムを刻むという形ならできると思いますよ。  あるいは、まず私がナノマシンを作ってそこに直接プログラムを刻み込むか。そのナノマシンの原理と組成さえわかれば、錬成は可能です」 「ではその方向で準備を進めよう。また強力な電磁波を浴びせることもナノマシンには有効だそうだ。残念ながらこちらはすぐには実現できんがな。  そして私からは、この進化という点、ここを突くことを提案する」 進化とは環境に適応することだ。 だがかつて、ある一人の天才少年はこう言った――『ARMSの進化は急激すぎる』と。 「バーサーカーが狂化して能力を底上げするのと同じだ。進化すれば確かに強大な力は手に入るだろう。  だが我らはあくまでサーヴァント…サーヴァントが力を増せば増すだけ、マスターの負担は大きくなる。  情報にもあったな。このランサーの宝具…『マッドハッター』は制御できなくなると己自身をも飲み込んで巨大なエネルギーと化すと」 「なるほど…暴走を加速させる、というわけか」 「うまくすればこのランサーを用いて敵を一網打尽にすることも可能かもしれないが、まあ案の一つ程度に留めておいてくれ」 そして、ランサー――ARMS・マッドハッター/キース・シルバーは、かつて際限なく暴走する能力を抑えきれずに敗北した。 また、ナノマシンを侵食するウイルスプログラムはかつてオリジナルARMS・ジャバウォックを機能停止寸前にまで追い込んだ一手。 いわば逸話の二重再現だ。 一通りの作戦と戦術を確認し終わったとき、キンブリーが手を挙げた。 「ああ、もう一つ報告することがあります。実は私、ここに来るまでに色々と仕込みをしてきましてね。それも作戦の一つに加えてもらえますか」 「仕込み?」 「ええ…」 ここでキンブリーはニタリと笑った。 その様は邪悪そのもの…ここに集った誰にも劣らない、醜悪な笑みだった。 「この冬木市に、血の紋を刻むのです」  ◇ ◆ ◇ 鹿目まどかはホテルから離れた民家に身を隠していた。 サーヴァントであるDIOはこの家のNPCを始末した後、他のマスター達との会合の場へ出席している。 DIOとは、会合に集中したいということで念話は繋がっていなかった。 無論、令呪で命じた以上、何かあればすぐ呼びかけることは可能だが…まどかはそうはしなかった。 まどかはDIOを信じていたし、またDIOが言うことならそれにはきちんと理由があるのだろうと思っているからだ。 まどか自身、自分が他のマスターに比べ著しく劣っていることは自覚している。DIOの足を引っ張りたくはなかった。 「私、どうすればいいのかな。聖杯を壊すって決めたのに…」 どうすることが聖杯を壊すことに繋がるのか、それをまどかは決めかねていた。 DIOがまどかに敵の正体を教えなかったのは、まどかが彼らに取り込まれるのを防ぐためだ。 適当に見繕った鞄の中には詩音が持っていた銃があるが、まだこれを構える覚悟はない。 もう少しすればDIOが戻ってきて、決戦に赴く。 その時がきっと、まどかにとっても決断の時になろうだろう。 また、別の場所で。 深山町を見張っている5人目のヴァレンタイン、会合に出席している4人目と6人目のヴァレンタインと同じ顔の男が、街を徘徊していた。 会合に出発する前にD4Cを有するヴァレンタインが残していった、7人目のヴァレンタインである。 ジョンがウイルスを作成する間、7人目に与えられた役割は『索敵』――ジョンに迫る敵がいないかの確認と。 「さて――そうそう見つかるとも思えんが」 ジョン・バックス、衛宮切嗣、枢木スザクに続く第四、第五の人物、アーチャーとキャスターのマスターの捜索であった。 正直、これについてはさほど期待はしていない。見つかれば儲けものというくらいだ。 なにせこの時間にサーヴァントの護衛も付けず外をうろつく奇特な者はいない。 とはいえ何もしないよりはマシだ。万が一本体が殺された時の保険にもなる。 ジョンに差し入れの食事と栄養ドリンクを届けた後、7人目のヴァレンタインは音もなく夜の闇に消えていった。 【新都・ハイアットホテル/夜中】 【ライダー(門矢司)@仮面ライダーディケイド】  [状態]:ダメージ(小)、魔力消費(中) 【キャスター(ゾルフ・J・キンブリー)@鋼の錬金術師】  [状態]:疲労(中)、魔力消費(大)、全身ダメージ(小)、右胸貫通  [装備]:羽瀬川小鳩を練成した賢者の石、エッケザックス@ファイヤーエムブレム 覇者の剣 【アーチャー(DIO)@ジョジョの奇妙な冒険】  [状態]:魔力消費(小) 、令呪(まどかの戦いに力を貸す)  [装備]:携帯電話 、封印の剣@ファイアーエムブレム 覇者の剣 【アサシン(ファニー・ヴァレンタイン)@ジョジョの奇妙な冒険】  [状態](4人目)・魔力消費(中)・気配遮断  [装備]:拳銃  [道具]:携帯電話 【アサシン(ファニー・ヴァレンタイン 並行世界)@ジョジョの奇妙な冒険】  [状態](6人目)・魔力消費(極大)・宝具「D4C」無し  [装備]:拳銃  [道具]:携帯電話 【深山町・遠坂邸付近/夜中】 【アサシン(ファニー・ヴァレンタイン 並行世界)@ジョジョの奇妙な冒険】  [状態](5人目)・魔力消費(極大)・宝具「D4C」無し・気配遮断  [装備]:拳銃  [道具]:携帯電話 【新都・双子館/夜中】 【ジョン・バックス@未来日記】  [令呪]:3画  [状態]:疲労(小)、魔力消費(小)、冬木市市長  [装備]:「The watcher」  [道具]:栄養ドリンク(箱) 【新都/夜中】 【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】  [令呪]:2画  [状態]:健康  [装備]:鋼鉄の腕(アイゼン・デア・アルム)@エンバーミング 、鋼鉄の腕の予備弾@鋼鉄の腕(アイゼン・デア・アルム) 【衛宮切嗣@Fate/zero】  [令呪]:1画  [状態]:固有時制御の反動ダメージ(中)、魔力消費(大)  [装備]:ワルサー、キャレコ 、狙撃銃   携帯電話、鉈、大きな鏡、その他多数(ホームセンターで購入できるもの) 【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ】  [令呪]:2画  [状態]:疲労(特大)、義手・義足を機械鎧化 【バーサーカー(ランスロット)@Fate/Zero】  [状態]:ダメージ(特大・戦闘行動に支障あり)、魔力消費(極大・実体化困難)、右腕欠損、兜及び上半身の鎧破壊       宝具“無毀なる湖光(アロンダイト)”喪失 【アサシン(ファニー・ヴァレンタイン)@ジョジョの奇妙な冒険】  [状態](7人目)・魔力消費(極大)・宝具「D4C」無し・気配遮断  [装備]:拳銃  [道具]:携帯電話
時刻は深夜、冬木ハイアットホテルの一室にて、四人の男たちが向かい合っている。 一人は英国人、アーチャー・DIO。マスターは鹿目まどか。 一人はアメリカ人、アサシン・ファニー・ヴァレンタイン。マスターはジョン・バックス。 一人はアメストリス人、キャスター・ゾルフ・J・キンブリー。マスターは羽瀬川小鳩。 一人は日本人、ライダー・門矢士。マスターは衛宮切嗣。 いずれも人間ではなく、サーヴァントと呼ばれる魔力で構成された過去の英霊たちである。 彼らは今、ある一つの目的を達成するために一時的に協力関係にあった。 「…以上が、僕が学園で取得した敵の能力です」 そして、ここにはいない人物の声がテーブルに置かれた携帯電話から漏れた。 その声の主は枢木スザク。同じく不在のバーサーカー・ランスロットのマスターである。 バーサーカーを代理で会合に出席させることは不可能なので、彼だけはこのような方法で参加している。 「ある程度予想はしていたが、なんともでたらめなメンツだな」 「戦闘力に特化したセイバーが二騎、再生・ダメージ耐性能力持ちのランサー、多彩な能力を持つライダーとキャスター。  そして戦闘力に優れたマスターが三人。ふん、癪だがまさに鉄壁の布陣というわけか」 「対してこちらはアーチャー、ライダー、アサシン、キャスター、そしてバーサーカー。  純粋な戦力で劣る上に安定性にも欠ける。やれやれ、分の悪い勝負になりそうですねぇ」 「やはりネックはセイバー二騎だな。こっちの陣営で奴らと正面から対峙できるのは…おそらくバーサーカーだけだろう」 「バーサーカーか…私は以前別のバーサーカーと遭遇したが、奴は紛れもなく弱兵であったぞ。  元々バーサーカーというクラス自体、能力で劣った英霊を何とか使い物にしようとひねり出されたようなものだ。  はたしてそこまで期待できるものか?」 「それについては俺が保証しよう。魔力の供給さえ対処できれば、やつの戦闘能力は一級品だ」 DIOはマスターの親友であったらしい美樹さやかというバーサーカーを思い出す。 あれも再生能力を持ってはいたが…戦闘能力の点で言えばお粗末もいいところだった。 弱い英霊をいくら強化したところで、絶対なる強者には太刀打ちはできないとDIO自身がたやすく証明してみせた。 「加えてあのバーサーカーには他人の宝具を支配する力がある。俺との相性は最高だろう」 「ほう…? ライダー、お前は自分の能力を我々に明かすのか」 「組む以上はある程度の能力の開示はマスターから許可されている。さすがに真名を明かす気はないがな」 実のところスザクはライダーの真名はもう知っていたのだが、それをこの場で明かすのは避けた。 切嗣との関係をいたずらに悪化させる必要はないし、当の切嗣にしてもスザクがライダーの真名を掴んでいることは察していた。 なにせ敵のライダー、仮面ライダーオーズの情報をスザクに漏らしたのは切嗣自身だ。 同じ仮面ライダーである以上、そこから仮面ライダーディケイド・門矢士に辿り着くのは難しくない。 スザクが真名を明かさなかったため、切嗣も士もそれ以上は触れなかったが、もし暴露されていれば取るべき作戦も少し変わっていただろう。 士がディケイドの能力をざっと話す。もちろん本当の切り札や弱点は伏せておいたが。 「当然、お前たちの能力も聞かせてもらうぞアーチャー、アサシン、キャスター」 「無論だ、ライダー。向こうは間違いなく情報を共有し、完璧な連携を取ってくるだろう。  ならば我らがお互いの手の内を知らぬまま向かっていったところで蹴散らされるのが道理だ」 ヴァレンタインが士に同意した。ヴァレンタインもまた、ジョンからある程度の能力開示の指示を受けている。 D4Cの詳細を他者に知られると色々と不都合ではあるが、アサシンというクラスの性質上直接の戦闘能力は低い。 にも関わらず能力を秘匿するのは、集団に属するにおいて完全にマイナスに働く。 役に立たない、いつ裏切るかもしれない駒を置いておく理由はないのだから。 ヴァレンタイン自身がこの集団になにか貢献する要素を提示しないと、敵と戦う前に味方に排除されかねない。 「私の能力は…見てもらったほうが早いな」 その時、部屋のドアをノックする音が響いた。 立ち上がりかけたサーヴァントたちを手で制して、ヴァレンタインは自ら来訪者を出迎えに行く。 「初めまして、と言うべきかな。私もアサシンだ」 そして入ってきたのは、今まさにドアを開けたアサシンと瓜二つ…ではなくまさに同一人物のアサシンだった。 「分身か?」 「ここまでまったく私達に気配を感じさせなかったということは、分身もまた気配遮断スキルを保有しているということですか。  驚きましたね…いや、アサシンにはうってつけの能力ですが」 「…過去にもそういうアサシンはいたと俺のマスターが言っているが。やれやれだな」 「群体型…いや、違うな。本体と全く同じ姿、独立した意思を持ち、別個に活動する…ふん、なるほど。貴様のスタンドはそういうタイプか」 ヴァレンタインはあえて詳しい説明は避け、見たままを理解させることにした。 分身が可能である・その分身にも気配遮断スキルはある、ということだけ理解させれば戦力としては十分なはずだ。 だがDIOは二人のヴァレンタインを見て、どういうタイプのスタンドなのかおおよそ察しがついていた。 かつて戦った時は間違いなく近距離パワー型のスタンドを備えていた。 にも関わらず本体が二人いる、ということは… 「本体を複製する能力…では、『本当の本体』はどちらだ?」 「そこまで言う気はないな。特にアーチャー、お前にだけは」 「ふっ…まあ、よかろう。見当は付いている」 「それはこちらも同じことだ。アーチャー、貴様の能力…それは『時間停止』に間違いないな?」 ヴァレンタインの言葉に士、キンブリーの顔色が変わる。電話・念話の向こうのスザクと切嗣も同様だ。 ただ一人、当のDIOだけは泰然とヴァレンタインの言葉を受け止めていた。 「やはり貴様も見破っていたか。まあ、同じスタンド使いだものな…当然か」 「お前が私の能力を見切ったのと同じことだ。アーチャー、いやサーヴァントとしても規格外のその能力…  この集団で最も強力だといえるだろう。中核となるのはお前だ」 いかに強力なサーヴァントであっても、時間を止めてしまえば無防備だ。 かつて猛威を振るったクー・フーリンでさえも、DIOの前になすすべなく敗れたくらいなのだから。 「ということは…アーチャー一人でも勝てるのでは?いかにセイバーなどが揃っていても、時間を止められるのなら敵ではないでしょう」 「あいにくそうもいかん。私とて所詮サーヴァント…契約と魔力という鎖に縛られる身だ。  一度に止められる時間は決まっている。もし初撃で敵全員を仕留め切れなければ、目も当てられん事態になる。  いくら時間を止めても、さすがに五騎のサーヴァントを一気に始末するのはいささか荷が重い」 「では、せいぜい一騎…いや二騎くらいまでなら問題ではないと?」 「無論だ。が…一人、敵には私とすこぶる相性の悪い者がいる。ガウェイン――太陽の騎士と名高い、円卓の騎士三番手だ。  こいつを前にしては私の能力はほぼ無効化されると言っていい」 「ほう…何故だ?ガウェインが規格外に強力なのは認めるが、今の時間だと全力を発揮できるわけじゃない。時間を止めれば勝てない相手じゃないだろう」 「宝具の相性の問題だ。私の真名に関わることなので詳細は言えんが、弱体化していても私はこいつとは戦えん」 DIOの宝具はザ・ワールドというスタンドだが、DIO本体の身体は吸血鬼という生物である。 本来の吸血鬼とはまた違った種別なのだが、太陽光――紫外線が天敵だということに変わりはない。 そして件のガウェインの宝具は、内部に擬似太陽を収めているという。 いかに時間を止めてガウェインの心臓をぶち抜いたとしても、時間が動き出した瞬間太陽光に灼かれてDIOもまた滅びる。 さすがにこの情報だけはDIOも開示しなかった。 いかにヴァレンタインとてスタンド能力と全く関係のない吸血鬼の情報までは入手していない。 戦略的に意味のない弱点をわざわざ教えてやる義理はDIOにはない。 「ガウェインと戦いたくないから嘘をついている…って訳でもなさそうだな」 「口を慎め、ライダー。貴様ごときならこのコーヒーを飲み干す片手間に縊り殺してやれるのだぞ」 「おっと、そいつは悪かったな。だがそうなるとあんたを宛てにするのは不可能ってことだな。なんせ向こうはセイバーを前に出してこない理由がない」 「そうなるな。なんとかガウェインを無力化するか、引き離せば私が一気にカタをつけてやるのだが」 「ふむ…まだ検討の余地はあるが。では次、キャスター。君について聞かせてもらおう」 ヴァレンタインが促すと、キンブリーは飲んでいたコーヒーカップをテーブルに置いた。 そして、指を三本立てる。 「3、2、1…」 キンブリーがすべての指をたたむと同時に、ボンッと音を立ててカップは弾けた。 ごく弱い爆発だったので破片はさほど飛び散るわけでもなく、サーヴァントたちに被害はない。 「とまあ、これが私の能力です。簡単に言えば、爆発物の作成ですね」 「爆弾か。迎え撃つ戦法が信条のキャスターらしい能力であると言えなくはないが」 「敵のキャスターとはかなりタイプが違うようだな。向こうは転移やサーチなど色々できるようだが、お前はどうなんだ?」 「残念ながら、私の本分は錬金術…等価交換を原則とする学問です。魔導の方面にはさほど明るくありませんね」 「魔術師のクラスではあるが錬金術師、か。破壊には適していそうだが」 「ああ、必要なら武器の作成も致しますよ。さすがに宝具と対等とまでは言いませんが、ある程度の品質は保証します」 「なら俺と同じでバーサーカーとの相性はいいってことだな」 「ふむ…ならば私も頼もうか。キャスターよ、例えばそうだな…ナイフを作ったとしよう。  そのナイフを敵に突き刺した後、先ほどのように爆発させることは可能か?」 「強度と威力の両立ですか。まあできるでしょう。基本的には使い捨てになりますがね」 キンブリーが作成した武器を敵に投げ、刺さるか弾くかされた瞬間に爆発させる。 原理的には衛宮士郎の『壊れた幻想』と全く同一だ。 爆発させるのは宝具でこそないが、こちらは純正のサーヴァントが作成しているだけに威力は折り紙つきである。 「では私とキャスターの役割は後方援護ということになるな。キャスターが作った武器を私が投げ、前衛を援護する」 「なら前衛は俺とバーサーカーだな。ん…ああ、わかった」 DIOに続いて発言した士だが、急にマスターである切嗣から指示が入った。 同調させた視覚から、二人目のアサシンが持ってきていた大剣を見咎めたのだ。 「アサシン、その剣は何だ?」 「ああ、これか。これは以前あるマスターが持っていた剣でな…だがこいつも宝具のようだ。  よほど神格が高いのだろうな、マスターの所持品とはいえサーヴァントをも殺し得る一品だ」 「あのライダーのマスターの剣か。そういえば私も持っているな」 ヴァレンタインが持ってきたエッケザックス、DIOがアサシンと接触する前に適当な場所に切り札として隠しておいた封印の剣。 ともにライダー・アシュナードのマスターであるゼフィールの剣である。 ヴァレンタインが言った通り、この二振りは宝具であるのでたとえマスターが振るったとしてもサーヴァントを傷つけられる。 「剣…剣の宝具がそこにあるんですか?」 反応したのはスザクだった。 彼は音声で室内の状況を把握しているため、どうしても一歩遅れてしまう。 「もし剣の宝具があるなら、僕のバーサーカーに使用させてもらいたい。  生半可な武器ではセイバーとは打ち合えないが、元が宝具ならばバーサーカーが使えば十全に威力を発揮できる」 「そいつはいいな。なんせその辺の鉄柱で俺や青いランサーと渡り合ったんだ、剣の宝具を使えばどっちのセイバーを相手にしても見劣りしないだろうよ」 スザクと士の声が明るくなる。スザクは求めていた剣が見つかり、士は自分のライダー能力を使う必要がなくなるからだ。 「ってわけだ、アーチャー、アサシン。その剣を渡してもらおうか」 「と言ってもな。あの剣は私が苦労して手に入れたものだ。いかに必要であるとはいえただでくれてやることはできんな」 「そう来るか。だがな、この同盟がイーブンな関係で成り立っているとするなら、現在の状況は少し気に入らん。  俺とバーサーカーのマスターは名前も知られているが、アーチャー、アサシン、お前らは違う。  何ならそこの枢木のように実際に電話に出てもらうのがスジが通っているんじゃないか?」 「それを言うならキャスターもだが?」 「キャスターは武器を提供するだろ。お前らと違って宝具じゃなく、そいつが作ったものだが」 士の言葉に、DIOとヴァレンタインは押し黙った。 切嗣とスザクは元々協力関係にあったためお互いを知っているが、DIOとヴァレンタインのマスターは未だ不明のまま。 まどかにしろジョンにしろ、切嗣とスザクほど戦闘に長けていない。どんな些細な情報も漏らす訳にはいかないのだ。 キンブリーはマスターである羽瀬川小鳩とほぼ一体化しているという、言うに言えない事情があったが。 どのみちキャスターごときなら相手ではないと士は思っていた。だからこそキャスターをダシにして残り二人を揺さぶったのだ。 「わかった、くれてやる。どうせ私が持っていても投げる以外には使わんしな」 「こちらも了承だ。私とアーチャーが使う武器ならキャスターが作るもので事足りるだろう」 「私の方はある場所に隠しているのでな。後で取ってくる」 ヴァレンタインからキンブリーが大剣を受け取る。後でスザクを通じバーサーカーに渡すためだ。 その間、DIOはアシュナードを撃破した時のことを話した。食いついたのは切嗣と士だ。 「つまり、その剣には竜を封じる力があると?」 「見ただけだから断定はできんがな。相当強力な封印であることは間違いないだろう」 「なら、女のほうのセイバーには効果が期待できるらしいぞ。あいつは竜の因子とやらを持っているそうだからな」 封印の剣は竜を封印することに特化した剣だ。 完全な竜ではないセイバーを瞬時に封印することはできないだろうが、バーサーカーが振るうことにより切り札となり得る。 またここにいる誰もが知らないことだが、エッケザックスにも竜に対する追加ダメージという特殊効果があった。 「が、武器があろうとバーサーカーの魔力消費の問題はどうするのだ。数合打ち合って力尽きては何の意味もないぞ」 「そこは私にお任せを。バーサーカーの稼働時間を伸ばす方法は用意してあります」 DIOの疑問にはキンブリーが答えた。 元々持っていた賢者の石をバーサーカーに与えれば、魔術師ではないスザクの魔力供給問題は問題なくクリアできる。 ちょうど一つ『予備』が手に入ったため、一つ分け与えてもキンブリーには何の影響もない。 「これでバーサーカーが真価を発揮できるわけですが、さて敵の前衛に彼一人で対抗できるでしょうか」 「敵のライダーは俺が対処する。キャスターはアサシン、全体の援護をアーチャーとキャスターがやるとして…奴一人でセイバー二騎とランサーの相手はさすがに無理だろうな」 「セイバー二騎だけならこちらも剣が二振り、私が援護すればまあ不可能ではないかもしれんがな」 「ネックはランサーか。ある意味こいつが一番厄介だな」 「再生・進化する能力か…」 ランサーの能力はほぼ詳細に把握できている。問題は一度受けたダメージに耐性を持つということである。 「一撃で殺し切れればいいが、そういった宝具を持つものはいるか?」 「セイバーのエクスカリバーのような、か。残念ながらあそこまでの威力の武器はないな」 「私が時間を止めたとて、そのコアとやらの位置がどこにあるかわからんからな。通常のサーヴァントなら首をはねるか心臓をぶち抜くかすればいいだけだが」 「バーサーカーとは逆に、私とライダーは相性が悪いようですね。いかに武器を作ろうとも、一度耐性を作られてしまえばもう通じない」 「…それについて、私のマスターから提案があるそうだ」 手詰まりになりかけた一同を、ヴァレンタインが止めた。 「このランサーの再生能力はナノマシンに由来するもの…魔力で構成されたサーヴァントとて、ここに変化はない」 「ナノマシン? なんだそれは」 ナノマシンとは0.1~100nmサイズの機械装置の名称である。細菌や細胞よりもなお小さい、最先端技術の結晶だ。 残念ながらここに集まったものの中にはそういった知識を持つものはいなかったが、ヴァレンタインのマスターであるジョン・バックスは違う。 彼は現代に生きる桜見市市長であり、未来日記というオーバーテクノロジーの創造主であり、国内第三位のスーパーコンピュータ・HOLONⅢを手中に収める者である。 当然、ナノマシンについても理解があった。 「機械の細胞と理解すればいいらしい。重要なのはこの機械という点でな。  ランサーは全身をこの増殖する機械細胞で構成することにより、無類の再生・進化能力を備えているのだそうだ」 「いわゆる…サイボーグというやつか?」 「それとはまた違うのだろうな。なにせ英霊だ、機械の細胞を強靭な意志で支配しているのだろう。  生前は、いわば新人類とでも呼ばれていたんじゃないか」 「で、それがどうしたのです。機械ならなにか有効な手があると?」 「いかに人の意志で制御していると言っても、機械であることには変わりない。  ならばそこにウイルス――病原菌を流し込んでやればいい、というのが我がマスターの秘策だ」 ジョンはすでにHOLONのサポートを得て対ランサー用のウイルスを開発させていた。 スザクが入手してきた情報、ヴァレンタインが提供したサーヴァントの基礎構成情報、それらを統合した特別製の猛毒(ヴェノム)だ。 「もちろん急拵えで作るのだから、それだけでランサーを打倒できるほどではないだろうが…能力の低下は見込めるはずだ」 「ウイルスか…だがどうやって奴に流し込む?まさかランサーに直接コードを繋げると言う訳じゃないだろう」 「それについてはキャスター頼りだな。一度我がマスターがプログラムの素体を作り、それをキャスターに再構成してもらう。それならばサーヴァントにも通じるはずだ」 「プログラム、ですか…やったことはありませんが、私がまずランサーの身体を貫ける武器を作り、その武器にプログラムを刻むという形ならできると思いますよ。  あるいは、まず私がナノマシンを作ってそこに直接プログラムを刻み込むか。そのナノマシンの原理と組成さえわかれば、錬成は可能です」 「ではその方向で準備を進めよう。また強力な電磁波を浴びせることもナノマシンには有効だそうだ。残念ながらこちらはすぐには実現できんがな。  そして私からは、この進化という点、ここを突くことを提案する」 進化とは環境に適応することだ。 だがかつて、ある一人の天才少年はこう言った――『ARMSの進化は急激すぎる』と。 「バーサーカーが狂化して能力を底上げするのと同じだ。進化すれば確かに強大な力は手に入るだろう。  だが我らはあくまでサーヴァント…サーヴァントが力を増せば増すだけ、マスターの負担は大きくなる。  情報にもあったな。このランサーの宝具…『マッドハッター』は制御できなくなると己自身をも飲み込んで巨大なエネルギーと化すと」 「なるほど…暴走を加速させる、というわけか」 「うまくすればこのランサーを用いて敵を一網打尽にすることも可能かもしれないが、まあ案の一つ程度に留めておいてくれ」 そして、ランサー――ARMS・マッドハッター/キース・シルバーは、かつて際限なく暴走する能力を抑えきれずに敗北した。 また、ナノマシンを侵食するウイルスプログラムはかつてオリジナルARMS・ジャバウォックを機能停止寸前にまで追い込んだ一手。 いわば逸話の二重再現だ。 一通りの作戦と戦術を確認し終わったとき、キンブリーが手を挙げた。 「ああ、もう一つ報告することがあります。実は私、ここに来るまでに色々と仕込みをしてきましてね。それも作戦の一つに加えてもらえますか」 「仕込み?」 「ええ…」 ここでキンブリーはニタリと笑った。 その様は邪悪そのもの…ここに集った誰にも劣らない、醜悪な笑みだった。 「この冬木市に、血の紋を刻むのです」  ◇ ◆ ◇ 鹿目まどかはホテルから離れた民家に身を隠していた。 サーヴァントであるDIOはこの家のNPCを始末した後、他のマスター達との会合の場へ出席している。 DIOとは、会合に集中したいということで念話は繋がっていなかった。 無論、令呪で命じた以上、何かあればすぐ呼びかけることは可能だが…まどかはそうはしなかった。 まどかはDIOを信じていたし、またDIOが言うことならそれにはきちんと理由があるのだろうと思っているからだ。 まどか自身、自分が他のマスターに比べ著しく劣っていることは自覚している。DIOの足を引っ張りたくはなかった。 「私、どうすればいいのかな。聖杯を壊すって決めたのに…」 どうすることが聖杯を壊すことに繋がるのか、それをまどかは決めかねていた。 DIOがまどかに敵の正体を教えなかったのは、まどかが彼らに取り込まれるのを防ぐためだ。 適当に見繕った鞄の中には詩音が持っていた銃があるが、まだこれを構える覚悟はない。 もう少しすればDIOが戻ってきて、決戦に赴く。 その時がきっと、まどかにとっても決断の時になろうだろう。 また、別の場所で。 深山町を見張っている5人目のヴァレンタイン、会合に出席している4人目と6人目のヴァレンタインと同じ顔の男が、街を徘徊していた。 会合に出発する前にD4Cを有するヴァレンタインが残していった、7人目のヴァレンタインである。 ジョンがウイルスを作成する間、7人目に与えられた役割は『索敵』――ジョンに迫る敵がいないかの確認と。 「さて――そうそう見つかるとも思えんが」 ジョン・バックス、衛宮切嗣、枢木スザクに続く第四、第五の人物、アーチャーとキャスターのマスターの捜索であった。 正直、これについてはさほど期待はしていない。見つかれば儲けものというくらいだ。 なにせこの時間にサーヴァントの護衛も付けず外をうろつく奇特な者はいない。 とはいえ何もしないよりはマシだ。万が一本体が殺された時の保険にもなる。 ジョンに差し入れの食事と栄養ドリンクを届けた後、7人目のヴァレンタインは音もなく夜の闇に消えていった。 【新都・ハイアットホテル/夜中】 【ライダー(門矢司)@仮面ライダーディケイド】  [状態]:ダメージ(小)、魔力消費(中) 【キャスター(ゾルフ・J・キンブリー)@鋼の錬金術師】  [状態]:疲労(中)、魔力消費(大)、全身ダメージ(小)、右胸貫通  [装備]:羽瀬川小鳩を練成した賢者の石、エッケザックス@ファイヤーエムブレム 覇者の剣 【アーチャー(DIO)@ジョジョの奇妙な冒険】  [状態]:魔力消費(小) 、令呪(まどかの戦いに力を貸す)  [装備]:携帯電話 、封印の剣@ファイアーエムブレム 覇者の剣 【アサシン(ファニー・ヴァレンタイン)@ジョジョの奇妙な冒険】  [状態](4人目)・魔力消費(中)・気配遮断  [装備]:拳銃  [道具]:携帯電話 【アサシン(ファニー・ヴァレンタイン 並行世界)@ジョジョの奇妙な冒険】  [状態](6人目)・魔力消費(極大)・宝具「D4C」無し  [装備]:拳銃  [道具]:携帯電話 【深山町・遠坂邸付近/夜中】 【アサシン(ファニー・ヴァレンタイン 並行世界)@ジョジョの奇妙な冒険】  [状態](5人目)・魔力消費(極大)・宝具「D4C」無し・気配遮断  [装備]:拳銃  [道具]:携帯電話 【新都・双子館/夜中】 【ジョン・バックス@未来日記】  [令呪]:3画  [状態]:疲労(小)、魔力消費(小)、冬木市市長  [装備]:「The watcher」  [道具]:栄養ドリンク(箱) 【新都/夜中】 【鹿目まどか@魔法少女まどか☆マギカ】  [令呪]:2画  [状態]:健康  [装備]:鋼鉄の腕(アイゼン・デア・アルム)@エンバーミング 、鋼鉄の腕の予備弾@鋼鉄の腕(アイゼン・デア・アルム) 【衛宮切嗣@Fate/zero】  [令呪]:1画  [状態]:固有時制御の反動ダメージ(中)、魔力消費(大)  [装備]:ワルサー、キャレコ 、狙撃銃   携帯電話、鉈、大きな鏡、その他多数(ホームセンターで購入できるもの) 【枢木スザク@コードギアス 反逆のルルーシュ】  [令呪]:2画  [状態]:疲労(特大)、義手・義足を機械鎧化 【バーサーカー(ランスロット)@Fate/Zero】  [状態]:ダメージ(特大・戦闘行動に支障あり)、魔力消費(極大・実体化困難)、右腕欠損、兜及び上半身の鎧破壊       宝具“無毀なる湖光(アロンダイト)”喪失 【アサシン(ファニー・ヴァレンタイン)@ジョジョの奇妙な冒険】  [状態](7人目)・魔力消費(極大)・宝具「D4C」無し・気配遮断  [装備]:拳銃  [道具]:携帯電話

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