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The Zero」(2013/08/09 (金) 17:37:41) の最新版変更点

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 天野雪輝、キャスター/タマモ――死亡。  我妻由乃、アーチャー/ジョン・ドゥ――死亡。  イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、ランサー/本多忠勝――死亡。  遠坂凛、キャスター/蘇妲己――死亡。  近藤剣司、セイバー/セリス・シェール――死亡。  金城優、セイバー/アストレア――死亡。  アシュヒト・リヒター、セイバー/テレサ――死亡。  間桐雁夜、アサシン/トキ――死亡。  園崎詩音、バーサーカー/美樹さやか――死亡。  金田一一、ライダー/太公望――死亡。  天海陸、セイバー/イスラ・レヴィノス――死亡。  間桐慎二、ライダー/ラオウ――死亡。  鳴上悠、ランサー/クー・フーリン――死亡。  ゼフィール、ライダー/アシュナード――死亡。  無機質な文字列がモニターをスクロールしていく。  ムーンセル・オートマトンが構築した霊子虚構世界“SE.RA.PH”での戦い、“聖杯戦争”が始まって、はや半日と数時間。  この戦いで14組、人数に直すと28人のマスターとサーヴァントが散った。  一万飛んで5848回目にして初めてと言えるこの大規模な戦いも、ようやく佳境と言ったところだ。 「――まだ続ける気か?」  不意に、背後からの問いかけがあった。以前にも聴いた問いだ。  あの時は答えたが、今度は答えなかった。その必要性を感じない。  今も戦いは続いている。無意味な揶揄に応じる意味は無い。 「クックッ、そう無下にするな。ここにお前以外の話相手はおらんのだ。少しくらい付き合っても罰は当たるまい」  言われ、男は改めて今在る場所を意識する。  ここはSE.RA.PHではない。言うなれば、“月の裏側”――ムーンセルの支配及ばぬ虚数空間である。  古めかしい家屋を模したこの旧校舎にて、自分たちは聖杯戦争の進行を見守っている。 「この見世物。最初はくだらんと思ったものだが、存外楽しめるものだ」  ここには自分以外にもう一人、黄金の鎧を纏う英霊が在る。  その手には呆れた事に綺羅びやかに輝く酒杯、傍らにはこれまた黄金の酒瓶。  まるでスポーツでも観戦するような体で、 「寝過ぎて夢も見ぬほどに退屈していたからな。常ならば一笑に付すところだが、此度は許そう。褒めてやるぞ、雑種」  彼は尊大にふんぞり返る。彼を見つけたのは、正直に言って偶然以外の何物でもない。  ムーンセルを改竄するため手頃な場所へと腰を落ち着けようとした先に、先客がいた。ただそれだけの事。  彼もまた聖杯戦争に召喚されるサーヴァントの一柱ではあるのだが、何故こんな辺鄙な場所にいたかと訊けば、 「結果の見えている勝負ほど詰まらぬ物はあるまい」  と、言ってのけた。  確かに、どんな凡百なマスターであろうと彼を使役するのならば負けは有り得ない。  参戦すれば優勝という結果が確定してしまう。マスターの魂の質を問うこの聖杯戦争に於いて、ある意味では彼ほど無価値なサーヴァントも他にいないだろう。  故に、彼はムーンセルに封印された。まかり間違ってもマスターに召喚されないように、この月の裏側の奥底へと。  だが本人はそれを不満とも思わず、この虚数空間にどうやってか自己の領域を確保し、無限とも思える時間を微睡みとともに過ごしていた。 「“拳王”、そして“狂王”が墜ちたか。だが“騎士王”は健在……フフン、そうでなくてはな」  どうやらこのサーヴァントは、“王”という存在に一家言あるらしい。  殊に、今のお気に入りは騎士王――セイバー、アルトリア・ペンドラゴンである。  セイバーと知り合いなのかと問えば、彼は否定した。 「逢った事はない。もしかしたらどこぞの世界では違うのかもしれんが。  しかしあのセイバー。金髪碧眼、小柄な体躯、にじみ出る高潔さ。容姿はまさに我の好みドストライクだ。  だが傍にいる小僧が気に入らんな。どうもアレを見ているとこう、セイバーの美点が解消されていくような……」  あの細い身体では到底支えきれぬ理想に押し潰される様は、きっと美しいモノであろうに、とブツブツ不満を口にする。  その意見に同意するかはともかく、セイバーとそのマスターは自分にとっても有望株だ。  思想的に決して男とは相容れないであろうが、彼らの魂の純度はこの戦いにおいて一層輝きを増す事だろう。 「雑種、貴様はどうだ。コレ、と言う一押しはおらんのか」  肩を竦めて、答えない。  誰が勝利するのが重要、なのではない。最後に残った者がいる、それこそが必要なのだ。  それが誰であろうと構わない。最後に残るという事は必然的にそれだけの強さを得た、つまりは闘争の中で魂を成長させたという証明なのだから。  身を預けていた椅子から立ち上がり、部屋の出口へと向かう。 「無愛想な奴よ。まあいい、我はもうしばらくここで眺めている事とする」  それきりこちらに興味を失くし、黄金のサーヴァントは豪奢な椅子に背を預け、酒を舐めつつモニターに見入いり始めた。  何も言わず部屋を出る。扉を閉じると、かのサーヴァントが発散していた金色の王気もまた遮断された。  コツコツと廊下を歩む。はたしてあの黄金のサーヴァントとはどういう関係になるのだろうか。  同志ではない。彼はこちらの目的に賛同も反対もしない。  彼はただ、楽しむだけだ。聖杯戦争という争いの過程、そこに生じる様々な人の生き様を見て、肴とする。  彼自身と同じく“王”を名乗る男を不遜と憤るのが、本来の彼の在り方だろう。  だが、男が名乗る王とはもはや記号以上の意味を持たない。 「眠気覚ましに道化が踊る様を見るのも悪くはない。良かろう、貴様の遊戯に付き合ってやる。  貴様が集めた雑種共の中には我の財に無いモノを持っている奴もいる事だしな。  そして何より、貴様の下らぬ願いの果てに何があるのか……見届けるのも一興よ」  だからなのか、雑種と嘲りつつも敵対的な態度を取らず、あっさりと彼は男に助力する事を決めた。  しかし協力を依頼したとはいえ、あるいは彼の出る幕はないかもしれない。  彼の力を必要とする事態とはつまり、男の前に現れるマスターが多数である場合を指す。  最後に残った勝者を求める男の望みとは食い違う事態、そうなった時の修正力として彼はいる。  彼がSE.RA.PH内に出向けば、遠からず聖杯戦争は彼の勝利という形で決着する。  だがそんな結末は、男も、そして彼も望んでいない。  望んでいるのは勝利ではなく、勝者。だからこそ、最終的には彼もまた打ち倒されなければならない。  彼とぶつかれば、いかに相手が複数のサーヴァントといえど苦戦は必至だ。彼もまた消滅するだろうが、幾人かはそこで脱落する事になるだろう。  だからこそ。彼という強大な壁を乗り越えた者は、一層強靭な刃となって男へと到達する。いわば彼は最後の試練だ。  それらを正直に話したところ、 「構わん。本来我はそのような者たちに倒される側の存在であるからな。  が、我を舞台に上げる以上、我の眼前に立つ者は真の英雄でなくてはならぬ。我を失望させるなよ、雑種」  と、彼は意外にも敗北を了承した。結果より過程を楽しめればそれでいいという事なのだろう。  サーヴァントである彼は、SE.RA.PH内で消滅したとしても存在が抹消される訳ではない。  だからという訳ではないだろうし、たとえ存在が消えるとしても彼の態度は変わらなかっただろうが……と、男は思う。  無論、順当に参加者たちが殺し合い、最後の一組となって男の元へと到達するなら、彼の出番は無いが。  とにかく、彼が自らSE.RA.PH内に出向く事は無い。そしてそれは己も同様だ。  看過できないイレギュラーが発生しない限りは、参加者たちの意志のままにこの聖杯戦争を進行させる方針である。  自らの意志で前進するからこそ、その魂は強く光り輝くのだ。  校舎の一室、自分専用に誂えた個室で、男はモニターに目をやる。  今も戦いは続いている。  ある者は、願いを叶えるために。  ある者は、戦いを止めるために。  ある者は、聖杯そのものを砕くために。  方向こそ違えど、どれも強い意志を持つ者である事に変わりはない。  あの中で一体誰が勝ち抜いて、男の前に辿り着くのか。  かつて魔王と呼ばれた見識を以ってしても、一向に見当はつかない。  しかし――それこそを望んでいる。  混沌の中から這い上がる様。  死という停滞を拒み、苦難に満ちた生を掴もうと必至に手を伸ばす姿。  その砕け得ぬ意志を、求めている。  男がかつて存在した世界では、ついに手に入れられなかった。  最愛の妹も、無二の親友も、全てが遠い過去に去ったあの世界。  不老不死の身である自分だけが唯一変わらぬ存在として在り続け、どれだけの時が過ぎただろうか。  男は使命を果たし続けた。  世界は混沌で活性化し、世界には明日も命があふれていくはずだった。  だが、気付けば世界は停滞していた。  永い間生き過ぎたのだ。世界が男の存在を核に存在してしまうほどに。  同じ波形で起こる混沌とは、すなわち停滞である。  いつの間にか、男自身が世界の明日を阻害する存在になってしまっていたのだ。  一つの世界の停滞は、やがて全ての可能性宇宙に伝播するだろう。  だから男は、自らの滅びを求めた。  古きが滅び新しきを迎えることで変化が生まれる。  この役割を次代の魔王へと引き継がせ、世界を再び混沌で活性化させるために。  だが、生半な素質ではとても魔王を任せられない。否、任せる以前に自分を滅ぼせすらしない。  この不朽の身を滅ぼせるのは、男と同等かそれ以上の力を目覚めさせた者だけ。  男が求める器は、停滞した世界では望むべくもなかった。  やがて男は世界を渡った。そして辿り着いたのが、このムーンセル・オートマトンが存在する世界だ。  そこにいた一人の死人――トワイス・H・ピースマンにより、男は聖杯戦争を知った。  そして思った。その戦いを生き残った勝者こそ、次代の魔王を担うに相応しいのではないか、と。  男は聖杯戦争へ介入するために、ムーンセルへのハッキングを開始した。ピースマンは、男の行動を邪魔しなかった。  どうも彼の望みと男の目的にはよく似た点があったらしい。  男の願いが成就すればそれでもいいのか、あるいは男の願いが決して叶わぬ無駄な物だと見切っていたのか。  自分と同じく別の世界から願いを持つ者を招き、争わせ――勝ち残った者を判定する。  試行に試行を続け、そして一万飛んで5847回、失敗した。  誰一人として、魔王の役割を預けるに足る者は現れなかった。通常のやり方では、男が望む勝者は決して生まれないと悟った。  ならばとこの月の裏側へ訪れ、改竄のしやすい虚数領域からムーンセルへのハッキングを強めて聖杯戦争のシステム自体を歪めた。  常に自身を安全圏に置いていたこれまでと違い、今はムーンセル中枢に最接近している。  ムーンセルへの支配力はこれまでになく強い物となったが、さすがに中枢を守護する最終防衛プログラムは抜けなかった。  現在こそ安定しているものの、仕損じれば異物としてこの世界から弾き出されてしまう可能性は否定出来ない。  後が無いのは男も同じ。故にこれが最後の機会。  一万飛んで5848回目にして、聖杯戦争はかつて無い様相を見せている。  14組28人の魂が淘汰され、残った者たちは手を取り合い、あるいは牙を研いでいる。  ムーンセルの演算を以ってしてもこの先の予想はつかない。  男は頭部を覆う仮面を外した。  現れたのは、モニターに移る黒髪の青年、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと瓜二つ――否、全く同一の素顔。  さもあらん。  彼こそはSE.RA.PHに存在するルルーシュとは別世界のルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、その人なのだから。  しかし彼は、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアという名を捨てた。  今の彼の名は、ゼロ――人呼んで“魔王ゼロ”である。  漆黒の仮面とマントに身を包む黒き魔王。正義と革命の象徴であったゼロではなく、世界に混乱と戦火を拡げる魔人。  かつて“魔王C.C.”と名乗った彼だが、その名は次代の魔王に引き継がれるべき名だ。  故に彼は、再び“ゼロ”を名乗る。 「混沌の中からこそ、明日への希望は生まれる」  その希望が別世界の自分自身、ルルーシュなのか。  あるいは、無二の友と同一の存在たる、別世界の枢木スザクなのか。  どちらでも構わないし、また別の人間であっても構わない。  現時点での素質になど意味は無い。最後に生き残った者こそ次代の魔王に相応しい。  48人の魂を糧に成長したその魂は、間違いなく最強の“ギアス”を発現させる事だろう。  古き魔王、このゼロを滅ぼし得るほどの、強力な力を。  ゼロを滅ぼした最後の勝者はエデンバイタルに遣わされた新しき魔王となり、同時にムーンセルへのアクセス権を得る。  エデンバイタルと、ムーンセル。2つの全能なる力を統べた者は、おそらくゼロを超える強大な魔王となる。  その人物の思想など関係無い。力持つ者は、ただ存在するだけで周囲に影響を与えていくのだから。  今はただ、待つ。  この月の裏側で、無限の生の終着点と、新たな混沌の産声を、ただひたすらに待ち続ける。  誰が勝者として魔王の前に立つのか。誰が次代の魔王の器なのか。誰がこの身を滅ぼすのか。 「其を見届ける者。すなわち我、魔王ゼロなり――」 【月の裏側】 【魔王ゼロ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】 【ギルガメッシュ@Fate/EXTRA CCC】
 天野雪輝、キャスター/タマモ――死亡。  我妻由乃、アーチャー/ジョン・ドゥ――死亡。  イリヤスフィール・フォン・アインツベルン、ランサー/本多忠勝――死亡。  遠坂凛、キャスター/蘇妲己――死亡。  近藤剣司、セイバー/セリス・シェール――死亡。  金城優、セイバー/アストレア――死亡。  アシュヒト・リヒター、セイバー/テレサ――死亡。  間桐雁夜、アサシン/トキ――死亡。  園崎詩音、バーサーカー/美樹さやか――死亡。  金田一一、ライダー/太公望――死亡。  天海陸、セイバー/イスラ・レヴィノス――死亡。  間桐慎二、ライダー/ラオウ――死亡。  鳴上悠、ランサー/クー・フーリン――死亡。  ゼフィール、ライダー/アシュナード――死亡。  無機質な文字列がモニターをスクロールしていく。  ムーンセル・オートマトンが構築した霊子虚構世界“SE.RA.PH”での戦い、“聖杯戦争”が始まって、はや半日と数時間。  この戦いで14組、人数に直すと28人のマスターとサーヴァントが散った。  一万飛んで5848回目にして初めてと言えるこの大規模な戦いも、ようやく佳境と言ったところだ。 「――まだ続ける気か?」  不意に、背後からの問いかけがあった。以前にも聴いた問いだ。  あの時は答えたが、今度は答えなかった。その必要性を感じない。  今も戦いは続いている。無意味な揶揄に応じる意味は無い。 「クックッ、そう無下にするな。ここにお前以外の話相手はおらんのだ。少しくらい付き合っても罰は当たるまい」  言われ、男は改めて今在る場所を意識する。  ここはSE.RA.PHではない。言うなれば、“月の裏側”――ムーンセルの支配及ばぬ虚数空間である。  古めかしい家屋を模したこの旧校舎にて、自分たちは聖杯戦争の進行を見守っている。 「この見世物。最初はくだらんと思ったものだが、存外楽しめるものだ」  ここには自分以外にもう一人、黄金の鎧を纏う英霊が在る。  その手には呆れた事に綺羅びやかに輝く酒杯、傍らにはこれまた黄金の酒瓶。  まるでスポーツでも観戦するような体で、 「寝過ぎて夢も見ぬほどに退屈していたからな。常ならば一笑に付すところだが、此度は許そう。褒めてやるぞ、雑種」  彼は尊大にふんぞり返る。彼を見つけたのは、正直に言って偶然以外の何物でもない。  ムーンセルを改竄するため手頃な場所へと腰を落ち着けようとした先に、先客がいた。ただそれだけの事。  彼もまた聖杯戦争に召喚されるサーヴァントの一柱ではあるのだが、何故こんな辺鄙な場所にいたかと訊けば、 「結果の見えている勝負ほど詰まらぬ物はあるまい」  と、言ってのけた。  確かに、どんな凡百なマスターであろうと彼を使役するのならば負けは有り得ない。  参戦すれば優勝という結果が確定してしまう。マスターの魂の質を問うこの聖杯戦争に於いて、ある意味では彼ほど無価値なサーヴァントも他にいないだろう。  故に、彼はムーンセルに封印された。まかり間違ってもマスターに召喚されないように、この月の裏側の奥底へと。  だが本人はそれを不満とも思わず、この虚数空間にどうやってか自己の領域を確保し、無限とも思える時間を微睡みとともに過ごしていた。 「“拳王”、そして“狂王”が墜ちたか。だが“騎士王”は健在……フフン、そうでなくてはな」  どうやらこのサーヴァントは、“王”という存在に一家言あるらしい。  殊に、今のお気に入りは騎士王――セイバー、アルトリア・ペンドラゴンである。  セイバーと知り合いなのかと問えば、彼は否定した。 「逢った事はない。もしかしたらどこぞの世界では違うのかもしれんが。  しかしあのセイバー。金髪碧眼、小柄な体躯、にじみ出る高潔さ。容姿はまさに我の好みドストライクだ。  だが傍にいる小僧が気に入らんな。どうもアレを見ているとこう、セイバーの美点が解消されていくような……」  あの細い身体では到底支えきれぬ理想に押し潰される様は、きっと美しいモノであろうに、とブツブツ不満を口にする。  その意見に同意するかはともかく、セイバーとそのマスターは自分にとっても有望株だ。  思想的に決して男とは相容れないであろうが、彼らの魂の純度はこの戦いにおいて一層輝きを増す事だろう。 「雑種、貴様はどうだ。コレ、と言う一押しはおらんのか」  肩を竦めて、答えない。  誰が勝利するのが重要、なのではない。最後に残った者がいる、それこそが必要なのだ。  それが誰であろうと構わない。最後に残るという事は必然的にそれだけの強さを得た、つまりは闘争の中で魂を成長させたという証明なのだから。  身を預けていた椅子から立ち上がり、部屋の出口へと向かう。 「無愛想な奴よ。まあいい、我はもうしばらくここで眺めている事とする」  それきりこちらに興味を失くし、黄金のサーヴァントは豪奢な椅子に背を預け、酒を舐めつつモニターに見入いり始めた。  何も言わず部屋を出る。扉を閉じると、かのサーヴァントが発散していた金色の王気もまた遮断された。  コツコツと廊下を歩む。はたしてあの黄金のサーヴァントとはどういう関係になるのだろうか。  同志ではない。彼はこちらの目的に賛同も反対もしない。  彼はただ、楽しむだけだ。聖杯戦争という争いの過程、そこに生じる様々な人の生き様を見て、肴とする。  彼自身と同じく“王”を名乗る男を不遜と憤るのが、本来の彼の在り方だろう。  だが、男が名乗る王とはもはや記号以上の意味を持たない。 「眠気覚ましに道化が踊る様を見るのも悪くはない。良かろう、貴様の遊戯に付き合ってやる。  貴様が集めた雑種共の中には我の財に無いモノを持っている奴もいる事だしな。  そして何より、貴様の下らぬ願いの果てに何があるのか……見届けるのも一興よ」  だからなのか、雑種と嘲りつつも敵対的な態度を取らず、あっさりと彼は男に助力する事を決めた。  しかし協力を依頼したとはいえ、あるいは彼の出る幕はないかもしれない。  彼の力を必要とする事態とはつまり、男の前に現れるマスターが多数である場合を指す。  最後に残った勝者を求める男の望みとは食い違う事態、そうなった時の修正力として彼はいる。  彼がSE.RA.PH内に出向けば、遠からず聖杯戦争は彼の勝利という形で決着する。  だがそんな結末は、男も、そして彼も望んでいない。  望んでいるのは勝利ではなく、勝者。だからこそ、最終的には彼もまた打ち倒されなければならない。  彼とぶつかれば、いかに相手が複数のサーヴァントといえど苦戦は必至だ。彼もまた消滅するだろうが、幾人かはそこで脱落する事になるだろう。  だからこそ。彼という強大な壁を乗り越えた者は、一層強靭な刃となって男へと到達する。いわば彼は最後の試練だ。  それらを正直に話したところ、 「構わん。本来我はそのような者たちに倒される側の存在であるからな。  が、我を舞台に上げる以上、我の眼前に立つ者は真の英雄でなくてはならぬ。我を失望させるなよ、雑種」  と、彼は意外にも敗北を了承した。結果より過程を楽しめればそれでいいという事なのだろう。  サーヴァントである彼は、SE.RA.PH内で消滅したとしても存在が抹消される訳ではない。  だからという訳ではないだろうし、たとえ存在が消えるとしても彼の態度は変わらなかっただろうが……と、男は思う。  無論、順当に参加者たちが殺し合い、最後の一組となって男の元へと到達するなら、彼の出番は無いが。  とにかく、彼が自らSE.RA.PH内に出向く事は無い。そしてそれは己も同様だ。  看過できないイレギュラーが発生しない限りは、参加者たちの意志のままにこの聖杯戦争を進行させる方針である。  自らの意志で前進するからこそ、その魂は強く光り輝くのだ。  校舎の一室、自分専用に誂えた個室で、男はモニターに目をやる。  今も戦いは続いている。  ある者は、願いを叶えるために。  ある者は、戦いを止めるために。  ある者は、聖杯そのものを砕くために。  方向こそ違えど、どれも強い意志を持つ者である事に変わりはない。  あの中で一体誰が勝ち抜いて、男の前に辿り着くのか。  かつて魔王と呼ばれた見識を以ってしても、一向に見当はつかない。  しかし――それこそを望んでいる。  混沌の中から這い上がる様。  死という停滞を拒み、苦難に満ちた生を掴もうと必至に手を伸ばす姿。  その砕け得ぬ意志を、求めている。  男がかつて存在した世界では、ついに手に入れられなかった。  最愛の妹も、無二の親友も、全てが遠い過去に去ったあの世界。  不老不死の身である自分だけが唯一変わらぬ存在として在り続け、どれだけの時が過ぎただろうか。  男は使命を果たし続けた。  世界は混沌で活性化し、世界には明日も命があふれていくはずだった。  だが、気付けば世界は停滞していた。  永い間生き過ぎたのだ。世界が男の存在を核に存在してしまうほどに。  同じ波形で起こる混沌とは、すなわち停滞である。  いつの間にか、男自身が世界の明日を阻害する存在になってしまっていたのだ。  一つの世界の停滞は、やがて全ての可能性宇宙に伝播するだろう。  だから男は、自らの滅びを求めた。  古きが滅び新しきを迎えることで変化が生まれる。  この役割を次代の魔王へと引き継がせ、世界を再び混沌で活性化させるために。  だが、生半な素質ではとても魔王を任せられない。否、任せる以前に自分を滅ぼせすらしない。  この不朽の身を滅ぼせるのは、男と同等かそれ以上の力を目覚めさせた者だけ。  男が求める器は、停滞した世界では望むべくもなかった。  やがて男は世界を渡った。そして辿り着いたのが、このムーンセル・オートマトンが存在する世界だ。  そこにいた一人の死人――トワイス・H・ピースマンにより、男は聖杯戦争を知った。  そして思った。その戦いを生き残った勝者こそ、次代の魔王を担うに相応しいのではないか、と。  男は聖杯戦争へ介入するために、ムーンセルへのハッキングを開始した。ピースマンは、男の行動を邪魔しなかった。  どうも彼の望みと男の目的にはよく似た点があったらしい。  男の願いが成就すればそれでもいいのか、あるいは男の願いが決して叶わぬ無駄な物だと見切っていたのか。  自分と同じく別の世界から願いを持つ者を招き、争わせ――勝ち残った者を判定する。  試行に試行を続け、そして一万飛んで5847回、失敗した。  誰一人として、魔王の役割を預けるに足る者は現れなかった。通常のやり方では、男が望む勝者は決して生まれないと悟った。  ならばとこの月の裏側へ訪れ、改竄のしやすい虚数領域からムーンセルへのハッキングを強めて聖杯戦争のシステム自体を歪めた。  常に自身を安全圏に置いていたこれまでと違い、今はムーンセル中枢に最接近している。  ムーンセルへの支配力はこれまでになく強い物となったが、さすがに中枢を守護する最終防衛プログラムは抜けなかった。  現在こそ安定しているものの、仕損じれば異物としてこの世界から弾き出されてしまう可能性は否定出来ない。  後が無いのは男も同じ。故にこれが最後の機会。  一万飛んで5848回目にして、聖杯戦争はかつて無い様相を見せている。  14組28人の魂が淘汰され、残った者たちは手を取り合い、あるいは牙を研いでいる。  ムーンセルの演算を以ってしてもこの先の予想はつかない。  男は頭部を覆う仮面を外した。  現れたのは、モニターに移る黒髪の青年、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアと瓜二つ――否、全く同一の素顔。  さもあらん。  彼こそはSE.RA.PHに存在するルルーシュとは別世界のルルーシュ・ヴィ・ブリタニア、その人なのだから。  しかし彼は、ルルーシュ・ヴィ・ブリタニアという名を捨てた。  今の彼の名は、ゼロ――人呼んで“魔王ゼロ”である。  漆黒の仮面とマントに身を包む黒き魔王。正義と革命の象徴であったゼロではなく、世界に混乱と戦火を拡げる魔人。  かつて“魔王C.C.”と名乗った彼だが、その名は次代の魔王に引き継がれるべき名だ。  故に彼は、再び“ゼロ”を名乗る。 「混沌の中からこそ、明日への希望は生まれる」  その希望が別世界の自分自身、ルルーシュなのか。  あるいは、無二の友と同一の存在たる、別世界の枢木スザクなのか。  どちらでも構わないし、また別の人間であっても構わない。  現時点での素質になど意味は無い。最後に生き残った者こそ次代の魔王に相応しい。  48人の魂を糧に成長したその魂は、間違いなく最強の“ギアス”を発現させる事だろう。  古き魔王、このゼロを滅ぼし得るほどの、強力な力を。  ゼロを滅ぼした最後の勝者はエデンバイタルに遣わされた新しき魔王となり、同時にムーンセルへのアクセス権を得る。  エデンバイタルと、ムーンセル。2つの全能なる力を統べた者は、おそらくゼロを超える強大な魔王となる。  その人物の思想など関係無い。力持つ者は、ただ存在するだけで周囲に影響を与えていくのだから。  今はただ、待つ。  この月の裏側で、無限の生の終着点と、新たな混沌の産声を、ただひたすらに待ち続ける。  誰が勝者として魔王の前に立つのか。誰が次代の魔王の器なのか。誰がこの身を滅ぼすのか。 「其を見届ける者。すなわち我、魔王ゼロなり――」 【月の裏側】 【魔王ゼロ@コードギアス ナイトメア・オブ・ナナリー】 【ギルガメッシュ@Fate/EXTRA CCC】

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