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 「■■■・・・」  「どうしたランサー?」  南の方角へ進路をとっていた悠は、実体化したランサーを怪訝な顔で見た、しかしランサーは そんな声に見向きもせず、ただ前方を睨むと、全力で走り去っていった。  最初は訝しげに見ていた悠だったが、ああ、と納得し。    「他の参加者がいるのか。」    狂化の影響で索敵のルーンを始めとした幾つかのルーン魔術は使えなくなったが、他のサーヴァント を探知する力は健在であった。走り去ったランサーを見た悠はいつも通りの表情で  「しょうがないな。」  まるで手のかかる家族を相手にするような微笑ましい気持ちになりながらも見送って、 パスを辿るように自分も後を追った。 その顔はいつも通りの、笑顔だった。   最凶のサーヴァント、アシュナードとの戦闘を終えた花村たちは、休める場所を探して市街地に来ていた。 特に名無の負傷は大きく、リインフォースの魔術で傷は治ったが、失った血液までは戻せなかった。 また花村自身も、一人でアシュナードのマスター、ゼフィールを相手に(防戦一方だったとはいえ)一人で相手 していたため疲労が大きく、(アシュナード相手にそれだけですんで御の字なのだが)一度休息を取ろうと いう意見で、近くのレストランで食事を取った。 一応は怪我人だというのに、まるで意に介さないとばかりに次から次へと注文する名無に花村は呆れながら 見ていた。名無曰く  「せっかく金使い放題なのに、食べなきゃ損ジャン!」 と、小市民ぶりを発揮した。(アレックスとリインフォースも実体化し食事を取っていた。 僅かだが魔力が補給できるらしい) 腹ごしらえと休息をとった一同はレストランを後にし、装備を調えるため店を回った。 携帯食料、医薬品、予備の服にいざという時の連絡手段で名無の分の携帯電話。その他アレックスやリインフォース のアドバイスで、こういった時に役に立つ物を何点か購入し、そしてホームセンターで目的のものを購入した。 「なんだソレ?スパナ?」  「ああ、ペルソナだけじゃいざという時不安だからな。」 そういいながらクルクルとペン回しのように器用に扱ってみせた。 (ほんとはクナイとかの方がよかったんだけど、さすがにだいだらみたいな店はないか・・・) というかあの店は営業して大丈夫なんだろうか?刀剣類はともかく銃まで置いてあるのだが。  「マスター、準備が出来たぞ。」  「わかった!今行く!」  ワゴン車に乗ったアレックスの下へ集まる。かなりの量になった荷物をそのまま運ぶには移動の邪魔に なるので、アレックスに金を渡し車を買ってきてもらった。 アレックスには騎乗スキルは無いが、生前の経験を活かし、普通に運転する分には何の問題も無かった。 (さすがに乗ったことの無いものや動物は不可能らしいが)  「おい・・・」  「なんだ・・?」  運転するアレックスにリインフォースはおずおずと声をかけた。    「その、さっきは悪かったな・・。」    アシュナードの恐怖に呑まれ、あやうく死にかけた自分を身を挺して庇ったおかげで名無の救援が間に合ったのだ。 もしあの時庇ってもらえなければ、自分と名無の聖杯戦争は終わってしまっていただろう。 バツの悪そうなリインフォースを横目でちらりとだけみて、  「気にするな。あそこでお前がやられたら俺もどうなっていたかわからん。それに名無のおかげであいつとの  戦闘を終わらせることができた。むしろ俺の方こそ礼をいわねばならん。」  実際もしあのままリインフォースが死んでしまえば、ただでさえ強力なサーウァントであるアシュナードに加え 宝具らしき物を持っていた敵のマスターもいたのだ。そうなれば逃げることさえ難しくなる。 自分はまったく気にしてないという風なアレックスだったが、それでも自分では納得できないのか、何か言おうと 口を開けたとき 「なあ花村、このメイド服の子可愛くないか?胸もでかいし。」 「いやーそっちの子よりこのナース服の女性だろ。くびれといい、脚線美もいいし。顔だってかわいい」  マスター二人が後部座席でエロ本を読んで感想を言い合っていた。 アレックスは何も言わずに運転を続け、リインフォースは頬を引きつらせる。 そんな二人の様子に気づかず、さらに会話はヒートアップしていく。    「分かってねえよ花村!胸にはロマンが詰まっているんだよ!ただ大きければ良いと言うんじゃない。 形が悪ければ台無しになるけど形だけでもだめなんだ!その二つのバランスは芸術の領域なんだ!小宇宙なんだ!」  「胸にロマンが詰まっているのは認める、だけど名無、胸だけじゃ駄目なんだ!全体のバランスが 悪ければいくら胸が完璧でも台無しなんだ!もっと他の部分にも目を向けないともったいないぜ!」   「他の部分にも目を向けろって言うけど花村さっきからナース物しか見てないぜ!そういうなら 他のジャンルにも目を向けるべきだ!」  「いや誤解だ!確かにメイドも巫女さんも素晴らしいがあれはエロというより萌えの領域で——」  「 花村の馬鹿チン!萌えというのは見る側の魂の在りよう!言ってみればあらゆるものは萌え に繋がりひいてはエロに繋がるんだ!」  「—————名無もいろいろ間違ってると————」  「——萌え———エロ———もえ———」  「————エロ———もえ———エロエロ———」  「もえ———えろ?———燃え———もえもえ———」 延延と続くその会話を聞き、運転席の男が会話に割り込んだ。  「マスター、常に集中しろとまでは言わないがもう少し緊張感を持て。」  「へいへい、わかったよ。」  エロ本を名無に返し、背もたれに体重を預ける。外の風景を眺めながら、花村はふと声をかけた。  「そういや学校の場所わかんのか?」  「学校や教会の場所など重要施設の場所は、ムーンセルにより頭に入っている。」  なるほど、確かに考えてみれば監査役の場所と情報を得られる重要施設の情報はマスターに共有 されなければフェアでは無いだろう。そう納得し窓の外を眺めているとアレックスが先ほどとは違い 緊張した声で全員に声をかけた。  「敵のサーウァントだ、こちらにまっすぐ向かってきている。」  リインフォースも気づいたのかいつでも戦えるよう準備をし、マスター達に指示を仰いだ。  「どうする?車から降りて戦うか?それとも進路を変えにげるか?」  アレックスの傷も塞がっているし自分も無傷だ。マスター達の怪我と疲労も、休息を取ったことにより 全快とまではいかなくても戦闘には支障はない。戦おうと思えばいけるだろう。 後部座席を振り返ったリインフォースが見たものは 「いや〜!!またさっきみたいなやばいオッサンみたいのがくるのおおおお!!あ、でも剣持った 金髪美少女だったら愛でられる!それか黒髪ロングのお姉さん系でもよし!でもやっぱこわいいいい!」  一人怯えたり締まりの無い顔で妄想したりまた怖がったりを繰り返す自分のマスターだった。 さっきの感動を返してほしい。少しでもときめいた自分がバカみたいで・・・ (って違う!さっきのあれはノーカンだ!ちょっとかっこいいと思ったのも気のせいで・・って 違う!そんなこと考えてるときじゃない!)  ぶんぶんと頭を振り同盟者の少年を見る。少し考える表情をしたがすぐに自身の相棒に向き  「迎え撃つぞアレックス!、だけど倒すことより俺たちが生き残ること優先だ。危なくなったら すぐに退く、全員の安全を一番に考えて動こう。」    敵を倒すより全員の安全を優先する考えにいたったのは、かつて特捜隊で培った経験からだった。 多くのシャドウが徘徊するダンジョンでは、ペース配分を間違えたり装備の補給を怠った事により ピンチに陥る。そのためよく考えて行動し、準備を怠ってはならないのだ。(もっともその辺は リーダーにほぼまかせっきりだったのだが)  (こういうとき相棒の有難味がよくわかるな・・・あいつみたいに頭よければもっといいアイディア 出すんだろうけど、俺じゃこれが精一杯の最善の行動だ)  苦笑しつつ先ほど買ったスパナを握りしめる。  「了解した。どの道もう逃げ切れん。この速度、ランサーかライダーといったところか・・・」  車から降りた一同が目にしたのは、こちらにまっすぐ突っ込んでくるのは、青いタイツのような服に赤い 槍を構えた騎士だった。その表情は狂気に満ちており、尋常ならざる様子だった。 いつでもブリューナグの槍を放てるよう前方に手をかざすアレックスと臨戦態勢をとるリインフォース 花村、名無も槍王、ジライヤを発動させ身構える。  「■■■■■■■■!」  花村の方へ真っ直ぐ突っ込んでくるサーウァントに、アレックスが迎え撃った。他の三人とは違い、まるで 何か花村に訴えかけるかのように見るが、すぐにアレックスの方へ攻撃を繰り出した。  紅き魔槍で刺突を繰り出す襲撃者に対し、アレックスは徒手空拳で応戦する。  リインフォースも魔力弾を撃ちだすが、あるものは槍で打ち落とし、またあるものはその敏捷さでかわしていった。    「バーサーカーのサーウァント?でもこの対魔力、三騎士クラス・・・じゃああれはランサー? 無理やり狂化させられてるのか?」  冷静に相手の能力を分析しつつ心の中で舌打ちをする、自分の援護はあまりこの場面では役に立たないだろう。  相手の対魔力はおそらくCランク、それなら大規模な魔術を防ぐことは出来ないのでまったく役に立たないわけではないが、 そうすればアレックスをも巻き込んでしまう。  なら自分はマスター達の護衛に回る。それに自分がサポートできずとも、自分より立場的にも能力的にも 相応しい人間がここにはいるのだ。   「いっくぜえ!ジライヤ、“マハスカクジャ”!」  ジライヤの魔術によりアレックスの敏捷値がB+からA+へと底上げされた。これによりステータスの差は ほぼ無くなったといっていいだろう。そのスピードに防戦だったアレックスはマスターの援護により戦況 も盛り返す。相手のサーウァントは、目の前の男が急に速くなったことに驚いた表情をしたが、 すぐにまた目の前の男を殺そうと突撃を繰り返した。   二人のサーウァントの戦闘の影響を受けないギリギリの位置でリインフォースは防御結界を張る。  目の前のサーウァントのマスターに狙われないようにする配慮であったしアサシンを警戒しての行動だった。  話に聞いたアサシンの攻撃がどの程度のランクなのかは分からないが、完全に防ぐことは敵わずとも、即死 することは無い様にし、生き残って全力でマスター二人を連れて逃げるための保険だった。    「■■■■■■!!」  「っふ!」  赤い槍が心臓を貫かんと繰り出せば、ARM化した腕で軌道を逸らす。反撃とばかりに拳を繰り出すが、顔を 傾ける事で回避した。神代の槍兵が、魔槍を薙ぎ、振るい、突けば、近代の槍兵が鋼鉄の腕で弾き、逸らし、受け流す。 二人のサーウァントは一進一退の攻防を繰り広げていたが、徐々に戦局が傾いてくる。 「■■■■■■■■!?]  目の前のサーウァントはいくら魔槍で傷つけようが傷が再生し、何事も無かったかのように反撃してくるのだ。 回復阻害の呪いをも超える再生能力を持つアレックスに対し、ダメージが蓄積されるランサーだが、狂化による 影響と、戦闘続行のスキルにより、なんとか持ちこたえていた。しかしこのままでは危険だと本能で判断したのか、 一旦距離を取ろうと後ろに跳躍する。しかし,そうさせまいとアレックスが追撃をかける。 苦し紛れの一突きを最低限の動作でかわし、がら空きになった身体にカウンターを叩きつける。 なおも攻撃しようと大降りな攻撃を仕掛けようとするが、それよりも速くアレックスの拳がランサーの顔面を殴り飛ばし、 地面にバウンドしたランサーの身体を踏みつけて身動きを封じ、  「一応死なない程度には加減してやる。」  そう言って両掌に魔力を集中し、荷電粒子を形成する。通称“ブリューナクの槍”と呼ばれる荷電粒子砲が ランサーの背面に直撃した。 「■■■■■■■■■■!!?」  声にならない叫びを上げたランサーは、何度か痙攣をすると、やがて力を失い、バタリと両手足を倒した。  もしも令呪によって狂化されず、純粋に己の技能だけで戦っていたら、ここまで一方的な戦いにはならなかっただろう。 磨き上げられた槍術と神代のルーン魔術を使えば、互角の試合に持ち込めていたであろう。 しかしここにいるのは、誇り高きアイルランドの光の御子ではなく、吐き気を催す邪悪DIOの策略により理性と誇り、 そして何より、マスターを操つられ自分たちの絆を汚された、一人の悲しい騎士だった。  油断無くランサーを睨むアレックスと、少し離れた距離で様子を窺う花村たち。 一応意識はあるようだが、これだけ痛めつければ自分たちを倒すことは不可能だろうと、念のため何が起ころうと 対処できるように注意し、花村たちに合図を送る。 合図を受けたマスター達は、アレックスの近くに集まると労いの言葉をかける。  「さんきゅーアレックス、無事でよかったぜ。」    「いやすごいなアンタ、ほとんど同じステータスだったのに圧勝だったな。」  勝利を喜ぶマスター達だったが、当の本人のアレックスは、いつもと変わらない顔でしずかに言った。  「いや、おそらくこいつは全力を出せていなかった。ただ力まかせの攻撃であったしおそらくダメージを 負っていたんだろう。所々に傷があった。それでもあの動きが出来るというのは驚きだがな。」  そう言って改めて襲撃者のサーウァントを見る。 他の全員も注意深く観察していた。  「それで、こいつをどうするんだ、説得が通じる相手ではないだろう。」  リインフォースが目線は襲撃者に向けたまま、マスター二人に問いかけた。  「ハイ!イケメン名無君としては怖いから関わりたくないな!美女でも美少女でもない青タイツの男 なんて全力でNO!このまま放置を提案します!そうしよう!さあ行こう!全力でGO!・・ぐほぅ!!」  自分のマスターの脇腹に全力のボディーブローを叩き込みながら花村へと視線を向けた。 足元で名無しが蹲っているが気にせず放置だ。心なし喜んで見えるのは気のせいだと思いたい。 そんな二人を、花村は若干引きつった顔で見ながら、パートナーに声をかける。      「こいつのマスター、近くにいるか?」  「判らん。バーサーカーとして召喚されたのであれば、コントロールすることを諦めて自分は安全な所に いるのかもしれんが」  「なにもわからないか・・・」  このままこのサーウァントを放置すれば、いずれ回復して他の参加者を襲うだろう。 被害を減らすという意味ではこのまま止めを刺すべきなのだが、万が一こいつのマスターがただ生き残りたい だけの一般人だったら?あるいは誰かに脅されて仕方なかったのだとすれば? それらの多くの可能性が、花村の頭を悩ませていた。 「俺としてはマスター、こいつは此処で始末しておくべきだ。放っておけば再び牙を剥くかもしれん。 そして連れて行くには危険が大きすぎる。全員の安全を考えるという命令なら止めを刺しておいたほうがいい。」 「・・・・っ!」  アレックスは掌を襲撃者に向け魔力を溜める。やろうと思えばいつでも止めを刺すことができるだろう。  「だめだアレックス!まだ殺すな!」  アレックスの言う事は正しい。それが最もリスクが少なく確実だからだ。  だが素直にそれに従うことは出来なかった。  それは人殺しに対する忌避感から来るものかもしれないし、目の前にある事実だけで犯人と思われている男を  断罪してしまい、逃れられない罪を負った後悔からくるものかもしれなかった。  あの出来事以来、特捜隊の絆はバラバラになりかけてしまっているのだから。同じ過ちを繰り返したくないという 思いは常に心にあるのだから。  けれども他にいいアイディアがすぐには思い浮かばない。 だがどうにかしなければと口を開いたその時—————  「————〈ペルソナ〉————」  ……えっ……?  聞き覚えのある声の方に顔を向けた瞬間………花村たちが知覚したのは、白い光、そして爆発による轟音と 衝撃だった。  大きく吹き飛ばされたアレックスは、混乱しながらもあたりを見回し、仲間と襲撃者の姿を探した。  少し離れた所にマスターたちがいる。マスターの意識はしっかりしているし、リインフォースも無事だ。  名無は目を回しているが、大怪我をしていないのを確認すると、冷静に状況把握に努める。 (なにが起こった?あのサーウァントには目を離さなかった…あいつのマスターの仕業か……?  いやそれよりもあの光、対魔力を無視してダメージをあたえたぞ……!?)  傷自体はすでに塞がっているが、自分の常識を超える魔術に少なからず驚きをあたえた。  花村は、アレックスとは違う意味で驚きを隠せなかった。  それは突然不意を撃たれたことよりも、白い光の正体が、自分の仲間である白鐘直斗が得意とする スキル、メギドラであった事よりも、ソレを放った人物が、ある意味この会場で一番会いたくなかった 人間であったことだった。  銀髪に眼鏡をかけ、学生服を身を纏ったその姿は、間違えようも無く、自分の相棒、鳴上悠……!  「悠……!?なんでお前がここに……!?」  明らかに動揺している花村に対し、悠は特に表情を変えることなく…  「“ジオンガ”」  頭上から降り注ぐ落雷が花村を襲う。    「ガアアアア!!?」    動揺でまともに反応できなかった花村は、落雷の直撃を喰らい膝を付く。  頭は激しく混乱していたが、それでもなんとか視線だけでも悠の方へ向け、詰問する。  「悠、お前どうして…殺し合いに乗ったのか!?」    混乱、動揺、そして僅かな…自分に向けられる恐怖…  様々な感情をごちゃ混ぜにした表情を見せる相棒に、悠は微笑を浮かべて口を開いた。  「陽介、これは必要なことなんだ。あの人の理想とする天国に到達するために。 天国へ到達すれば幸せになれるんだ。また皆と、笑い会える日が来るんだ。」                .................      そう言って花村を見る表情は、柔らかい笑顔だった。  多くの人が絆されるであろうその笑顔を見た花村に浮かんだ感情は、紛れも無い恐怖だった。  まるで嵐の中を、傘も差さずに笑いながら歩く人を見たような…理解できない感覚が花村を襲った。    なんだこれは……これは誰だ……?俺は悪い夢でも見ているのか……?     このとき殺し合いに乗った動機が、奈々子を生き返らせるためだとか、あるいは自分と同じ、 あのときの選択を無かったことにしたいというならば、まだ理解することができた。  しかし相棒は、そのどれでもなく、天国に到達するという、まるで訳が分からないことをいう。  それでも必死に理性をかき集め、この状況をなんとかしなければと、立ち上がろうとしたが…  「“ジオンガ”」  再び放たれた落雷に為す術もなく……意識を刈り取られた。    「マスター!?」  新手のマスター、おそらくこの襲撃者のサーウァントのマスターなのであろう。銀髪に眼鏡をかけたその人物は、 自分のマスターとおそらく同一の魔術(マスターはペルソナと呼んでいた)を使い、自分のマスターに雷撃を喰らわ せていた。急ぎマスターの急助しようと駆けつけようとした時、目の前に再び青いサーウァントが立ちふさがった。  全身のダメージなど意に介さない攻撃に、アレックスは舌打ちした。  「この…っ!死に掛けの分際で……!そこをどけえ!!」  もはや加減するなど選択肢は頭に無く、一刻も早くマスターの救援に向かおうとするアレックスに、追い討ちを かけるかのように、不運が襲う。  (マスターの魔術の効果が……!?今このタイミングではマズイ!)  時間経過の影響で、アレックスに掛かっていた“マハスカクジャ”の効果が消えてしまい、再び敏捷値が元のB+へと 戻される。それは今この場においては、最悪の事態だった。  相手のスピードにアレックスが追いつくことが出来ず、防御することで精一杯になったのだ。  いくらスキルによりダメージ耐性がつこうと、まったく効かないわけではないのだ。  さらにマスターが気絶した姿を視界に映し、何時ものように冷静に攻撃を対処することができない。  奇しくもそれは、先ほどまであいてのサーウァントと似た状況に陥っていた。  (このままではっ……キャスター……!頼む…!)      「くそ、何が起きたんだ……?」  リインフォースは爆発の影響で、アレックスと花村の、ちょうど中間地点にいた。近くで名無が倒れている。 急ぎ様子を窺うが、目を回しているだけで、命に別状は無いようだ。すぐに目を覚ますだろう。  花村の方へ目を向けると、膝を突きながら相手のマスターと何かを話し、そして雷撃を浴びせられ倒れ伏せていた。  そのまま心象世界の具現化の魔術(花村が言うにはペルソナというらしい)を実体化させ、その刃を花村めがけて振り下ろ そうとしていた。  「っさせない!」  速度重視で放たれた魔術弾、フォトンランサーが悠目掛けて殺到する。  しかし相手は慌てる事無くペルソナの太刀を回転させ弾き、花村から距離を取る。  しかし元々牽制程度放った攻撃だ。落胆することなく本命の攻撃を放つ。  「ブレイズキャノン!」  熱量を伴う破壊魔法が襲い掛かるが、ブフーラを放ち相殺する。  そのまま低空飛行でリインフォースに突っ込む。接近されることを望まないリインフォースはアクセルシューター を放つ。誘導制御型に分類されるその魔術は、さながらホーミングレーザーのように伊邪那岐禍津大神に殺到する。  しかしまるで魔術弾の軌道が解っているかのように避けながら近づいてくるソレに、リインフォースは驚きを隠せない。  それは伊邪那岐禍津大神の持つスキル、“大天使の加護”魔法系スキルの3倍回避という、魔術師にとっては天敵といっても 過言ではない能力だった。  そのまま至近距離まで近づかれる。咄嗟の判断でシールドを展開、間一髪で振り下ろされる矛から身を守ることができたが、 そのまま身動きができなくなってしまう。       ��������������  花村のほうへ視線を向けるリインフォース、そこには、鈍色に輝く日本刀を振り上げる襲撃者の姿が映った。  「バイバイ陽介………」  振り下ろされる刃———  「や……やめろおお!」  リインフォースの絶叫———  そして——————  「させるかあ!」  しかしその凶器は、花村に到達することなく弾き返された。  意識を取り戻した名無が、間一髪のところで間に割り込み、槍王で日本刀を弾き返す。    「鉄之介さま華麗に参上!ダチのピンチに颯爽と現れ助けるおれ様だぜえ!」  そういって槍王を振りかざし、悠を大きく吹き飛ばす。  攻撃を喰らったことでペルソナの制御が緩み動きが鈍くなる。  その隙を見逃さず、リインフォースはフォトンバレットをペルソナに目掛けて撃ちだす。  ごく初級な射撃魔法だが、熟練者が放てば必殺の一撃となるそれは、爆発を起こし大きく相手を吹き飛ばした。  その隙に名無と合流するリインフォース。名無も花村を背後に庇い、目の前の男に槍王を向ける。  「無事かリインちゃん!?」  「わたしはなんとも無い!それより花村は!?」  「心配ねえ、気絶してるだけだ、命に別状はなさそうだぜ。」  そういって心配を和らげるように笑いかける名無、その言葉をきいてリインフォースもホッと息をはいた。  「残念……失敗したか……」  口ではそう言いつつも笑顔を浮かべる相手に、名無とリインフォースは臨戦態勢をとる。  もともとたいしてダメージをおっていなかったのだろう、どこか余裕を感じさせる雰囲気をただよらせる。  「おまえさあ、花村のダチなんだろ?なんでコイツのこと殺そうとしてんだよ。」  「必要なことだからさ。もし陽介が俺のやることに協力してくれるならよかったんだけど、きっと陽介は 止めようとするだろうから……だからまあ、しょうがないかなって。」  どこか困ったかのように笑う悠。  しかしすぐにいつもとおなじ鉄火面のような顔に戻ると、静かな声で宣言した。  「じゃあ第二ラウンドをはじめようか。」  to be Continued…… |NEXT| |[[絆物語(後編)]]|
 「■■■・・・」  「どうしたランサー?」  南の方角へ進路をとっていた悠は、実体化したランサーを怪訝な顔で見た、しかしランサーは そんな声に見向きもせず、ただ前方を睨むと、全力で走り去っていった。  最初は訝しげに見ていた悠だったが、ああ、と納得し。    「他の参加者がいるのか。」    狂化の影響で索敵のルーンを始めとした幾つかのルーン魔術は使えなくなったが、他のサーヴァント を探知する力は健在であった。走り去ったランサーを見た悠はいつも通りの表情で  「しょうがないな。」  まるで手のかかる家族を相手にするような微笑ましい気持ちになりながらも見送って、 パスを辿るように自分も後を追った。 その顔はいつも通りの、笑顔だった。   最凶のサーヴァント、アシュナードとの戦闘を終えた花村たちは、休める場所を探して市街地に来ていた。 特に名無の負傷は大きく、リインフォースの魔術で傷は治ったが、失った血液までは戻せなかった。 また花村自身も、一人でアシュナードのマスター、ゼフィールを相手に(防戦一方だったとはいえ)一人で相手 していたため疲労が大きく、(アシュナード相手にそれだけですんで御の字なのだが)一度休息を取ろうと いう意見で、近くのレストランで食事を取った。 一応は怪我人だというのに、まるで意に介さないとばかりに次から次へと注文する名無に花村は呆れながら 見ていた。名無曰く  「せっかく金使い放題なのに、食べなきゃ損ジャン!」 と、小市民ぶりを発揮した。(アレックスとリインフォースも実体化し食事を取っていた。 僅かだが魔力が補給できるらしい) 腹ごしらえと休息をとった一同はレストランを後にし、装備を調えるため店を回った。 携帯食料、医薬品、予備の服にいざという時の連絡手段で名無の分の携帯電話。その他アレックスやリインフォース のアドバイスで、こういった時に役に立つ物を何点か購入し、そしてホームセンターで目的のものを購入した。 「なんだソレ?スパナ?」  「ああ、ペルソナだけじゃいざという時不安だからな。」 そういいながらクルクルとペン回しのように器用に扱ってみせた。 (ほんとはクナイとかの方がよかったんだけど、さすがにだいだらみたいな店はないか・・・) というかあの店は営業して大丈夫なんだろうか?刀剣類はともかく銃まで置いてあるのだが。  「マスター、準備が出来たぞ。」  「わかった!今行く!」  ワゴン車に乗ったアレックスの下へ集まる。かなりの量になった荷物をそのまま運ぶには移動の邪魔に なるので、アレックスに金を渡し車を買ってきてもらった。 アレックスには騎乗スキルは無いが、生前の経験を活かし、普通に運転する分には何の問題も無かった。 (さすがに乗ったことの無いものや動物は不可能らしいが)  「おい・・・」  「なんだ・・?」  運転するアレックスにリインフォースはおずおずと声をかけた。    「その、さっきは悪かったな・・。」    アシュナードの恐怖に呑まれ、あやうく死にかけた自分を身を挺して庇ったおかげで名無の救援が間に合ったのだ。 もしあの時庇ってもらえなければ、自分と名無の聖杯戦争は終わってしまっていただろう。 バツの悪そうなリインフォースを横目でちらりとだけみて、  「気にするな。あそこでお前がやられたら俺もどうなっていたかわからん。それに名無のおかげであいつとの  戦闘を終わらせることができた。むしろ俺の方こそ礼をいわねばならん。」  実際もしあのままリインフォースが死んでしまえば、ただでさえ強力なサーウァントであるアシュナードに加え 宝具らしき物を持っていた敵のマスターもいたのだ。そうなれば逃げることさえ難しくなる。 自分はまったく気にしてないという風なアレックスだったが、それでも自分では納得できないのか、何か言おうと 口を開けたとき 「なあ花村、このメイド服の子可愛くないか?胸もでかいし。」 「いやーそっちの子よりこのナース服の女性だろ。くびれといい、脚線美もいいし。顔だってかわいい」  マスター二人が後部座席でエロ本を読んで感想を言い合っていた。 アレックスは何も言わずに運転を続け、リインフォースは頬を引きつらせる。 そんな二人の様子に気づかず、さらに会話はヒートアップしていく。    「分かってねえよ花村!胸にはロマンが詰まっているんだよ!ただ大きければ良いと言うんじゃない。 形が悪ければ台無しになるけど形だけでもだめなんだ!その二つのバランスは芸術の領域なんだ!小宇宙なんだ!」  「胸にロマンが詰まっているのは認める、だけど名無、胸だけじゃ駄目なんだ!全体のバランスが 悪ければいくら胸が完璧でも台無しなんだ!もっと他の部分にも目を向けないともったいないぜ!」   「他の部分にも目を向けろって言うけど花村さっきからナース物しか見てないぜ!そういうなら 他のジャンルにも目を向けるべきだ!」  「いや誤解だ!確かにメイドも巫女さんも素晴らしいがあれはエロというより萌えの領域で——」  「 花村の馬鹿チン!萌えというのは見る側の魂の在りよう!言ってみればあらゆるものは萌え に繋がりひいてはエロに繋がるんだ!」  「—————名無もいろいろ間違ってると————」  「——萌え———エロ———もえ———」  「————エロ———もえ———エロエロ———」  「もえ———えろ?———燃え———もえもえ———」 延延と続くその会話を聞き、運転席の男が会話に割り込んだ。  「マスター、常に集中しろとまでは言わないがもう少し緊張感を持て。」  「へいへい、わかったよ。」  エロ本を名無に返し、背もたれに体重を預ける。外の風景を眺めながら、花村はふと声をかけた。  「そういや学校の場所わかんのか?」  「学校や教会の場所など重要施設の場所は、ムーンセルにより頭に入っている。」  なるほど、確かに考えてみれば監査役の場所と情報を得られる重要施設の情報はマスターに共有 されなければフェアでは無いだろう。そう納得し窓の外を眺めているとアレックスが先ほどとは違い 緊張した声で全員に声をかけた。  「敵のサーウァントだ、こちらにまっすぐ向かってきている。」  リインフォースも気づいたのかいつでも戦えるよう準備をし、マスター達に指示を仰いだ。  「どうする?車から降りて戦うか?それとも進路を変えにげるか?」  アレックスの傷も塞がっているし自分も無傷だ。マスター達の怪我と疲労も、休息を取ったことにより 全快とまではいかなくても戦闘には支障はない。戦おうと思えばいけるだろう。 後部座席を振り返ったリインフォースが見たものは 「いや〜!!またさっきみたいなやばいオッサンみたいのがくるのおおおお!!あ、でも剣持った 金髪美少女だったら愛でられる!それか黒髪ロングのお姉さん系でもよし!でもやっぱこわいいいい!」  一人怯えたり締まりの無い顔で妄想したりまた怖がったりを繰り返す自分のマスターだった。 さっきの感動を返してほしい。少しでもときめいた自分がバカみたいで・・・ (って違う!さっきのあれはノーカンだ!ちょっとかっこいいと思ったのも気のせいで・・って 違う!そんなこと考えてるときじゃない!)  ぶんぶんと頭を振り同盟者の少年を見る。少し考える表情をしたがすぐに自身の相棒に向き  「迎え撃つぞアレックス!、だけど倒すことより俺たちが生き残ること優先だ。危なくなったら すぐに退く、全員の安全を一番に考えて動こう。」    敵を倒すより全員の安全を優先する考えにいたったのは、かつて特捜隊で培った経験からだった。 多くのシャドウが徘徊するダンジョンでは、ペース配分を間違えたり装備の補給を怠った事により ピンチに陥る。そのためよく考えて行動し、準備を怠ってはならないのだ。(もっともその辺は リーダーにほぼまかせっきりだったのだが)  (こういうとき相棒の有難味がよくわかるな・・・あいつみたいに頭よければもっといいアイディア 出すんだろうけど、俺じゃこれが精一杯の最善の行動だ)  苦笑しつつ先ほど買ったスパナを握りしめる。  「了解した。どの道もう逃げ切れん。この速度、ランサーかライダーといったところか・・・」  車から降りた一同が目にしたのは、こちらにまっすぐ突っ込んでくるのは、青いタイツのような服に赤い 槍を構えた騎士だった。その表情は狂気に満ちており、尋常ならざる様子だった。 いつでもブリューナグの槍を放てるよう前方に手をかざすアレックスと臨戦態勢をとるリインフォース 花村、名無も槍王、ジライヤを発動させ身構える。  「■■■■■■■■!」  花村の方へ真っ直ぐ突っ込んでくるサーウァントに、アレックスが迎え撃った。他の三人とは違い、まるで 何か花村に訴えかけるかのように見るが、すぐにアレックスの方へ攻撃を繰り出した。  紅き魔槍で刺突を繰り出す襲撃者に対し、アレックスは徒手空拳で応戦する。  リインフォースも魔力弾を撃ちだすが、あるものは槍で打ち落とし、またあるものはその敏捷さでかわしていった。    「バーサーカーのサーウァント?でもこの対魔力、三騎士クラス・・・じゃああれはランサー? 無理やり狂化させられてるのか?」  冷静に相手の能力を分析しつつ心の中で舌打ちをする、自分の援護はあまりこの場面では役に立たないだろう。  相手の対魔力はおそらくCランク、それなら大規模な魔術を防ぐことは出来ないのでまったく役に立たないわけではないが、 そうすればアレックスをも巻き込んでしまう。  なら自分はマスター達の護衛に回る。それに自分がサポートできずとも、自分より立場的にも能力的にも 相応しい人間がここにはいるのだ。   「いっくぜえ!ジライヤ、“マハスカクジャ”!」  ジライヤの魔術によりアレックスの敏捷値がB+からA+へと底上げされた。これによりステータスの差は ほぼ無くなったといっていいだろう。そのスピードに防戦だったアレックスはマスターの援護により戦況 も盛り返す。相手のサーウァントは、目の前の男が急に速くなったことに驚いた表情をしたが、 すぐにまた目の前の男を殺そうと突撃を繰り返した。   二人のサーウァントの戦闘の影響を受けないギリギリの位置でリインフォースは防御結界を張る。  目の前のサーウァントのマスターに狙われないようにする配慮であったしアサシンを警戒しての行動だった。  話に聞いたアサシンの攻撃がどの程度のランクなのかは分からないが、完全に防ぐことは敵わずとも、即死 することは無い様にし、生き残って全力でマスター二人を連れて逃げるための保険だった。    「■■■■■■!!」  「っふ!」  赤い槍が心臓を貫かんと繰り出せば、ARM化した腕で軌道を逸らす。反撃とばかりに拳を繰り出すが、顔を 傾ける事で回避した。神代の槍兵が、魔槍を薙ぎ、振るい、突けば、近代の槍兵が鋼鉄の腕で弾き、逸らし、受け流す。 二人のサーウァントは一進一退の攻防を繰り広げていたが、徐々に戦局が傾いてくる。 「■■■■■■■■!?]  目の前のサーウァントはいくら魔槍で傷つけようが傷が再生し、何事も無かったかのように反撃してくるのだ。 回復阻害の呪いをも超える再生能力を持つアレックスに対し、ダメージが蓄積されるランサーだが、狂化による 影響と、戦闘続行のスキルにより、なんとか持ちこたえていた。しかしこのままでは危険だと本能で判断したのか、 一旦距離を取ろうと後ろに跳躍する。しかし,そうさせまいとアレックスが追撃をかける。 苦し紛れの一突きを最低限の動作でかわし、がら空きになった身体にカウンターを叩きつける。 なおも攻撃しようと大降りな攻撃を仕掛けようとするが、それよりも速くアレックスの拳がランサーの顔面を殴り飛ばし、 地面にバウンドしたランサーの身体を踏みつけて身動きを封じ、  「一応死なない程度には加減してやる。」  そう言って両掌に魔力を集中し、荷電粒子を形成する。通称“ブリューナクの槍”と呼ばれる荷電粒子砲が ランサーの背面に直撃した。 「■■■■■■■■■■!!?」  声にならない叫びを上げたランサーは、何度か痙攣をすると、やがて力を失い、バタリと両手足を倒した。  もしも令呪によって狂化されず、純粋に己の技能だけで戦っていたら、ここまで一方的な戦いにはならなかっただろう。 磨き上げられた槍術と神代のルーン魔術を使えば、互角の試合に持ち込めていたであろう。 しかしここにいるのは、誇り高きアイルランドの光の御子ではなく、吐き気を催す邪悪DIOの策略により理性と誇り、 そして何より、マスターを操つられ自分たちの絆を汚された、一人の悲しい騎士だった。  油断無くランサーを睨むアレックスと、少し離れた距離で様子を窺う花村たち。 一応意識はあるようだが、これだけ痛めつければ自分たちを倒すことは不可能だろうと、念のため何が起ころうと 対処できるように注意し、花村たちに合図を送る。 合図を受けたマスター達は、アレックスの近くに集まると労いの言葉をかける。  「さんきゅーアレックス、無事でよかったぜ。」    「いやすごいなアンタ、ほとんど同じステータスだったのに圧勝だったな。」  勝利を喜ぶマスター達だったが、当の本人のアレックスは、いつもと変わらない顔でしずかに言った。  「いや、おそらくこいつは全力を出せていなかった。ただ力まかせの攻撃であったしおそらくダメージを 負っていたんだろう。所々に傷があった。それでもあの動きが出来るというのは驚きだがな。」  そう言って改めて襲撃者のサーウァントを見る。 他の全員も注意深く観察していた。  「それで、こいつをどうするんだ、説得が通じる相手ではないだろう。」  リインフォースが目線は襲撃者に向けたまま、マスター二人に問いかけた。  「ハイ!イケメン名無君としては怖いから関わりたくないな!美女でも美少女でもない青タイツの男 なんて全力でNO!このまま放置を提案します!そうしよう!さあ行こう!全力でGO!・・ぐほぅ!!」  自分のマスターの脇腹に全力のボディーブローを叩き込みながら花村へと視線を向けた。 足元で名無しが蹲っているが気にせず放置だ。心なし喜んで見えるのは気のせいだと思いたい。 そんな二人を、花村は若干引きつった顔で見ながら、パートナーに声をかける。      「こいつのマスター、近くにいるか?」  「判らん。バーサーカーとして召喚されたのであれば、コントロールすることを諦めて自分は安全な所に いるのかもしれんが」  「なにもわからないか・・・」  このままこのサーウァントを放置すれば、いずれ回復して他の参加者を襲うだろう。 被害を減らすという意味ではこのまま止めを刺すべきなのだが、万が一こいつのマスターがただ生き残りたい だけの一般人だったら?あるいは誰かに脅されて仕方なかったのだとすれば? それらの多くの可能性が、花村の頭を悩ませていた。 「俺としてはマスター、こいつは此処で始末しておくべきだ。放っておけば再び牙を剥くかもしれん。 そして連れて行くには危険が大きすぎる。全員の安全を考えるという命令なら止めを刺しておいたほうがいい。」 「・・・・っ!」  アレックスは掌を襲撃者に向け魔力を溜める。やろうと思えばいつでも止めを刺すことができるだろう。  「だめだアレックス!まだ殺すな!」  アレックスの言う事は正しい。それが最もリスクが少なく確実だからだ。  だが素直にそれに従うことは出来なかった。  それは人殺しに対する忌避感から来るものかもしれないし、目の前にある事実だけで犯人と思われている男を  断罪してしまい、逃れられない罪を負った後悔からくるものかもしれなかった。  あの出来事以来、特捜隊の絆はバラバラになりかけてしまっているのだから。同じ過ちを繰り返したくないという 思いは常に心にあるのだから。  けれども他にいいアイディアがすぐには思い浮かばない。 だがどうにかしなければと口を開いたその時—————  「————〈ペルソナ〉————」  ……えっ……?  聞き覚えのある声の方に顔を向けた瞬間………花村たちが知覚したのは、白い光、そして爆発による轟音と 衝撃だった。  大きく吹き飛ばされたアレックスは、混乱しながらもあたりを見回し、仲間と襲撃者の姿を探した。  少し離れた所にマスターたちがいる。マスターの意識はしっかりしているし、リインフォースも無事だ。  名無は目を回しているが、大怪我をしていないのを確認すると、冷静に状況把握に努める。 (なにが起こった?あのサーウァントには目を離さなかった…あいつのマスターの仕業か……?  いやそれよりもあの光、対魔力を無視してダメージをあたえたぞ……!?)  傷自体はすでに塞がっているが、自分の常識を超える魔術に少なからず驚きをあたえた。  花村は、アレックスとは違う意味で驚きを隠せなかった。  それは突然不意を撃たれたことよりも、白い光の正体が、自分の仲間である白鐘直斗が得意とする スキル、メギドラであった事よりも、ソレを放った人物が、ある意味この会場で一番会いたくなかった 人間であったことだった。  銀髪に眼鏡をかけ、学生服を身を纏ったその姿は、間違えようも無く、自分の相棒、鳴上悠……!  「悠……!?なんでお前がここに……!?」  明らかに動揺している花村に対し、悠は特に表情を変えることなく…  「“ジオンガ”」  頭上から降り注ぐ落雷が花村を襲う。    「ガアアアア!!?」    動揺でまともに反応できなかった花村は、落雷の直撃を喰らい膝を付く。  頭は激しく混乱していたが、それでもなんとか視線だけでも悠の方へ向け、詰問する。  「悠、お前どうして…殺し合いに乗ったのか!?」    混乱、動揺、そして僅かな…自分に向けられる恐怖…  様々な感情をごちゃ混ぜにした表情を見せる相棒に、悠は微笑を浮かべて口を開いた。  「陽介、これは必要なことなんだ。あの人の理想とする天国に到達するために。 天国へ到達すれば幸せになれるんだ。また皆と、笑い会える日が来るんだ。」                .................      そう言って花村を見る表情は、柔らかい笑顔だった。  多くの人が絆されるであろうその笑顔を見た花村に浮かんだ感情は、紛れも無い恐怖だった。  まるで嵐の中を、傘も差さずに笑いながら歩く人を見たような…理解できない感覚が花村を襲った。    なんだこれは……これは誰だ……?俺は悪い夢でも見ているのか……?     このとき殺し合いに乗った動機が、奈々子を生き返らせるためだとか、あるいは自分と同じ、 あのときの選択を無かったことにしたいというならば、まだ理解することができた。  しかし相棒は、そのどれでもなく、天国に到達するという、まるで訳が分からないことをいう。  それでも必死に理性をかき集め、この状況をなんとかしなければと、立ち上がろうとしたが…  「“ジオンガ”」  再び放たれた落雷に為す術もなく……意識を刈り取られた。    「マスター!?」  新手のマスター、おそらくこの襲撃者のサーウァントのマスターなのであろう。銀髪に眼鏡をかけたその人物は、 自分のマスターとおそらく同一の魔術(マスターはペルソナと呼んでいた)を使い、自分のマスターに雷撃を喰らわ せていた。急ぎマスターの急助しようと駆けつけようとした時、目の前に再び青いサーウァントが立ちふさがった。  全身のダメージなど意に介さない攻撃に、アレックスは舌打ちした。  「この…っ!死に掛けの分際で……!そこをどけえ!!」  もはや加減するなど選択肢は頭に無く、一刻も早くマスターの救援に向かおうとするアレックスに、追い討ちを かけるかのように、不運が襲う。  (マスターの魔術の効果が……!?今このタイミングではマズイ!)  時間経過の影響で、アレックスに掛かっていた“マハスカクジャ”の効果が消えてしまい、再び敏捷値が元のB+へと 戻される。それは今この場においては、最悪の事態だった。  相手のスピードにアレックスが追いつくことが出来ず、防御することで精一杯になったのだ。  いくらスキルによりダメージ耐性がつこうと、まったく効かないわけではないのだ。  さらにマスターが気絶した姿を視界に映し、何時ものように冷静に攻撃を対処することができない。  奇しくもそれは、先ほどまであいてのサーウァントと似た状況に陥っていた。  (このままではっ……キャスター……!頼む…!)      「くそ、何が起きたんだ……?」  リインフォースは爆発の影響で、アレックスと花村の、ちょうど中間地点にいた。近くで名無が倒れている。 急ぎ様子を窺うが、目を回しているだけで、命に別状は無いようだ。すぐに目を覚ますだろう。  花村の方へ目を向けると、膝を突きながら相手のマスターと何かを話し、そして雷撃を浴びせられ倒れ伏せていた。  そのまま心象世界の具現化の魔術(花村が言うにはペルソナというらしい)を実体化させ、その刃を花村めがけて振り下ろ そうとしていた。  「っさせない!」  速度重視で放たれた魔術弾、フォトンランサーが悠目掛けて殺到する。  しかし相手は慌てる事無くペルソナの太刀を回転させ弾き、花村から距離を取る。  しかし元々牽制程度放った攻撃だ。落胆することなく本命の攻撃を放つ。  「ブレイズキャノン!」  熱量を伴う破壊魔法が襲い掛かるが、ブフーラを放ち相殺する。  そのまま低空飛行でリインフォースに突っ込む。接近されることを望まないリインフォースはアクセルシューター を放つ。誘導制御型に分類されるその魔術は、さながらホーミングレーザーのように伊邪那岐禍津大神に殺到する。  しかしまるで魔術弾の軌道が解っているかのように避けながら近づいてくるソレに、リインフォースは驚きを隠せない。  それは伊邪那岐禍津大神の持つスキル、“大天使の加護”魔法系スキルの2倍回避という、魔術師にとっては天敵といっても 過言ではない能力だった。  そのまま至近距離まで近づかれる。咄嗟の判断でシールドを展開、間一髪で振り下ろされる矛から身を守ることができたが、 そのまま身動きができなくなってしまう。       ��������������  花村のほうへ視線を向けるリインフォース、そこには、鈍色に輝く日本刀を振り上げる襲撃者の姿が映った。  「バイバイ陽介………」  振り下ろされる刃———  「や……やめろおお!」  リインフォースの絶叫———  そして——————  「させるかあ!」  しかしその凶器は、花村に到達することなく弾き返された。  意識を取り戻した名無が、間一髪のところで間に割り込み、槍王で日本刀を弾き返す。    「鉄之介さま華麗に参上!ダチのピンチに颯爽と現れ助けるおれ様だぜえ!」  そういって槍王を振りかざし、悠を大きく吹き飛ばす。  攻撃を喰らったことでペルソナの制御が緩み動きが鈍くなる。  その隙を見逃さず、リインフォースはフォトンバレットをペルソナに目掛けて撃ちだす。  ごく初級な射撃魔法だが、熟練者が放てば必殺の一撃となるそれは、爆発を起こし大きく相手を吹き飛ばした。  その隙に名無と合流するリインフォース。名無も花村を背後に庇い、目の前の男に槍王を向ける。  「無事かリインちゃん!?」  「わたしはなんとも無い!それより花村は!?」  「心配ねえ、気絶してるだけだ、命に別状はなさそうだぜ。」  そういって心配を和らげるように笑いかける名無、その言葉をきいてリインフォースもホッと息をはいた。  「残念……失敗したか……」  口ではそう言いつつも笑顔を浮かべる相手に、名無とリインフォースは臨戦態勢をとる。  もともとたいしてダメージをおっていなかったのだろう、どこか余裕を感じさせる雰囲気をただよらせる。  「おまえさあ、花村のダチなんだろ?なんでコイツのこと殺そうとしてんだよ。」  「必要なことだからさ。もし陽介が俺のやることに協力してくれるならよかったんだけど、きっと陽介は 止めようとするだろうから……だからまあ、しょうがないかなって。」  どこか困ったかのように笑う悠。  しかしすぐにいつもとおなじ鉄火面のような顔に戻ると、静かな声で宣言した。  「じゃあ第二ラウンドをはじめようか。」  to be Continued…… |NEXT| |[[絆物語(後編)]]|

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