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Assault of Dreadnoughts(前編)」(2013/01/12 (土) 02:04:25) の最新版変更点

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何ともタイミングの悪い。 内心で悪態を吐くが、こうなってしまってはどうしようもない。 アシュヒト・リヒターに落ち度はない、あるとすれば相棒たるセイバーの方。 戦闘や能力の落ち度ではなく、ただ、彼女には『現代の知識』というこのチーム最大の難問をどうにもできなかった。 聖杯から必要な知識を与えていられたハズ———にも関わらず、彼女は全くそれを咀嚼できず、主人たるアシュヒトに伝えられない。 『アシュヒトの知識』は、『現代の知識』に比べて遥かに時代遅れである。 アシュヒトはこれが大きくチームの足を引っ張ると予測し、そして実際に引っ張った。 時を巻き戻す。    ◇ 見たこともない機械が街に溢れ、魔法と見紛う怪奇なものが人々の日常に溶け込んでいる。 道行く人達が、顔の側面に箱を当てて会話するように独り言を吹き込む。あの箱は何なのか? 推測で、あれは『その場にいない誰かと会話するモノ』と仮定する。 何とも便利そうではないか。 魔術による念話が難しいアシュヒトでも、あれを使えばセイバーと精密な遠距離での連携が取れるのでは——— 逆に言えば、あれを他のマスターが駆使すれば、超遠距離からの精密な攻撃も可能なのだろう。 魔力探知に優れたセイバーでも、それを防ぎきれるかどうか。 ぞっとしない話である。 なので、一縷の望みをかけて、自分のセイバーに質問する。 「あれはどうやって使うのですか?どこで買えばいいんですか?」 結果から言えば、セイバーは何も答えられなかった。 携帯電話なぞどこにでも専用のショップがあるが、そんな知識は与えられていない。 携帯電話が何なのかという知識はあるが、謎のボタンが羅列してある謎の固体としか解釈できない。 ラクチンホンですら知らない。タッチパネル式アンドロイドなぞボタンが無くて混乱してしまう。 不審者よろしく片っ端から一般NPCに話しかけて質問するほうが有意義である。 そう判断したアシュヒトは、現代人と思しきマスターを誘拐・無力化し、必要な情報を得るという手段に出た。 『人』ではないNPC達(在り方がフランケンシュタインに似ていたため理解できた)は、詩音を連れたアシュヒトに興味を示さない。 何処か隠れる場所を探し、そこで情報を得る…そのつもりでいた。 魔力を使用しないテレサの索敵能力なら他の参加者に気づかれない。 精密な妖力コントロールで、索敵を得意とするアーチャーのクラスをも出し抜ける。 それは大きなアドバンテージであると同時に 『油断』 だったのかもしれない。 テレサは決して油断も慢心もしていたわけではない、それこそが油断だったのだ。 だからテレサは責められるべきではない。 ただ単に、ただひたすらに、 タイミングが悪かった、それだけの話。 「あの部屋に他に誰かいましたか?」 「あなたのバーサーカーと交戦したアーチャーとアサシンに心当たりは?」 「ケイタイデンワと呼ばれる物について、答えてください」 先程交戦したバーサーカーもしくはアーチャーの襲撃を予想(そして半ば期待)して、人目につかないショッピングモールの裏路地にて 気絶している詩音を拘束し、揺り起こして質問を始めていた矢先の事だった。 己のサーヴァントが、高速で飛来する存在を察知し、主へと手短に伝える。 「どうして見つかったんだ?こっちにデカい何かが高速で飛んでくる、おそらくライダー。」 自身の最も強力な能力である妖気探知でも、敵の索敵を検知できなかった。 索敵スキルを使った形跡がなく、テレサの顔は一瞬曇る。 「戦闘を避けられない以上、NPCを盾にして広範囲攻撃を防ぎます」 悩むテレサを他所に、アシュヒトは即断する。 どうやってか自分達の存在を見つけ出し、かつ、移動速度からみて『好戦的なライダーに見つかった』としか言えない。 テレサ単騎の戦闘能力は高いものの、アシュヒトを守るという一点については不得手としか言い様が無い。 相手の索敵方法が不明な以上、アシュヒトだけ隠れても発見され、瞬時に殺害される可能性がある。 「相手がライダーなら、その乗機が武器である可能性が高いでしょう。  爆撃や掃射等を繰り出してくる可能性が高い以上、他に手はありません。」 「よし、迎え撃つぞ」 自分に抗う体力がない事を理由としてか、セイバー主従は自分を置いて新たな敵との戦闘に向かってしまった。 単純に考えれば下策にもほどがあるが、折角捕らえたマスターを殺すのは更なる無駄手間で、 今から詩音に何らかの対処をするには時間が無さすぎた。 誰も居ない裏路地に独り、拘束されたまま取り残される。 (ケイタイ電話?なんですかそれ。電話ボックスでも持ち歩くんですか?) 短いやり取りを見ていたが、詩音には状況がいまいちわからない。 セイバーの主人に投げかけられた質問に答えるより先に、事態が変わってしまった。 自分のバーサーカーは何処にいるかわからず、先程の質問にもほとんど答えられない詩音には幸運だった。 (アーチャー?アサシン?そんなに大規模な戦闘だったんですか、道理で体が…) (あんなに強い奴が他にもわんさか居たんでしょうね……今、私がこうして生きているのが不思議です) 知らぬ間にアーチャー、アサシン、セイバー、バーサーカーの四竦みの乱闘をしていたらしい。 アシュヒトの連れたセイバーを見た時、基準はわからないが能力値を見て、詩音の心を絶望が占めた。 予想するに、おおまかにAからEの5段階で能力はランク付けされているのだろう。 詩音も学生である。思い出したくも無い成績の通知表に似たものと考えれば、能力の差はなんとなく理解できる。 「バーサーカー……」 頭がうまく働かず、半ば朦朧とした意識の中で詩音は己が従者を思う。 自分と年齢のそう離れていない、自分と同じ眼をした少女。 あれだけ強い参加者たちと戦ったのだから、きっと無事では済んでいないだろう。 「まどかさん…でしたっけ。逃げ切れたんですね」 自分を助けようとしてくれた少女を思い出す。 どうして自分は彼女を庇ったのだろうか? 優勝を目指していたはずなのに、自分は彼女を庇った。 「……」 「ああ——」 「……そっか」 「バーサーカーに似てたんだ、あの子」 顔や表情は違っても、バーサーカーと違わぬ何かを、あの子は持っていたんだ。 自分とバーサーカーを繋ぐ絆とは違う、もっと綺麗ななにかを。 近くで轟音が鳴り響く。 裏路地で拘束された詩音には見えないが、さきほどまでここにいたセイバーの主従と 襲撃を仕掛けてきたらしいライダー達が戦っているのだ。 戦闘が始まってから何分経ったんだろう? 生きた心地などするはずもなく、ただ、自身へ再び迫る死への恐怖に跪くしかない。 自分はどうしてここにいるのだろうか。 自分で壊したのに。もう戻れないと知りながら、それでもかつての日常を想うのは。 「嫌…あきらめたくない……死にたくないっ…」 今までどこに行っていたんだろう、涙が止め処なく零れて頬を伝う。 ここまで勝利が絶望的でも、それでも奇跡に縋る。 「そうだ…まだ……あった」 『バー…サーカー』 心の中で強く、相棒に願う。 詩音の掌には、奇跡が刻まれている。 使い方はよくわからないし、どう使えばいいのかも疲弊した詩音の頭ではわからない。 悪知恵の利く性格ではあっても、知らないものは知らないのだ。 だから彼女が起こしたのは、令呪による紛い物の奇跡ではなく 本物の奇跡。 「■■■■■■■■■■!!」 令呪を使おうとしたその時、路地の向こうから、心に思い描き続けていた相棒が駆け寄ってくる。 筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運E 「えっ…えぇぇぇ!!!?」 必死でこちらに走ってくる彼女の姿は、なんとも既視感のある学生服姿で。 最初から決して高くないステータスは、更に絶望の漂うものになっていた。 かっこいい魔法少女かとおもった? 残念、ほぼ一般人でしたー! 「バーサーカー…無事だったんですね」 「■■■■■■■■■■!」 何を言われたのかわからないが、随分と久しく感じる相棒との再会。 今現在、バーサーカーの英霊、さやかは詩音を拘束するロープの結び目と格闘中である。 知能が下がるバーサーカーでは結び目を解くのが難しいらしい。 そしてアシュヒトの縛り方が随分と巧かったため、詩音もいわゆる縄抜けをすることができなかった。 「■■■■■■■■■■ー!!!」 普通には解けなかったため、力任せにバーサーカーが引きちぎろうとするも、何も変わらない。 今のさやかは、一般の成人男性と特に変わらない筋力なのだ。 どうして自分の英霊がここまで弱体化しているのかは詩音にはわからなかったが。 だが、その見た目の学生服に見覚えがあることは確かだった。 「それ、鹿目まどかと同じ制服……」 「■■■?」 その名を聞いた途端に、さやかの様子が変わる。 「■■■■■■■■!?」 「■■■ー!!!」 目の前の狂人は何を言っているのか全くわからないが、鹿目まどかの知り合いだということだけは(女の勘で)わかった。 「友達…だったんだ」 鹿目まどかを殺さなくて良かった。 聖杯戦争に参加して、ようやく詩音は自分の行動の結果を肯定できた。 鹿目まどかを殺していればきっと自分は……やっぱり自分を許せなかったと思う。 赤の他人をどんなに殺す覚悟をしていたとしても、それでも、自分の相棒の友人を殺していたら、きっと後悔していた。 「もっと早く気付けばよかったのに……これからどうすれば……」 ふりだしに戻ってしまった。この聖杯戦争で、詩音は自分がどうするのかをはっきりと決めていなかった。 今と同じ事で悩んでいたら、アーチャー(?)から襲撃された事を思い出す。 あれから何時間経ったんだろうか。方針を決めるだけで、随分と遠回りしてしまった気がする。 決して最初と同じではない。自分は疲労困憊、頼りのバーサーカーは謎の弱体化を遂げ、身動きが取れないのだ。 (はやく逃げないとあいつらが帰ってくる…) しかし、思考はまた新たな来客により中断される。 「あー、大丈夫か?」 (千客万来ですね…モテすぎるのも困りますねぇ) (聖杯戦争ってこんな短期間に連戦を続けるもんなんですか?これ辛すぎませんか?) バーサーカーの主人は、この短い時間内での何回目かわからないエンカウントに内心うんざりしていた。 「■■■■■■■■!? ■■■ー!!!」 バーサーカーが、主人を守ろうと敵の前に構え立つ。 一瞬で魔法少女の姿になり、魔力にて剣を生成し、詩音を庇う。 「ちょっと待って、バーサーカー。剣を作れたのならそれでロープ切ってよ」 「■!? ■■■… ■■■■■■■■!」 バーサーカーは剣を握りしめながら、ようやく自分が刃物を持っていることを思い出したらしい。 軽く剣を振り、詩音を拘束していたロープを切断する。 それでも体力を消耗していた詩音にはすぐに立ち上がる気力はない。 目の前でシリアスな笑いが勝手に展開されるが、客人のサーヴァントは構い無しに、自分の主人に声をかける。 「マスター。この人達、呪いをかけられているわ」 「呪いぃ!?」 客人は魔法に満ちた非常識の世界に連れてこられて尚、その単語に驚く。 それはバーサーカーの主人も同じらしく、動揺する。 (呪いって…… 心当たり——ありまくりじゃないですか) オヤシロ様の祟りだろうか、それとも随分と人を殺したからだろうか。 村の重要な神の生まれ変わりを惨殺した記憶のある詩音からすれば、当然の事とも言える。 いや、それより今『この人達』と言わなかったか? 「呪いって何だよ、どうなってるんだよ」 「治せると思うわよ」 「えっ」 「多分治せる」 「えっ」 「えっ」 「何それ怖い」 「治せるわよ」 「治せるのか?」 「でも殺すのよね?」 「えっ」 「えっ」 「殺すのか?」 「殺すんでしょ?」 「殺すんだけど……」 「殺すのね?」 「いや、ちょっと待ってくれ」 新たに現れたセイバーの主従、マスターの近藤剣司とサーヴァントのセリスがこちらに向き直る。 「あんたらも、その、やっぱり優勝を狙って殺しあうのか?」 何とも答えにくい質問。 イエスと答えれば、この場で殺されるのだろうなと詩音は考える。 ノーと答えれば、じゃあ何でここにいるのかという話になってしまう。 何も答えられない。 「■■■■■■■■■■!」 「待って、バーサーカー」 今にもセイバーの主従に飛び掛りそうな自分のバーサーカーを制し、考える。 これ以上の戦闘は、間違いなく詩音の身が持たない。 自分の消耗からして、ここでこの主従と戦えば間違いなく詩音は、死ぬ。 「私は……悟史くんを……」 悟史くんを……悟史くんを…… ここから先はもう言えない。 言ってしまえば終わりになる。 そうわかっているから。 まどかを殺せなかった自分はどうしたかったんだろう。 「セイバー、呪いを解いてやってくれ」 「……わかったわ。エスナ」 途端に、呼吸が楽になったような感覚が詩音を包む。 不鮮明だった意識がクリアになり、霞が取れたように頭がスッキリする。 心の中を占めていた絶望が薄れたのが詩音にもわかった。 「完全には取りきれないわ。制限なのか、別の理由なのかまでは判らないわ」 「どうして……?」 どうして殺さないのか。 鹿目まどかといい、この主従といい、そしてかつての自分といい、どうして殺さないのか。 剣司は何とか言葉を選びながら口にする。 「えーとさ、姉ちゃんも、その……大事な人のために戦ってたんだろ?」 ああ、この人達もか。 詩音も剣司も知らぬことだが、このゲームに参加した二人の境遇は極めて近い。 両方とも、大事な人が覚めぬ眠りにつき、その人のために戦っている。 詩音は自分の思い人が死んでしまったと思っているが、本当はとある病院にて昏睡を続けている。 思い人が死んでしまったと思い込んでいるという点では、セリスと詩音も近い。 ただ、セリスは思い人だけでなく世界の全てが滅んだと思い込み、全てを諦めてしまい…… 思い人だけが自分の世界から消えてしまった詩音は、それを取り戻そうと諦めきれずにゲームに乗った。 剣司もセリスも詩音と目を合わさない。詩音も合わせない。 ただ、皮肉な運命だけがその場にいる全員を繋いでいた。 「……ダメね、こっちの娘の呪いはほとんど治せない。呪いのかかったアイテムのレベルが高すぎる所為ね」 セリスがさやかに治癒呪文をかけるが、思うほど効果が現れない。 『呪い』とセリスが一括りに言ってしまったために判りづらいが、バーサーカー主従のステータス異常は同じものではない。 詩音のものは、呪いと言っても過言ではないが、正確には『病状』に分類されるものだ。 雛見沢症候群 日本でも特定の土地にしかいない寄生虫により発症する病気。 主な症状は発熱、肥大化しつづける悪質な妄想、幻覚等。 症状を最も軽いL1から最も重いL5に分けた場合、今現在治癒が施された詩音の症状はL3。 詩音が元の世界で起こした凶行はこれに起因し、既にL5まで到達していた経験のある詩音ではL3までしか回復しない。 呪いとほぼ違わないというのは、この病気が神秘や魔法に近いものと密接に関わっているからである。 対して、さやかの呪いは言葉通りの『呪い』である。 大切な人を癒したいという祈りと希望から生まれた、絶望と呪い。 魔法少女としてバーサーカーとして、戦えば戦うほど、傷つけば傷つくほどに彼女の祈りは世界を呪う。 その呪いは穢れとなり蓄積し、さやかの魂はその半分が既に濁っていた。 「バーサーカーの呪いって何の事ですか……?」 魔法少女の事をよく知らない詩音は、当然その呪いが何なのかも知らない。 バーサーカーにかけられている狂化とは違うものなのか? 語る口を持たぬバーサーカーからは、その説明すら聞けない。 「その、お腹についている魔石を見て」 セリスに指をさされ、詩音は初めてバーサーカーの腹部にある宝石の異常に気付く。 「なに……これ……?」 青く輝く宝石の内側に、ドス黒い靄が蠢いている。 詩音が宝石を注視したことで、初めてソウルジェムのパラメータが詩音の視界に表示される。 確かに、宝具としてランクEXと破格のステータスを持っている。 だがそれが同時に、セリスの魔術による回復を妨げていた。 基本的に、ランクの低いスキルや宝具は、それよりランク上のものに対しては効果が薄い。 「あなたと、あなたのバーサーカーには大きな制限がついているわ。  マスターのあなたは、強いストレスを受けると先程治した呪いがまた強くなるでしょうね。  バーサーカーは魔力を消費したり、精神状態が悪化すると、その魔石に呪いが溜まるようになっている」 「精神状態って……まさか!?」 「バーサーカーに最初からついている狂化がそれに該当するかはわからないわ。  狂ってしまえば——逆に、何も苦しいことなんてなくなってしまうのかもしれない。  でも、そうね。そんな都合のいい解釈なんてできるものではないわね。  その狂化ですら、魔石に悪影響を与えていると考えて差し支えないと思うわ。」 セリスがここまで詳しく分析できるのは、彼女が元の世界でソウルジェムによく似た魔石を知っていたからである。 彼女のよく知る魔石とソウルジェムはもたらす結果は対極であるが、概念としてはとても似ている。 詩音の病気に対して気付けたのも似たような理由で、普段から敵や仲間に対して補助や回復を行う機会が多かったから。 自分のよく知る魔石と似ているからこそ、わかるものがある。 「魔石に呪いが溜まりきったら……おそらく、バーサーカーは死ぬ。  そして多分だけど……召還獣みたいなものが魔石から呼び出されると思うわ。  悪いことは言わない。ギブアップしなさい。あなたもバーサーカーも、戦い続けられる体じゃない」 事実上の死刑宣告。 剣司は目の前の無力な主従を殺せない。ならば自分が、代わりにリタイアを促すしかない。 セリスもここまで言うのは辛いのだろう。だが、戦う決意のない剣司を支えるには、こうする他無い。 「そんな……私は……私は……」 「ギブアップに関して具体的なことは私も知らない。それは言峰教会で訊くしかない。  バーサーカーの呪いに関しては……学園の図書室でデータベースにアクセスすれば治し方がわかるかもね」 剣司はこの主従を殺せない。ならば、こうするしかない。 どうせ言峰教会にも図書室にも、データを欲しがる者達を狙う積極的な参加者が待ち構えているだろうから。 「なら、俺も教会についていく。教会は非戦闘区域なんだろ?俺も情報が欲しい」 やはり、このマスターは誰も殺せない。 剣司には確かに牙があるが、だが牙があっても誰も殺せない。獲物を殺せない狼は餓えて死ぬのを待つだけかもしれないのに。 剣司は自分の親切心に逆らえない。だがセリスはそれが優しさではなく、殺し合いの現実から目を逸らす甘さでしかないと気付いていた。 近藤剣司とセリスの主従が、園崎詩音と美樹さやかの主従を発見したのは偶然ではない。 金城優と剣司がスーパーで半額弁当を奪い合い、金城は更なる強者を求めてスーパーを後にし、剣司はしばらく気絶していた。 やがて剣司が目覚め、セリスの治療でダメージを消した後、スーパーに入った本来の目的であった腹を満たした。 目的を満たすと次はどう動けばいいのかわからなくなり、セリスに提案を求めると月海原学園と言峰教会の事を知らされる。 月海原学園に行けば様々なデータについて教えてもらえるらしいが、スーパーから距離が離れているらしいので後回しにする。 言峰教会は一応の非戦闘エリアに位置づけられており、聖杯戦争について言峰神父に質問することが出来るらしかった。 セリスは決して頭の悪いサーヴァントではなかったが、現代知識というものへの理解はやはり良くない。 剣司に色々教えたくても、その情報を自分が咀嚼できていないのでは意味がない。 ならば、剣司が直接言峰に質問したほうが有意義である。この結論に達し、言峰教会を訪れるべく二人はスーパーを後にした。 「■■■■■■■■■■■■■■■ー!!!」 筋力E 耐久E 敏捷E 魔力E 幸運E スーパーから出た二人が見たものは、マスターも連れずに叫びながら街中を走り抜ける狂人だった。 セリスが「バーサーカーだと思う」と言っていたが、言った本人にも自信がなかったようだ。 バーサーカーは基本的に理性と引き換えに強大な力を得るサーヴァントで、あんなステータスのバーサーカーはあり得ない。らしい。 見た目は中学生くらいの学生服の女の子が、狂人の形相で走っている。 あの謎の激弱サーヴァントが何なのか、剣司とセリスには理解できなかった。仕方なく、二人はバーサーカーの後を追った。 さやかにも、一応の事情があった。自分のマスターが攫われてしまったらしいが、いったい何処にいるのかわからない。 サーヴァントとしての本能に従って詩音を探すが、詩音が気絶しているらしく、居場所を知ることが出来ない。 彼女が魔法少女の姿ではなく、学生服姿で詩音を探していた理由は、 特に無い。 魔法少女の姿で探したほうが早かったかもしれないが、詩音が気絶した事で一時的に魔力供給が鈍り、変身が解除してしまったのだ。 一般人と同様のこの格好は、現界している際の魔力消費等が、非常に少ない。ただそれだけである。 この姿は狂人の形相を除けば、一般人と見分けをつける方法はほとんど、無い。 ステータスを見てもそれは一般人のそれと大差なく、故に魔力探知等にも『ちょっとだけ』引っかかりにくい。 この格好は宝具でもスキルでもないが、無い無い尽くしであるからこそ、他のサーヴァントの虚をつける事が…出来たかも……しれない? 散々走り回った頃、ようやく詩音の意識が回復し、心の中で強くバーサーカーを呼んだため、詩音の居場所を知ることが出来た。 第三者から見れば色々と残念としか言えない行動であったが、狂化により知力が下がっていたのだから仕方がなかったのである。 さやかを追ってセリスと剣司は詩音を発見し、自分たちへの脅威にはならないと判断して声をかける事にした。 そして今に至る。 詩音はポツリ、ポツリとゲーム開始からここに至る経緯を語りだす。 ゲーム開始直後、アーチャーと思われるサーヴァントから奇襲を受けた事。 バーサーカーに反撃させて自分が隠れようとした事。 白いセイバーのマスターに見つかり気絶させられて攫われた事。 アーチャーやアサシンの襲撃について訪ねられた事。 質問に答える前に、空を飛ぶ何者かがこちらに急接近してきたため白いセイバーの主従が迎撃に向かった事。 時間が無かったらしく自分が放置されてここに残っている事。 ここからそう遠くないショッピングモールで、襲撃者と白いセイバーの主従が戦っている。 詩音の情報を元に、剣司は襲撃者が何者かだけは確認するべきだと提案する。 白いセイバーの発言から察するに、謎のサーヴァント探知能力を持っているらしく、 放置したまま言峰のいる教会に向かうのは危険だという判断である。 彼の従者も主と同じ意見で、「見るだけでも相手の能力がわかり有利」と後押しする。 白いセイバーの主従に良い印象が無い詩音も、襲撃者の事が気になり同行することにした。 こういう弱った者が居る時は少しでも多人数で行動しなければ闇討ちに遭う。 故郷のダム戦争で荒事に慣れた詩音は、内心でそう判断し、剣司達に同行する。  ◇ 何も難しい事など無い。蒼白い焔に指し示されて。 わざわざ不得手な魔力探知などする必要はない。 混沌を愛する負の女神の導きのままに。 油断無く張り巡らされた妖気探知と、魔力を消した完璧な隠密は逆を言えば『わかりやすい闘志』であった。 アシュナードの索敵は魔力の探知ではなく闘志の探知。 油断も隙も無いテレサの探知網は、アシュナードにとって『目印』でしかなかった。 あまりに広大な索敵範囲を誇るテレサの探知網。 だがそれは、正体を隠していたいという思惑を持つものにとっては邪魔でしかない。 戦乱の世を生きたゼフィールとアシュナードは、戦争における情報の価値を良く知っている。 そのためにわざわざ、開始早々にアサシンの主従と提携していたのだ。 だからこそ、アサシンのように気配を消し、非常に強い索敵能力を持つテレサは厄介だった。 情報の面において、自分たちより優位なものを置いておくわけにはいかない——— 索敵や諜報に特化した敵は早めに殺しておきたい。何の変哲も無い、大惨事の発端である。 誰かが索敵をしながら隠密をしている。 アシュナードのメダリオンが蒼炎を噴き、闘志の中心がどこかを告げる。 既に相手はこちらに気付いているようだが、それでももう遅い。 逃げるにも隠れるにも、騎兵たるライダーのクラスからは逃れられない。 「ほう、人の集まる処に往くか」 独り言にも聞こえるが、自身の主に対する一応の報告のようなものである。 その接近速度から逃げきれぬと悟ってか、未だ見ぬ敵はショッピングモールへと移動していた。 時間帯を考えても人が多いショッピングモールは、身を潜めるには不十分ではあるが。 「広範囲攻撃を怖れているな」 ライダーの後ろに陣取るサーヴァントと見分けのつかぬ主が、相手の意図を先読みする。 「アサシンにしては隠れるのが下手すぎる。キャスターなら根城を構えているはず。  移動が遅い故、ライダーでもなかろう。バーサーカーなら身を隠しもすまい。  間違いなく三騎士とされるサーヴァントだろう。  主を守る術が無い故に、NPCを盾にして広範囲攻撃を抑制させるつもりであろう」 NPCを無差別に殺害し続ければムーンセルから何らかの処罰が下る——— ルールを逆手に取り、瞬時に自分たちへの可能な限りの対策を採ってきた。 「「少なくとも、智恵はある」」 覇王と狂王の意見は、こと敵に関してのみ、一致するようである。 数分もかからず目的となる主従を目視にて確認し、その上空から見下す形となる。 霊体化を解いたセイバーと、目つきの鋭い主人がこちらを見上げている。 ショッピングモールとその上空にて、人目も憚らぬ聖杯戦争の一幕が始まるのだ。 ---- |NEXT| |[[Assault of Dreadnoughts(中編)]]|

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