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Blade of Scar」(2012/12/27 (木) 16:05:28) の最新版変更点

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未だ日の昇らぬ深夜。 冬木市、円蔵山中腹に建つ寺院。柳洞寺。 かつては大聖杯があった決戦の地でもあり、キャスターやアサシンと戦い、セイバーを失った場所。 その一角で、衛宮士郎は地面を見つめて拳を握り締めていた。 脳裏に浮かぶのは、一人の白い少女の姿。 「……イリヤ………」 かつて救いたかった少女、でも救えない、救うことを許されなかった少女。 もし、もしもだ。二度目というものがあるのであれば、救いたかった。 ――わたしよりシロウに、これからを生きてほしかったから。 気付いたのはいつだっただろうか。彼女と切嗣の関係に気付いたのは。 ――わたしはお姉ちゃんだもん。なら、弟を守らなくっちゃ。 かつて自分は、桜のためにセイバーすらも犠牲にして戦った。 そんな自分でも、イリヤには生きていて欲しかった。そう思ったのだ。 そしてこの場において。 『片方は―――と銀髪の―――組み合わせで、もう片方は何かメカ―――と銀髪に赤い目の小さい女の子の組み合わせだったっス!』 『ぁ…し、ろ……』 「…っ!!」 グシャ 地面を殴る。全力で。 手の骨にヒビが入り、皮膚が破れて血が地面に滲んだ。 構わない。イリヤはもっと痛かったんだ。 地面を、殴る。殴る。殴る。 皮膚が形を失う。骨が砕ける。痛みが腕を貫く。 それでもいい。今だけはこうしていたい。痛みで全てを忘れていたい。 イリヤ、イリヤイリヤイリヤイリヤ―――――― 「シロウ!」 地面を殴る腕を横から誰かが掴んだ。 目に入ったのは金髪碧眼の少女。 自身のサーヴァント、セイバー。 言いたいことは分かっている。だから、それを言われる前に自身に溜まった思いを吐き出した。 「イリヤは…、じいさんの、衛宮切嗣の、たった一人の子供――つまり、俺の、姉だったんだ」 「………」 「あの大聖杯の前で、イリヤは死ぬはずだった俺の代わりに聖杯の門を閉じたんだ。  『弟を守るのが、お姉ちゃんの役目だ』なんて柄でもないこと言ってさ、あれを止めに行って、戻ってこなかった。  最後に、壊れかけた俺に新しい体くれてさ」 「………」 そう、この体はイリヤによってもたらされた、衛宮士郎としての魔法の器なのだ。 今こうして自分が生きているのもイリヤのおかげ。 だが、それでも彼女のことも救いたかった。なのに、あの時何もしてやれなかった。 そして今回。 「イリヤがいるって聞いたときは、今度こそはって思って頭が真っ白になったさ。  でも、その結果が……!」 「…シロウ」 話を聞いたセイバー、それでも士郎の手を離そうとはしない。 「シロウの気持ちは…、いえ、私には察することしかできないでしょう。  ですが、だからと言ってその体を痛めても何も解決しないことは分かります。  イリヤスフィールも、そんなあなたの姿を望みはしないはずです」 「………、そう、だよな」 そう、この体は彼女が託した最後の願いなのだ。こんなことで傷つけてはいけない。 それに、俺にはまだやらなければならないこともある。 「包帯と薬を探してきます。シロウは皆のところへ先に戻っていてください」 「…あ、セイバー、少し…待ってくれ」 そう言って、セイバーを引き寄せ、抱きしめた。 「シロウ…?」 「…しばらく、こうさせてくれ」 何かを察したのか、セイバーはそのまましばらく、何も言わずただ俺のことを抱きとめた。 かつて失い、またこの場でも失ってしまったもの。 心は締め付けられるように痛い。 なのに、涙は流れなかった。それがかえって辛かった。 ◆ 柳洞寺の本堂の一室。 そこには3人の存在があった。 ルルーシュ・ランペルージ、セイバー。 金田一一。彼のサーヴァント、ライダーは今はこの部屋にはいない。 内セイバー以外はそこまでの傷を負っている様子もない。しかしセイバーもそこまでの傷を負ってはいない。 ライダーの宝具の効果あってのものだろう。 一時的にこの場に休息をとっていたのだが、衛宮士郎は目が覚めたと同時、飛び出すように出て行ったしまった。 こんなところで単独行動をされても迷惑だったのだが、セイバー(アルトリア)が追っていったこと、そして彼女もここから離れはしないだろうと言った言葉を信じて待つことにしたのだった。 「さっきといい無用心なやつだ。もしさっきのランサーとの戦いに寄ってくる者がいたらどうするつもりだ」 「まあまあ。さっきの衛宮さんのさっきの顔見たでしょう?  それに衛宮さん、ライダーが銀髪の少女について話したときも凄い顔で出て行ったし。  もしかしたら彼女、あの人の知り合いだったんじゃないかな?それもかなり親しい…」 「だからと言ってな…。まあ、済んだことは仕方ないか」 ともかく、そんなことを言って時間を潰しているのも問題だ。 実際ライダーの使い魔の報告では士郎は柳洞寺を離れてはいない様子。 ともあれ、先の戦いで分かったことについて考えなければならない。 「あのランサー、クーフーリンのマスターの操ったあれは何だ?」 そう、あの銀髪眼鏡のマスターが操った謎の人型の存在。 聖杯戦争について明るくない自分達からすれば、むしろあっちの方がサーヴァントと言われても違和感は薄かった。 あれも所謂魔術というものなのだろうか。 「ガウェイン、その辺りはどうなんだ?」 「あれはその認識でも極端な違いはないでしょうが、どちらかと言えば魔術に近い存在のようですね。  しかし我らの世界の魔術とはまた違う系統のもののようですが」 ルルーシュの背後の従者は主の問いかけに答える。 魔術師というものは魔力を用いて神秘について研究する者のことを指す。 この辺りは一もライダーから聞いていたことだ。細かいことは割愛する。 「ではあれも過去の魔術師とやらがその血統を継いでいった結果作られた力だと?」 「おそらく違うでしょう。我々の世界には超能力という存在もあります。  人が魔術にも魔の存在にも頼らず存在する特異能力。  無論あれがそうであるという確証もありませんが。ただ、王にも心当たりはあるのではないですか?」 「俺にか?」 「ええ、あの時ランサーの言った言葉を思い出してください」 ランサーが言った言葉。それを問われてルルーシュも考える。 あの青タイツの男が自分に言った言葉だ。何といわれたか。 『そりゃ魔眼の類か?その歳で大した威力だが…俺らサーヴァントには対魔力があるんでな、効きはしねえよ』 「魔眼…」 「お気づきになられたようですね」 そう、確かにあの男はギアスのことを魔眼と言った。 ルルーシュは魔術師などではないが、超能力者かと言われたらおそらく考えるかもしれない。 ギアス。絶対遵守の王の力。 C.C.によって与えられた能力。確かに魔眼ともいえるだろう。 「一、お前、何か不思議な力のようなものに心当たりはあるか?」 「いや、俺も本当に普通の人間だし、そんな魔術とか超能力みたいなものの本物を目にした、もしくは聞いたことなんてないぞ」 金田一への問いかけの後改めて考える。自分にとって当たり前すぎるものであったため少し感覚がおかしくなっていたかもしれない。 だが、ギアスも紛れもない異端の力なのだ。 「つまり、ここにはあの男に限らず、様々な能力を持った存在がいると考えられるわけだな」 「ええ、我々サーヴァントを殺しうるほどの物がそうそうあるとは考え辛いですが、マスター同士の戦いとなった際の大きなアドバンテージとはなるでしょう」 「なあ、さっきから聞いてると、ルルーシュも何かそういう力を持ってるように聞こえるんだけど」 と、金田一が問いかけた。 それに対し、ルルーシュは一瞬迂闊だったかと考えたが、逆に話しておいたほうがいいかもしれないと考えを改めた。 少なくともルルーシュ自身、聖杯戦争に積極的に乗るつもりも無いし、彼らとの協力関係を破綻させるつもりも今のところはない。 もし彼らにギアスを使おうものなら、逆にそのサーヴァントに殺される可能性もある。 あるいはその前に終わらせればいいかもしれないが、少なくともこの場で話しておくことに不利益はないだろう。 「ああ、俺も『力』を持っている。  絶対遵守の力、ギアスだ」 「ほう」 と、それを言ったとき、それまで霊体化していたライダーが姿を現した。 「ライダー?休んでるんじゃなかったのか?」 「一応そのつもりではあったが、少し興味深いものが聞こえてきたのでな」 「話を続けてもいいか?」 「構わんぞ、続けろ」 ギアス。端的に言えば一種の催眠術のようなもの。 だが、実際のこれは催眠術などとは比べ物にならないほどの強力なものだ。 相手をどのような命令にも従わせる。本人が望もうと望むまいと。 「そうだな、例えばこの場で一に『死ね』などと命じたら死ぬだろうな」 「な…、そんなこと…!」 「有り得ない、と思うか?だがこの場ではこんなものなど気にも留めない存在はうようよいる。  そして俺にも、相手によってはそれを命じる覚悟もある」 「なるほどな。して、ではそれが我らのようなサーヴァントには通用するのか?」 「さあな。だが少なくとも、対魔力を持ったランサー相手には通用しなかった。それより上位のランクの対魔力を持つライダーにもおそらく効かないだろうな」 言われて一は、何故休息中のライダーが姿を見せたのかに気付く。 ライダーは警戒したのだ。この男、ルルーシュを。 おそらく最初から知っていたら傍を離れはしなかっただろう。なにしろ死ね、の一言で殺すことができるのだから。 「なるほど、マスター限定の強制の魔眼と、そんな認識で構わぬのだな」 「ああ。ただ、もしかしたら効かない存在がいるということも有り得るし、これは色々と制限もある。  下手に使うわけにもいかないものでもあるが」 「そうか。だが、そんなものを持った男とマスターを共に行動させるのは、いささか気の進まんな」 ある種最もな話だ。 ルルーシュのことは、ライダーからはどうも油断ならない男という評価の様子。所謂策士のような人物と踏んでいるのだ。 そのような男が相手に命令を強制する能力を持っていると言われたのでは、やはり考えてしまうのも致し方ないかもしれない。 「なるほど、最もな話だ。ではこういうのはどうだ?  この力は一度使った相手には効果が無い。つまり、今この場で使ってしまえば後の憂いもないだろう?  それに実際に見ておくことでこれがどんな仕組みなのか、お前達なら分かるかもしれないしな」 「お前さんの言うことも最もだな。だが、それもこちらにとっては危険な賭けであることには違いないのだぞ?」 「ガウェイン、席を外せ」 「はっ」 と、ルルーシュは背後の白き騎士に退席の命令を下す。そしてガウェインは意義を申し立てることもなくその場から姿を消す。 周囲には霊体化している気配すら感じられない。本当にこの場から出て行ったのだろう。 「これで今俺にはサーヴァントがいない。つまりお前が攻撃してきたとしても防ぐ術はないわけだ。  この状態であれば信用するか?」 「それを可能にするのが令呪だろうが、まあ使う前に斬り捨てることはできるな。  後はマスター自身が決めることだが」 そう、例えどれほどルルーシュとライダーの間に話が進もうと、一自身がイエスと言わなければできないことだ。 無理やりしたのでは今後の信用に関わり同盟の存続が危うくなる。ルルーシュも一が拒否するのであれば無理強いするつもりはなかった。そこまで緊急も要件ではない。 それに、これは一からすればリスクが大きい。今後の憂いを無くしておくというのもこちらの問題であり、彼に関係のあることではないのだ。 「いや、やってくれ」 だというのに、彼はそう言った。 「いいのか?」 「この先もっと驚くような奴もいるんだろ?ならこれぐらいのことで怖気づいていたら生き残れないさ。  確かに彼は油断できないかもしれないけど、今はライダーがいる。ルルーシュの覚悟とライダーのことを信じたいんだ」 「ふ、はははははは!それでこそわしのマスターだ」 「なら、いいんだな?」 「ああ、気兼ねなくやってくれ!」 そう言ってルルーシュの目を難しい顔をして睨む一。 (さて、何を命じたものか) 死ね、などという命令は論外。だが簡単な命令では効果を計りにくい。 なるべく無害で実行可能だが本人には楽ではないようなこと――― (よし、これで行くか) 「悪い、少し風に当たってきただけだ。もう大丈夫だから――」 と、衛宮士郎が入ってくると同時、ルルーシュは命じた。 「金田一一、お前の―――――」 ◆ 「ここにおられましたか。叔父上」 柳洞寺の一室で包帯や消毒薬を探すセイバーの元に、ふと白銀の鎧に身を包んだ男が姿を見せた。 「ガウェイン、なぜここに?」 「主に退席を命じられまして。どうやらライダー達を信じることを選んだようで」 「それで、あなたはマスターの元を離れたというのか?」 「ええ」 「万が一それでマスターに危険が及ぶことがあってもか?」 「主の命とあれば」 アルトリアの問いかけに迷いもせず凛と答えるガウェイン。 不意にアルトリアの声色が変わる。 「変わらないな、あなたは」 「むしろ私は、生前から変わりたいと思った身ですので」 それまではサーヴァントであるという身。マスターの前で私的な会話をするというのは避けていた。 だが、今はこの場にはアルトリアとガウェインの二人しかいない。 生前の関係を考えればある程度の積もる話もある。 「時にガウェイン、先の戦闘でランサーのマスターの持っていた剣、気付いたか?」 「忘れるわけがありません。私を負かした者の剣です」 あのマスターの持っていた剣。それはかつて円卓で共に戦った騎士、ランスロットのものだったのだから。 それが何を意味するのか。この場にランスロットもサーヴァントとして呼ばれているということだ。 まだ生きているのかどうかは分からない。そう敗れる男だとも思いたくなかったが。 「やはり、叔父上は気が進みませんか?かつての友と戦うということは」 「そう…、だな」 ガウェインの心にあるのは一つの後悔。かつて私怨で戦い、それがきっかけで国の崩壊を招いてしまったこと。 だが、もし彼と戦う機会があるというのならば、今度こそ己の感情ではなく誇りを掛けて彼と戦うだろう。 そういった考えもあった。無論マスターの命が絶対なのだが。 しかし、アルトリアの表情は優れなかった。 「ガウェイン、私はこれで聖杯戦争を経験するのが3度目なのだ」 「なんと、それほどまでに戦ってこられたというのですか」 「ああ、そして、一度目の第四次聖杯戦争の折、私はランスロットに会った。同じサーヴァントとして」 「そうでしたか。叔父上がセイバーとして召喚されたとすれば、彼のクラスはライダーか、あるいは残りの三騎士のどれか、といったところでしょうか」 ガウェインは気付かなかった。この時のアルトリアが苦悩の表情を抑えていたことに。 気付いていれば問わなかっただろう。だが結果だけ言えば、気付けなかったからこそ、その先にあるものを知ることができた。 「いや、――――バーサーカーのクラスだった」 「えっ?」 ガウェインには予期もしていなかった答え。さすがに驚きの表情が顔に出る。 「友は私の存在を認識する度に怨嗟の声をあげて襲い掛かってきた。他の何者をも無視して。  そして最後は――この私の手の中で消えていった。  最後の瞬間にも、私は彼に満足な言葉も掛けてやれなかった」 その告白はアルトリアの後悔に満ちたものだった。これまでこんな王を見たことがなかっただけに、ガウェインの動揺も大きかった。 「そして、第五次聖杯戦争。この戦いの始まる前だ。  私は黒き聖杯の泥に飲まれ、己がマスターに対し刃を向けた。  叶えるべき願いも、己の誇りすらも全て捨て、この世を滅ぼそうとするモノを守護したのだ」 「……叔父上の願いとは?」 おそらくガウェインが正常な状態であれば、そのようなことを聞くことはなかっただろう。 逆に言えば、そんな質問をしてしまうほどには動揺していたのかもしれない。 「私は、―――ブリテンの救済を、そのための王の選定のやり直しを望んだのだ」 「……」 言葉を発することもなくガウェインはアルトリアの、かつての王の話を聞き続ける。 「私の治世が間違っていたのではないか、私以外の王であれば、ブリテンを救うことができたのではないか。  そう思わずにはいられなかった」 「アーサー王よ、それは――」 「なあガウェイン、お前に聞きたい。  私は王として、本当に正しかったのか?」 かつての友には恨まれ、故国の救世を願ったにも関わらず己の誇りも捨てて世界を滅ぼそうとした王。 その事実に未だ心を痛めているアルトリア。 ガウェインは、そんな彼女に対しての返答する術を持っていなかった。 王に対しては、今も昔も忠実に、実直にあるべしと心に決めたガウェインには。 ここではい、そうですということは簡単なのだろう。だが、それだけで何の解決にもならなかったのが王の生前だということに気付いてしまった。 故に、彼女の質問に対し、沈黙するしかできなかった。 ◆ (あれ?俺は一体…) 確かルルーシュのギアスの実験を引き受けて、何か命じられたような気がする。 だが、その後の記憶がない。 「俺は、生きているんだよな…?」 「ああ、生きているぞ」 ルルーシュも目の前にいる。ライダーが手を出すほどの命令を下したわけではないようだ。 彼を信じたことに間違いがないことは分かった。 見回すと、衛宮、ライダーは少し苦笑いのようなものを浮かべているような気がする。 そして目の前のルルーシュはどうしてうっすらと笑みのようなものを浮かべているのだろうか。 「あ、その、大丈夫、俺はすぐ忘れるからさ!」 「ははははははははは!」 気まずそうにする士郎、笑い始めるライダー。 「あ、あの、ルルーシュさん?一体俺は何をされたんですか?」 「聞きたいか?”お前の最も恥ずかしい記憶を言え”だ」 「?!」 「ははははは!!やられたなマスター!」 一は自分の顔が熱を持ち始めるのを感じた。 「なるほどな。お前は「ぎゃああああああああああああ!!!」 大声を上げながら考えた。やっぱりこいつは油断できないと。 ◆ 「まあ、ともあれだ。その能力が人間であるマスターには効果があることは確認できたな」 その後、部屋にはセイバー(青)とセイバー(白)も加わり、全員での情報交換となった。 ちなみにギアスをかけた後で別の命令として歌を歌えと適当に命じたが、一が歌うことはなかったため晴れて能力の証明は完了した。 「これを使えば、死ね、とは言わずとも例えば令呪を破棄しろ、聖杯戦争を棄権しろといった命令も可能だろうな」 さすがにこの二人の前で死ねと命じるかもしれないなどとは言えなかった。だが、 「待てよ。ランサーが言ってた。この場じゃ敗者はムーンセルに消されるって。戦いの放棄も敗者にカウントされるんじゃないのか?」 そう言ったのは士郎だ。 戦いの放棄、つまり不戦敗。これも敗者としてカウントされ消滅するのではないか、と。 「なるほど、敗者は消滅か。ここが電脳空間とはいえ、それが本当に帰還に繋がるのかどうかは分からないのだな。  だが、実際に死んでみなければ分からないことなど証明のしようがないだろう」 ルルーシュとしては聖杯戦争に乗った相手に情けを掛けようとは思っていない。 戦いというものはそういうものだ。人を撃つことができるものは己が撃たれる覚悟を持っていなければならない。そのような相手に手加減して戦おうとは思えない。 無論士郎と一の前でそんなことを言うつもりもないが。 士郎からは聖杯戦争について大まかなことは聞くことができた。 始まりの御三家、聖杯戦争の本当の意味、そしてアンリマユ。 その中で士郎は、もしこの聖杯戦争が冬木のものを模しているというなら、御三家、遠坂、間桐からだれかいると考えられると言った。 事実、聖杯戦争の勝者である士郎、かつての参加者であり御三家のマスター、イリヤスフィールがいたのだ。可能性としては大きい。 いるとするならば、遠坂凛、間桐桜、間桐臓硯が考えられる。臓硯は既に死んだ身であるが、イリヤがいた以上可能性として有り得るとは言っておいた。 もし凛、桜がいるのであれば力になってくれるはずだ。特に遠坂の当主である凛がこのような聖杯戦争を認めるとは思えない。 だが、臓硯がいた場合は最悪だ。かつて散々辛酸を舐めさせられただけにどれほどかき回されるか想像したくはない。 それぞれの大まかな特徴を話しておいた後、今後どうするかという話になった。 「まずは街に出る必要があるな。  一のように連れてこられた参加者が他にもいるなら乗っていない者も多いだろう。彼ら自体は非力だったとしてもサーヴァントまでそうとは限らない  それを考えた場合、ガウェインが最も力を発揮できる9時に出ようと思うのだが。ガウェイン、大丈夫だな?」 「仰せのままに」 「ああ、それがいいだろうな。俺の経験なら昼の人が多い場所で戦いを仕掛けてくるマスターはいなかった」 「いや、間違っているぞ。ここが聖杯戦争のために用意された空間ということを忘れたか?  それに、魔術師でない者が聖杯戦争の秘匿に気を回すとは思えない」 「確かに。かつてのサーヴァントの中には、魔術とは関わりのない者がマスターになったばかりにその力で好き勝手に振舞った組も存在しました。  今回のような場所ならばなおさらそのような者がいる可能性は高い」 そういったのは士郎の傍に控えたセイバー。 おそらくセイバーの言うそれは切嗣がマスターだった第四次聖杯戦争の時の話なのだろうが、その頃のことを進んで話したセイバーに士郎は少し驚いた。 「なるほどな。前例もある以上油断はできない。時間が来たら俺がガウェインを連れて出向こう。  あとはお前達のことになるが――」 「俺も行こう。もしここが冬木市と同じ町並みだったら、土地勘がある俺がいたほうがいいだろ?」 「お前はダメだ。感情に任せて勝手に動きかねない。厄介事まで持ち帰られたらたまらないからな」 「…なんでさ」 ライダーはこの柳洞寺の大空洞をもう少し調べたいらしく、もうしばらくこの場に留まっておきたいと言った。 また、もし殺し合いに積極的なキャスターが来るかもしれないと言った際、セイバーも残っておきたいと申し出た。 対魔力の高いセイバーが残っておくならキャスター相手なら安心だろう。 そうなると街にはルルーシュ一人で下りることになる。 だが、ルルーシュにはむしろありがたかった。 この場には参加者以外のNPCなる存在がいる。もし、彼らにギアスが効くならば―― 一般人を巻き込むということならルルーシュも抵抗があるが、電脳空間が生み出した擬似人格ならば躊躇うこともない。 無論一人で行くという関係上、ガウェインがついているとはいえ他マスターと積極的に戦うべきではないだろう。 一応ライダー曰く、大空洞の要塞化はキャスターがいれば効率よくいけるらしいので友好的な者がいれば勧誘を頼みたいと言っていた。時間があれば考えておこう。 だが、今はまだ日も出ていない。今はここでできることを進めておくべきだろう。 そういった形に会議をまとめ、各々やるべきことをするためのことを進め始めた。 と、ルルーシュは背後の英霊に声をかける。 「ガウェイン」 「はっ」 「何か気になることでもあったか?」 「いいえ、特には。どうかなさいましたか?」 「いや、なんでもないならいい」 気のせいだろうか。若干ガウェインの様子がおかしいように見えた。 (杞憂ならいいのだが、な) 【深山町・柳洞寺/早朝】 【衛宮士郎@Fate/ stay night】 [状態]:魔力消費(小)・ダメージ(小)・右手骨折(処置済み)・気絶中・残令呪使用回数3回 ※参戦時期は桜ルート終了から半年後です。 ※勝利すべき黄金の剣(カリバーン)、全て遠き理想郷(アヴァロン)、赤原猟犬(フルンディング)、宝石剣ゼルレッチの投影が可能かどうかは後の書き手さんにお任せします。 【セイバー(アルトリア・ペンドラゴン)@Fate/ stay night】 [状態]:健康 ※参戦時期は桜ルートで士郎に倒された後です(記憶は継続しています) 【金田一一@金田一少年の事件簿】 [状態]:健康・残令呪使用回数3回 【ライダー(太公望)@藤崎竜版封神演義】 [状態]:健康 ※杏黄旗により、どこにいても円蔵山から魔力供給が受けられます。 ただし、短時間の内にあまりにも大量の魔力を吸い出した場合、霊脈に異常をきたす可能性があります。 【ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア@コードギアス反逆のルルーシュ】 [状態]:健康・残令呪使用回数3回 【セイバー(ガウェイン)@Fate/EXTRA】 [状態]:魔力消費(小)
未だ日の昇らぬ深夜。 冬木市、円蔵山中腹に建つ寺院。柳洞寺。 かつては大聖杯があった決戦の地でもあり、キャスターやアサシンと戦い、セイバーを失った場所。 その一角で、衛宮士郎は地面を見つめて拳を握り締めていた。 脳裏に浮かぶのは、一人の白い少女の姿。 「……イリヤ………」 かつて救いたかった少女、でも救えない、救うことを許されなかった少女。 もし、もしもだ。二度目というものがあるのであれば、救いたかった。 ――わたしよりシロウに、これからを生きてほしかったから。 気付いたのはいつだっただろうか。彼女と切嗣の関係に気付いたのは。 ――わたしはお姉ちゃんだもん。なら、弟を守らなくっちゃ。 かつて自分は、桜のためにセイバーすらも犠牲にして戦った。 そんな自分でも、イリヤには生きていて欲しかった。そう思ったのだ。 そしてこの場において。 『片方は―――と銀髪の―――組み合わせで、もう片方は何かメカ―――と銀髪に赤い目の小さい女の子の組み合わせだったっス!』 『ぁ…し、ろ……』 「…っ!!」 グシャ 地面を殴る。全力で。 手の骨にヒビが入り、皮膚が破れて血が地面に滲んだ。 構わない。イリヤはもっと痛かったんだ。 地面を、殴る。殴る。殴る。 皮膚が形を失う。骨が砕ける。痛みが腕を貫く。 それでもいい。今だけはこうしていたい。痛みで全てを忘れていたい。 イリヤ、イリヤイリヤイリヤイリヤ―――――― 「シロウ!」 地面を殴る腕を横から誰かが掴んだ。 目に入ったのは金髪碧眼の少女。 自身のサーヴァント、セイバー。 言いたいことは分かっている。だから、それを言われる前に自身に溜まった思いを吐き出した。 「イリヤは…、じいさんの、衛宮切嗣の、たった一人の子供――つまり、俺の、姉だったんだ」 「………」 「あの大聖杯の前で、イリヤは死ぬはずだった俺の代わりに聖杯の門を閉じたんだ。  『弟を守るのが、お姉ちゃんの役目だ』なんて柄でもないこと言ってさ、あれを止めに行って、戻ってこなかった。  最後に、壊れかけた俺に新しい体くれてさ」 「………」 そう、この体はイリヤによってもたらされた、衛宮士郎としての魔法の器なのだ。 今こうして自分が生きているのもイリヤのおかげ。 だが、それでも彼女のことも救いたかった。なのに、あの時何もしてやれなかった。 そして今回。 「イリヤがいるって聞いたときは、今度こそはって思って頭が真っ白になったさ。  でも、その結果が……!」 「…シロウ」 話を聞いたセイバー、それでも士郎の手を離そうとはしない。 「シロウの気持ちは…、いえ、私には察することしかできないでしょう。  ですが、だからと言ってその体を痛めても何も解決しないことは分かります。  イリヤスフィールも、そんなあなたの姿を望みはしないはずです」 「………、そう、だよな」 そう、この体は彼女が託した最後の願いなのだ。こんなことで傷つけてはいけない。 それに、俺にはまだやらなければならないこともある。 「包帯と薬を探してきます。シロウは皆のところへ先に戻っていてください」 「…あ、セイバー、少し…待ってくれ」 そう言って、セイバーを引き寄せ、抱きしめた。 「シロウ…?」 「…しばらく、こうさせてくれ」 何かを察したのか、セイバーはそのまましばらく、何も言わずただ俺のことを抱きとめた。 かつて失い、またこの場でも失ってしまったもの。 心は締め付けられるように痛い。 なのに、涙は流れなかった。それがかえって辛かった。 ◆ 柳洞寺の本堂の一室。 そこには3人の存在があった。 ルルーシュ・ランペルージ、セイバー。 金田一一。彼のサーヴァント、ライダーは今はこの部屋にはいない。 内セイバー以外はそこまでの傷を負っている様子もない。しかしセイバーもそこまでの傷を負ってはいない。 ライダーの宝具の効果あってのものだろう。 一時的にこの場に休息をとっていたのだが、衛宮士郎は目が覚めたと同時、飛び出すように出て行ったしまった。 こんなところで単独行動をされても迷惑だったのだが、セイバー(アルトリア)が追っていったこと、そして彼女もここから離れはしないだろうと言った言葉を信じて待つことにしたのだった。 「さっきといい無用心なやつだ。もしさっきのランサーとの戦いに寄ってくる者がいたらどうするつもりだ」 「まあまあ。さっきの衛宮さんのさっきの顔見たでしょう?  それに衛宮さん、ライダーが銀髪の少女について話したときも凄い顔で出て行ったし。  もしかしたら彼女、あの人の知り合いだったんじゃないかな?それもかなり親しい…」 「だからと言ってな…。まあ、済んだことは仕方ないか」 ともかく、そんなことを言って時間を潰しているのも問題だ。 実際ライダーの使い魔の報告では士郎は柳洞寺を離れてはいない様子。 ともあれ、先の戦いで分かったことについて考えなければならない。 「あのランサー、クーフーリンのマスターの操ったあれは何だ?」 そう、あの銀髪眼鏡のマスターが操った謎の人型の存在。 聖杯戦争について明るくない自分達からすれば、むしろあっちの方がサーヴァントと言われても違和感は薄かった。 あれも所謂魔術というものなのだろうか。 「ガウェイン、その辺りはどうなんだ?」 「あれはその認識でも極端な違いはないでしょうが、どちらかと言えば魔術に近い存在のようですね。  しかし我らの世界の魔術とはまた違う系統のもののようですが」 ルルーシュの背後の従者は主の問いかけに答える。 魔術師というものは魔力を用いて神秘について研究する者のことを指す。 この辺りは一もライダーから聞いていたことだ。細かいことは割愛する。 「ではあれも過去の魔術師とやらがその血統を継いでいった結果作られた力だと?」 「おそらく違うでしょう。我々の世界には超能力という存在もあります。  人が魔術にも魔の存在にも頼らず存在する特異能力。  無論あれがそうであるという確証もありませんが。ただ、王にも心当たりはあるのではないですか?」 「俺にか?」 「ええ、あの時ランサーの言った言葉を思い出してください」 ランサーが言った言葉。それを問われてルルーシュも考える。 あの青タイツの男が自分に言った言葉だ。何といわれたか。 『そりゃ魔眼の類か?その歳で大した威力だが…俺らサーヴァントには対魔力があるんでな、効きはしねえよ』 「魔眼…」 「お気づきになられたようですね」 そう、確かにあの男はギアスのことを魔眼と言った。 ルルーシュは魔術師などではないが、超能力者かと言われたらおそらく考えるかもしれない。 ギアス。絶対遵守の王の力。 C.C.によって与えられた能力。確かに魔眼ともいえるだろう。 「一、お前、何か不思議な力のようなものに心当たりはあるか?」 「いや、俺も本当に普通の人間だし、そんな魔術とか超能力みたいなものの本物を目にした、もしくは聞いたことなんてないぞ」 金田一への問いかけの後改めて考える。自分にとって当たり前すぎるものであったため少し感覚がおかしくなっていたかもしれない。 だが、ギアスも紛れもない異端の力なのだ。 「つまり、ここにはあの男に限らず、様々な能力を持った存在がいると考えられるわけだな」 「ええ、我々サーヴァントを殺しうるほどの物がそうそうあるとは考え辛いですが、マスター同士の戦いとなった際の大きなアドバンテージとはなるでしょう」 「なあ、さっきから聞いてると、ルルーシュも何かそういう力を持ってるように聞こえるんだけど」 と、金田一が問いかけた。 それに対し、ルルーシュは一瞬迂闊だったかと考えたが、逆に話しておいたほうがいいかもしれないと考えを改めた。 少なくともルルーシュ自身、聖杯戦争に積極的に乗るつもりも無いし、彼らとの協力関係を破綻させるつもりも今のところはない。 もし彼らにギアスを使おうものなら、逆にそのサーヴァントに殺される可能性もある。 あるいはその前に終わらせればいいかもしれないが、少なくともこの場で話しておくことに不利益はないだろう。 「ああ、俺も『力』を持っている。  絶対遵守の力、ギアスだ」 「ほう」 と、それを言ったとき、それまで霊体化していたライダーが姿を現した。 「ライダー?休んでるんじゃなかったのか?」 「一応そのつもりではあったが、少し興味深いものが聞こえてきたのでな」 「話を続けてもいいか?」 「構わんぞ、続けろ」 ギアス。端的に言えば一種の催眠術のようなもの。 だが、実際のこれは催眠術などとは比べ物にならないほどの強力なものだ。 相手をどのような命令にも従わせる。本人が望もうと望むまいと。 「そうだな、例えばこの場で一に『死ね』などと命じたら死ぬだろうな」 「な…、そんなこと…!」 「有り得ない、と思うか?だがこの場ではこんなものなど気にも留めない存在はうようよいる。  そして俺にも、相手によってはそれを命じる覚悟もある」 「なるほどな。して、ではそれが我らのようなサーヴァントには通用するのか?」 「さあな。だが少なくとも、対魔力を持ったランサー相手には通用しなかった。それより上位のランクの対魔力を持つライダーにもおそらく効かないだろうな」 言われて一は、何故休息中のライダーが姿を見せたのかに気付く。 ライダーは警戒したのだ。この男、ルルーシュを。 おそらく最初から知っていたら傍を離れはしなかっただろう。なにしろ死ね、の一言で殺すことができるのだから。 「なるほど、マスター限定の強制の魔眼と、そんな認識で構わぬのだな」 「ああ。ただ、もしかしたら効かない存在がいるということも有り得るし、これは色々と制限もある。  下手に使うわけにもいかないものでもあるが」 「そうか。だが、そんなものを持った男とマスターを共に行動させるのは、いささか気の進まんな」 ある種最もな話だ。 ルルーシュのことは、ライダーからはどうも油断ならない男という評価の様子。所謂策士のような人物と踏んでいるのだ。 そのような男が相手に命令を強制する能力を持っていると言われたのでは、やはり考えてしまうのも致し方ないかもしれない。 「なるほど、最もな話だ。ではこういうのはどうだ?  この力は一度使った相手には効果が無い。つまり、今この場で使ってしまえば後の憂いもないだろう?  それに実際に見ておくことでこれがどんな仕組みなのか、お前達なら分かるかもしれないしな」 「お前さんの言うことも最もだな。だが、それもこちらにとっては危険な賭けであることには違いないのだぞ?」 「ガウェイン、席を外せ」 「はっ」 と、ルルーシュは背後の白き騎士に退席の命令を下す。そしてガウェインは意義を申し立てることもなくその場から姿を消す。 周囲には霊体化している気配すら感じられない。本当にこの場から出て行ったのだろう。 「これで今俺にはサーヴァントがいない。つまりお前が攻撃してきたとしても防ぐ術はないわけだ。  この状態であれば信用するか?」 「それを可能にするのが令呪だろうが、まあ使う前に斬り捨てることはできるな。  後はマスター自身が決めることだが」 そう、例えどれほどルルーシュとライダーの間に話が進もうと、一自身がイエスと言わなければできないことだ。 無理やりしたのでは今後の信用に関わり同盟の存続が危うくなる。ルルーシュも一が拒否するのであれば無理強いするつもりはなかった。そこまで緊急も要件ではない。 それに、これは一からすればリスクが大きい。今後の憂いを無くしておくというのもこちらの問題であり、彼に関係のあることではないのだ。 「いや、やってくれ」 だというのに、彼はそう言った。 「いいのか?」 「この先もっと驚くような奴もいるんだろ?ならこれぐらいのことで怖気づいていたら生き残れないさ。  確かに彼は油断できないかもしれないけど、今はライダーがいる。ルルーシュの覚悟とライダーのことを信じたいんだ」 「ふ、はははははは!それでこそわしのマスターだ」 「なら、いいんだな?」 「ああ、気兼ねなくやってくれ!」 そう言ってルルーシュの目を難しい顔をして睨む一。 (さて、何を命じたものか) 死ね、などという命令は論外。だが簡単な命令では効果を計りにくい。 なるべく無害で実行可能だが本人には楽ではないようなこと――― (よし、これで行くか) 「悪い、少し風に当たってきただけだ。もう大丈夫だから――」 と、衛宮士郎が入ってくると同時、ルルーシュは命じた。 「金田一一、お前の―――――」 ◆ 「ここにおられましたか。叔父上」 柳洞寺の一室で包帯や消毒薬を探すセイバーの元に、ふと白銀の鎧に身を包んだ男が姿を見せた。 「ガウェイン、なぜここに?」 「主に退席を命じられまして。どうやらライダー達を信じることを選んだようで」 「それで、あなたはマスターの元を離れたというのか?」 「ええ」 「万が一それでマスターに危険が及ぶことがあってもか?」 「主の命とあれば」 アルトリアの問いかけに迷いもせず凛と答えるガウェイン。 不意にアルトリアの声色が変わる。 「変わらないな、あなたは」 「むしろ私は、生前から変わりたいと思った身ですので」 それまではサーヴァントであるという身。マスターの前で私的な会話をするというのは避けていた。 だが、今はこの場にはアルトリアとガウェインの二人しかいない。 生前の関係を考えればある程度の積もる話もある。 「時にガウェイン、先の戦闘でランサーのマスターの持っていた剣、気付いたか?」 「忘れるわけがありません。私を負かした者の剣です」 あのマスターの持っていた剣。それはかつて円卓で共に戦った騎士、ランスロットのものだったのだから。 それが何を意味するのか。この場にランスロットもサーヴァントとして呼ばれているということだ。 まだ生きているのかどうかは分からない。そう敗れる男だとも思いたくなかったが。 「やはり、叔父上は気が進みませんか?かつての友と戦うということは」 「そう…、だな」 ガウェインの心にあるのは一つの後悔。かつて私怨で戦い、それがきっかけで国の崩壊を招いてしまったこと。 だが、もし彼と戦う機会があるというのならば、今度こそ己の感情ではなく誇りを掛けて彼と戦うだろう。 そういった考えもあった。無論マスターの命が絶対なのだが。 しかし、アルトリアの表情は優れなかった。 「ガウェイン、私はこれで聖杯戦争を経験するのが3度目なのだ」 「なんと、それほどまでに戦ってこられたというのですか」 「ああ、そして、一度目の第四次聖杯戦争の折、私はランスロットに会った。同じサーヴァントとして」 「そうでしたか。叔父上がセイバーとして召喚されたとすれば、彼のクラスはライダーか、あるいは残りの三騎士のどれか、といったところでしょうか」 ガウェインは気付かなかった。この時のアルトリアが苦悩の表情を抑えていたことに。 気付いていれば問わなかっただろう。だが結果だけ言えば、気付けなかったからこそ、その先にあるものを知ることができた。 「いや、――――バーサーカーのクラスだった」 「えっ?」 ガウェインには予期もしていなかった答え。さすがに驚きの表情が顔に出る。 「友は私の存在を認識する度に怨嗟の声をあげて襲い掛かってきた。他の何者をも無視して。  そして最後は――この私の手の中で消えていった。  最後の瞬間にも、私は彼に満足な言葉も掛けてやれなかった」 その告白はアルトリアの後悔に満ちたものだった。これまでこんな王を見たことがなかっただけに、ガウェインの動揺も大きかった。 「そして、第五次聖杯戦争。この戦いの始まる前だ。  私は黒き聖杯の泥に飲まれ、己がマスターに対し刃を向けた。  叶えるべき願いも、己の誇りすらも全て捨て、この世を滅ぼそうとするモノを守護したのだ」 「……叔父上の願いとは?」 おそらくガウェインが正常な状態であれば、そのようなことを聞くことはなかっただろう。 逆に言えば、そんな質問をしてしまうほどには動揺していたのかもしれない。 「私は、―――ブリテンの救済を、そのための王の選定のやり直しを望んだのだ」 「……」 言葉を発することもなくガウェインはアルトリアの、かつての王の話を聞き続ける。 「私の治世が間違っていたのではないか、私以外の王であれば、ブリテンを救うことができたのではないか。  そう思わずにはいられなかった」 「アーサー王よ、それは――」 「なあガウェイン、お前に聞きたい。  私は王として、本当に正しかったのか?」 かつての友には恨まれ、故国の救世を願ったにも関わらず己の誇りも捨てて世界を滅ぼそうとした王。 その事実に未だ心を痛めているアルトリア。 ガウェインは、そんな彼女に対しての返答する術を持っていなかった。 王に対しては、今も昔も忠実に、実直にあるべしと心に決めたガウェインには。 ここではい、そうですということは簡単なのだろう。だが、それだけで何の解決にもならなかったのが王の生前だということに気付いてしまった。 故に、彼女の質問に対し、沈黙するしかできなかった。 ◆ (あれ?俺は一体…) 確かルルーシュのギアスの実験を引き受けて、何か命じられたような気がする。 だが、その後の記憶がない。 「俺は、生きているんだよな…?」 「ああ、生きているぞ」 ルルーシュも目の前にいる。ライダーが手を出すほどの命令を下したわけではないようだ。 彼を信じたことに間違いがないことは分かった。 見回すと、衛宮、ライダーは少し苦笑いのようなものを浮かべているような気がする。 そして目の前のルルーシュはどうしてうっすらと笑みのようなものを浮かべているのだろうか。 「あ、その、大丈夫、俺はすぐ忘れるからさ!」 「ははははははははは!」 気まずそうにする士郎、笑い始めるライダー。 「あ、あの、ルルーシュさん?一体俺は何をされたんですか?」 「聞きたいか?”お前の最も恥ずかしい記憶を言え”だ」 「?!」 「ははははは!!やられたなマスター!」 一は自分の顔が熱を持ち始めるのを感じた。 「なるほどな。お前は「ぎゃああああああああああああ!!!」 大声を上げながら考えた。やっぱりこいつは油断できないと。 ◆ 「まあ、ともあれだ。その能力が人間であるマスターには効果があることは確認できたな」 その後、部屋にはセイバー(青)とセイバー(白)も加わり、全員での情報交換となった。 ちなみにギアスをかけた後で別の命令として歌を歌えと適当に命じたが、一が歌うことはなかったため晴れて能力の証明は完了した。 「これを使えば、死ね、とは言わずとも例えば令呪を破棄しろ、聖杯戦争を棄権しろといった命令も可能だろうな」 さすがにこの二人の前で死ねと命じるかもしれないなどとは言えなかった。だが、 「待てよ。ランサーが言ってた。この場じゃ敗者はムーンセルに消されるって。戦いの放棄も敗者にカウントされるんじゃないのか?」 そう言ったのは士郎だ。 戦いの放棄、つまり不戦敗。これも敗者としてカウントされ消滅するのではないか、と。 「なるほど、敗者は消滅か。ここが電脳空間とはいえ、それが本当に帰還に繋がるのかどうかは分からないのだな。  だが、実際に死んでみなければ分からないことなど証明のしようがないだろう」 ルルーシュとしては聖杯戦争に乗った相手に情けを掛けようとは思っていない。 戦いというものはそういうものだ。人を撃つことができるものは己が撃たれる覚悟を持っていなければならない。そのような相手に手加減して戦おうとは思えない。 無論士郎と一の前でそんなことを言うつもりもないが。 士郎からは聖杯戦争について大まかなことは聞くことができた。 始まりの御三家、聖杯戦争の本当の意味、そしてアンリマユ。 その中で士郎は、もしこの聖杯戦争が冬木のものを模しているというなら、御三家、遠坂、間桐からだれかいると考えられると言った。 事実、聖杯戦争の勝者である士郎、かつての参加者であり御三家のマスター、イリヤスフィールがいたのだ。可能性としては大きい。 いるとするならば、遠坂凛、間桐桜、間桐臓硯が考えられる。臓硯は既に死んだ身であるが、イリヤがいた以上可能性として有り得るとは言っておいた。 もし凛、桜がいるのであれば力になってくれるはずだ。特に遠坂の当主である凛がこのような聖杯戦争を認めるとは思えない。 だが、臓硯がいた場合は最悪だ。かつて散々辛酸を舐めさせられただけにどれほどかき回されるか想像したくはない。 それぞれの大まかな特徴を話しておいた後、今後どうするかという話になった。 「まずは街に出る必要があるな。  一のように連れてこられた参加者が他にもいるなら乗っていない者も多いだろう。彼ら自体は非力だったとしてもサーヴァントまでそうとは限らない  それを考えた場合、ガウェインが最も力を発揮できる9時に出ようと思うのだが。ガウェイン、大丈夫だな?」 「仰せのままに」 「ああ、それがいいだろうな。俺の経験なら昼の人が多い場所で戦いを仕掛けてくるマスターはいなかった」 「いや、間違っているぞ。ここが聖杯戦争のために用意された空間ということを忘れたか?  それに、魔術師でない者が聖杯戦争の秘匿に気を回すとは思えない」 「確かに。かつてのサーヴァントの中には、魔術とは関わりのない者がマスターになったばかりにその力で好き勝手に振舞った組も存在しました。  今回のような場所ならばなおさらそのような者がいる可能性は高い」 そういったのは士郎の傍に控えたセイバー。 おそらくセイバーの言うそれは切嗣がマスターだった第四次聖杯戦争の時の話なのだろうが、その頃のことを進んで話したセイバーに士郎は少し驚いた。 「なるほどな。前例もある以上油断はできない。時間が来たら俺がガウェインを連れて出向こう。  あとはお前達のことになるが――」 「俺も行こう。もしここが冬木市と同じ町並みだったら、土地勘がある俺がいたほうがいいだろ?」 「お前はダメだ。感情に任せて勝手に動きかねない。厄介事まで持ち帰られたらたまらないからな」 「…なんでさ」 ライダーはこの柳洞寺の大空洞をもう少し調べたいらしく、もうしばらくこの場に留まっておきたいと言った。 また、もし殺し合いに積極的なキャスターが来るかもしれないと言った際、セイバーも残っておきたいと申し出た。 対魔力の高いセイバーが残っておくならキャスター相手なら安心だろう。 そうなると街にはルルーシュ一人で下りることになる。 だが、ルルーシュにはむしろありがたかった。 この場には参加者以外のNPCなる存在がいる。もし、彼らにギアスが効くならば―― 一般人を巻き込むということならルルーシュも抵抗があるが、電脳空間が生み出した擬似人格ならば躊躇うこともない。 無論一人で行くという関係上、ガウェインがついているとはいえ他マスターと積極的に戦うべきではないだろう。 一応ライダー曰く、大空洞の要塞化はキャスターがいれば効率よくいけるらしいので友好的な者がいれば勧誘を頼みたいと言っていた。時間があれば考えておこう。 だが、今はまだ日も出ていない。今はここでできることを進めておくべきだろう。 そういった形に会議をまとめ、各々やるべきことをするためのことを進め始めた。 と、ルルーシュは背後の英霊に声をかける。 「ガウェイン」 「はっ」 「何か気になることでもあったか?」 「いいえ、特には。どうかなさいましたか?」 「いや、なんでもないならいい」 気のせいだろうか。若干ガウェインの様子がおかしいように見えた。 (杞憂ならいいのだが、な) 【深山町・柳洞寺/早朝】 【衛宮士郎@Fate/ stay night】 [状態]:魔力消費(小)・ダメージ(小)・右手骨折(処置済み)・残令呪使用回数3回 ※参戦時期は桜ルート終了から半年後です。 ※勝利すべき黄金の剣(カリバーン)、全て遠き理想郷(アヴァロン)、赤原猟犬(フルンディング)、宝石剣ゼルレッチの投影が可能かどうかは後の書き手さんにお任せします。 【セイバー(アルトリア・ペンドラゴン)@Fate/ stay night】 [状態]:健康 ※参戦時期は桜ルートで士郎に倒された後です(記憶は継続しています) 【金田一一@金田一少年の事件簿】 [状態]:健康・残令呪使用回数3回・ギアス無効 【ライダー(太公望)@藤崎竜版封神演義】 [状態]:健康 ※杏黄旗により、どこにいても円蔵山から魔力供給が受けられます。 ただし、短時間の内にあまりにも大量の魔力を吸い出した場合、霊脈に異常をきたす可能性があります。 【ルルーシュ・ヴィ・ブリタニア@コードギアス反逆のルルーシュ】 [状態]:健康・残令呪使用回数3回 【セイバー(ガウェイン)@Fate/EXTRA】 [状態]:魔力消費(小)

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