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全てを呑み込んで熱を帯びていく(後編)」(2013/05/03 (金) 15:10:34) の最新版変更点

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*全てを呑み込んで熱を帯びていく(後編) こちらを挑発するかのような言葉とともに、これまで防御と回避に徹していたアレックスが反撃を開始した。 「ハッ!全然攻撃してこねえから、ただの木偶かと思ったぜ!」 不敵な笑みを浮かべ、挑発を返してアレックスを迎撃するアーチャーだったが、その余裕はすぐに崩れ去ることになった。 アレックスはアーチャーの予想を大きく上回る速さで金属を纏った拳を叩きつけてきた。 無論、アーチャーも全身の血液を筋力と敏捷の向上に回し、同じく徒手空拳で応戦するのだが、その悉くが躱され、いなされる。逆に、アレックスの攻撃は面白いようにアーチャーを打ちのめす。それは最早、戦闘ではなくアレックスによる一方的な蹂躙となっていた。 単純なステータスだけならば両者の間にさほど決定的な差はない。むしろ、パワーだけなら宝具「化外の心臓」によるステータス向上と、蛮勇のスキルによる格闘ダメージの向上があるアーチャーに分があるといえた。 しかし、幼くしてARMSを移植され、戦闘者として、軍人として過酷な鍛錬に耐えてきたアレックスにはそのパワーの差を補って余りある技量があり、元々が極めて身体能力が高いだけの人造人間であるアーチャーにはそれが決定的に欠けていた。 それに加え、ジライヤの補助スキル“マハスクカジャ”による援護によって、今のアレックスは全サーヴァント中でもトップクラスの敏捷値を誇っている。対して、宝具によるステータスの底上げができるとはいえ、元の敏捷値がCランクでしかないアーチャーではそのスピードに追いすがることができない。 「オラァッ!!」 アーチャーの渾身の拳を、アレックスは軽く受け流し、カウンターの一撃をアーチャーの鳩尾に叩き込み、数十メートル以上吹き飛ばした。 「ご……ぁ……!」 アーチャーはどうにか起き上がろうとするが、急所に受けたダメージが祟り、倒れ伏したまま動けずにいた。 「雑な攻撃だな。その程度で貴様らは勝ち抜けるつもりか?」 僅か一分ほどの攻防。それだけでアーチャーは消滅寸前まで痛めつけられていた。 とはいえ、仮にアーチャーにアレックスと渡り合うだけの技量があったとしても、結果は何ひとつ変わらなかっただろう。 アレックスには常軌を逸した再生能力がある。無論、アーチャーもサーヴァントとしての基本的な再生能力は備えているが、戦闘中に瞬時に回復できるほどではない。結果、ダメージが蓄積していくアーチャーに対して、即座に回復できるアレックスという構図が出来上がる。 神秘がそれを超える神秘によって無効化されるように、19世紀の科学の結晶である人造人間のジョン・ドゥは、より進んだ科学の結晶であるアレックスによって打ち倒される。 つまるところ、両者には最初から絶対的なまでの相性の差が存在していたのだ。 (こんなに使えない奴だったなんて………!思いっきり口だけじゃないの!) 自らのサーヴァントの醜態に、マスターである由乃は歯噛みするが、この状況ではどうすることもできない。令呪を使おうにも、アーチャーがダメージを受けすぎた現状、どこまで効果があるかわからない。完全にタイミングを逸してしまった。 そもそも相手の手札も考えずに攻撃を指示した由乃にも非はあるのだが、頭に血が上った彼女がそれに気付くことは無い。 更に言えば、双方のマスターの対応力の差、そして能力の違いもこの結果を生む遠因となっていた。 雪輝たちの持つ未来日記は、戦略面においては絶大な効果を発揮するが、戦闘中のサーヴァントを支援できるタイプの能力ではない。正確には、サーヴァントの戦闘速度に割り込むことができない、というべきだが。 対して陽介のペルソナ・ジライヤは様々なスキルを備え、直接戦闘以外の面で融通のきかないアレックスとは最高に相性の良い能力といえた。 しかし、忘れてはならない。雪輝たちには、もう一騎のサーヴァントがいる事を。 「むっ!?」 大きな魔力の奔流を感じたアレックスがその方向に向き直る。 そこには、鏡を宙に浮かべ、何かの詠唱を行うキャスターの姿があった。 キャスターは、アーチャーがアレックスと白兵戦を行なっている間、決して休んでいたわけではなく、アレックスを殺し切るための切り札の準備を行なっていた。 その切り札こそが、キャスターのサーヴァント・玉藻の前の宝具。 その名を「水天日光天照八野鎮石(すいてんにっこうあまてらすやのしずくのいし)」。 その力が、ここに解放される。 「軒奄陵墓―――冥府より尽きる事なく。行きますよ!」 宝具の発動と同時に、キャスターの周囲に、不可思議な結界が形成され、今までの比ではない数の呪符がキャスターの周囲に浮かぶ。 アレックスはすかさず防御姿勢を取り、攻撃に備える。彼の後ろには陽介がいるため、回避するという選択肢は無い。 「炎天、氷天、密天、ついでに雷撃、全部まとめて喰らいやがれえええええ!!!」 機関銃の如く撃ち出されたキャスターの呪術の猛攻がアレックスを襲い、ARMSに覆われた彼の身体を容赦なく削りとっていく。 無論、アレックスも再生能力を発揮し、攻撃を受けた端から身体を再生させていく。 しかし、キャスターの攻撃はその再生能力すら上回る勢いを誇っていた。 アレックスの対魔力が高い事を考慮し、攻撃範囲を抑える代わりに一発一発の攻撃に威力を凝縮することで、彼の守りを強引に突き崩しているのだ。 勿論、本来ならそんな後先考えない呪術の行使を行えば、すぐに魔力が枯渇することは目に見えている。 しかし、今のキャスターに魔力切れなどという事態は起こり得ない。彼女の宝具「水天日光天照八野鎮石」は、一定時間所有者に無尽蔵の魔力を供給し続けるという聖杯戦争の根底を覆しかねない性能を秘めた宝具なのだ。 (このままでは……!) キャスターの攻撃に必死に耐えるアレックスだが、状況は芳しくない。 あと十数秒も撃ち続けられれば、アレックスの方が倒れるだろう。 だが、彼のマスターである陽介も黙って見ているわけではなかった。 「させるかよ!ジライヤ、“ディアラマ”だ!!」 陽介のペルソナ・ジライヤが回復魔法をアレックスにかける。 一瞬、アレックスの再生速度が早まるものの、すぐに押し返される。 「まだまだ!“ディアラマ”!“ディアラマ”!“ディアラマ”!!」 一度では焼石に水にしかならないが、何度も重ね掛けすれば、話しは違う。 なぜなら――― 「これは……!?」 ようやくキャスターが異変に気付いた。 最初に攻撃した時に比べて、明らかに相手に与える傷が小さくなっている事に。 「まさか、ダメージ耐性のスキル……!?」 「その通りだ。とはいえ、マスターの援護が無ければ私が押し切られていただろうがな。 主人に恵まれなかったな、キャスター」 それこそが、アレックスのARMS「帽子屋(マッドハッター)」の特性のひとつ。 ダメージを受ける度にその攻撃に対する耐性を作り出す進化の力。 それにより、今のアレックスはキャスターが持つほぼ全ての攻撃手段への耐性を身につけていた。 ひとしきり攻撃を受けきったアレックスは、満を持して反撃に転じる。 両掌に魔力を集中し、荷電粒子を形成する。通称“ブリューナクの槍”と呼ばれる二本の荷電粒子砲がキャスターへ向かって一直線に放たれた。 「くっ、呪層・黒天洞!」 キャスターは咄嗟に障壁を展開するが、衝撃までは完全には防ぎきれず、大きく吹き飛ばされ、それにより、宝具の効果も強制的に解除された。 万全の状態であれば踏みとどまることができただろうが、今のキャスターは以前の戦闘による疲労とダメージが癒えていなかった。そうでなくとも、彼女の耐久値は全サーヴァントでも最低クラス。サーヴァントはおろかマスターの攻撃ですら場合によっては致命傷になりうる程の脆さなのだ。 そして、防御したとはいえ今のアレックスによる一撃は、彼女を戦闘不能に追い込むには充分だった。 「うっ……ご、ごめんなさい、ご主人様………。宝具まで使ったのに……」 「キャ、キャスター……そんな……」 雪輝が悲痛な声を漏らす。目の前にはキャスターと、アーチャーが倒れ伏している。 2対1なら負けることは無いだろうという楽観的な考えはあっけなく打ち砕かれた。 (こ、このままじゃ駄目だ、何とか、何とかしないと……) 現状を打開すべく必死に頭を回転させる。しかし、次の瞬間、その思考は唐突に止まった。 正確には、永遠に考えることができなくなった。 雪輝たちの上空から突如現れた剣と炎の波が雪輝を、由乃を、キャスターを、アーチャーを一息に呑み込んだからだ。 ここに、天野雪輝のDEAD ENDは執行された。 サーヴァントの超常的な戦闘力に目を奪われるあまり、雪輝と由乃は未来日記所有者として当たり前の事を失念していた。一度DEAD ENDフラグを立てられたならば、未来日記所有者自身が積極的に行動し、奇跡を起こして未来を変えなければならないのだということを。 もしも雪輝と由乃がもう少し冷静だったなら、陽介に対して迂闊に攻撃を仕掛けず探りを入れ、誰がDEAD ENDフラグを立ててきたのか見破ることもできたかもしれない。しかし、それも今となっては過ぎ去ったifでしかない。 奇跡とは、そう簡単に起こるものではなく、誰もが掴めるものではないからこそ奇跡と呼ばれるのだ。 &COLOR(#FF2000){【天野雪輝@未来日記 死亡】} &COLOR(#FF2000){【キャスター(タマモ)@Fate Extra 消滅】} &COLOR(#FF2000){【我妻由乃@未来日記 死亡】} &COLOR(#FF2000){【アーチャー(ジョン・ドゥ)@エンバーミング 消滅】 } 何だよ…これ……」 陽介が放心したように呟いた。 こちらを襲撃してきたサーヴァントたちをアレックスが戦闘不能にし、力ずくではあるがこれから再度説得をしようとしたまさにその瞬間の出来事だった。 空中から突如飛来した剣と炎の波が彼らを残さず焼き尽くしたのだ。 それは、ビームを撃ち終えたアレックスの硬直の隙を突いた絶妙のタイミングでの攻撃であり、それがどこかで自分たちの戦闘を見ていたのであろう第三者の手によるものだと推測するのは容易かった。 先ほどアレックスに指摘された言葉が重くのしかかる。 「駄目だな、全く気配を追えん。 私が捕捉できないとは、これがアサシンのサーヴァントか。 それも、隠密性と広範囲攻撃を両立させるとはな」 傍らで軍服姿に戻ったアレックスが忌々しげに呟く声も、陽介の耳には入らない。 ただ呆然と、未だ火の手が消えない、先ほどまで四人組がいた場所を見つめていた。 アレックスは心中で嘆息した。それは彼のマスターに対してではなく、アレックスが予想するよりも遥かに早く訪れてしまった目の前の惨状に対してだ。 アレックス自身は死んだ四人組に対して特に思うところは無い。せいぜい面倒事を押し付けて逝ってくれたものだ、という程度のものだ。 しかし横で未だ放心状態にある、平和な国で生まれ育った自身のマスターを立ち直らせるのは容易ではないだろう。 「行くぞマスター、ここもじきに人が集まる。 教会に寄るのだろう?」 「……ああ」 力なく頷く陽介を促し、教会へと向かう。 教会の扉の前には、一人の神父の姿があった。 「ようこそ、若きマスターよ。 先に忠告させてもらうが、この教会の敷地内はムーンセルによって非戦闘地域に定められている。 しかし、だからといって戦闘中にマスターだけがここに逃げ込むのは感心しないな。 今回は知らなかったものとして大目に見るが、次は無いものと思ってくれたまえ」 開口一番、神父は辛辣な忠告を残し、教会の中へと戻っていった。 これ以上は、中に入って聞けということだろう。 陽介は力ない足取りで教会へと足を踏み入れる。 他にやりようは無かったのか。自分の考えが浅はかだったのか。 彼の迷いは未だ晴れず、深まるばかりだった。 【新都・冬木教会/未明】 【花村陽介@ペルソナ4】 [状態]:疲労(中)・精神力消耗(小)・後悔と無力感・残令呪使用回数:3 [持ち物]:ミネラルウォーター@現実・カロリーメイト@現実・医薬品一式@現実 大学ノート@現実・筆記用具一式@現実・電池式携帯充電器@現実・電池@現実 [基本行動方針]:聖杯を探し出して破壊する [思考・行動] 1.…………。 2.聖杯戦争について神父に聞く。 3.アレックスと今後の方針について話す。 ※本編BAD END1からの参戦です。 ※鳴上悠が参加していることに気づいていません。 ※本ロワにおけるペルソナ・ジライヤのスキル構成は以下の通りです。 疾風ブースタ:疾風属性の攻撃力が25%上昇 疾風ハイブースタ:疾風属性の攻撃力が50%上昇 ガルダイン:敵単体に疾風属性のダメージ マハガルダイン:敵全体に疾風属性のダメージ(ロワ内では疾風属性の広範囲攻撃。ガルダインよりも消費する精神力が多い) マハスクカジャ:味方全体の命中・回避率を上昇させる(味方サーヴァントに対しては一時的に敏捷値を1ランクブーストする) デカジャ:敵全体のカジャ系効果によるステータス上昇を打ち消す(サーヴァントには原則無効。打ち消せるのはマスターの強化状態のみ) ブレイブザッパー:敵単体にダメージ ディアラマ:味方単体のHPを中回復 【ランサー(アレックス)@ARMS】 [状態]:魔力消費(小)・ARMSの進化(進行度小) [基本行動方針]:聖杯を探し出して破壊する [思考・行動] 1.陽介と今後の方針について話す。 2.アサシンを警戒する。 3.陽介を(主に精神的に)鍛える。 【言峰神父@Fate Extra】 [状態]:健康 新都の住宅街の屋根の上を、一つの影が疾駆する。 その影こそは先ほど天野雪輝たちの命を奪った張本人、アサシンのサーヴァントとして招かれた英霊・“壊刃”サブラクである。 彼はマスターである匂宮出夢の許可を得て偵察のため別行動を行なっていた。 聖杯戦争においてマスターとのレイラインには距離的な制約があるわけではなく、単に別行動をとるだけなら単独行動のスキルは必要ないのだ。 そして、冬木教会の手前で戦闘を開始した天野雪輝や花村陽介らを発見し、戦闘を注視しつつ、攻撃を仕掛ける機会を伺っていた。 サブラクの存在が無差別日記に表示されなかったのは、未来日記に施された制限もあるが、何よりもその卓越した気配遮断能力にこそあった。 通常、気配遮断能力を持つアサシンであっても、攻撃に移る瞬間に生じる殺気は完全には隠しきれず、攻撃の寸前にはその存在が露呈してしまう。しかし、サブラクには初撃に限りその弱点が存在しない。 つまり、雪輝や由乃がどう行動しようともサブラクが攻撃を仕掛ける前に彼の存在を察知するという未来が存在し得ないからこそ、雪輝と由乃による完全予知すら欺き、気づかれることなく彼らの後方まで接近することができたのだ。 実のところ、キャスターも戦闘中の第三者の介入を考慮していないわけではなかった。しかし、無差別日記に表示されていた「剣と炎の波に飲み込まれる」という記述からアサシンのサーヴァントはその候補から真っ先に外していた。 基本的に、アサシンのクラスに収まる英霊には強力な遠距離攻撃手段や広範囲をカバーする攻撃手段が備わっていない。 例えば暗殺者の代名詞といえる山の翁は、基本的にダークの投擲以外にさしたる攻撃手段を持っていない。中には、相手の心臓の模造品を作り出し、それを喰らうことで相手を呪い殺す宝具を持つハサン・サッバーハも歴代のハサンの中にはいたが、それでさえせいぜい中距離程度の射程しか持ち合わせていない。 また、剣豪・佐々木小次郎や魔拳士・李書文はそれぞれ武芸者として優れた技を持ち、特に李書文は圏境の技によりサブラク以上の気配遮断能力を誇るが、同時にそれが彼らの全てであり、中距離以遠に対する攻撃手段そのものを持たないという欠陥がある。 また、アーチャーのクラスにあるサーヴァントが、こちらの索敵圏外からの狙撃と広範囲攻撃を両立できるとは考えにくい。 以上の理由から、介入してくる者がいるとすればそれはキャスターの魔術か、その他のクラスのサーヴァントだとキャスターは考えていた。 そうであるならば、仮に漁夫の利を狙って接近してきても、必ずその兆候を察知できるものと彼女は踏んでいた。 しかし、サブラクはアサシンの中では例外中の例外ともいえる、長射程かつ広範囲への攻撃手段を持っていたのだ。 その本来なら油断とも呼べぬ油断をサブラクは正確に突いてきた。もっとも、サブラクは未来日記の事など知る由もないので、これらは全くの偶然ではあるのだが。 閑話休題。 こうして、上々の戦果を挙げたサブラクではあるが、その心中は決して明るくはなかった。 「ふむ、しかし一度攻撃を放っただけでこうも魔力を持っていかれるとはな。 もし全力で放っていれば、俺の総体の一部が削られていたやも知れぬ。 全く、ムーンセルとやらも無体な真似をしてくれる」 ブツブツと自身の置かれたままならぬ現状に不満を漏らす。 魔術の基本原則は等価交換だ。 聖杯戦争におけるサーヴァントの身体は魔力で構成されており、ただ実体化しているだけでも魔力を消耗していく。 であれば、サーヴァントとしては規格外の巨体を持つサブラクの身体の維持は、通常のマスターの魔力供給量でできるだろうか。答えは否。 桁外れの総体を持つサブラクは、維持に必要な魔力も並大抵ではなく、その全体を全て実体化させようものなら、浸透スキルの行使による消耗も合わせてバーサーカーとして現界したヘラクレスすら超えるほどの負荷をマスターに強いる事となる。 そこで、サブラクは最低限の人形部分以外の身体のほぼ全てを霊体化させることによって、この問題に対処した。これにより、実体化時の消費魔力を通常のサーヴァント一体分程度まで抑え込む事に成功し、かつ浸透スキルの使用によるステータスの低下を免れることができた。(とはいえ、流石に先ほどの戦闘の時には奇襲をかけるために総体の一部を実体化させ、浸透のスキルを使用したが) 勿論身体の殆どを霊体化させていては、不意の一撃を被った時に瞬時に人形を修復させる事ができないが、背に腹は代えられない。 それに、先ほどの攻撃による予想以上の魔力消費も、彼の逼迫した魔力事情に拍車をかけていた。 先ほどの攻撃の時にも、やろうと思えば教会ごと陽介も巻き込むことができたが、攻撃するだけでどれ程魔力を使うか分からず、教会も破壊したとなればペナルティを被る可能性が高かったため、慣らし運転と割り切って敢えて攻撃範囲を抑えたのだ。 結果は想定よりも遥かに悪いものだった。これでは範囲をある程度抑えたとしても短時間のうちに自身の総体に影響を及ぼさずに撃てるのはあと2,3回といったところだろう。 聖杯戦争が長期戦になることを考えれば、全力攻撃など以ての外だろう。もし度を越えて魔力を消耗すれば、サブラクは自身の巨体を少しずつ削られていく事となる。それが、ムーンセルからサブラクに課せられた独自の制限だった。 「しかし、こうなると我がマスターの“殺戮は一日一時間”という指示は実に俺の現状に合致したものだったというわけか。よもやムーンセルはそこまで計算して俺とマスターを引き合わせたのか?だとすれば、大したものだ。 さて、そろそろマスターと合流せねばな。流石にいつまでも一人にしておくわけにもいかんからな」 相変わらず独り言を呟きながら、サブラクは夜の街を駆ける。 蝶との再会を夢見ながら。 【新都・住宅街/未明】 【アサシン(“壊刃”サブラク)@灼眼のシャナ】 [状態]:魔力消費(小) [基本行動方針]:優勝狙い [思考・行動] 1.出夢と合流する。 2.基本は隠密行動。通常戦闘も極力控える。 3.殺戮は一日一時間。 ---- |BACK||NEXT| |031:[[I'm a liar]]|投下順|033:[[生きているのなら英雄だって殺してみせる]]| |042:[[Anything Goes!]]|時系列順|033:[[生きているのなら英雄だって殺してみせる]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |007:[[No.7]]|花村陽介&ランサー|036:[[Beautiful dreamer?]]| |029:[[初期不良]]|天野雪輝&キャスター|&color(red){脱落}| |029:[[初期不良]]|我妻由乃&アーチャー|&color(red){脱落}| |019:[[No.19]]|アサシン(“壊刃”サブラク)|048:[[断罪アウターレッド]]| |001:[[OP〜導入]]|言峰綺礼|036:[[Beautiful dreamer?]]| ----
*全てを呑み込んで熱を帯びていく(後編) こちらを挑発するかのような言葉とともに、これまで防御と回避に徹していたアレックスが反撃を開始した。 「ハッ!全然攻撃してこねえから、ただの木偶かと思ったぜ!」 不敵な笑みを浮かべ、挑発を返してアレックスを迎撃するアーチャーだったが、その余裕はすぐに崩れ去ることになった。 アレックスはアーチャーの予想を大きく上回る速さで金属を纏った拳を叩きつけてきた。 無論、アーチャーも全身の血液を筋力と敏捷の向上に回し、同じく徒手空拳で応戦するのだが、その悉くが躱され、いなされる。逆に、アレックスの攻撃は面白いようにアーチャーを打ちのめす。それは最早、戦闘ではなくアレックスによる一方的な蹂躙となっていた。 単純なステータスだけならば両者の間にさほど決定的な差はない。むしろ、パワーだけなら宝具「化外の心臓」によるステータス向上と、蛮勇のスキルによる格闘ダメージの向上があるアーチャーに分があるといえた。 しかし、幼くしてARMSを移植され、戦闘者として、軍人として過酷な鍛錬に耐えてきたアレックスにはそのパワーの差を補って余りある技量があり、元々が極めて身体能力が高いだけの人造人間であるアーチャーにはそれが決定的に欠けていた。 それに加え、ジライヤの補助スキル“マハスクカジャ”による援護によって、今のアレックスは全サーヴァント中でもトップクラスの敏捷値を誇っている。対して、宝具によるステータスの底上げができるとはいえ、元の敏捷値がCランクでしかないアーチャーではそのスピードに追いすがることができない。 「オラァッ!!」 アーチャーの渾身の拳を、アレックスは軽く受け流し、カウンターの一撃をアーチャーの鳩尾に叩き込み、数十メートル以上吹き飛ばした。 「ご……ぁ……!」 アーチャーはどうにか起き上がろうとするが、急所に受けたダメージが祟り、倒れ伏したまま動けずにいた。 「雑な攻撃だな。その程度で貴様らは勝ち抜けるつもりか?」 僅か一分ほどの攻防。それだけでアーチャーは消滅寸前まで痛めつけられていた。 とはいえ、仮にアーチャーにアレックスと渡り合うだけの技量があったとしても、結果は何ひとつ変わらなかっただろう。 アレックスには常軌を逸した再生能力がある。無論、アーチャーもサーヴァントとしての基本的な再生能力は備えているが、戦闘中に瞬時に回復できるほどではない。結果、ダメージが蓄積していくアーチャーに対して、即座に回復できるアレックスという構図が出来上がる。 神秘がそれを超える神秘によって無効化されるように、19世紀の科学の結晶である人造人間のジョン・ドゥは、より進んだ科学の結晶であるアレックスによって打ち倒される。 つまるところ、両者には最初から絶対的なまでの相性の差が存在していたのだ。 (こんなに使えない奴だったなんて………!思いっきり口だけじゃないの!) 自らのサーヴァントの醜態に、マスターである由乃は歯噛みするが、この状況ではどうすることもできない。令呪を使おうにも、アーチャーがダメージを受けすぎた現状、どこまで効果があるかわからない。完全にタイミングを逸してしまった。 そもそも相手の手札も考えずに攻撃を指示した由乃にも非はあるのだが、頭に血が上った彼女がそれに気付くことは無い。 更に言えば、双方のマスターの対応力の差、そして能力の違いもこの結果を生む遠因となっていた。 雪輝たちの持つ未来日記は、戦略面においては絶大な効果を発揮するが、戦闘中のサーヴァントを支援できるタイプの能力ではない。正確には、サーヴァントの戦闘速度に割り込むことができない、というべきだが。 対して陽介のペルソナ・ジライヤは様々なスキルを備え、直接戦闘以外の面で融通のきかないアレックスとは最高に相性の良い能力といえた。 しかし、忘れてはならない。雪輝たちには、もう一騎のサーヴァントがいる事を。 「むっ!?」 大きな魔力の奔流を感じたアレックスがその方向に向き直る。 そこには、鏡を宙に浮かべ、何かの詠唱を行うキャスターの姿があった。 キャスターは、アーチャーがアレックスと白兵戦を行なっている間、決して休んでいたわけではなく、アレックスを殺し切るための切り札の準備を行なっていた。 その切り札こそが、キャスターのサーヴァント・玉藻の前の宝具。 その名を「水天日光天照八野鎮石(すいてんにっこうあまてらすやのしずくのいし)」。 その力が、ここに解放される。 「軒奄陵墓―――冥府より尽きる事なく。行きますよ!」 宝具の発動と同時に、キャスターの周囲に、不可思議な結界が形成され、今までの比ではない数の呪符がキャスターの周囲に浮かぶ。 アレックスはすかさず防御姿勢を取り、攻撃に備える。彼の後ろには陽介がいるため、回避するという選択肢は無い。 「炎天、氷天、密天、ついでに雷撃、全部まとめて喰らいやがれえええええ!!!」 機関銃の如く撃ち出されたキャスターの呪術の猛攻がアレックスを襲い、ARMSに覆われた彼の身体を容赦なく削りとっていく。 無論、アレックスも再生能力を発揮し、攻撃を受けた端から身体を再生させていく。 しかし、キャスターの攻撃はその再生能力すら上回る勢いを誇っていた。 アレックスの対魔力が高い事を考慮し、攻撃範囲を抑える代わりに一発一発の攻撃に威力を凝縮することで、彼の守りを強引に突き崩しているのだ。 勿論、本来ならそんな後先考えない呪術の行使を行えば、すぐに魔力が枯渇することは目に見えている。 しかし、今のキャスターに魔力切れなどという事態は起こり得ない。彼女の宝具「水天日光天照八野鎮石」は、一定時間所有者に無尽蔵の魔力を供給し続けるという聖杯戦争の根底を覆しかねない性能を秘めた宝具なのだ。 (このままでは……!) キャスターの攻撃に必死に耐えるアレックスだが、状況は芳しくない。 あと十数秒も撃ち続けられれば、アレックスの方が倒れるだろう。 だが、彼のマスターである陽介も黙って見ているわけではなかった。 「させるかよ!ジライヤ、“ディアラマ”だ!!」 陽介のペルソナ・ジライヤが回復魔法をアレックスにかける。 一瞬、アレックスの再生速度が早まるものの、すぐに押し返される。 「まだまだ!“ディアラマ”!“ディアラマ”!“ディアラマ”!!」 一度では焼石に水にしかならないが、何度も重ね掛けすれば、話しは違う。 なぜなら――― 「これは……!?」 ようやくキャスターが異変に気付いた。 最初に攻撃した時に比べて、明らかに相手に与える傷が小さくなっている事に。 「まさか、ダメージ耐性のスキル……!?」 「その通りだ。とはいえ、マスターの援護が無ければ私が押し切られていただろうがな。 主人に恵まれなかったな、キャスター」 それこそが、アレックスのARMS「帽子屋(マッドハッター)」の特性のひとつ。 ダメージを受ける度にその攻撃に対する耐性を作り出す進化の力。 それにより、今のアレックスはキャスターが持つほぼ全ての攻撃手段への耐性を身につけていた。 ひとしきり攻撃を受けきったアレックスは、満を持して反撃に転じる。 両掌に魔力を集中し、荷電粒子を形成する。通称“ブリューナクの槍”と呼ばれる二本の荷電粒子砲がキャスターへ向かって一直線に放たれた。 「くっ、呪層・黒天洞!」 キャスターは咄嗟に障壁を展開するが、衝撃までは完全には防ぎきれず、大きく吹き飛ばされ、それにより、宝具の効果も強制的に解除された。 万全の状態であれば踏みとどまることができただろうが、今のキャスターは以前の戦闘による疲労とダメージが癒えていなかった。そうでなくとも、彼女の耐久値は全サーヴァントでも最低クラス。サーヴァントはおろかマスターの攻撃ですら場合によっては致命傷になりうる程の脆さなのだ。 そして、防御したとはいえ今のアレックスによる一撃は、彼女を戦闘不能に追い込むには充分だった。 「うっ……ご、ごめんなさい、ご主人様………。宝具まで使ったのに……」 「キャ、キャスター……そんな……」 雪輝が悲痛な声を漏らす。目の前にはキャスターと、アーチャーが倒れ伏している。 2対1なら負けることは無いだろうという楽観的な考えはあっけなく打ち砕かれた。 (こ、このままじゃ駄目だ、何とか、何とかしないと……) 現状を打開すべく必死に頭を回転させる。しかし、次の瞬間、その思考は唐突に止まった。 正確には、永遠に考えることができなくなった。 雪輝たちの上空から突如現れた剣と炎の波が雪輝を、由乃を、キャスターを、アーチャーを一息に呑み込んだからだ。 ここに、天野雪輝のDEAD ENDは執行された。 サーヴァントの超常的な戦闘力に目を奪われるあまり、雪輝と由乃は未来日記所有者として当たり前の事を失念していた。一度DEAD ENDフラグを立てられたならば、未来日記所有者自身が積極的に行動し、奇跡を起こして未来を変えなければならないのだということを。 もしも雪輝と由乃がもう少し冷静だったなら、陽介に対して迂闊に攻撃を仕掛けず探りを入れ、誰がDEAD ENDフラグを立ててきたのか見破ることもできたかもしれない。しかし、それも今となっては過ぎ去ったifでしかない。 奇跡とは、そう簡単に起こるものではなく、誰もが掴めるものではないからこそ奇跡と呼ばれるのだ。 &COLOR(#FF2000){【天野雪輝@未来日記 死亡】} &COLOR(#FF2000){【キャスター(タマモ)@Fate Extra 消滅】} &COLOR(#FF2000){【我妻由乃@未来日記 死亡】} &COLOR(#FF2000){【アーチャー(ジョン・ドゥ)@エンバーミング 消滅】 } 「何だよ…これ……」 陽介が放心したように呟いた。 こちらを襲撃してきたサーヴァントたちをアレックスが戦闘不能にし、力ずくではあるがこれから再度説得をしようとしたまさにその瞬間の出来事だった。 空中から突如飛来した剣と炎の波が彼らを残さず焼き尽くしたのだ。 それは、ビームを撃ち終えたアレックスの硬直の隙を突いた絶妙のタイミングでの攻撃であり、それがどこかで自分たちの戦闘を見ていたのであろう第三者の手によるものだと推測するのは容易かった。 先ほどアレックスに指摘された言葉が重くのしかかる。 「駄目だな、全く気配を追えん。 私が捕捉できないとは、これがアサシンのサーヴァントか。 それも、隠密性と広範囲攻撃を両立させるとはな」 傍らで軍服姿に戻ったアレックスが忌々しげに呟く声も、陽介の耳には入らない。 ただ呆然と、未だ火の手が消えない、先ほどまで四人組がいた場所を見つめていた。 アレックスは心中で嘆息した。それは彼のマスターに対してではなく、アレックスが予想するよりも遥かに早く訪れてしまった目の前の惨状に対してだ。 アレックス自身は死んだ四人組に対して特に思うところは無い。せいぜい面倒事を押し付けて逝ってくれたものだ、という程度のものだ。 しかし横で未だ放心状態にある、平和な国で生まれ育った自身のマスターを立ち直らせるのは容易ではないだろう。 「行くぞマスター、ここもじきに人が集まる。 教会に寄るのだろう?」 「……ああ」 力なく頷く陽介を促し、教会へと向かう。 教会の扉の前には、一人の神父の姿があった。 「ようこそ、若きマスターよ。 先に忠告させてもらうが、この教会の敷地内はムーンセルによって非戦闘地域に定められている。 しかし、だからといって戦闘中にマスターだけがここに逃げ込むのは感心しないな。 今回は知らなかったものとして大目に見るが、次は無いものと思ってくれたまえ」 開口一番、神父は辛辣な忠告を残し、教会の中へと戻っていった。 これ以上は、中に入って聞けということだろう。 陽介は力ない足取りで教会へと足を踏み入れる。 他にやりようは無かったのか。自分の考えが浅はかだったのか。 彼の迷いは未だ晴れず、深まるばかりだった。 【新都・冬木教会/未明】 【花村陽介@ペルソナ4】 [状態]:疲労(中)・精神力消耗(小)・後悔と無力感・残令呪使用回数:3 [持ち物]:ミネラルウォーター@現実・カロリーメイト@現実・医薬品一式@現実 大学ノート@現実・筆記用具一式@現実・電池式携帯充電器@現実・電池@現実 [基本行動方針]:聖杯を探し出して破壊する [思考・行動] 1.…………。 2.聖杯戦争について神父に聞く。 3.アレックスと今後の方針について話す。 ※本編BAD END1からの参戦です。 ※鳴上悠が参加していることに気づいていません。 ※本ロワにおけるペルソナ・ジライヤのスキル構成は以下の通りです。 疾風ブースタ:疾風属性の攻撃力が25%上昇 疾風ハイブースタ:疾風属性の攻撃力が50%上昇 ガルダイン:敵単体に疾風属性のダメージ マハガルダイン:敵全体に疾風属性のダメージ(ロワ内では疾風属性の広範囲攻撃。ガルダインよりも消費する精神力が多い) マハスクカジャ:味方全体の命中・回避率を上昇させる(味方サーヴァントに対しては一時的に敏捷値を1ランクブーストする) デカジャ:敵全体のカジャ系効果によるステータス上昇を打ち消す(サーヴァントには原則無効。打ち消せるのはマスターの強化状態のみ) ブレイブザッパー:敵単体にダメージ ディアラマ:味方単体のHPを中回復 【ランサー(アレックス)@ARMS】 [状態]:魔力消費(小)・ARMSの進化(進行度小) [基本行動方針]:聖杯を探し出して破壊する [思考・行動] 1.陽介と今後の方針について話す。 2.アサシンを警戒する。 3.陽介を(主に精神的に)鍛える。 【言峰神父@Fate Extra】 [状態]:健康 新都の住宅街の屋根の上を、一つの影が疾駆する。 その影こそは先ほど天野雪輝たちの命を奪った張本人、アサシンのサーヴァントとして招かれた英霊・“壊刃”サブラクである。 彼はマスターである匂宮出夢の許可を得て偵察のため別行動を行なっていた。 聖杯戦争においてマスターとのレイラインには距離的な制約があるわけではなく、単に別行動をとるだけなら単独行動のスキルは必要ないのだ。 そして、冬木教会の手前で戦闘を開始した天野雪輝や花村陽介らを発見し、戦闘を注視しつつ、攻撃を仕掛ける機会を伺っていた。 サブラクの存在が無差別日記に表示されなかったのは、未来日記に施された制限もあるが、何よりもその卓越した気配遮断能力にこそあった。 通常、気配遮断能力を持つアサシンであっても、攻撃に移る瞬間に生じる殺気は完全には隠しきれず、攻撃の寸前にはその存在が露呈してしまう。しかし、サブラクには初撃に限りその弱点が存在しない。 つまり、雪輝や由乃がどう行動しようともサブラクが攻撃を仕掛ける前に彼の存在を察知するという未来が存在し得ないからこそ、雪輝と由乃による完全予知すら欺き、気づかれることなく彼らの後方まで接近することができたのだ。 実のところ、キャスターも戦闘中の第三者の介入を考慮していないわけではなかった。しかし、無差別日記に表示されていた「剣と炎の波に飲み込まれる」という記述からアサシンのサーヴァントはその候補から真っ先に外していた。 基本的に、アサシンのクラスに収まる英霊には強力な遠距離攻撃手段や広範囲をカバーする攻撃手段が備わっていない。 例えば暗殺者の代名詞といえる山の翁は、基本的にダークの投擲以外にさしたる攻撃手段を持っていない。中には、相手の心臓の模造品を作り出し、それを喰らうことで相手を呪い殺す宝具を持つハサン・サッバーハも歴代のハサンの中にはいたが、それでさえせいぜい中距離程度の射程しか持ち合わせていない。 また、剣豪・佐々木小次郎や魔拳士・李書文はそれぞれ武芸者として優れた技を持ち、特に李書文は圏境の技によりサブラク以上の気配遮断能力を誇るが、同時にそれが彼らの全てであり、中距離以遠に対する攻撃手段そのものを持たないという欠陥がある。 また、アーチャーのクラスにあるサーヴァントが、こちらの索敵圏外からの狙撃と広範囲攻撃を両立できるとは考えにくい。 以上の理由から、介入してくる者がいるとすればそれはキャスターの魔術か、その他のクラスのサーヴァントだとキャスターは考えていた。 そうであるならば、仮に漁夫の利を狙って接近してきても、必ずその兆候を察知できるものと彼女は踏んでいた。 しかし、サブラクはアサシンの中では例外中の例外ともいえる、長射程かつ広範囲への攻撃手段を持っていたのだ。 その本来なら油断とも呼べぬ油断をサブラクは正確に突いてきた。もっとも、サブラクは未来日記の事など知る由もないので、これらは全くの偶然ではあるのだが。 閑話休題。 こうして、上々の戦果を挙げたサブラクではあるが、その心中は決して明るくはなかった。 「ふむ、しかし一度攻撃を放っただけでこうも魔力を持っていかれるとはな。 もし全力で放っていれば、俺の総体の一部が削られていたやも知れぬ。 全く、ムーンセルとやらも無体な真似をしてくれる」 ブツブツと自身の置かれたままならぬ現状に不満を漏らす。 魔術の基本原則は等価交換だ。 聖杯戦争におけるサーヴァントの身体は魔力で構成されており、ただ実体化しているだけでも魔力を消耗していく。 であれば、サーヴァントとしては規格外の巨体を持つサブラクの身体の維持は、通常のマスターの魔力供給量でできるだろうか。答えは否。 桁外れの総体を持つサブラクは、維持に必要な魔力も並大抵ではなく、その全体を全て実体化させようものなら、浸透スキルの行使による消耗も合わせてバーサーカーとして現界したヘラクレスすら超えるほどの負荷をマスターに強いる事となる。 そこで、サブラクは最低限の人形部分以外の身体のほぼ全てを霊体化させることによって、この問題に対処した。これにより、実体化時の消費魔力を通常のサーヴァント一体分程度まで抑え込む事に成功し、かつ浸透スキルの使用によるステータスの低下を免れることができた。(とはいえ、流石に先ほどの戦闘の時には奇襲をかけるために総体の一部を実体化させ、浸透のスキルを使用したが) 勿論身体の殆どを霊体化させていては、不意の一撃を被った時に瞬時に人形を修復させる事ができないが、背に腹は代えられない。 それに、先ほどの攻撃による予想以上の魔力消費も、彼の逼迫した魔力事情に拍車をかけていた。 先ほどの攻撃の時にも、やろうと思えば教会ごと陽介も巻き込むことができたが、攻撃するだけでどれ程魔力を使うか分からず、教会も破壊したとなればペナルティを被る可能性が高かったため、慣らし運転と割り切って敢えて攻撃範囲を抑えたのだ。 結果は想定よりも遥かに悪いものだった。これでは範囲をある程度抑えたとしても短時間のうちに自身の総体に影響を及ぼさずに撃てるのはあと2,3回といったところだろう。 聖杯戦争が長期戦になることを考えれば、全力攻撃など以ての外だろう。もし度を越えて魔力を消耗すれば、サブラクは自身の巨体を少しずつ削られていく事となる。それが、ムーンセルからサブラクに課せられた独自の制限だった。 「しかし、こうなると我がマスターの“殺戮は一日一時間”という指示は実に俺の現状に合致したものだったというわけか。よもやムーンセルはそこまで計算して俺とマスターを引き合わせたのか?だとすれば、大したものだ。 さて、そろそろマスターと合流せねばな。流石にいつまでも一人にしておくわけにもいかんからな」 相変わらず独り言を呟きながら、サブラクは夜の街を駆ける。 蝶との再会を夢見ながら。 【新都・住宅街/未明】 【アサシン(“壊刃”サブラク)@灼眼のシャナ】 [状態]:魔力消費(小) [基本行動方針]:優勝狙い [思考・行動] 1.出夢と合流する。 2.基本は隠密行動。通常戦闘も極力控える。 3.殺戮は一日一時間。 ---- |BACK||NEXT| |031:[[I'm a liar]]|投下順|033:[[生きているのなら英雄だって殺してみせる]]| |042:[[Anything Goes!]]|時系列順|033:[[生きているのなら英雄だって殺してみせる]]| |BACK|登場キャラ|NEXT| |007:[[No.7]]|花村陽介&ランサー|036:[[Beautiful dreamer?]]| |029:[[初期不良]]|天野雪輝&キャスター|&color(red){脱落}| |029:[[初期不良]]|我妻由乃&アーチャー|&color(red){脱落}| |019:[[No.19]]|アサシン(“壊刃”サブラク)|060:[[ヒトクイフラグメント]]| |001:[[OP〜導入]]|言峰綺礼|036:[[Beautiful dreamer?]]| ----

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