提督×暁2-842

「司令官ー?司令官ー?」
コンコン、と何度も執務室のドアを叩く音が鳴った。ドアの前に立つ暁はむぅ、と頬を僅かに膨らませる。
「勝手に入っちゃうんだからね!…失礼しまーす」
静かにドアを開けると、中には誰もいなかった。秘書艦の姿も見えない。
「もぅ!暁が遠征から帰って来たのに…でも予定より早かったからなぁ」
遠征にいっていた暁が率いる第二艦隊は十三時に帰投予定であった。それが一時間半以上繰り上げて十一時三十分に母港へ到着した。任務は失敗せず、物資のお土産付きである。
「もしかしてお昼に行ってるのかしら… 暁もお腹が空いたし食堂に行こう」
そう思いドアを閉めようとした時に執務机にあるノートパソコンが暁の視界に入った。ドアの隙間は縮まらず、やがて広がって暁は執務室へと入り込んだ。トテトテと机の後ろに回って椅子の隣に立つ。
暁の視線はノートパソコンに釘付けだ。目はランランと輝いている。閉じたノートパソコンに手を伸ばしてディスプレイを開けた。
「ちょっとだけ…」
この基地では艦娘が希望すれば各々にノートパソコンは配給されていた。しかしパソコンには強力なフィルター設定があり、アレやコレやソレなサイトはすべて猫妖怪の画面になっていた。多少の抜け道はあるらしいが、それを知っている者は他の誰にも教えなかった。教えてしまうとその方法が広がってしまい、しまいには二度と使えなくなるからだ。以前そういうことがあったので彼女たちの口は固かった。しかし、提督のパソコンは違う(はず)。提督のパソコンなら何でも見れる(はず)。以前青葉がコッソリ提督のパソコンで色々見たと聞いたことがあった。その色々というものに、暁は興味を持っていた。
ノートパソコンは既に起動していた。提督は電源をいれたまま出て行ったようだ。暁はワクワクしながらマウスを動かしてインターネットのマークをクリックする。

【パスワードを入力してください】

「!!」
画面に大きくダイアログが表示されていた。パスワード!もちろん暁はそのパスワードを知らない。これではネットワークに接続できなかった。青葉の話を聞いた時はパスワード画面が出たとは一言も言っていなかったはずだ。もしかしたら提督は青葉の件を何となく察してパスワードをつけたに違いない。暁はガックシと肩を落とした。
「つまんない…」
暁はパソコンを閉じようとした、が、ディスプレイに表示されている【aktk.txt】というアイコンに気付いた。他のアイコンはワードとかエクセルとか、オフィスソフトのショートカットが並んでいたが、そのテキストファイルだけは何か違うものを感じた。
「何だろう?」
パスワードがかかっているかもしれないが、とりあえず暁はそれをクリックした。パッとすぐにテキストが開いた。パスワードはかかっていなかった。
文字の羅列が暁の目に飛び込んだ。その文章を上から順に読もうとしたら、文章の中にある【暁】という言葉を見つけた。
「暁のことが書いてある?」
不思議に思いながら読んでみると、文章の中の暁は提督と会話をしていた。暁はさらに首を傾げた。そこにある会話を提督とした覚えが暁には全くなかったからだ。
「日記…?でもなさそう?」
読み進めていくと文章の中の暁の挙動がおかしかった。まるで提督に恋をしている女の子みたいだったからだ。提督の態度もおかしかった。そんな暁に対して妙なことを考えていたからだ。その、とても、いやらしいことを。
「………」
暁は無言で読み続けた。文章の二人の距離が近づき、――――――キスをした。触れ合い、抱き合い、服を脱がし、愛撫し、――――――とにかく恥ずかしい行為をやり始めた。読んでいる暁の顔が段々と赤くなり変な気持ちになっていく。
「な、何これ……」
読むのを止めればいいのにどうしても止められない。文章の行為は激しさを増すばかりだ。暁自身の体も火照っていく。
「さぁて、午後も頑張りますか」
執務室のドアが不意に開いて声がした。暁の身体がビクンっと大きく跳ねた。
「今日中の書類、早く片付けましょうね~」
「分かってるよ愛宕……ん?!暁?!」
提督は執務机の前にいる暁を見てギョッとした。後ろから来た愛宕はあらあら、と呟く。
「お、お前もう戻っていたのか…って!?何をしている!」
「しっ 司令官…あの、その…暁は…」
言い訳をしようとすると頭の中で文章の行為が生々しく再現された。しかも目の前にはその提督もいて暁を見ている。暁は段々と居た堪れなくなって走り出した。
「暁?!」
素早く提督の横を走り抜け暁は部屋から出て行った。
「あいつ、どうしたんだ…?」
「顔が真っ赤でしたね~ 風邪でも引いたのかしら?ちょっと様子を見て来ますね」
「あぁ、よろしく」
愛宕は暁の後を追い部屋を去った。提督は不思議に思いながら執務机に近づく。
「全く、俺がいない間にパソコンを触るとは…ネットにはロックをかけていたから出来なかったとは思う、が…… ?!」
ディスプレイを見て提督の顔から血の気がサァーっと引いた。暁が読んでいたテキストファイルが開きっぱなしだったからだ。
「こ……!これは!あ、あいつもしかしてこれを読んで……あ、穴があったらいれたい…いやそうじゃなくて!」
提督は頭を抱えた。実はそのテキストファイル、提督が2chの艦これのエロパロスレで投稿しようと考えていた話だった。実はこの提督、暁にゾッコンである。あのロリボディにアレをソレしてコレしたいというムラムラした欲求を抱いていたが、いたいけな少女に性欲をぶつける行為に罪悪感を感じ、我慢していた。しかしその欲求は溜まる一方――――――なので妄想を形にしてエロパロスレに投稿し発散しようとした。しかし書きながら恍惚とした気持ちと同時に罪悪感の責め苦に悩み、盛り上がりシーンを書いたままそのまま放置し、投稿もせず削除もせずに眠らせていた。自分で書くのは良心が痛むので他の職人の投稿を待っていたが、暁メインの話はほとんどないしエロい目にも遭っていない。暁は穢れぬまま綺麗だった。それはそれでいいが、やはり寂しい。かといって中途半端の自分の話を投稿するのも気が引ける。提督は他の艦娘の話を脳内で暁に置き換えて妄想する術を不本意ながら身につけ、それで欲求を満たしてきた。しかし、しかし、もったいないからと思ってゴミ箱にも捨てずにディスプレイに置いていたせいで、まさかの本人に読まれるとは、どうしよう。どうすればいいんだ――――――
(でもあの真っ赤な暁…可愛かったなぁ)
部屋を飛び出した時の暁の表情。最高にそそる。提督はムラムラしてきた。下半身に熱が集まる。提督は前屈みのままトイレへと向かった。トイレへと急ぎながら、今ならあの続きが書けるかもしれない。そう思うのであった。
その後暁が提督と距離を置くようになったのは、別の話。


スレの埋めネタなので続かない。

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最終更新:2013年11月30日 13:44