非エロ:提督×瑞鶴2-730

「提督~、何か瑞鶴ちょっと退屈なんだけどぉ・・・ふて腐れるぞぉ~」
手持ち無沙汰に机に突っ伏している瑞鶴が不平の声を上げる。
「そう言われてもな……もう少ししたらひと段落つくからちょっと待ってくれ」
「さっきとおんなじ事言ってる~」

居眠り癖のある加古や比叡ならほっておいても問題ないし
もしくは秘書艦の仕事に慣れている艦なら頼めることもあるのだが
あいにく現在の鎮守府において彼女らは長期遠征中であり
残った艦の中で元気が有り余ってそうな瑞鶴を秘書艦にしたのだが
どうやら与えられた仕事だけではご不満らしい。
とはいえあと数時間で長距離練習航海中の艦が帰投するのでそれまでは居てもらわないと困る。

「仕事が少ないに越したことはないだろ、そういえば今何時だ?」
遠征部隊の帰還時間までには今記入中の書類の処理は間に合うだろうが一応確認する。
「フタマルマルマル!(私の時間だぁ~~!!) …って、かわう…川内うるさい!」
川内の元気な声に負けないくらい大きな声で瑞鶴が外に向かって文句を言うが
残念ながらすでに川内はいないようである。

その様子をクスリと笑いながら眺める。
「(相変わらず元気だなこいつら……しかし)夜戦、か……(なんであんなに夜戦好きなんだっけかな)」
呟いてから横を見ると、何故か瑞鶴が顔を赤くして突っかかってきた。
「て、提督……! 今変なこと考えてたでしょ!?」
「は?」
「や、夜戦とか言ってたでしょ!?」
「ん? ああ、確かに夜戦(夜間戦闘的な意味で)とは言ったがそれがどうかしたか?」
「ど、どうかしたかって……」
不思議に思って尋ねる。
「そもそもお前(空母)は夜戦(夜間戦闘的な意味で)できないから関係ないだろ?」
そう言うと瑞鶴は顔を赤くしたままムキになって反論する。
「や、夜戦くらい瑞鶴にだって出来るわよっ!」
「いや、無理だろ」

これでは水掛け論だ。
とりあえず落ち着かせるため、努めて冷静に語りかける。
「いいか? 瑞鶴。不可能なことを出来ると言い張るのは……」
「で、できるって言ってるでしょ!?」
軽巡にできることが自分にできないわけはないという正規空母としてのプライドというやつか?
しかしそれは話が別だ。
これはそもそも適材適所という話であり……だがすっかり頭に血が上った瑞鶴にそれを言っても効果はなさそうだ。
となれば……
「わかった、じゃあ夜戦してみろ」
「そ、そうよ! 始めからそう言えば……ってええぇぇぇぇ!?」
「? 何を驚いてるんだ? 夜戦(夜間戦闘)出来るんだろ? それならやってみせてみろ」
「て、提督の変態!!」
わけがわからない、そもそもなぜ出来ることをやってみせろと言ったのに変態呼ばわりされなければならないのか。
「ほら、だからな……できないものはできないんだから……」
「ぅう~~~! い、いいわよ!! 瑞鶴だって夜戦くらいできるってこと見せてあげるんだから!!」
「そうか、それなら見に行こうか」
仕方なしにずんずんと歩いていく瑞鶴を追いかけるのだった。

───が
「……なんで俺の部屋にたどり着くんだ?」
部屋に上がり込み黙ったままの瑞鶴に尋ねる。
「だ……だって……や、夜戦するんでしょ?」
「確かに見せてくれとはいったが、普通は外でやるだろう?」
私室の中で戦闘機なんぞ飛ばされてはたまったものではない、後片付けが大変だ。
「そ、外……!?」
「普通は演習場とかでするもんじゃないか?」
絶句する瑞鶴に当然のように言う、それこそ今なら川内あたりがいるんじゃないだろうか。
あれ……返事がない。

「……!」
ポカッ!
「うわっ!」
真っ赤な顔をした瑞鶴が突然駄々っ子パンチを繰り出してくる。
なんとかそれをかわすと

「全機爆装、準備出来次第発艦!目標、提督私室の提督!やっちゃって!」
弓を構える瑞鶴。

「ちょ、ちょっとまて! 外でやれ外で! というかなぜこちらに爆撃機を向ける!?」
「う、うるさい! 提督さんの変態! バカバカァッ!!」
「ええい、さっきから聞き分けのない! 大体お前深海棲艦でもあるまいし夜間戦闘出来るわけないだろ!?」
「だ、だからそのくらい瑞鶴だってできるって……え?」
弓を構えた瑞鶴がポカーンとした顔になる。
「だから……普通空母は夜間戦闘できんだろう。発進はともかく着艦はどうするんだ」
「え……え? ……だ、だって……夜戦って……」
「さっきから何をわけのわからんことを言っているんだお前は」

と、これ以上ないくらい顔を真っ赤にしたまま瑞鶴が固まっている。
「……おい?」
「…………」
「もしもーし」
「…………」
反応のない瑞鶴を見ながら考える。
夜戦……外ですると変態……なんとなーくわかってきた気がした。
呆れた顔で一言尋ねる。
「……お前……一体ナニするつもりだったんだ?」
「イ……」
「イ?」
「イヤアアァァァァァァァ!!」
瑞鶴の叫び声が夜の鎮守府に響き渡るのだった。



そして今日である。
「な、なんで瑞鶴が今日も秘書艦なの?」
「昨日アホな騒ぎを起こした罰だ。まぁ真面目な話正規空母の秘書艦育成が急務というのもある」
実際一航戦二航戦、そして翔鶴はローテーションで絶え間なく出撃が続いていて、なかなか秘書艦としての職務に集中できない。
当然そうなると兵器開発等に支障が出てしまうので
最近着任したばかりの瑞鶴にはすぐに最前線の勤務は難しいとしても秘書艦としての職務に慣れていてもらう必要があった。
そこで昨日不満そうだった仕事量を普段の量に戻してみたのだが……

「こ、こんなの終わらないわよ!」
夕方も過ぎたというのに半分以上の書類が残っている。
「しかたないな、手伝うから半分よこせ」
やれやれと思いつつ手伝ってやる事にする、自分にとっては手馴れた仕事なのでなんとかなるだろう。

「よし、なんとか日が変わる前に終わったな」
「はぁ……疲れたぁ……」
「まぁそのうち慣れるさ、お疲れ様。今日はもう休め」
そう言って瑞鶴を労って退室するように言ったのだが、彼女はなにやら机の中から荷物を取り出してそわそわしていいる。
「どうした?」
「え、え~と……こ、これあげる」
瑞鶴が袋から小ぶりの酒瓶を取り出す。
「なんでまた」
「き、昨日瑞鶴のせいで遠征隊の出迎え遅れちゃったりしたから……そ、その……お詫び」
とんだ勘違いをされたものだったがそれでこうやって気を使ってくれるあたり
やはり根は素直でいい子なのだと思う。
なので、お礼を言ってありがたく受け取ることにする。
だがまだ瑞鶴は退出しようとはしない。
「まだ何かあるのか?」
「そ、その……お詫びも兼ねて提督にお酌してあげてもいいかなって……」
「そうか、ならお願いするかな」
特に断る道理もない、執務室の中に残ってた乾き物を出してささやかな宴を始めることにする。

「そういえば瑞鶴が飲むものがないな」
「ず、瑞鶴だってお酒くらい飲めるわよ!」
「そうか? ならいいんだが」
だいぶ前の宴会だが翔鶴もそれなりにいける口だったのを思い出す。
本人がそう言うならいいだろうと、注いでもらったお返しに瑞鶴用に取り出したコップに酒を注いでやる。
「それじゃお疲れ様」
そう言って盃を合わせたのだが……

数分後───

「ふにゃあ……」
「弱いならはじめからそう言え」
コップの半分ほど酒をあけたところですっかり顔を赤くしてだらしなく机に突っ伏す瑞鶴。
姉と違って酒には弱かったらしい。
と、その言葉を聞いて瑞鶴がこちらを睨む。
と言っても酔っ払ってるので全く迫力を感じないのだが。
「む~……提督さんまた瑞鶴を子供扱いしようとする~」
「別に馬鹿にはしてないぞ、酒に弱いとかは体質の問題じゃないか」
ぶーぶーと文句を言う瑞鶴をなだめてやるのだが
「だってさぁ……戦闘も赤城さんとか翔鶴姉と違って近海の出撃ばかりだしさぁ……」
「一番最近に配属されて練度(LV)が低いんだから仕方ないだろ」
まだ瑞鶴は練度(lv)が低い、なのにすぐ激戦区に出撃などさせて轟沈などされてはたまらない。

「だから別に子供扱いしてるってわけじゃない」
一航戦二航戦だけではなく、今いる軽空母たちもかなりの経験を積んだ歴戦の猛者だ。
そんな彼女たちも最初は今の瑞鶴と同じように地道な努力を積み重ねて今に至る。
「う~……」
その言葉でも不十分だったらしく、不満げな顔で立ち上がるとこちらに歩いてくるが
ただでさえ酔って足元がおぼつかない瑞鶴は姿勢を崩してこちらに倒れこんでくる。
慌てて受け止めてやるとそのままこちらの膝に座り込んでしまった。
「おい?」
「へへー、提督さんに着艦」
けらけらと笑う彼女を呆れながら見ていると、笑うのをやめてこちらの顔を覗き込んできいる。
「あのねー、瑞鶴だって提督さんのお役に立ちたいんだよ~」
「わかったわかった」
そう言いながら軽く頭を撫でてやる。
「あ……へへ~」
反応が駆逐艦あたりと変わらないじゃないか、などど思っていると。
「だからね~、瑞鶴はもう子供じゃないんらって~。夜戦だってちゃんとできるし~」
「いや、それはもう昨日聞いたから」
「ちがうよ~。提督さんはわかってないんらから~」
コイツ絡み酒かめんどくせぇ……そう思いながら諭すように言葉をかけてやる。
「とにかく今できることを無理せずやってくれれば俺だって充分助かってるんだから、な?」
「う……ん……スゥスゥ」
こちらにしがみついて頷きながら寝てしまう瑞鶴。
はぁ……とため息をつきつつ執務室に備えてある布団に寝かせ、上から毛布をかけてやる。
そして盃に残った酒を飲み干し
「片付けるのは明日にするか、もう遅いし」
と部屋に戻って寝るのだった。


翌日───

「提督、もういらっしゃいますか?」
執務室の扉をノックする翔鶴、今日の秘書艦は彼女が担当である。
「まだ、来られていないようね。失礼しま──」
ドアを開けて中に入った翔鶴が発見したのは机の上にある酒瓶やらコップ
そして布団にくるまって幸せそうな顔で眠っている瑞鶴であった。
「Zzzzz…えへへ~……翔鶴姉ぇ……提督さん……」
大体何があったのか察した翔鶴、と言っても提督のことを疑っているわけではない。
少なくとも酒を飲ませて女性を襲ったりするような人物ではないと知っている。
なので大きくため息をつきながら瑞鶴を起こす。
「まったくもう……ほら瑞鶴、朝よ。起きなさい」
「ふぇ……? ぁ~翔鶴姉おはよう~」
「おはようじゃありません。ほんとにもう、あなたはお酒に弱いんだから気をつけなさいっていつも言っているでしょう?」
「お酒……って……あれ?」

(あれ……なんで執務室で寝てたんだろう……?)
まだボーっとする頭を動かして昨日のことを思い出す。
(えっと、確か提督さんにお酒あげて一緒に飲むことにして……あ……)
酔うと記憶をなくす人というのはよくいるが、瑞鶴の場合そうではなかったらしい。
あっという間に酔った挙句に提督に寄りかかったり(瑞鶴的には)きわどい発言を提督に連発したり……
瑞鶴の顔がサーっと青くなる。
「どうしたの瑞鶴、大丈夫? ……ってあなたもしかして酔って提督に失礼なこと言ったりしたんじゃないでしょうね」
「そ、そそそそそんなことあるわけないでしょ!? じゃ、じゃあ翔鶴姉、あとよろしくっ!!」
「あっ、ちょっと瑞鶴!!」
翔鶴の声を聞こえないふりをして、瑞鶴は執務室から全力で逃げ出していった。
「はぁ……とりあえず提督が来られるまでに部屋を片付けておきましょうか」
こういう役割には慣れっこになってしまった彼女はそう言って部屋を片付け始めるのだった。

「きゃっ」
「わっ!」
執務室から逃げた瑞鶴は通路のかどから出てきた人影にぶつかりそうになる。
慌てて急停止た瑞鶴だが……
(げ……)
その人物はよりにもよって瑞鶴が鎮守府内で最も苦手にしている加賀だった。
「朝から騒がしいわね」
「い、急いでたんだから仕方ないでしょ!?」
「だからといって通路を走っていい理由にはならないわね」
ばっさりと切り捨てられて言い返せない瑞鶴。
「まったく……これだから五航戦の子は……」
「う~……」
言い返そうと思いはするが、加賀が単なる嫌味だけで言っているわけではないのを知っている。
配属されてすぐその事で翔鶴に食ってかかったのだが姉は笑いながらこう言ったのだ。
「あれは加賀さんなりの激励なのよ。ちゃんと見ていればわかるわ」と
しばらく観察していたが、少なくとも翔鶴がそう言われている様子はない。
古参の龍驤にこっそり聞いてみたのだが
「あ~、翔鶴ちゃんもここに来たばかりの頃は結構言われてたんやで?
でも頑張って加賀さんたちと同じくらい活躍するようになってからは言っとらんし
編成の打ち合わせでも自分たちとおんなじ戦力って感じで見とるようやし」

つまりはやはり自分が未熟だということなのだろう。
そうは言ってもやはり面と向かって言われるのは気に入らない。
ぷいっとそっぽを向いて通り過ぎようとした。
「ちょっと待ちなさい」
「な、なに──!」
振り向いて突っかかろうとした瑞鶴だったがその前に頭を掴まれて髪を手に取られる。
「?????」
困惑する瑞鶴をよそに加賀は手早く彼女の髪を一旦ほどいて纏めなおし、皺が寄っている服を引っ張って帯を器用に巻きなおす。。
「これでいいわ、身だしなみくらいきちんとしなさい」
そういえば髪を解かずに寝ていたため髪型がも服装もだいぶ崩れていたらしい。
「あ……ありがとう……ございます」
「別にお礼を言われることではないわ、そんなだらしない格好でウロウロされていたら風紀にも良くないからよ」
そう言うとさっさと加賀は立ち去ってしまった。
自分はまだ子供だ、という事を思い知らされた瑞鶴は複雑な表情でしばらく廊下に佇んでいた。
 

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最終更新:2013年10月21日 01:27