提督×隼鷹 18-305

305 :名無しの紳士提督:2015/12/10(木) 01:51:13 ID:BFr1zh0E

意味もなく、執務机の引き出しを開ける。
そこには使い慣れたペンも、艦娘に差し入れられたお菓子もなく、ただがらんとした空間があるのみ。

辞令も降りていないのに、我ながら気が早い。そんなことを思いながらも、しかし荷造りは半分以上を済ませてしまった。
そこへ、こんこん、とリズミカルなノックの音。

その軽空母が鎮守府執務室にやってきたのは、そんな手持ち無沙汰な最後の夜の時間だった。


「や。提督。――ちょっと、話がしたいんだけどさ」

特にムリをしているようでもない、いつもの調子。睨まれても泣かれてもおかしくないが、悲嘆にくれるような表情は決して見せない。
「…隼鷹か。構わないよ。どうぞ」
今回は君もお疲れ様だったね。援護に回った後も、よく成果を挙げていたよ。

我ながらどこか白々しいことを言いながら、入室を促す。

「――辞めるんだって?ここ」

単刀直入。彼女らしい質問に、ああ、と短く応える。
「僕には向いてない仕事だった。いや――正直、僕の能力には荷が重かった。そういうことさ」
一瞬だけ、彼女の瞳に曇りが生じた…ように見えた。
「…そっか。まあ、しょーがないな。あたしが決めることじゃないし」

でも、海域の攻略も中途半端だけど――そんなことを言いながら、ちらりと表情を伺ってくる。

「やむを得ない。今回はE3地点攻略までで終了だよ」
「突破できない場合、どうなるんだ?」
「知っているだろう?アレが使われる。――全部、跡形もなく吹っ飛ばされる」

深海棲艦も、近隣の島礁もそこに住む人々の家も、故郷も。そして、向こう数百年は人も近づけない海域になる。
ようやく改二戦力も整ってきて、古株の一人とのケッコンカッコカリも果たして。次は初の甲勲章授章だと、鎮守府全体を浮かれされて――

「あいつが、自分から次へ行くって言ったって聞いたけど」
「いや。僕の責任だよ。僕の、慢心がすべての元凶だ」
「…疲労が溜まっちゃったあたしの代わりに、たまたまなったばかりにねぇ」

力不足だったね。そういって、隼鷹は軽く息をつく。
いや。艦娘たちは良く頑張ってくれた。恨む気持ちなど全く持ってはいない。
ただ、僕の背伸びのためだけに。やがて修復剤が尽き、燃料が尽き、焦った僕はついに、取り返しの付かないミスをした。

「ん。分かったよ。そんなら、わたしの身の振り方についても相談させて欲しい。…ここに居るべきか、正直、判断が付かなくて。それに――」

一人で部屋にいるのは、あまり慣れて無くてさ。

静かに、ただ少しだけ寂しげにそんな事を言われては、僕には他に選択肢のあろうはずがなかった。


「さて、じゃあ提督にはヒミツの隼鷹さんコレクションを堪能してもらおうかな。パーッといこうぜ、パーッと」

鎮守府空母寮、飛鷹型の私室。クローゼットの奥の方に鎮座していたのは、一目見ても高級そうな酒瓶の山。

「…このご時世に、どこからこんなに集めたんだ」
「チッチッ。商船改造空母をナメちゃいけないなぁ」
交渉次第で裏ルートなんて何処にでもあるんだよ、などとある意味危険なことを言いながら、二人分のロックグラスに手際よくアイスブロックとウィスキーを注ぐ。
薄手のドレスのような部屋着に身を包んだ隼鷹は、細かい仕草まで意外に上品だった。生まれ育ちが良いという風説は事実だったのかもしれない。

「はい、提督の分。さて…お疲れ様でした。かな」
自室での秘密の酒盛り用なのだろう、向かい合った大きめのソファ、ガラス張りのテーブルの対面に座ると、かちん、と勝手にグラスを合わせ。
隼鷹は、ぐっと多量の一口めを喉に注いだ。

「…そして、あいつにも。お疲れ様ぁ」

虚空に向かって軽くグラスを差し出すその仕草は、人によっては皮肉にも取られようが――彼女の人柄あってか、まったくそんな風には見えなかった。
飲みたい気分でもなかったが、彼女の代わりに付き合うのは、今夜の僕の義務なのだろう。一口目を、喉に運ぶ。


最悪の気分を反映した重い鉛のような、味を感じない、ただ強烈に熱い感覚が、喉を焼いた。


「じゃあ次はこっち開けるか。――ん、どした提督?もう酔った?」
「酔えるような気分じゃあないんだよ」
小半時が過ぎたか。視界が回る。ひらひらの部屋着からたまに覗く隼鷹の白い脚が、妙に眼に焼き付く。

「ケッコンしたあの彼女も置いていくのか?今なにやってんだ?」
「ベッドで寝てるよ。生命に別状はないが、怪我は直せない。修復剤も、燃料ももう無いからな」

自分への再びの腹立たしさに、再びぐいと一気にグラスを開ける。

「それにケッコンカッコカリはそういう関係じゃない。新しい提督の元で、彼女も、きっと、居場所を…」
「あーあ。それ本人聞いたら泣いちゃうぜ……っと、あらら。…溢れちゃったか」

グラスを見る。琥珀色の液体はグラスの半ばまでしか注がれておらず、別に溢れてはいないように見える。が。
それを観る視界のほうが、酔いではない理由でぼやけていることに気づいた。軽く目頭を押さえる。

「違う、これは…」
「ムリするなよ」

隼鷹が隣に座って、間近で目を覗き込んでくる。心配でも媚でもない、困った子供を見るような優しい視線。

「知ってるぜ。アンタが、勲章までも売り払って燃料に変えたコト。それこそ、裏のルートを使ってまでも」
「ああ。出撃する燃料の一滴のため、沢山の艦載機も洋上補給も潰したさ。……それが、どうした。物資不足なんてどこの戦場も一緒だ。僕は結果を出せなかった」
「良くやったよ、アンタは。あたしも、他の艦娘も、そう思わない奴は一人もいない――勿論、アイツもだ」

返答に詰まる。そんなはずはない。きっと恨みと後悔の中で、彼女は。

「泣きたかったら泣けばいい。誰も見てない。あたしの胸でよきゃ、貸してやるよ。ほれ」
まるではるか年上の女性のように、耳に静かな声色と共に、隼鷹の両腕が僕を包み込んできた。
「……」
何かに吸われるように、そのまま自然に身を預ける。リラックスした女性の優しい香り。柔らかな胸の感触。
そして、何よりも、温かさが。
僕が深海に沈む冷たい躯に変えた、あの彼女が永遠に失ってしまった、その温もりが。

「…っ、」
一粒が、頬を流れ落ちる。
その後は、堰を切ったように留めることが出来なかった。

「…『飛鷹』…。…すまなかった、僕は…僕は……無能だ…ッ!!」

喉から嗚咽が溢れる。隼鷹の細い身体に縋り付き、僕は声を上げて泣いた。


「気が済んだかい?」
頷くと、優しく髪を撫でてくれていた手が、止まった。

静寂。
濡らしてしまった薄手の部屋着を通し、女性特有の柔らかな感触と、どこか懐かしいような匂いを頬に感じ、僕は初めて当惑を覚える。

「ん…正直だなぁ」
苦笑いと共に彼女が「そこ」に手を軽く触れた瞬間、びくりと身体が震えた。
そう――こんな状況下で、すっかり僕の身体は彼女の感触に反応してしまっていた。

「気にすんなよ。隼鷹さんの胸に顔を埋めてんだから、これくらいは当然の反応さぁ」
ほれほれ、と楽しげに豊かな胸に埋めるように抱きしめてくる。やめろ、苦しい…

「――最後の夜だろ?提督。あたしにも、したかったことをさせてくれよな」

急に落ち着いた声でそう言った隼鷹は、僕をソファに置いて静かに立ち上がる。
彼女はそのまま、軽いドレスのような部屋着の背に手をかけ。
「よっ…と」
するりとそれを、いとも簡単に床に解き落とした。
中から現れたのは――扇情的な透過具合の、布面積の小さな黒の下着を纏った、すらりとしたスタイルの良い姿態。

「意外と私も、やるだろ?提督?」
「隼鷹…!?」

匂い立つ白い肌を晒したその姿は、ソファにだらしなく腰掛けた僕の、脚の間に上品に跪き。
納まりの悪い髪を軽く掻き上げ、軽く微笑みつつも、かすかに頬を染めた、その熱い視線の先には。
艶姿を間近に捉えて目が話せず、痛いほどにズボンにテントを張った僕の一点。

「ごめんな、提督。今夜の隼鷹さんは、ちょっと悪い娘な気分なのさ…………っと」

白い冷たい手に引きずり出され、愛しげに先端にキスをされた僕の一物は、快楽の期待に痛いほど反り勃つ反応を返した。


「隼鷹…、やめろ、そんなこと…」
「…ん…酒の席は無礼講だよ、提督。気にしない気にしない。ちょっとしたストレス解消、スッキリさせてあげるだけだからさ……」

上気した顔で頬を染めて、愛しげに脈打つそれを見つめては唇を、舌をつっと這わせる。
軽い言葉とは裏腹に、半ば以上、行為に夢中になったその表情、熱に浮かされたような視線は、僕の酔った心の奥底を欲望に染めていく。

「よ…せ…っ、うあっ…」
「ひゃは……良い反応だねえ。嬉しくなっちゃうよー。…ほーら……」

先端が裏筋を舐めあげ、先頭部分を念入りにぐるりと刺激し始める。僕の心臓が、口から出そうなほどに激しく脈打ち始める。
やがて、つ…と銀の橋を残して、その舌がゆっくりと離れたかと思うと。

「ん…」
「っく……」

柔らかな隼鷹の唇の奥に、…一気に。深く、深く。

そのままゆっくりと上下する。先端から、ぬるりと全面を刺激しながら奥まで。同じように、ふたたび先端へ。
包まれる温かさが、うごめく舌の感触が、僕の意識と理性を蕩かしてゆく。
下着に包まれ揺れる隼鷹の豊かな胸が、時折脚に当たる。その柔らかさ、卑猥な水音、唾液と先走りの入り混じった匂いが、僕を昂ぶらせる。

「…ぷあ。…びくびくしてきた、もうイキそうなのかなー?まだまだ早いよー?」
「う…っ、あぁ…っ!あっ!」

口を離したかと思うと、細い指先が先端を遠慮無く撫で回す。強すぎる刺激に腰が思わず引くと、逃がさないとばかりに今度は再び舌と唇が吸い付いてくる。
「――!」
じゅるるるる、と思い切り吸い上げられ、あまりの快感に思わず背がのけぞった。声にならない悲鳴が上がる。

ぎゅっと全体を手に包まれ、丁寧に舌を這わされる。粘膜に触れる呼吸が、たまらなく熱い。
親指と人差し指で輪をつくり、上下にしごきあげられる。声が止まらず、喉が反る。
それからも延々と、舌で、指で、様々な刺激を与えられ――

やがてエスカレートした右手指に袋部分を揉まれながら、片手指と唇が竿部分を包み込んでの上下運動に入ったとき、真っ白な何かが脳内で焼き切れるような快感を覚え、

「…く、………ぅあっっ!」
「……!」

思わず上から抑え込んでしまった彼女の喉内に、二度、三度、
――六度目か七度目か、とにかくこれまでに覚えがないほどの量を下着姿の隼鷹の口中に射精して、僕は果てた。


こくり、と彼女が喉を鳴らせた。
上質の酒を飲み下すかのような、満足気な顔で。


「どう?少しは気が晴れただろ?」

手早く再び部屋着に着替え、何事も無かったかのようにグラスを口に運ぶ隼鷹。
「旨い酒飲んで、たっぷり泣いてさ。そんで、女と一発ヒャッハーしたら、多少は冷静になるってもんだろ」
三重の賢者タイムだぜ――そんな下品な冗談を言った彼女に、服を正しながら非難の目で抗議する。
でも。

「――そうだね。いや、完全にそういう訳でもないけれど――お陰で、なんだか目が覚めたような気もする」

もしもケッコンした『彼女』の隣で、最後の時を楚々と過ごそうものなら。
悲劇的な舞台装置に悪酔いして、僕は粛々と此処を去っていただろう。
彼女と、僕自身の義務とを置き去りに。

巧くは言葉にならないけれど。人は、動物は、もっと自然に、やりたいことを貪欲に求める時があっても良い。
より強い何かに噛み砕かれる、その瞬間まで。戦いなんて、生きるなんて、結局はそんな――

「いま、何がしたい?提督」
優しくて、それでもどこか挑戦的なその問いかけは、本当に軽快で明るく頼れる「隼鷹」そのものだった。
「――ふたつある。ひとつは、海域の突破。もうひとつは、沈めてしまった彼女――飛鷹を取り戻すこと」
焦りでも恨みでもない、静かな気持ちで、僕はそう答えた。

艦娘は轟沈しても、消えてなくなる訳ではない。
その姿と心とを嵐の色に染め、深海棲艦となっていたならば、撃破により正気を取り戻す場合もあると聞く。
艦娘にとっての大破は『沈没』であり、深海棲艦にとっての大破は『浮上』であるからだ。
そしてもうひとつの手段として、『建造』で沈没した魂が再び降りるという例も、聞いたことがあった。

「何十回掛かるかは、分からないが。何十回でも、やるよ」
「もうひとつは、どうする?」
「治療と看護に回ってくれている新人の駆逐艦に、遠征に行ってもらう。僅かでも燃料を得たら、それを使って更に遠征を回せる。修復剤も得られる」
うんうん、と期待に満ちた瞳が頷いてくれる。思えば、泣きたいのは彼女の方であるはずなのに、と僕は今更ながらに気がついた。
「…正規空母が動かせるようになれば、敵の2箇所の補給地点を奪うことが出来る筈。そうして準備を万全に整えたら、地点を復旧される前に、あの潜水艦とまた――戦うよ」

「その言葉を待っておりました、提督」
「!?」

びくりと振り返ると、そこには新顔であるが故に、無傷で動ける貴重な――
「鹿島です。こちらに、遠征が可能な駆逐艦についてリストアップしておきました」

え、あ、見、見られ…

「この時間になったら部屋に来てくれって言っといたんだよ」
意外と私、やるからねぇ。おどけて軽いウインクをしてみせた飛鷹に、僕は完全に降参を認めた。

「じゃ、今夜の酒盛りはこれにてお開き。明日からは、ちゃんと『あの娘』を大事にねぇ」
「…いろいろありがとう、隼鷹。見せてくれ、鹿島。一緒に執務室に来てくれるか」
ひらひらと手を振ってくれた隼鷹に、しっかりと頷き返す。


そう。僕は、本当の最後までやりたいことを精一杯にやる。
せっかく、応援と助力をしてくれる頼れる仲間たちが、こんなにも居るのだから。


それから先は、さほど語ることもない。

着実な遠征の積み重ねによる戦力回復により、「期限」までにE4地点を突破。彼女の仇を討つことに成功した。
また、余力を持って幹部艦娘数名と検討の末、比較的安全なルートを使用しE5地点までも進行。
修復剤不足を補う、全力出撃に近い軽巡洋艦・駆逐艦有志総力の波状攻撃を持って、これをも撃破。

甲勲章は成らなかったが――僕と鎮守府は、大きな達成感を共有することができた。


ひとつは達成。さて。

「何回建造することになるかねぇ」
「何回でもやるさ」

攻略の翌日、隼鷹と工廠へ。資材を担当妖精へ渡し、新艦建造の指示を出す。その、永い航路の第一回目。果たして、艦娘は…



「名前は出雲ま…じゃなかった、……あれ、提督?隼鷹?!」




その瞬間、僕達がどんなレア艦の入手よりも奇跡の存在を感じたことは――
改めて言うまでもないことだろう。


(END.)


+ 後書き
313 :名無しの紳士提督:2015/12/10(木) 02:08:55 ID:BFr1zh0E

以上、今季イベのマイ鎮守府は妙にドラマチックだったので軽くエロパロに膨らませてみました。
すべて無くして諦めかけたことから最後のオチまで実話です。
ケッコン艦とは別枠で、今度は大事にしたいと思ってます。

お目汚し失礼しました。


314 :追記:2015/12/10(木) 02:20:11 ID:BFr1zh0E

1回読み直しただけで誤記を3箇所も発見
まぁ間違い探しということでお楽しみ下さい

315 :名無しの紳士提督:2015/12/10(木) 06:10:16 ID:HB3Y7fs6

慢心ダメゼッタイ
今夜は3Pやな(ゲス顔)



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最終更新:2017年05月12日 14:36