小ネタ とある眼鏡(仮)17-40

あれは軍令部へ呼ばれ本土へと一時帰還していた時のこと。
ふと立ち寄った屋台で飲んでいる最中、いかにも怪しげなオッサンからいかにも怪しげな物

品を手渡された。
曰く、『経験人数が見える眼鏡』、とのこと。
馬鹿馬鹿しいと酔いかけた頭で笑い飛ばしたことまでは覚えているのだが、そこから先の記憶は空白と

なっている。
果たしてどのように帰宅したのか、目覚めた時は宿の布団の中であったのだ。
酒を飲むことは好きなのだが昔からどうも私はアルコールに弱く、一度酔ってしまうとそのまま朝まで眠ってしまい、しかも何も覚えていない。
それであの夜のことなどすっかり忘れていた私であったのだが、ふと私物を整理している最中にく

だんの怪しげな眼鏡を見つけてしまった。
あれからもう数ヶ月以上が経っている。
ここは南方、本土より遠く離れた泊地であり、深海凄艦と戦う為の前線基地である。

……うむ。
さてこの眼鏡、いったい今までどこにあったのやら。
酔っぱらいの戯言と一笑に付した私であるが、こうして見ていると気になってしまう自分はきっと

愚か者なのだろう。
そも、そのような情報を知ってどうするのか。
我が基地にいるのは女性、というか艦娘ばかりなのだ。
どう考えても基地司令官として知っておくべき情報ではない。
むしろ関係の悪化を招く可能性もある無用の長物。
……いやいや、私は何を本気で悩んでいるのだ。そもこんなもの偽物に決まっているだろう。
こんなもの……こんな…、……。

「おはようございます司令官!朝潮です!!」

朝の空気に響くその声に飛び上がるほど驚いた。
はっと時計を見る。普段ならもう起きて朝食に向かう時間だった。
今日の秘書艦を命じていた朝潮がやって来たのだ。
慌てて軍服を引っ掴み、そこで顔にかかったままの眼鏡に気が付いた。
いかん。待て、これは外そう。待て、朝潮待て、そこで待機だ。

「司令官が待てと言うならこの朝潮、ここでいつまででも待つ覚悟です!!」

そんな叫びと共に朝潮が扉を蹴り破り入って来る。
そうだね。待てないね。
真面目なところは朝潮の長所だが、時に真面目すぎるというか。
変なところで天然というか、純粋すぎて思いもよらぬ暴走をしそうで怖いのだ。
いや、別に彼女を悪し様に言いたいわけではない。
つい先日も算盤を握り潰しながら真っ赤なハンコが押された書類の山を片付けている最中に、いつ

の間に眠っていたのか意識を無くしていた私をソファに寝かせ介抱してくれていたこともある。
とにかく真っ直ぐで任務に対しひたむきな朝潮に私は信頼を置いている。
いるの、だが……。

「司令官、どうされたのですか? 司令官…?」

駆逐艦 朝潮:経験人数1人

ふっと意識が遠のいた気がした。


その後のことは、なんというか、その、精神的にキツい一日であった。

「んん、朝は眠いなぁ、ふぁ…ぁ…。あれ?どうしたの提督」
「おはようございます……?提督…あの、その…大丈夫でしょうか?」
「あれぇ~?元気ないよ提督!そんな時はぁ、那珂ちゃんを見て元気になってねー!」
軽巡洋艦 川内:経験人数1人
軽巡洋艦 神通:経験人数1人
軽巡洋艦 那珂:経験人数1人

「なんだ?体調不良か?…また倒れられちゃ困る。お前もちゃんと休めよ」
重雷装巡洋艦 木曾:経験人数1人

「あ~お~ば~!…ぁ、提督。ごめんなさい、青葉…見てませんか?」
重巡洋艦 古鷹:経験人数1人

「ほぉーっ、提督じゃん、チーッス」
「今頃ご出勤?のろまなのね?」
航空巡洋艦 鈴谷:経験人数1人
航空巡洋艦 熊野:経験人数1人

「おっと。二日酔いかい提督?だーめだなあ、そういう時はもっと飲まなきゃ。ひゃっはーしようぜ~!まーた酔い潰してやるって、くっははははは!!」
「提督、お疲れならお酒でも飲んで…という様子ではありませんね。提督、今日はゆっくりお部屋で休んではどうでしょう?」
軽空母 隼鷹:経験人数1人
軽空母 千歳:経験人数1人

「HEY!提督ぅー。あんまり無理しちゃノー!なんだからネ!」
「提督、いつもお疲れ様だな。……今日くらいは休んだらどうだ?」
戦艦 金剛:経験人数1人
戦艦 長門:経験人数1人

とまあ彼女ら以外にもかなりの数の会った艦娘全員に声をかけられているのだが、その優しさ?に浸っている余裕はあいにくとない。
この基地には100人の艦娘が配属されているのだが、今のところ出会った艦娘に対しこの眼鏡が告げた数に0が出たことはない。ないのだ。
思いの他、自分がショックを受けていることを自覚する。
馬鹿な男の勝手な妄想だ。艦娘たちは全員が清らかな乙女であり、皆が自分に好意を向けてくれていると無意識にでも思い上がっていたのだ、私は。
……いいじゃないか、むしろ。
彼女たちにはふさわしい男性がいて、きっとこの戦いが終われば平和な日常で当たり前の幸せを掴むことができるのだ。
ならば軍人として、指揮官として私がすべきことは決まっている。
1日でも早く静かな海を取り戻し、平和を勝ち取るのだ。
これまでのように一人も欠けることなく、これから先も誰一人沈ませることなく勝利を刻む。
……嫁さんを探すのは、その後でもいいだろう。
軍人の家系に生まれ、今まで女に縁のない生活を送っていた私は所謂童貞というわけだが……もう少し女性のことを理解できるよう努力するべきなのだろう。
気合を入れ直す為、今日起きてから初めて私は鏡を覗き込んだ。

…………な、

「なんだこれはぁっ!!!!!??」

鏡に映っている男の顔。そこにははっきりと、こう表示されていた
提督:経験人数100人


これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/

最終更新:2020年07月25日 23:27