提督×山城14-866


「山城が帰ってこない?」

自分は航空戦艦扶桑の言葉の主語をオウム返しした。
扶桑は不安ながらぷりぷり怒っても自然そうな顔だ。

「ええ。最近増えてきまして……。
提督は何かご存知ありませんか?」

「いや。執務は日付が変わる前には終わらせる事が多いから、分からんな」

嘘だ。
自分が原因なのは冒頭から確信している。
この国は神が八百万はいるように、嘘も八百万はある。
……これも嘘だ。実際のところは八百だが、多い事実は揺るがない。
扶桑の怒りの矛先が此方へ向かないよう、自分は冷や汗を掻きながら白を切る。

「兎に角、今度注意はしてみる。それを聞いてくれるかの保証は出来ないがな」

元より注意する気もないので予防線も張っておく。
山城に責任を全て押し付ける事になってしまうが、許せ。
夜な夜な連れ出してくれと頼んで来たのは山城なのだ。

「お願いします。あの子、何かあるとすぐどこかへ行ってしまうので……」

頭頂部を晒してから、扶桑は姉どころか母親の顔付きで挨拶し、執務室を去った。

……………………
…………
……

「と言う事があった」

「ごめんなさい、姉様……」

山城は俯いてここにいない姉に謝罪の言葉を零す。
それでも、山城はこのベンチを立とうとはしなかった。
比較的良好な天気が続いてはいるが、海は自分らを責めるようにざあざあと喚く。

「あまり長く続くと、自分らが疚しい関係だと疑われるかもしれないぞ。控えた方が良いんじゃないか?」

「……気にしないわ」

良いのかそれで。
自分はともかく山城が面倒な憂き目に遭うんじゃないか。
実際に疚しい関係となってしまったが、自分にそれを止める気はない。
抵抗が全くない訳ではないが、憂いを共有できる仲間が一人くらいはいた方が幾分か落ち着く。
つまるところ、こうして深夜に庁舎を抜け出して山城と二人きりで他愛もない事をぽつりぽつりと交わす事に、
自分はかつてない心地よさを感じていたのだ。
その後に続く拙くも疚しい交わりもまた然り。

「て、提督はそう思われるのは嫌ですか?」

いいや。自分は気にしない。
先程の地での科白を口に出す気はないが、この時間の為ならそんな問題は些細な事だ。

「そうですか。なら私も気にしません」

「そうかい……」

「だから、これからもやることは変わりませんね」

ふと隣へ振り向くと、山城の赤い目と自分の目があった。
すると、山城はふわりとした笑みを浮かべてくれる。
反省する気は全くないようで、自分は安堵するように顔から力が抜けた。

「ふう……」

自分は色のない溜息をついた。
山城を気遣って、あれから山城がいる時は煙草を吸っていない。
それに山城が相手をしてくれるのに、わざわざ身体に毒である煙草に、口を、肺を預ける必要もない。
一人煙草でくすぶるよりも、こうしている方がずっと心のケアになる。

「扶桑が寝たのを見計らって抜け出すのがいいんじゃないかな」

「そうかも……」

親の目を盗んで逢引するおとぎ話は、世に幾つあるだろう。
少し面白い。

「合言葉とか、決めてみませんか」

「合言葉?」

「姉様が寝たのを確認したら、私が提督にそれを言うんです」

山城も中々面白い事を考えてくれる。
自分と山城しか知らない、鍵の言葉。
色褪せない子供心を未だ宿すこの身は、みっともないが考えるだけでわくわくしてくる。
となると、それはどんな形にしようか。
悩む時間もなく、物を考えるとき上を見る人間の癖が、すぐに答えを運んで来てくれた。
白銀の満月が、儚げに黒い夜空の中で輝く。

「月が綺麗ですね」

「へ?」

「と言うのはどうかな」

山城を見やる。
山城は、月に隕石でも落ちたところを目撃したように呆然として私を見つめている。
自分で言った後で、これは少し気取り過ぎかと反省しようとする。
が、それより先に電灯に照らされた山城の顔が少し赤く染まった。

「てっ、提督……。それ意味分かってるんですか?」

「分かっているよ。
唯使う相手がいないし、これは少し憧れていたからどうせならここで使ってしまおうと思ってね」

自分は命落とすまで、ここに身を置くつもりだ。
そして、部下から一人引き抜いて娶ろうという企てがある訳でもない。
だからそれに関しての望みが薄くなっていた自分は、そこのところは随分投げやりなのだった。

「はー……。提督でもそういう浪漫を感じるんですね」

「お前の中の私はどうなっているんだ」

「だって、普段がああだから……」

仕事の時だけだ。
軍人として然るべき理想像が、自分にはある。
只それは決して感性も感情も捨てているような姿ではないのだが、そう思われていたとは知らなかった。

「それで、提督は何と応えるんですか?」

「応える、とは?」

「提督の了承の言葉ですよ」

そうか。
そういえば合言葉とは言われた方も決められた言葉を返してやっと成立するのだった。
山城からの合図を設ける事ばかり考えていて、その事を失念していた。
何故なら。

「私が断る事はないから、それは要らないと思うんだがね」

「何を根拠に……」

「山城が時間さえ弁えれば、私に損はないんだよ。寧ろ……」

その続きの言葉は、既の所で呑み込んだ。
この疚しい間柄でその続きを言ってしまうと、聞きようによっては軽蔑されかねない。

「寧ろ……何です?」

「何でもない。了承の言葉は"そうですね"とでも言っておくよ」

「適当ですね」

いいんだよ適当で。
単純明快だろう。
重要なのは私が返す言葉ではなく、山城がかけてくれる言葉なんだから。

「はあ。とにかく、決まりですね?」

「嗚呼」

「"月が綺麗ですね"。……月並みですけど、悪くないです」

くす、と山城も楽しげに賞賛してくれた。
自分らだけが刻む秘密の日常にもたらしたこれが、
今後どのような変化を生むのだろうな、と先々の日々に想いを馳せる。

「では早速使います」

「は?」

「月が綺麗ですね」

突然山城が自分の世界に入ったようで、自分はついていけない。
もう既にこうしているのに、今使って何の意味があるんだ。

「……自分から決めておいて、何ですその顔は」

「いや、だって……」

「察して下さい。この後、いつものして下さい。って事です」

嗚呼、そっちか。
考えてみれば、この後の交わりの有無は何時も山城が決めていたのだから、何も可笑しくはなかった。
此方を小馬鹿にするような事を言っておきながら、山城も気に入っているんじゃないか。
全く。

……………………
…………
……

「今日は、どうしたら良いですか?」

まるで待ち遠しいかのように、暁の水平線を隠すように山城は私の正面に立つ。
切っ掛けを持って来るのは何時も山城だが、主導権は何時も自分に委ねてくる。
山城を秘書に戻してからそれなりに経ったが、逢引は毎日行っている訳ではない。
だから、これに関しては山城はまだまだ練度は低い。
それを言うなら自分もそうなのだが、山城は受けの姿勢に身を置き続けた。
これも山城の望む幸せに入るのかは分からない。

「そうだな……っ」

ひゅううううぅぅ。

山城の艦橋から艦底までを眺めながら考えようとすると、冷たい潮風が音を立てて自分らを舐めた。
寒い。
思わず自分の体を抱くよう擦る。
だがもっと寒そうなのは山城だ。
空気の入りやすい構造をしている巫女を模った上部装甲に、袴を短くしたような下部装甲だ。

「……提督? 寒いですか?」

「まあね……」

しかし、山城は何食わぬ顔でいた。
よく考えれば、当たり前だ。
艦娘の肉体が耐寒仕様でなかったら、露出部のある格好のままこんな夜更けに表に出ないし、
その格好を年がら年中保ち続ける訳が無い。
一方、まだ冬は訪れていないので防寒対策は要らないだろうと呑気にしていた自分は、
今ここに熱源となりそうなものは目の前のそれしかないと踏んだ。

「私に跨るんだ」

「跨る……?」

山城の艦底を地につけさせてやるにはベンチが邪魔な為、自分も尻を前にずらしてベンチに浅く座るようにする。
疑問符を浮かべておずおずとする割には、
山城は指示通り的確に私の足、正確には下腹部に馬乗りになってくれた。
山城はそれだけでなく、まだ口に出していないのに私の首に両腕まで巻き付けてくれる。

「こ、こうかしら……」

それでいい。
では此方も、とズボンの腰周りを緩める。
下穿きも下にずらし、己の逸物を取り出した。

「わぁ……」

感嘆の声が漏れてるぞ。
しかし指摘はせず、続けて指示を出す。

「これに乗っかって、腰を前後に動かすんだ」

言われるままに、山城は私の下腹部の露出を下部装甲で隠した。
自分のそれが、体重のかかった布に沈むのが分かる。

「んっ、と……。潰しちゃってますけど、重くないですか」

大丈夫だよ。
健康的な程度で良い事だ。
ある程度の重さがないと、これからやる事が快感に恵まれない恐れもある。

「そうですか、男の人の事情は知らないけど。……んっ」

山城が腰を前に動かす。

「……っ! ……?」

ところが、自分はやや痛みを覚えた。
布の目が粗いようで、期待していた程の快感は来ない。
自分は咄嗟に手で山城を制止させた。
不可解な顔をする山城に問う。

「山城。お前、下着は何を履いている?」

「……褌ですけど」

山城は少し蔑むような顔で答えた。
そんな目をするな。
艦娘の下着事情を熟知している変態じゃないんだ。
それにしても、褌とは。
となると、この感触は木綿か。

「すまん。褌とは知らなかったから、少し痛い」

「そうなんですか」

「……脱がなくて良いから、あの部分だけ布をずらしてくれ」

山城は、少し腰を浮かせて下部装甲に手を突っ込む。
もぞもぞさせてから再び腰を降ろされた時、自分は生々しい素肌の感触を得た。
甲斐あって、これなら痛い思いをしなくて済みそうだ。
山城に事を再開するよう促す。

「下着を教えなきゃいけないなんて、不幸だわ……。んっ」

まだ濡れていないながらも、痛みはなかった。
山城がゆっくりと前後に腰をピストン運動させる。

「っ……、っ、ん、うん……、なんだか、変な感じ……」

山城の顔はまだ羞恥心のみに支配されているだけの様子。
潮風に容易く吹き飛ばされる程度の微かな山城の喘ぎだけを耳に取り入れ、静かに情欲を燃やしてゆく。

「んっ、んっ、はぁ……、ん……」

そのままそれだけの動作を続けていると、
喘ぎと言うより只の呻きのようであった山城の声も色を帯びてくる。
柔らかい肉の割れ目を充血した自分の逸物の、特に凸になっている部分が主な刺激の産出を担っている。

「う……」

今から火照ようとする自分らの身体を咎めるように、潮風が撫ぜる。
再び寒さに震えた自分は、山城の背に手を回し、やんわりと引き寄せた。
腰を止めたが山城は拒まない。
抱き寄せて山城の二つのタンクに顔を埋める。

「提督? 寒いのね……」

そうだ。
それだけだ。
母に甘える赤子の体勢になってしまうが、そんなんじゃない。
自分はいい歳した大の男なのだ。
タンクの谷間に顔を埋めているから反論出来ないだけだ。
さっさと腰を動かしてくれ。

「くすっ、提督じゃないみたい……。んっ……」

山城は、からかうようにそう笑ってから、私を包み込むように己の両腕で己の身体に押し付けた。
再び動き始めるのに合わせて感じ取った感触は、熱い水が少し含まれていた。
何を切っ掛けに濡れたのか分らないが、これで滑りは良くなる。
両腕で山城を抱き締め、暖を取る。
月のように冷めている山城でも、こうしてみると確かに温かかった。
山城の胸の中ですうーっと一杯に空気を吸い込むと、山城の匂いが鼻に広がる。
甘い匂いに包まれながら、局部に与えられる快感も助長されてゆく。

「んっ、はっ、はぁっ、ぁっ、あっ」

程よく濡れてくれた山城も速さを上げていった。
くちゅ、くち、と、淫らな水の音が微かに耳をつく。
更に融通がきくようになった山城の割れ目は、擦れる異物に抱き着くように広がっている。
そこから先は、長くなかった。

「ぐっ……」

「ああっ、ああっ、はあっ、あっ、……ぁ……」

自分は、山城の温かさに包まれながら達した。
ここが表である事もあり、妙な開放感を感じる。
もやもやしていたものも飛散するように自分の中から抜けた。
山城は押し潰していた異物が強く脈打った事から察したのか、動きを止める。

「はあ……、はあ……、はあ……」

「くす……」

山城は何を思ったか、私の背に回した腕を動かす。
上下する私の肩と背が、山城の両腕に撫でられる。
山城のそれは穏やかで落ち着かせてくれる手付きだった。
子供扱いか。
しかし反論する気力はない。
脱力感と山城の温かさの前では、つまらない男の意地の面目はどうでもよかった。
呼吸が落ち着くまで、もういいと指示を出すまでの、山城に包まれる時間を私は大事に味わった。
事の終わりを私から告げる時に、名残惜しくならないように。

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最終更新:2021年02月11日 16:24