非エロ:大和14-65

65 :名無しの紳士提督:2014/08/22(金) 18:16:09 ID:fDwUq/Is
シリアスな大和メインの話です。武蔵も出ます。
非エロです。



「提督、失礼します」
 司令室のドアの軽く叩き、少し緊張した手つきでドアノブを引いた。中に入ると執務机に座っていた提督と目が合い、視線の先の表情が微笑みに変わる。
「大和」
 優しい呼び方に大和の緊張が緩和され、自然と自身の目と口元も緩んだ。大和はリラックスした気持ちで執務机の前へと足を進めた。机から30cm離れた場所で足は止まった。
「提督、大和に何か御用でしょうか」
 食堂で朝食を終えた後に愛宕から提督が大和を呼んでいることを聞いた。愛宕は何も言わなかったが、大和は何となく提督の用事に見当をつけていた。
大和は昨日の演習で錬度が60になったのだ。そして日をおかずに提督からの呼び出し、これの意味することは一つしかないはずだ。
「大和、お前にサブ島沖海域の出撃を命じる」
「はいわかりました!…………はい?」
 予想外の提督の言葉に大和は思わず顔を顰めた。
「しゅ、出撃ですか?私が?」
「そうだ。出撃だ」
 どうやら聞き間違いではないようだ。それがさらに大和を戸惑わせた。
「で、ですが提督…私が出撃しても大丈夫なのでしょうか?」
 不安を隠さない大和を前にしても、提督の笑みは崩れなかった。
「耐久・火力・対空・装甲もトップのお前なら出撃しても何の問題はないさ」
「そ、そうかもしれませんが…でもあの…」
「大和、君の気持ちも分かる。君はこれまで演習ばかりしていて海域に一度も出撃したことはないからな。まぁ、そう気負うな。君なら出来るよ」
 そう、提督の言う通り、大和は一度も本物の深海棲艦と戦ったことはなかった。演習で錬度をあげていつも基地で留守番をしていたのだ。最高クラスのステータスを誇ってはいたが、
同時に最高な程に燃費が悪い。消費する弾薬・燃料は長門型の二倍以上はあり、大破しようものなら…それこそ入渠に必要な鋼材が軽く四桁を越える。
大和型はメリットが大きい故にデメリットも大きかった。だからこそ特別な出撃任務がない限り鎮守府から出ることはないのだが。
「あの、提督、サブ島沖は既に攻略済みだと伺っていたのですが…」
 提督はちらりと目を逸らしてから、また大和へ視線を戻した。
「まぁまぁ、とにかく行ってくれるね?」
 提督は優しい表情のままだった。口調も柔らかい。が、何処か有無を言わせない空気があった。大和の中に初めて提督への不信感が芽生え始めたが、上官の命令は絶対である。
悲しいかな、これが上下関係。
「……了解しました。サブ島沖へ出撃します。他のメンバーはどなたでしょうか?」
「今回は君一人で行ってもらう」
「了解しま、……はぁ?!一人?!」
「そう、君一人だけだ」
 大和はまじまじと提督の顔を見た。提督は相変わらず微笑んでいた。この後一緒にお茶でもしないか?とでも言いそうな顔であったが、その口から出たのは無慈悲な命令だ。
「え…その…何故、私一人なのでしょうか…いくら火力はあっても流石に一人で戦果を残すことは無理だと思うのですが…」
「戦果は期待していないから安心してくれ」
「え、それはどういう意味でしょうか?」
「……理由が必要か?」
 提督の笑みに少しの亀裂が入った。大和はゴクリッと唾を飲んだ。
 もしかして提督は自分を嫌っているのだろうか?いくら最高ステータスを持っていても最悪の燃費である。ろくに深海棲艦が蔓延る海域に出せられず、鎮守府で留守番をするだけの存在。
そうか、自分は提督に見限られたのか。せめて少しでも戦果をあげて海に沈めこの穀潰しめ、と。あぁ、そういえばこの場に武蔵がいない。
きっと提督は武蔵がお気に入りで残しておきたいのだ。武蔵は去年の秋の任務で苦労して手に入れたと聞く。そして自分はつい数週間前に大型建造で鎮守府に着任した新入りだ。
武蔵と再会し、他の艦娘たちと出会い、色々と覚えることもあったが、この数週間は幸せな日々だった。みんなと別れるのは寂しいが、
せめて武蔵だけがこの鎮守府に残れるのなら、せめて最期に一花咲かせて散ろうではないか。大和は拳を握り締め、提督を真っ直ぐに見据えた。

66 :名無しの紳士提督:2014/08/22(金) 18:18:53 ID:fDwUq/Is
「……わかりました。大和、出撃します」
 提督は満足げに頷いた。
「よし、では15分後に出撃だ」
「じゅ!?15分後!?あ、いえ…わ、わかりました…失礼します……」
 入室した時と打って変わって消沈した気持ちで大和は司令室を出て行った。ガチャン、とドアを閉めると、がっくしと頭を垂れた。
「大和?」
 ハッと顔をあげると白髪と浅黒い肌が視界に入った。
「武蔵…」
 背を預けていたドアから離れ、大和は武蔵に近づいた。武蔵は不思議そうに首を傾げる。
「どうしたんだ?あまり覇気がないようだが?」
 武蔵の目がちらりと後ろに行き、また大和へと向けられた。提督と何かあったのか?と暗に聞いているのだ。大和は首を左右に振った。
「何でもない。……でも良かった、出撃前に武蔵に会えて」
「出撃?もしかして海域に?」
「うん。サブ島沖に行くの」
 サブ島沖と聞いて武蔵の目が細くなった。
「ほぅ……誰とだ?」
「え、…その…」
 一人で行くことを武蔵に伝えるのは憚られた。言ってしまえば武蔵は恐らく提督に文句を言いに行くに違いない。そうしたら武蔵が自分の代わりに、もしくは二人で最後の出撃になるかもしれない。どうやって誤魔化そうか。
「大和、もしかして一人でサブ島沖に行くのではないか?」
「え?!何で知って…」
 大和は慌てて口を塞いだが、もう遅い。武蔵の眉間に皺が何本も寄っている。今すぐにでも司令室に殴りこみにいくかと思ったが、武蔵は渋い顔をするだけで動く気配はなかった。その顔も、怒りよりも呆れの色が濃い。
「提督は何と説明した?」
「な、何も…ただ出撃しろと命令されただけ」
 数十秒経過したくらいか、武蔵は大きな溜息を吐いた。
「まぁ…何だ、そう…気負わなくていい。いや、損傷は免れないから痛いだろうとは思うが…頑張れ」
 武蔵は励ますように大和の肩を叩いた。この様子、武蔵は何か知っているのだろうか?
「武蔵、何か知っているの?提督が私を一人で出撃させる理由」
「あぁ……うん…一応、な」
「教えて武蔵!どうして提督がこんなことをさせるのか…私、知りたいの」
 武蔵の目は居心地悪そうに泳いでいた。あーとかうーとか、ただ口ごもっている。
「……やっぱり、私は提督に嫌われているから…」
「いや、それは断じてない」
 武蔵はすかさず否定した。
「ならどうして?提督は一体何を考えているの…私、ここから出たら帰って来ない方がいいんじゃ…」
 武蔵の顔が益々渋くなる。それから、わかった、と小さく呟いた。
「ちょっとこっちに来い」
 そう言うと武蔵は通路の角に向かって歩き始めた。大和はその後を付いていく。角を曲がって数歩歩いた後に武蔵は止まって振り向いた。

67 :名無しの紳士提督:2014/08/22(金) 18:20:34 ID:fDwUq/Is
「……大和、お前は改造はまだだったな?」
「そうよ。改造に充分な錬度になったから、今日提督に呼ばれたのは改造の件だと思ったんだけど…」
 せめて改造した後ならもっと華々しく散れたのに。未改造のままただの鉄の塊になって海の底へ沈むことを考えて大和の目が潤んだ。
「そうか、そうか…私もな、改造前にサブ島沖に出撃を命じられたことがあるんだ。もちろん、お前と同じく一人でな」
「えぇ?!武蔵も?!」
 衝撃の告白に大和は驚きを隠せなかった。それにな、と武蔵は続ける。
「千歳と千代田がいるだろう?あいつらも航改二になった時にサブ島沖に行ったんだ。二人だけでな」
「え?!ま、待って…確かサブ島沖って…噂で聞いたけど最深部以外は夜みたいに真っ暗なんでしょ…?暗いと空母は艦載機を飛ばせないからサブ島沖攻略時は連れて行かなかったって聞いたけど…」
 提督は一体何を考えて軽空母の二人を出撃させたのだろうか。提督は彼女たちも嫌っていたのだろうか?しかし二人とも今もこの鎮守府にいる。ちゃんと今も生きている。そして武蔵も今目の前にいる。不可解な提督の命令に疑念が募るばかりだ。
「……あの提督はな、単に観賞したいだけなんだ」
「何を?」
「艦娘が中破した姿を」
「は?」
 中破した姿を見たい?提督が?
「どうして?」
「服が破けるだろう」
「そうね、あられもない姿になるわね」
「提督はそういう姿になった艦娘を眺めるのが好きなんだよ。あいつの趣味だ」
「はぁぁあ?!?!?!?!」
 思わぬところで提督の趣味を知ってしまった。
「な、何ですかそれ!あんまりじゃないですか!」
「そういうことだからお前は嫌われてはない。お前の建造に成功した時なんか、提督は泣くほど喜んでいたんだからな」
 だから安心しろと言いたそうに武蔵は再び大和の肩を叩いた。
「いやいや!安心なんてしないから!でもどうして今?!中破が見たいのなら演習でもいいし、それに錬度が低い時の方が修理費も全然かからないのに!?」
「演習はあくまで模擬戦だからな、実際に怪我はしないだろう?あと大和は演習で一度も中破したことがないじゃないか。
 それに中破していても改造すれば無傷になるからな、改造前の通過儀礼というやつだ」
「で、でも千歳さんたちは改造した後にサブ島沖に行かせたのよね?!どうして?!」
「……そこは色んな事情があるんだ。とにかくお前が大破したらすぐ帰還命令は出される。帰港したらすぐに改造も施されるだろう。そう心配するな」
 武蔵の言葉は俄に信じがたかったが、そういえば、と大和は思い出す。資材も充分にあり入渠ドッグが空いているにも関わらず、大破した榛名が数日修理もされずに秘書艦の仕事をこなしていたことを。
そうか、全部、提督の趣味かぁ――――――
「……る」
「ん?大和?」
「サブ島沖にいる深海棲艦を全部駆逐してやる!!」
「や、大和?!?!?!」

 提督の趣味を知った大和、妙なスイッチが入り闘志ギラギラでサブ島沖へと出撃。道中はパーフェクトな旗艦スナイプと回避で最深部までほぼ無傷で辿り着く。そして――――――

「大和!帰投しました!」
 多少の損傷はあったが、見事ボスを一発スナイプで撃破、随伴艦の攻撃も避けたりカスダメに抑えて大和は小破で鎮守府へ帰ってきた。
「大和…さすがだな…私はもって二戦目までだったよ」
 姉の戦果に武蔵は素直に感心した。
「ふふっ少し晴れがましいですね。……さぁ、提督」
 大和は武蔵の隣に立つ提督に目を向けた。提督はにこやかに頷いた。
「では、補給なしで再度サブ島沖に今すぐ出撃だ」
「いやああああああああ!!」
 帰投した大和を待っていたのは、もちろん改造ではなく無慈悲な出撃命令であった。
 流石に補給なしでは火力も出ないわ回避率も落ちるわ、結局大和は通過儀礼をその身に受ける以外道はなかったのだった――――――

 完


+ 後書き
68 :名無しの紳士提督:2014/08/22(金) 19:14:54 ID:G7UNZZXo

サーモン海域北方でない分うちよりホワイトだと思いましたまる


これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/

最終更新:2014年09月02日 13:32