提督×雷9-279「おれらは虚軍で刻を討つ」

279 : ◆NQZjSYFixA :2014/05/10(土) 17:19:50.71 ID:I5F9d3oR
  • 艦これとナイトウォッチ三部作(上遠野作品)の設定とのクロスSSです。
  • エロまでが2.4万字くらいあるので長くてごめん

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おれらは虚軍で刻を討つ





 その日の授業は、午前で終わりだった。
 俺の通う高等学校の生徒は、今全員が校庭に出ている。
 と言っても、下校しているわけではない。校庭には運動会で見るような白いテントがいくつも並び、
俺たちはそこを終点として何列にも分かれて順番を待っている。
 多分あのテントの下にいる人たちは、待っているの前に『静かに』をつけろと思っているだろう。
春の陽気と爽やかな風に誘われるように、皆が笑顔でがやがやと喋り放題だ。列の前後どころか
別の列に大声で話しかけているような奴もいる。
「お前選ばれちゃったらどうするよ!?」
「一軍の将とかすっげーワクワクするよな!」
「知ってるか? 艦娘って、提督に絶対服従らしいぜ?」
「ちょっと男子! 艦娘様にいやらしい目向けるのやめなさいよ!」
 知り合って間もない1年生同士、目の前のイベントを熱く語り合っている。
 俺はと言えば、前後の奴らが首尾よく話し相手を見つけてしまったため、平常通りに沈黙中だ。
ポケットの中の文庫本でも読んでいたい気分だったが、当然そこまでの自由は無いだろう。
 虚空を見つめながら、じわりと汗ばむような陽気と青草の匂いが混じった春風を堪能して
隠すことなくあくびする。
 遠くには列の先頭に並んだ奴らが下校していくのが見える。数十分後の俺の姿だ。
薄目になって半分眠りながら、列を進んでいく。

 気付いた時にはもう次の次が俺の順番というくらいまで列を進んでいた。我ながら便利な特技だ。
テントの下にはなんだかでかい機械がいっぱいあって、その周りには医者のような人たちが
慌しく作業している。SF小説にでも出てきそうな光景を前に、俺の眠気もどこかへ吹き飛んで行った。
 俺たち、『戦後』世代は……こういうテクノロジーと言うものに、強い憧れを持っているのだ。
今はもう限られた立場の人間にしか触れることのできない、科学とか、技術とか……そういった
ものの気配に。


 人類が太陽系内の各惑星に拠点を築き、太陽系外に進出しようとした所に現れた『虚空牙』と
呼ばれる正体不明の敵性存在は、絶頂期を迎えていた人類を嘲笑うかのように軽々と叩きのめした。
何百という数の移民宇宙船の中には襲われずに外宇宙に飛び立ったものもあるというが、数十年
過ぎ去った今なお連絡を取ることはできていない。
 これは宇宙船の安否がどうとかいうより、地球の現状に問題があった。
 実質上無限に広い宇宙を光速の数千倍という途轍もない速さで移動する宇宙船と連絡するには、
普通に電波を飛ばしていたのでは絶対不可能だ。そのために時間に干渉することができる理論……
なんといったか……相克、かどー……かどの……? なんだかいう理論に基づいた、時間の流れ
そのものを早くできるという通信機でなければ無理だ。宇宙船が光速を超える速度を出せるのも
その原理で時間そのものを加速しているから、らしい。
 だが今の人類にそんな大層な技術は無い。地球外の太陽系内拠点をことごとく破壊され、
ユーラシア大陸辺りにはコロニーまで落ち、さらに残り少ない資源と科学技術を奪い合う
戦争が勃発し、結果文明は衰退……いまや歴史の教科書で学ぶ20世紀後半程度の生活水準となった。
 それも日本の話で、今は外がどうなのかすらもはや分からない。民間人には、海を越えた外国と
連絡しあうことさえも不可能なのだ。虚空牙に対する敗北の傷も癒えない所に、近年……ほんの数年ほど前、
俺やクラスメイトたちが中学生になった頃、人類は更なるディシプリンを科されることになる。
 突如、全世界の海に正体不明の化け物たちが現れ、貴重な輸送船や軍艦を襲い始めた。さらに
小島の周りにコロニーを築き、人類の生息域を積極的に侵犯し始めたのだ。
 深海棲艦、と身もふたもない名称のそいつこそが、出会うことさえ敵わない絶対真空の向こうに
陣取った虚空牙を抜かして、いまや人類世界の一番の敵なのだった。

280 : ◆NQZjSYFixA :2014/05/10(土) 17:20:23.16 ID:I5F9d3oR
「次。君、腕を出して」
 顔のつくりは美形だが、どうにも冷たい感じのする女医……いや学者? 白衣を着たその人が、
緑色のフレームのメガネから冷たい視線を俺に向けている。さすがに緊張しながら、袖をまくって手首を上にして
差し出した。前の奴のを見ていて良かった。
 しゅっ、とガス圧の注射で何かを埋め込まれ、テントの奥に通される。
 入ってみて分かるが、小銃を肩に提げた軍人らしき男たちが脇を固めている。
 緊張と等分の興奮。
 本の中でしか見ない、なんだか光線でも出しそうな有機的な曲線を持つ銃をわき目にみつつ、
外からは完全に見えない領域に歩いていく。
 すると前の奴はまだ中に居た。ここで再度の待ちがあるようだ。さすがに銃を持ったいかつい男の
前で私語をしている奴はいなかった。
 列の先を見ると、折りたたみの長机、パイプ椅子に座った学者と、その前になにやら
青く燐光を放つ豪華な椅子がでんと据えてある。そこに列の先頭の女の子が座り、学者が目の前の
機械をなにやら操作して、しばらくすると手を止め、
「もういいですよ」
 の一言でまた機械をいじりはじめた。きょとんとしていた女の子はため息を一つつくと、
垂れ幕を手で押しのけてテントの外へ出て行く。
 それを見届けた俺は、
(もう見るもん全部見たな)
 という気になって、帰ってから片付けるべき仕事……自宅でやっている家庭菜園での農作業の
予定を思い返す作業に入っていた。今日はカブの種をまく予定だ。
 ボケっと待つことしばし、俺の番が来る。青い椅子は間近で見ると尻の部分や背中の
部分に宝石のようなレンズが嵌っている。なんとも未来感のある測定器をもっと見ていたくはあるが、
軍人を怒らせて得なことがあるとは思えないのでさっさと座った。
 背もたれに身体を預けると、ピピー、というビーブ音が学者の前の機械から鳴る。
故障だろうか? それとも、まさか……
「……もういいですよ」
 さっきの女の子とは違う、安堵のため息をついて俺は立ち上がり、そそくさと歩いてテントの外に出た。


 それから4日。在りし日の技術の恩恵でカブが収穫できる程度の時間が流れた。
 クラスメイトたちは、やっぱ選ばれる奴なんて早々いないよな、とか、あいつ学校来てないぞ、
いやただの風邪だって、とか、まだまだ検査ネタで盛り上がっている。
 かくいう俺も、まだ強く印象が残っている一人だった。あそこで音が鳴ったとき、正直言って
俺が選ばれたのか!? と思った。と同時に、
(そんなことになったら面倒くさいだろうな)
 と気後れする自分をはっきりと自覚しても居た。島国である日本では、海を我が物顔で占領する
深海棲艦は避けては通れない相手だ。とはいえ、人口は1000万を下回り、さらに農業や養殖技術の
進んだ今日に至っては、多少は不便になるだろうが絶滅したりはしないだろう、という程度の……
一般市民、さらに内陸の人間にとってはそんな程度の認識なのだった。

 下校して、家の郵便受けを半ば無意識にあさる。どうせ新聞のチラシ程度しか入っていないそこに、
すこしごわごわした、上等な和紙のような感触を感じた。
 何の気なしにそれを引き出すと、赤い紙に黒で文字が書かれていた。
「防衛……召集……舞鶴鎮守府……?」
 確かに俺の名前が書かれている。階級は少佐。
 目に痛い紅の色のそれを見つめて、親が買い物に出てくるまで、立ち尽くしていた。

281 : ◆NQZjSYFixA :2014/05/10(土) 17:21:07.94 ID:I5F9d3oR
 そこから先はもう……あれよあれよと言う間に過ぎていった。その当日の夜になっていきなり
軍の人間が押しかけ、貴方の息子様は人類防衛のための稀有なる素質を持っている、とか
今人類は存亡の危機に立たされている、とかなんとか大仰な調子で語りだす。俺たち一家はと言えば、
ハイハイ頷くしかない。召集令状はただの演出だったんじゃないかという感さえあるその口上に
呆気に取られるばかりで……舞鶴という地名が京都という割と近場にあることは、召集を受諾する
という書類に拇印を押してから聞いたような有様だった。

 どこか他人事のような宙ぶらりんの気分を味わいながらも、鎮守府……任地に持っていく荷物を
まとめていると嫌でも頭は冷え、打ち身の鈍痛のようにじわじわと実感がわいてくる。

 人類防衛。
 舞鶴鎮守府の提督。
 艦娘を率いて戦う職業。

 艦娘のことは知っている。と言うか、会ったことさえある。遠目に見ただけだが。
大昔に戦争で使われた船の魂が宿った精霊人というような触れ込みで、軍事パレードに参加したり、
基地が地元と交流祭を開く時には屋台の売り子なんかをしているらしい。らしいと言うのは
クラスメイトの……いや、元クラスメイトだった奴に聞いたからだ。そいつによれば、
行くところに行けば艦娘に毎日会うことだってできるらしい。退役して普通の職業に就く艦娘も
相当数居るのだとか。いつか艦娘の居る風俗店で遊ぶために今から貯金している、とか
言われた時にはどうしようかと思ったが……
 軍人が置いていった厚さ五センチはある分厚い資料を見やる。
 なにやら色々と契約事項とか注意書きが書かれているようだが、数時間で読めるような
ものではないと思い、ろくすっぽ読まずにぱらぱらめくっていく。
 その中に、5枚の写真があった。
 写っているのはいずれも少女。全員若く、かなりの美形と言える顔立ちだ。つい昨日までの
俺だったら、この美少女を肴にクラスメイトとの会話に花が咲いていたかもしれないが、
軍の書類に貼り付けられたそれは、俺に最初に与えられる、れっきとした戦力なのだ……
 駆逐艦。英語でデストロイヤー。何を駆逐するのかと言えば、もともと魚雷しか装備していない
水雷艇というのが居たのだが、そいつを砲撃して駆逐するためのものだった。だが駆逐艦にだって
魚雷くらい簡単に積めるわけで、なんと水雷艇というカテゴリ自体を駆逐してしまった。
それ以来駆逐艦同士の駆逐し合いが起こってしまうわけで、ミイラ取りがミイラ? 違うか。
 とにかく、写真の説明としてはこうだ。
『秘書候補駆逐艦級艦娘』
 嫌がらせかと思うほどに漢字ばかりのそれは、この5人の美少女が全員駆逐艦ほどの戦力を有する
存在であると主張している。
 生身の艦娘を見たことがある身としては、普通の少女としか思えなかったのだが……一体
どうやって戦うのだろうか? 船に変形したりするのか? それとも人型で巨大化したり?
 自分の荷物は着替えを全部と読みかけの本、あと野菜の種を詰め込んでそれで仕舞いになり、
かといって寝付けそうにないので……とりあえずと言う気持ちで資料を読んでみることにした。

 まず一人目、吹雪。吹雪型駆逐艦 1番艦と書いてあり、ネームシップ……つまり
1番艦と同じ意味だが、ネームシップであるがゆえに少し装備が充実していると言う。
じゃあこいつで良いんじゃないか? と思いながら、説明欄を見ると、正義感が強く実直、
努力家であるが融通が利かないとある。最後の一文がちょっと気になるが、まあおおむね
性格も美点が目立つと言っていいだろう。大きな瞳が印象的で、写真を見ただけなら
運動部に所属している女子高生と言う感じだ。あまり表情をださない証明写真のような
ショットであっても、なんとなく明るく誠実そうな人柄が伝わってくる。
ふむふむ言いながら次の写真を見る。

282 : ◆NQZjSYFixA :2014/05/10(土) 17:21:55.57 ID:I5F9d3oR
 次は叢雲。吹雪型駆逐艦 5番艦。橙色の瞳と白に近い青色の髪に目を奪われる。
最初の吹雪が普通に日本人みたいな顔をしていたから、てっきり日本の船だからそういうものか
と思ったが、艦娘の容姿は常人とは違うらしい。で、性格はというと……孤高を好み、
自尊心が強いが、仲間の面倒をよく見る面もある、とある。つまりツンデレ、というアレなのか?
 最初の一人と言うこともあるし、面倒見が良くて自分の意見をはっきり言ってくれそうなのは
ありがたいと言う気もする。珍しい色に負けないくらいの美人でもあるし。

 三人目、漣。綾波型駆逐艦 9番艦。薄桃色の目と髪は、漫画でなく写真で見るとかなり目立つ。
先の二人に比べるとかなり女の子らしいというか、丸い印象を受ける。性格欄には……
行動は真面目だが、奇矯な言動をするとある。不思議ちゃんなのか……? でも真面目らしい。
よく分からないな。とりあえずパスしておこう。

 四人目、電。暁型駆逐艦 4番艦。栗色の髪と同色の瞳。一番小柄で、か弱い少女という
形容がよく似合いそうだ。性格も見た目を裏切らず、やさしく穏やか、あわてん坊とある。
軍事資料にあわてん坊と書かれているので目を疑ってしまったがそう書いてある。文章を書いた奴の
私情が透けて見えるようだ。
 しかしパス。最初の一人にこの娘を選んでしまったら、俺は戦いに行くよう命令できる自信がない。

 五人目、五月雨。白露型駆逐艦 6番艦。濃い青の髪と瞳。上品そうなお嬢様という感じがする。
性格は……明るく意欲的、ただし粗忽な一面あり。ドジなのか? ドジ系は電に続いて二人目だぞ?
軍隊がそれで良いのだろうか?
 クラスメイトとしてなら一番付き合いやすそうな感じはする。変な意味ではなく親しみやすそうだし。
……が、装備が充実して真面目な吹雪やこちらをフォローしてくれることが期待できそうな叢雲と
比べると、やはり一枚落ちるか。

 これで全員見終わったが、本当にこいつらが駆逐艦の役目を果たすのだろうか? どこかの
アイドルのオーディションを受けに来たというほうがよほど納得が行く。もっと他に
情報がないかと見ると、各人の紹介ページには写真、型番、性格のほかに、MPLS適正値という
多分戦闘力にかかわる値が記されている。
 だがその値はほとんど変化はない。高い順に叢雲、漣、電、吹雪、五月雨だが、その差は
1位と5位でも1%に満たない。特記事項も特に無く、無視していいような値に思われた。
 吹雪の装備もそこまで差があるわけではないようで、要するに好みで決めて良いわけだ。
 そうなると……吹雪か叢雲か。
 順当に行けば吹雪なのだろうが……写真をじっと見つめていると、
(やっぱり綺麗な髪の色してるよなあ)
 ミーハーな思いがわきあがってきた。
 初期戦力として渡される5人にしてからが3人もすごい髪の色をしているし、艦娘では
普通なのかもしれないが……せっかく選ぶのならば『いかにも』という奴を選んでもいいだろう。
 ……うん。最初の一人は叢雲にしよう。
 そう結論付けた頃にはもう夜も更けていて、ほんの少しだけ軽くなった気分で俺は床についた。



 翌朝。夢でもなんでもなく、朝の六時に軍人が車に乗ってやってきた。
 まだ春先で肌寒く、しかし瑞々しい草の匂いが混じり始める時期だ。ここいらの家は回りに
畑があるせいで余計にそう感じる。
「息子を、よろしくお願いします」
 両親が頭を下げたので、俺もつられて下げる。
「では少佐殿、車に乗ってください。舞鶴鎮守府までお連れします」
 この人は下士官と言うやつなのか。俺のようなガキにもきっちりと目上のように対応してきた。
しかし腹の底で何思われてるか分からない分、嫌な怖さがあるな。
「はい。よろしくお願いします」
 とりあえず丁寧にしておくかと言うことで、俺もお辞儀する。敬礼のやり方も知らないしな。
「荷物はトランクに詰め込ませてもらいます」
 軍人はニコリともせず俺の荷物を預かり、さっとトランクに入れてしまう。結構重いはずだが、
さすがの腕力って所か。
 そして俺は、両親との挨拶もそこそこに、車に乗って故郷を後にしたのだった。

283 : ◆NQZjSYFixA :2014/05/10(土) 17:24:55.10 ID:I5F9d3oR
 さて、俺の住んでいたところは山に囲まれた盆地だ。市街地から見える山々は木が生い茂り、
それなりに自然豊かに見える。
 だが、左右を切り立った崖に挟まれた広い道を車で走るうち、山の向こう側が見えてくると
景色は一変する。
 別に毒の川が流れていたりするわけじゃない。荒野になっているわけでもない。ただ……
大きな、運河が見えてくる。
 かつての戦争の最大の爪あと。兵庫と京都の県境辺りから南南東に、幅30キロ、深さ1キロの
溝が刻まれ、大阪湾と日本海がつながっている。それ以外にも敵の攻撃によって山はえぐられ、
切り立った崖が目立つ。
 放棄されたかつての大都市には植物が繁茂し、地上数百メートルにまで貪欲に成長する遺伝子
改造植物の恐ろしさを嫌と言うほど見せ付けてくれる。
 俺たち安全な都市に住む住人は、修学旅行と称してこういう光景を見せられる。基本的に
世の中を舐めてるようなガキでさえも口をつぐまざるを得ないような光景を横目に、俺を乗せた
車は北上する。荒らされた国土は100年以上経っても元に戻らないとはいえ、道路の整備くらいは
問題ないようで、綺麗に舗装された道路は地平線の向こうまで蛇行しながら続いていく。

「あの。現地に着いたら……なにか説明……とか、あるんですか?」
 がっちりした体系の、いかにも軍人という外見の男と何の会話も無く車の中に居ると息が詰まる。
とりあえず会話を試みることにした。
「いいえ、少佐。説明は事前にお渡しした資料が全てであります」
 密室に二人きりでも、彼の態度は変わらなかった。
「ええ? 本当に何も無いんですか?」
「肯定であります。ただ、義務もほとんど無いと聞き及んでおりますので、ご自身のペースで
慣れていけば宜しいかと」
 罰さない代わり放置という訳か。そんなのんびりした感じでいいのか? やっぱり深海棲艦の
脅威は大した事ではないのだろうか?
「そして、これも資料に書いてあることですが……重大な軍規違反を行った場合は極刑に処せられる
事もありますのでご注意を」
「極刑!?」
「はい。と言っても、もっとも重いものは適用者はまだ出ておりません。
 艦娘を使って人類に弓引くという、大それた事態を想定しての厳罰です」
 クーデター、軍のテロ集団化。確かに俺もそんなニュースは聞いたことが無い。
「ふうん……ま、俺もそんなことをする気は無いですよ」
「そう願っております」
 それきり会話の接ぎ穂を見失ってしまい、数十分窓の外を眺める羽目になった。

 次に口を開いたのは、さらに1時間ほど後、ついに行く手に海が見え初めてからだった。
「そうだ。俺には一人の艦娘が最初に貰えるって書いてあったんですが、それは
どうやって受け取ればいいんです?」
「まだ手続きがお済でなかったのですね。何、簡単ですよ。今おっしゃってくれれば
この場で向こうに連絡いたします」
 軍人からのこともなげな返事に、俺は眉をひそめた。
 もうすぐ到着すると言う頃になって連絡して、間に合う? 艦娘の扱いって一体
どうなってるんだ? それに……やっぱり申請してから移動するのが正しいんじゃないか。
「はあ……じゃあ、叢雲でお願いします」
「了解いたしました」
 それきり軍人は無線の向こうと専門用語をふんだんに使って話し始める。
 なんだか杜撰な組織構造を見せられたようで、始まる前から先が思いやられると
思わずため息が漏れるのだった。

284 : ◆NQZjSYFixA :2014/05/10(土) 17:25:52.46 ID:I5F9d3oR
 それから小一時間ほど経つと、特に問題も無く鎮守府とやらに到着した。
縦にはさほど高くなく、しかし広い。いっちょ前の軍港のようにコンクリで固められたそれは、
俺にとっては歴史を描いたフィクションでしか目にしたことが無い光景だった。
緑色と灰色のかまぼこの様な倉庫がいくつも並び、兵舎と思われる2階建ての木造建築と
お互いに違和感を放ちあっている。
 執務室まで荷物をお持ちします、と言って軍人が俺のトランクをひょいと取り出し、歩き出す。
どうやら俺の仕事場は、敷地の大体中央辺りにある割と豪華な建物らしい。
「あの……ここには他の人とか居ないんですか?」
 スタスタと歩いていく軍人に、何とかついていく。
「いえ、おりません。この軍港は少佐殿の管轄であります」
「は……?」
 敬語も忘れるほどの衝撃を覚えた。
 このだだっ広い軍港に俺一人しか居ないのか?
「現在、舞鶴鎮守府には少佐殿を含め103人の提督が着任しております」
「つまり……ここみたいな軍港が、103以上あるって事ですか?」
「肯定であります。舞鶴鎮守府の軍区は、北は山形から西の島根までであります」
 広いんだな意外と。しかしその中でもここは……ずばり舞鶴という地名の場所であるはずだ。
ほとんど無い道路標識にそう書いてあった。
 軍人は俺が驚いている間にずんずん進み続け、両開きの扉を片手でぐいと押してあける。
意外と木のきしむ音は静かだった。だが、建物の中の静けさはそれ以上だった。
「まさか……本当に人が一人も居ないんですか?」
「肯定であります。この軍港には、少佐殿と、待機済みの駆逐艦叢雲のみであります」
 本当に投げっぱなしのようで、予想以上にとんでもないところだという思いがこみ上げてくる。
二階の中央辺りにある俺の部屋に着いた時も、執務室の隣に私室という落ち着かない間取りに
文句を言うのも忘れていた。
 ドアを開け、入り口近くに意外と丁寧にトランクを置き、軍人が俺に向き直る。
「では、私はこれで失礼します」
 そう言って本気で帰ろうとする。
「あ、あの!」
「はい、少佐殿。なんでしょうか?」
 何も考えず呼び止めてしまったので、つっかえつっかえになりながらも、俺は質問することにした。
「いや、えっと……何かこう、助言、みたいなものってないかな、と」
「助言……ですか。では、僭越ながら。
 少佐殿……提督は、これより深海棲艦の討伐という無期限の任務に着任いたしますが、
 先に述べたようにノルマなどは無いようでありますので、無理をせず慣れることです。
 また、この軍港は維持も運用も高度に自動化されたシステムが採用されております。
 最低限の食事さえ用意することができるそうですので、活用なされるとよろしいでしょう。
 外出に関しては自由ですし、ノルマがないために何日でも外出できますが……この周りには
 小規模な都市が1つあるきりですので、先任の提督方にとっては大して魅力的ではなかったようです」
 意外と饒舌に、しかも役立つことばかりを喋ってくれたことに驚く。
「なるほど……ありがとうございます。自動化されたシステムっていうのは、どう使うか分かりますか?」
「私の知るところではありませんが……提督の執務室が全てのシステムを管制することができる、とは
 聞いたことがありますので、試してみるとよろしいでしょう」
「分かりました。試してみます……本当に、どうもありがとう」
「いえ……いかに才能があるとはいえ、少佐殿のようにほんの少し前まで民間人でいらっしゃった方に
 国防の重責を担わせてしまうのです。この位は。
 ……私はこの軍港に留まる事を許されておりませんので、ここまでとなりますが……どうか、御武運を」
 そう言って、びしっと敬礼してくれる。敬礼で返せない自分が少し悔しいが、俺も精一杯の感謝を
こめてお辞儀で返した。
「それでは」
 ざっ、ときびすを返すと、軍人は早足で歩いていった。さて、と……それじゃ、まずは……
飯の確保だな。執務室に行こう。トランクを部屋に放置して、数歩で執務室のドアノブに手をかける。
ピピー、と音がする。よく見ると、レトロっぽい木と真鍮製に見えてなんらかの認証機能を持っているらしい。
じゃあ木造建築も見た目だけか……?
 きい、とかすかにきしむ音を立てて開いた扉の先には、すでに人影があった。
「遅い」
「えっ? あ、ごめん」

285 : ◆NQZjSYFixA :2014/05/10(土) 17:26:37.77 ID:I5F9d3oR
 逆光で一瞬見えなかったその人は、水色の髪と橙色の瞳を持っていた。
「あんたが司令官ね。ま、せいぜい頑張りなさい!
 私は特型駆逐艦、5番艦の叢雲! 南方作戦や、古鷹の救援、数々の作戦に参加した名艦よ!」

 強い光をたたえた橙の瞳、白磁のようにつるりと滑らかで白い肌、小さく形の良い唇、嘘のように綺麗な
水色でありながら自然な眉と髪の色。
 ぴったりと張り付くようなワンピースのセーラー服は、細身でありながらも十分にあるふくらみを強調
しているようで、肌を露出していないのに目のやり場に困るくらいだ。
「ふんっ……なによ、返事くらいしたらどう?」
 何秒固まっていただろうか? 叢雲は腕組みをしてこちらをにらみつけている。いきなりやらかしてしまった。
「あっ、ああ……ごめん。その……えっと」
 君が美人だから見とれていました、などという台詞をさらりと吐けるような人生経験など無い俺は、
見事に挙動が不審になる。
「だから何よ! はっきり言いなさいよね!」
 それが叢雲の癇に触るのか、はっきりと眉を立てた。
「いや、だから……」
 誤魔化すか? と思うが、この状況をひっくり返す言い訳を使うのはさらに難度が高そうだった。
「だから!?」
「ぐっ……」
 なおも言葉に詰まる俺に、さらに苛立つ叢雲。
 これから口に出す言葉を思うと、赤面してきた。
「叢雲が……実際に見たら、すごく美人だったから……見とれてたんだよ」
「なあっ!?」
 叢雲の白い顔に一瞬で朱がさす。歯を食いしばるようにしてぐっと言葉を詰まらせ、腕をきつく組んで
そっぽを向いてしまった。
(最悪の出会いだな……やっぱり顔で選ぶなんてするんじゃなかったか)
 素直に実直だと言う吹雪あたりを選んでおくべきだった……と後悔していると、叢雲がポツリとつぶやいた。
 そのまま数秒、恐ろしく気まずい空気が流れる。
 その硬直を破ったのは叢雲だった。
「わ……私の魅力が少しは理解できているようね! さっきの態度は水に流すわ!」
 先ほどよりもさらに赤い顔でそう言った。すこし声が裏返っていた。
「……ああ! ありがとう、叢雲。それで早速なんだが、この軍港を管理維持するシステムをここから動かせるって
聞いたんだけど知らないか?」
 ありがたく乗っからせてもらって、ようやく俺たちはこの鎮守府に着任を果たすのだった。


 それからしばらく、叢雲に付き添ってもらって立派な机の上にある機械の操作方法を調べた。
 意外というか当然と言うか、叢雲は機械の操作方法も自動化システムも知らなかった。そのおかげで
肩を寄せ合いなあらあーだこーだと機械の入力システムを弄れたので、まあ俺にとっては楽しい時間だった。
「ふうん……出撃、編成、補給、改装、入渠、工廠……戦力の管理システムか。ずいぶん簡単なつくりに
 なってるんだな」
「そうね……あ、ほら。他にも色々できるみたいよ」
「え? いやせっかくだから、叢雲が編成に入ってるかを確認しようぜ」
「いいから! 他のを見るわよ! 他の!」
 こんなやり取りが合ったり、他にも何度か叢雲の視線が俺の横顔に注がれているような気がしたが……
気になって視線を隣に向けると既に何も無かったように画面の方を向いているので、俺も集中することにした。

 二つ折りのプラスチックの板のようなそれは、内側の片面が画面になっていて、もう片方を触ったり
つついたりすることで操作すると分かった。動力源も見当たらないしコンセントをさしたりする穴も
無いが、ずっと弄っていても電源が切れたりしないし、電池の残量などもどこにも表記が無いのは
まさにロストテクノロジーの産物と言う感じで、途中からは俺の顔のすぐ隣に叢雲の顔が寄せられている
ことにも気づかないくらいに熱中してしまった。
 先ほど見た戦力管理システムに加え、軍港全体の設備の状況、拡張オプションの閲覧に、情報データベース
へのアクセス。これが大体の機能らしかった。

286 : ◆NQZjSYFixA :2014/05/10(土) 17:27:48.87 ID:I5F9d3oR
 ふと、腹が減っているのに気づく。
「はあ……叢雲、腹が減ってないか?」
「え? そうね、そろそろ昼時だけど……」
 軍港の設備状況を見る。どうやらこことは別の建物で食堂があるらしい。
「食堂があるらしいから、とりあえず行ってみよう。誰もいないとは思うけど、食い物は残ってるかも」
「ええ、そうしましょうか」
 そう言って、連れ立って外に出る。
 顔をしかめるほどではないが、潮風の臭いが鼻を刺激した。
 春先の肌寒い風に晒されて首をすくめる俺とは対照的に、叢雲は凛然としている。強風にたなびく
長い髪を押さえながら歩く仕草さえ画になる。まあ、服が風に押し付けられて尻の形をくっきりと
浮かび上がらせた時にはそっちに目を奪われてしまったが。
 そして、食堂の扉を開けた瞬間……俺たちは呆然と立ち尽くしてしまった。
「……驚いたな、これは」
 先ほど軍人に言われた通り、この軍港は高度に自動化されていた。
 と言っても、機械が絶えず動いていると言うわけではない。どころか見た目通りのレトロな造りだ。
食堂は結構な広さがある平屋の建物で、これも木造っぽい外観と内装をしている。先ほどちらっと見た
戦力情報では、俺は現在艦娘を100人……100体? 100隻? まで所有することが可能らしい。最大数に
同時に飯を振舞えるんじゃないかと言うくらいの広さがあった。
 当然、そんな広い建物にも潮風は入り込むはずで、人の居ないこんな建物などべとべとに薄汚れて
いる……と言うことはまったく無かった。
 そこらじゅうを、身長15センチの2,3頭身くらいの人型の何かがちょこまかと掃除していた。
「これは……小人?」
 俺がつぶやいた瞬間ぎゅるり、と全員の顔がこちらを向く。はっきり言って怖い。つぶらな瞳に
特に何の感情も宿っていないその感じが、怖さを増幅させている。
「うっ……」
「きゃっ!?」
 叢雲と同時に悲鳴を上げ、無意識に身体を寄せ合ってしまった。そのやわらかさといい匂いに
少し恐怖が和らぐ。
「ようこそ新任提督さん! 我々のことは妖精さんと呼んで下さいね!」
 さっきの態度を全力でなかったことにする勢いで全員で満面の笑みを浮かべてばんざいで俺を
歓迎する彼らに、一瞬釈然としない思いを感じたが……自動化システムとやらがまさに彼らの
事であるのなら、裏を考えるだけ無意味と言うものだろう。俺たちは至近距離にあった顔を見合わせると、
「いつまで触ってんのよ!」
 叢雲は、ばっと音を立てて離れた。腕を組んでそっぽを向いた彼女に苦笑してから、食堂に入る。
「おお……」
 奥のキッチンから、複数人の妖精さんがトレイを頭上に担いで一番近いテーブルに載せている。
どうやら妖精さんは料理までできるようだ。一体あの身体でどうするんだろうか? あと、メニューは
1種類しかないのだろうか……
「あら、いい匂いね」
 俺の後に入ってきた叢雲が、さすがに幾分か表情を緩ませて言った。妖精さん特製料理は、確かに
うまそうな匂いを漂わせている。その正体は、普通に炊いた米と味噌汁、そしてメインディッシュは
茶色と緑と白……レバニラ炒めのようだ。白は豆もやしで、どっさり入ったニラが食欲をそそる匂いを
放っている。妖精コックは和も中もいけるらしい。
「今は食べる人が二人しかいないので日替わりメニューしか作ってませんが、艦娘が増えてきたら
 メニューを用意しますね」
 そういうシステムなのか……戦う量に義務はないけど、活動するほどお得なことがあるという
餌で釣るわけだ。
 軍隊とも思えぬ柔軟な発想と言うべきかどうかは、とりあえず食ってから考えることにした。

「ふう……結構美味かったな」
「そうね。料理も洗い物もやってるところを見せてもらえなかったけど」
 やっぱり叢雲も気になってたのか。
「さ、これで飯の心配も無くなったし……休憩したらいよいよ何かやってみるか」
「何かってなによ……締まらないわね」
「いや、実際具体的にどういう仕事があるのか知らないからな」
「それもそうね……出撃って、どこにどうやって出撃するのかしら」
「とりあえずはさっきの戦力管理画面を見て考えようと思ってる」
「あっ……」
 突然叢雲が立ち止まる。

287 : ◆NQZjSYFixA :2014/05/10(土) 17:29:19.16 ID:I5F9d3oR
「どうした?」
 振り向くと、叢雲がじっと俺の顔を見つめてきた。心なしか頬が赤く、何かをためらっているように
橙色の瞳が揺れている。
「いや、その……そう! ニラを食べた後だし、歯を磨きたいなと思ったのよ」
「あー、そうか……」
 今からこいつに戦場に行け、と命じなければならないのが悪い夢のように、叢雲は普通の……いや
飛び切り可愛い、一人の女の子だった。
 それでも、いきなり歯磨きの話題を出されるとは思っていなかったが。
「俺は洗面用具も持ってきてるけど、叢雲は……自分の部屋とかあるのか?」
「特に何も情報はないわね……兵舎の一室を勝手に使わせてもらうわ」
「ああ、それでいいと思う。……ええと、それじゃあ1時間後に、さっきの執務室で」
「……ええ、分かったわ」
 なんだかよく分からないままに、俺も食休みをとることにした。


 部屋に戻った。さすがにああまで言われたら俺も歯を磨かざるを得ない。普段より
かなり丁寧に磨く。ついでにシャワーも浴びた。髪を乾かしてからトランクから
最低限の荷物を出し、提督の軍服らしき白い服に着替える。
「うーむ、これは……」
 馬子にも衣装ならまだしも、着られているという感じしかしない。真っ白で割りと派手だし、
洗濯も大変そうで、貧乏性の俺としては余り好んで着たい服ではない。
「まあ、提督なんだからちゃんと着ないとダメだよな……叢雲たちを率いないといけないんだ」
 口に出してはみるが、到底実感が伴っているとは言えなかった。
 自室から徒歩3秒で執務室へ到着する。青のクロスがかかった提督の執務机は多分、前任者も
使っていたのだろう。よく臭いをかいでみれば、タバコの臭いやなんだか分からない饐えた臭いが
染み付いている。壁紙もどことなくくすんだように汚れているようだ。掃除しないとな、と思う。
 今気にしていても仕方が無いと、椅子に座って待つ。
(そうだ、戦力管理画面を見ておこう)
 先ほど叢雲が強引に話題をそらしたが、俺にとって一番重要な機能群だ。
 とりあえず、編成を選んでみる。ぴろりっ、という音とともに画面が変わり、艦船選択画面になった。
「最初は誰も登録されていないのか。ええと……変更ボタン?」
 おそらく、艦娘がここに表示されているのが前提の作りなのだろうそれを押してみると……
「表示が……ない?」
 艦種/艦船名などの情報が表示されるであろうスペースには、赤字で「選択できる艦娘がいません!」
と表示されている。選べるのは『はずす』だけだ。
「叢雲は配属されていないのか? どうして……」
 俺は立ち上がり、自分の部屋に置きっぱなしの資料を取りに行った。



 一時間後。叢雲が執務室にやってきた。きゅっと引き結ばれた唇に緊張が見える気がする。
それとも、俺の気持ちがそう見せているだけなのだろうか。
「叢雲……」
 対する俺は、この一時間弱、そわそわしっぱなしだった。初対面のとき叢雲が見せたいくつかの
挙動不審の理由を、俺は資料に見つけていた。
「資料に、君が俺の艦隊に所属するためには、初期化の手順を踏まなければならないって……」
 そう聞いた叢雲は、かすかに頬を紅潮させた。努めて無表情で、直立不動を崩さないところに
彼女なりの意地を見た思いだった。
「そう……じゃ、じゃあとっとと済ますわよ」
 そう言ってドアから俺にずんずん歩み寄ってくる。
 叢雲はいいのか、という言葉を喉で止める。良いも何も、彼女はそのための存在なのだ。そして
その事実に誇りを持っている節が見られる以上、侮辱にしかならない。

「えっと、その……か、勘違いでなければだけど、初期化って言うのは……キス、で合ってるんだよな?」
 ぴくり、と叢雲の動きが一瞬鈍り、顔の赤みを増しながら目をつぶってふんと鼻息をついた。
「そうよ。合ってるわよ。……さ、やりなさい」
 机の向こうで赤い顔をしながら腕を組んで、こちらをにらみつけて来る。俺はごくりと喉を鳴らした。
「わ、わかった」

288 : ◆NQZjSYFixA :2014/05/10(土) 17:30:44.68 ID:I5F9d3oR
 ぎくしゃくとした動きで立ち上がり、机を回り込んで叢雲と対面する。一歩一歩近づくたびに、胸は高鳴り、
叢雲の肌の質感さえ感じられるような距離まできて、お互いに見つめあった。
 叢雲は俺より頭半分くらい背が低いので、必然顔を上に向けることになる。音も無く顔の横の
結った髪が流れた。
 耳まで真っ赤になった叢雲が少し震えているのを見て、何か言わなければという衝動に駆られる。
「ん……叢雲。あー……これから、末永くよろしくお願いします」
 叢雲は一瞬目を丸くして、困惑したように目を伏せ、眉を寄せたが……少し上目遣いでまた俺を
見つめ返した。
「は……はい」
 その姿をみて、心の底から美しいと思う。叢雲が目を閉じた。万一にも失敗しないように
俺は目を閉じず、そっと彼女の肩に手を置いて、心臓の動悸に震えながら、唇を重ねた。
 ただ触れ合わせただけなのに、叢雲の唇は柔らかくて温かくて、とんでもなく官能的な感触だった。
ほんの少し身じろぎするだけで電撃が走り抜けたような快感がほとばしる。
「んっ……ふぅ……んんっ!」
 合わせた唇から、叢雲の悩ましい声の振動さえ感じ取れることが、無性にうれしい。
自分の欲求にしたがって、唇に吸い付いた。びくりと叢雲が大きく痙攣し、俺の胸に手を当てる。
だがそれ以上の抵抗は無い。
「んんっ、んうぅーー!」
 叢雲の身もだえも大きくなり、声はどんどん艶がかってくる。俺が叢雲をこんなにしているんだと
思うと、なにか誇らしいような気持ちになって、赤子のように無心に吸い付いた。


 何分間そうしていただろうか? 叢雲が終わりを切り出さないのをいいことにずっとやっていたが、
突然叢雲がしゃがみこんだ事でキスは終わった。
「だ、大丈夫か、叢雲!?」
 あわてて声をかけるが、直後に息を飲んだ。
 叢雲は尻餅をついて女の子座りしている。真っ赤な顔、半開きになった口の端からはきらきらと唾液の
跡が線を引き、焦点の合わないとろんとした目は涙がたたえられきらきら輝いている。
 性行為の後のようなその淫靡な表情に目を奪われる。ふと胸元を見ると、先ほどは確かに無かったはずの
胸の頂点を示す突起が、目に見えるようになっていた。ごくりと固唾を呑んで、その光景を目に焼き付ける。
「はっ……そんな場合じゃなかった。叢雲、おい、叢雲!」
 肩を掴んでゆすってやると、ハッと目の焦点が合う。瞬時に眉がつりあがり、キッと睨まれたかと思うと、
高々と拳を振り上げた。
「このっ……!」
 今更調子に乗りすぎたという事が認識される。ああ、やっぱり殴られるよな、と観念して目を閉じたが
拳は落ちてこなかった。
「バカ」
 恐る恐る目を開けた先には、顔をそらしてはいるものの耳まで真っ赤な叢雲がいた。
「……ごめん」
 任務とはいえ……必要以上に馴れ馴れしくというか、やりすぎた。
 正座で反省の意を示す俺に、叢雲は尻をはたきながら立ち上がり、大分と色の戻ってきた顔をしかめて
口をへの字に曲げながら不機嫌そうに言った。
「フン……別に気にしてないわよ。ただ、初期化は3秒もあれば終わるから、それ以上はいらないってだけ」
「そ、そうか」
「これから入ってくる娘たちには、もうちょっと……せ、節度を守りなさいよね!」
 顔をそらして、頬をまた染めながら、そう言った。 
「う……分かった」

 またも気まずい沈黙が流れるも、息を大きく吸い込んだ叢雲が
「ほら! さっさと立って出撃準備!」
 と立ちながら言って、せかしてくれたお陰で気を取り直すことができた。と言っても、
俺は正座しながらもある意味たっていたので非常に立ちづらかったが……叢雲があわてて
顔をそらしたのは、忘れることにした。
「んんっ! さてと……じゃあ早速、編成で叢雲を入れて、と」
 ぽちぽちと操作すると、あっけなく叢雲は第一艦隊の旗艦となった。レベル1とあるが、まあ新任だしな。
「とりあえず出撃なのかな?」
「どうかしら……私は『任務』が気になるけど」
 回りこんできた叢雲が、前かがみになって画面を覗き込んでくる。髪をかき上げたのか、ふわりといい匂いが
広がった。気を取られないようにそっと目を閉じて深呼吸する。

289 : ◆NQZjSYFixA :2014/05/10(土) 17:32:32.68 ID:I5F9d3oR
 見ると、確かに上のほうに小さく書いてある。出撃や編成などで条件を満たすと報酬が貰えるようだ。
「ふうん……5つまで同時か。とりあえず適当に受けておくかな」
「いい加減ねえ……まあ仕方がないか」
 正面海域を護れ! とあるが……実際どれほど差し迫った脅威なのか、いまいち実感ができない。
まあどの道、叢雲一人しかいないのだから特に考えることもなかった。
「さて、それじゃ出撃ボタンを……お? 演習なんてあるのか。最初はこれがいいんじゃないか?」
「……とりあえず見てみましょうか」
「うん。……え? 相手レベル50? 6人編成?」
「少なくともこっちも6人は居ないと、話にならなさそうね」
「そうだな……じゃあやっぱり出撃だな。正面海域……ここの? 今から行って大丈夫かな」
「大丈夫って……何がよ」
「いや、海の上で野宿とかできないだろ? 食料も持っていかないし……」
「そういえばそうね……この身体は食事も必要だし、眠くもなるのか。正面海域と言っても、
 具体的に場所が分からないし……」
「でも出撃を選ぶことはできるんだよな。どういうことなんだろう」
「悩んでても仕方ないわ。とにかく決定を押して見ればいいんじゃない?」
「うん……分かった。気をつけてな、叢雲」
「ふふっ。この叢雲様に任せておきなさい!」
 俺は決定ボタンを押した。
 それと同時に、外からけたたましい音が響く。鉄の巨人が歩いているようなやかましさは、
明らかに背後……港からだ。広大なコンクリ舗装のスペースの一部がせりあがり、金属製の
レールが天高く伸びている。
「え……アレを使うのか?」
「そう……なんでしょう。行ってくるわね」
「あ、ああ。気をつけて。危ないようならすぐ戻ってくれよ」
「そうさせてもらうわ。じゃあね」
 こうしてバタバタと慌しく、初出撃が始まった。


 窓から見ていると、叢雲が駆け足でレールに近づいていく。既に装備らしき機械類を背負っていた。
ひらり、という感じで数メートルを余裕で飛び上がり、レールの根元に乗った六人掛けの椅子のようなものに
腰掛ける。
 びいいいい、という耳障りなブザーが軍港全体に響き渡り、レールが微調整されたのか少し震えた。
そして次の瞬間、叢雲の前方の空間……レール全体にヴェールがかかったように薄暗くなる。ついに
叢雲が動き出した……と思ったら、一瞬にして吹っ飛ぶように加速し、水平線の向こうへと消えていった。
「だ……大丈夫なのか、あれ?」
 突然鳴った電子音に振り向くと、簡易な地図が表示されている。
 おそらくは、これが正面海域とやらの地図……いや海図と言うことなんだろう。
「ふふっ、いよいよ戦場ね!」
 さらに、音声付の映像まで別窓で表示された。水面が少し近く、隅の方に棒が見えている。
おそらくは、叢雲の視界なのだろう。しかし……窓の外に比べて、空を行く雲の早さが異常だ。
早回しにしたようにすごい速度で流れている。
「叢雲、聞こえるか?」
「提督? そうか、通信はできるのね」
「よし、聞こえてるみたいだな……叢雲が出撃してから海図が表示されたんだが、
 そこから北東へ向かうのが警備ルートらしい」
「了解。出発するわ」
 少し緊張を孕んだ声音で返事をすると、映像と海図上の叢雲の反応が動き出す。
不謹慎ではあるがどきどきしてきた。
「時空切断航法、60倍速」
 叢雲が何かの宣言をすると、一瞬映像が乱れ、その後復帰した。大海原の主観視点だから
分かりづらいが、これは……とんでもない速度が出てないか?
 それを裏付けるように海図上の反応も冗談のようにスルスルと移動していく。正面にある
島が近づくのと、主観視点の映像を見るにやはり速度に間違いはないようだ。
「敵艦、見ゆ!」
 速度に面食らっていた俺を、マイクからの声が引き戻した。
「交戦に入るわ!」
 言うが早いか、映像に小さく見える黒い点に向かって叢雲が進路を変える。

290 : ◆NQZjSYFixA :2014/05/10(土) 17:35:16.96 ID:I5F9d3oR
 そこで、俺は海原を支配する深海棲艦と言うものを始めて目にした。
 黒い。と言うのが一番の感想だ。モノトーンの外殻に、目玉らしき部分が
内側からもれる緑の光で輝いている。相手も叢雲も高速すぎてよく見えないが、
前後に長い魚のような形らしい。
 ざあああ、という水を跳ね除けて進む航行音が耳につく。並走してお互いに
射撃を当てる距離を測っているのだろうか。
「沈みなさい!」
 不意に画面に叢雲の腕が映ったかと思うと、閃光と爆発音の後、数十メートルほど
離れた深海棲艦が跳ねる。着弾の衝撃でひっくり返ったらしい。
「よしっ、撃沈!」
 画面に映った小さな握りこぶしと声の調子で、笑みを浮かべてガッツポーズをする
叢雲が目に浮かぶようだった。
「おおー……すごいな、叢雲」
 思わずもれた感想に、
「ま、当然の結果よね」
 と言う割には得意げに返してくる叢雲に、思わずこっちも笑顔になってしまった。
「さて……どうやら、正面の島を右か左に四半週すれば終わりらしいんだが……お?」
 突如海図上に羅針盤と女の子が表示された。何の気なしにタッチしてみると、ぐるぐると
少女が羅針盤を回す。そして示されたのは……南東。
「なに? 提督。どうしたの?」
「ああ……すまない。画面に羅針盤が表示されて……妖精さんっていうのか? あの娘が
 適当にまわして南東と出たんだが」
 ふと見ると、叢雲は撃沈……いや水面に浮かんでいる深海棲艦に近づいているようだった。
「ふうん……それは多分、航路の選定をしているのね」
「航路の選定? 自由にはならないのか?」
「ええ、深海棲艦がいる場所はね、時空が乱れるのよ。艦娘はその領域に侵入するための能力を
 持ってるけれど……それでも決まった場所しか通れないという制限付きよ。それを無視すると……」
 海域の外にはじき出されるらしいわ。深海棲艦を退治しなければ行けないのは主にこの性質のせいね。
 ひとたび群れを成せば、そこは艦娘以外……今は失われてしまった時空切断航法を使える兵器以外の
 全てを締め出してしまうから」
「時空切断航法……か。確か何十年も前に太陽系外に旅立った宇宙船が、その技術を使って居たらしいな」
「そっちは、私たちの知るところじゃないけどね。何にせよ、私たち艦娘は昔と同じように敵を撃滅するだけよ」
 その言い方がやけに冷たく聞こえて、俺はとっさに何か言おうとしたが……今まさに駆逐艦として……
人間ではない存在として戦闘に出ている叢雲に何を言えるものでもなく、他の話題に移った。
「しかし、そんな危ない場所に居たのか……所でさっきから何をやってるんだ?」
 近くで見るとかなり大きく、全長4~5メートルほどのそれに手を当てて何事かつぶやくと、いきなり
にゅうぅ、と粘土のように形を変えて、叢雲の背後……おそらく装備の中に収まってしまった。
「うおっ……何をしたんだ?」
「深海棲艦の回収よ。シャクだけど、こいつらは艦娘の装備の素材になるのよ」
 さらりととんでもない事を聞いた気がする。
「そ、そうなのか?」
「詳しくは知らないけど、そうなのよ。運がよければこれで艦娘が一人増えるわ」
 そういう風に増えるのか、艦娘は。てっきり活動することで軍の本部からもらうのかと思ったが……
一回出撃しただけで増えるなら、100なんてあっという間なんじゃないか? 不安になってきたな。
 そんな俺をよそに、叢雲が聞いてきた。
「それで、どうするの? このまま作戦を続行?」
「ああ、そうだな……特に怪我もないようだし、続行しよう」
「了解。南東に進路を取るわ」
 またも超速の進行が始まった。

291 :!ninja:2014/05/10(土) 17:59:28.63 ID:I5F9d3oR
 そして、そのわずか小一時間後。
「ありえないわ……この私が……」
 叢雲は服と装備をぼろぼろにして帰投していた。
「ま、まあまあ……さすがに3対1じゃ無理だって」
 ご機嫌斜めなのは分かりきっていたので、俺は妖精さんに言って蒸しタオルを用意していた。
叢雲はひったくるようにそれを奪うと、ごしごしと海水にまみれた顔をぬぐう。
「ふん……あんたにしては割と気が利くじゃない。ほめてあげる」
 仮にも提督に対してこの口の聞き方はどうなんだろうと思わなくもないが、叢雲も大変な
目にあったことだし、礼として受け取っておこう。そう思えるくらいには、俺はこの艦娘を
好きになり始めていた。
 しかしそれ以上に……
「えっと……中破してるみたいだし、入渠しないとな」
 袖やストッキングはもちろん、腹の辺りが大きく裂け、ちらりと胸の下の部分さえ
見えてしまっている格好は、戦闘直後の叢雲には申し訳ないが非常に扇情的だった。
ほっそりとした腰、わずかに浮いてみえるあばらが華奢さを強調している。というか、
叢雲はこの服の下にブラをつけていないのだろうか? 次は普段から凝視してしまいそうだ。
「屈辱だわ……私がドック入りだなんて」
「ま、今日はゆっくり休んでくれ……あ、補給が先かな?」
 突如足元で声がする。
「はいはーい、補給なら妖精さんについてきてくださーい。入渠にもあんないしまーす」
 作業服らしきものを着た妖精さんについて叢雲が歩いていった。

 こうして俺の艦隊の初出撃は終わった。


「提督さん! 新しい艦娘が加わりましたよ!」
 ちょろちょろと妖精さんが俺の足元で走り回る。近くの倉庫の中に呼ばれて入っていった。
 中には、鋼鉄製のベッドというか……はっきり言って棺おけみたいな形の、上蓋が透明な
ポッドの中に少女が目を閉じて横たわっている。
「じゃーん! さあ、キスをして目を覚ましてあげてください!」
「ああ……毎度これをやるのか。というかまだ目を覚ましてないのか?」
「ええ、叢雲さんは初期艦娘だから特別なんです。普通は初期化してから目覚めるんですよ」
 もう文句も出てこないが、初耳のことばかりだな。
 改めてポッドの中の少女を見ると、初期艦娘の一人だった電に見えた。が、ちょっとだけ
違うような気もする。
 意を決して眠れる少女にキスをする。
「んっ……ふぅ……」
 あどけない少女の唇から色っぽい吐息が漏れるのにどきどきしつつ、三秒くらいで離した。
「んん……」
 むくりと身を起こすとすぐに目がさえたようで、くるりとこちらを向いた。
「始めまして司令官! 雷よ! かみなりじゃないわ! そこのとこもよろしく頼むわねっ!」
 にっこりと笑って、電でなく雷が挨拶をした。
「ああ……いかずち、な。よろしく頼む」
 よいしょっと、といいながらポッドから飛び降りた雷は、しげしげと俺の全身を眺めた。
落ち着かない思いをしていると、突然へにゃっ、という感じで相好を崩して笑う。
「なかなか良いじゃない……ね、司令官、私が目覚めたって事は、ちゅーしたのよね?」
「え、ま、まあ……そうだよ。初めてが俺で申し訳ないけど」
「えへへ……そっか。何だか胸の奥が熱い感じ……ねえねえ、もう一回ちゅーってしてみない?」
「うぇっ!?」
 思わず変な声が出てしまう。叢雲とは打って変わって、ものすごく親しげでハイテンションだ。
小動物を思わせてとても可愛らしいが、しかし美少女でもあるわけで、急接近されると
ドキドキしてしまう。
「んーっ」
 にゅうう、とタコの唇を突き出してくる雷に本気で唇を重ねたくなっている自分に
戸惑いながらも、何とか自制して彼女の肩に手を置いて止めた。
「ちょっ、落ち着いてくれよ。……とりあえず司令室に行こう」
「はーい!」
 雷は特に気分を害することも無く、元気に同意してくれた。彼女なりの冗談だったのかもしれない。

292 : ◆NQZjSYFixA :2014/05/10(土) 18:01:01.09 ID:I5F9d3oR
 倉庫の外に出ると、雷が腕を絡めてくる。
「あ、あの……」
「なあに? 司令官」
「どうして、腕を、その……」
「あっ、ごめんなさい、嫌だった?」
 そう言って離れようとする雷を反射的に引き止めてしまう。
「いや、そうじゃなく。突然だから驚いたんだ」
 ぱっと表情が明るくなり、雷が再び身体を寄せてきた。
「ん、ありがと。……何だかね、司令官のことが好きー、って気持ちが溢れてきて、
 こうやってくっついてると凄く幸せなの」
 くつろいだ表情をした雷の言葉には、嘘は感じられなかった。俺も俺で、
初対面の雷とくっついていて不思議と違和感を感じない。このまま雷の手を取って、
恋人のように手をつなぎながら歩くのが自然なんじゃないか……
 そんな奇妙な親しみを感じながら、司令室まで歩いていった。


 司令室に着くなり、雷が小首をかしげた。
「ここが司令官の部屋? なんだかタバコくさい……司令官タバコ吸うの?」
「いや、今日着任したばかりだからな。前任の司令室そのままだよ」
「そっか。そうよね、司令官はまだハタチって感じじゃないものね。
 それより、今日着任って他の子はどれくらい居るの?」
 どこまでくっついたままなのかと思ってそのままにさせて自分の椅子に座ると、
雷は俺のひざの上に腰をおろした。
 ドキドキしながらもそっと腕を回して抱くようにすると、雷も腕を絡め、ぎゅっと
俺の腕を抱き寄せてきた。わずかなふくらみ、身体の柔らかさを感じて、興奮が限界を超える。
「あっ……」
 すぐさま雷に悟られるが、恥ずかしくて声も出ない。
「し、司令官……あのね、今日の夜、司令官の部屋に行くから……だから、それまでは……ね?」
 何を言っているのか理解が追いつかないままに、がくがくと首を縦に振る。
「そっ、そうだ、他の艦娘の話だったよな! 初期艦娘の叢雲一人しか居なかったんだ。
 だから雷で二人目だよ」
「そうなの? じゃあ私にうーんと頼っていいからねっ!」
 まだほんのり赤い頬のまま、腕の中の雷が俺を見上げてにっこり笑う。俺はといえば……
「……もう、司令官のえっち」
 その可憐さに、またも興奮してしまうのだった。

 それから気まずくなりながらも、雷は俺のひざから降りず……むしろ積極的に身体を密着させながら
二人して言葉少なに過ごした。
 手持ち無沙汰の俺は目の前の端末を弄りだし、ふと気づく。
「あ、この『はじめての「編成」!』っての、今なら達成できるな。ちょっとやってみるか」
「そうね。報酬もあるみたいだし」
「よし、達成、と……お? 白雪?」
「あら、新しい子が来るのね。司令官、迎えに行ってあげましょうよ」
「そうだな……というより俺が行かないと目覚めないんだろうな」
「あ、そっか。他の娘とちゅーするのよね……司令官、私のこと忘れちゃ嫌よ?」
 俺の袖をクイクイ引きながら見上げてくる雷に、なんと応えて良いか思案しながら……
俺は雷を引き連れて白雪を起こしに行った。

 それから……あっという間に回復した叢雲が今度こそ3人で正面海域の敵を撃破し、
次なる海域への出撃許可が降りた。それと同時に、さらに二人……響と那珂が艦隊に加わった。
 この二人もまた、雷よりは叢雲に近く……要するに俺に対して普通の態度だった。
雷だけが例外なのか、それともこの先艦娘を仲間にしていけば何人もそういうことがありうるのか……
不謹慎ながらわくわくしてしまうのは、哀しい男のサガなのだろうか。だが、そんな未来のことより
今気にかかっているのは……
「本当に……来るのかな」
 執務室の隣、俺の私室で、俺は割りと豪華なベッドに腰掛けていた。風呂に入ったり歯を磨きまくったり、
そわそわして我ながらみっともないとは思うが……あんな美少女に夜這いを宣言されたら
誰だってこうなってしまうだろう。
 窓の外には、夜でも明かりが落ちることなくいくつか輝いている。軍事行動が夜にまったくないとは
俺だって思っていないから別に不思議ではないが……これを維持している妖精さんには頭が下がる思いだった。

293 : ◆NQZjSYFixA :2014/05/10(土) 18:01:32.52 ID:I5F9d3oR
窓からでは兵舎は見えないため、雷が歩いている姿など見えるわけもないのだが、じっと地面を見ると
たまに妖精さんが歩いて移動していたりして、暇つぶしにはちょうど良かった。窓の向こうの波の音も
部屋の防音で遮られているような有様だったから、たとえ雷が前の廊下を歩いていても分からなかっただろう。
 だから逆に、こんこん、という音が空耳でないことは、すぐに分かった。

「こ、こんばんは……司令官」
 枕を抱いた美少女が、ドアを開けたすぐそこに立っていた。ピンク色のパジャマを着て艤装も無い
彼女は、ただの少女としか見えない。
「あ……ああ。その……は、入って。雷」
 上目遣いにこちらを見るその瞳の輝きに吸い込まれそうになる。昼間と違って、誰はばかることなく
見つめていてもいいのだと思うと、自分の中の何かが暴発しそうだった。
 こくりと頷くと、雷はとてとてと早足で俺の部屋に入ってきた。そして、ベッドと向かい合って
数秒逡巡してから、ベッドに腰掛けた。
 抱いた枕に強く押し付けられた顔が真っ赤になっているのがすぐ分かる。
 庇護欲とともに、嗜虐心をひどくくすぐられる光景だった。こんな可愛い娘を自分の好きに
できると思うと、心臓がばくばくと高鳴り、手が震えるほどだ。
 足がもつれないように祈りながら、努めてゆっくりと雷の隣に……すぐ隣に、腰掛けた。
「雷……」
 恐る恐る、彼女の細い太ももに手を載せる。湯上りのように温かく、しっとりと手が沈むような
やわらかさが、俺の理性をさらに溶かしていく。
 雷はびくりと身体を震わせて、のろのろと顔を上げ、俺を見た。潤んだ瞳が、部屋の照明で
宝石のように輝いている。
「司令官、ん……」
 そっとまぶたを伏せて、唇を差し出す。我慢の限界か、俺は流れるように唇を重ねていた。
それと同時に、雷が抱いていたそば殻の枕をそっと取り去り、俺の枕の方に投げる。
「んぅ、ふ、ちゅ……」
 雷の方から、ついばむように俺の唇を吸ってくれる。俺は返礼とばかりに舌で雷の唇をなぞるように
撫でた。
「んっ、んむぅ、ふぁ……」
 雷の身体全体が震えたのが分かる。上ずったような色っぽい声が、あどけない雷の口から発される度
たまらない興奮を覚えた。その細い腰を抱き、ゆっくりとベッドに押し倒してより深くキスをする。
「ちゅっ、んくっ、うんっ」
 なるべく体重をかけないように雷と密着すると、その温かさ、やわらかさにめまいがする。キスは
とっくにお互いに舌を差し入れ、唾液を交換する深いものに移っていた。
 そしてついに、俺の手が雷のかすかなふくらみに乗せられる。
 小さな手が、俺の胸の辺りをぎゅっと掴むが……目は閉じたままで、ねっとりと舌を絡めてくるキスは
むしろ激しさを増している。
 ふうふうと形の良い鼻から漏れる鼻息を唇の上の方に感じながら、小さな胸をまさぐりだした。
ふにふにと柔らかく甘い感触がするそれは、強く揉めば崩れてしまいそうなほどだが……実際にもんでみれば、
確かな瑞々しい肌の弾力がある。そしてパジャマの上からでも、一味違う感触の乳首がはっきりと分かった。
 完全に覆いかぶさり、キスを続けながら胸の甘美な感触を味わっているだけで満足しそうな位に
雷の身体は最高だった。
 だが、俺の欲望を煽り立てるように、雷はキスと愛撫を続けるとじっとりと首筋に汗をかき、乳首がどんどん
硬くなっていく。閉じられていた目はいつの間にか薄く開いていて、しかし色欲にまみれたように潤み、焦点を
結んでは居なかった。
 ちゅる、と雷の吸引を引き剥がす音を立ててキスを終えると、銀の糸が俺の唇と、雷の引っ込められていない
ピンク色の舌の間にかかった。身を起こして、俺は服を脱ぐ。ズボンも全て脱いでしまうと、恥ずかしげも無く
勃起したそれを雷に見せ付けた。
 そろりと首を向けて雷もそれを見ている。と同時に、首元に手を当てて、パジャマのボタンを外し始めていた。
そっと俺が雷の腰に……パジャマの下に手をかけると、手を止めずに無言で腰を浮かせる。パンツごと
脱がせた俺の目の前に、まぶしいくらいに白い雷の裸の下半身が飛び込んできた。
 雷はさすがに顔を背けて、耳まで真っ赤にしている。やがてボタンを外し終わると、手でひさしを作って
目元を隠して、上ずったか細い声でこう言った。
「しれー、かん……電気、消して……ね? おねがい……」
 その一言で俺の理性は完全に吹き飛び、雷の股間に顔をうずめて毛の一本も無い餅のように柔らかなその
肉ひだに舌を這わせていた。

294 : ◆NQZjSYFixA :2014/05/10(土) 18:02:08.09 ID:I5F9d3oR
「んくううぅうううっ、あうっ! だ、ああっ! しれーか、ぁあっ、そこだめ、そこっ、ああーーーっ!」
 ちゅばっ、ちゅばっ、と塩味のぬるつく液体をすすり、むっとする匂いを胸いっぱいに嗅ぎながら、
クリトリスといわず膣穴といわず、欲望のままに雷のまんこにしゃぶりつく。細い肢体がのたうつように
跳ね、ベッドがぎしぎしと軋む姿が白い照明に照らされて、最高に淫靡だった。
 与えられる快感に耐えかねたように身をよじり、俺から逃れようとするのを両太ももをがっちりと抱いて
逃がさない。ぴんと立ったクリトリスが眼前にあるので、皮に包まれたそれに吸い付き、口の中で
執拗に転がしてやる。
「ひぐっ、あうぅぅぅぅんっ! ひぃっ、あーーーーーっ!」
 それまでは脱力していた両足をピンと伸ばし、部屋中に響くほどの声を上げて、雷がもだえ狂う。ぎちぎち、と
音のするくらい体全体に力をこめて硬直させ、がくがくと痙攣した後……糸が切れるように全身を脱力させた。
「はっ、はっ、はっ……」
 時折ひくひくと痙攣し、浅く荒い息をつく雷の小さな身体が、女として芽吹いていくようなその光景に、
感動さえ覚える。まだ俺が口付けているまんこは幼女のように一筋でしかないが、奥からとろとろと蜜を
あふれさせ、雷の股と尻を卑猥に輝かせ、ベッドのシーツに大きなしみを作っていた。
「雷……そろそろ、入れるよ」
 クリトリスを嘗め回されて絶頂し、息も絶え絶えの雷が、それでも気丈に、こくんと頷いた。
パジャマの上はまだ脱げておらず、俺が抱き起こして下のシャツとともに脱がしてやる。
「やだ……赤ちゃんみたいで恥ずかしいわ」
 はにかむように笑う雷は、乳首をびんびんに立たせ、開いた股がしとどに濡れていてもなお、清らかに
美しかった。そんな彼女の手を握り締めながら、もう一方の手で俺の棒を握り、ぬるつく秘所にあてがって
入り口を探り当てていく。初めての性器への刺激に暴発しそうだ。
「ん……は、あぁ……もう少し、下……うん……あふっ、そこっ……」
 悩ましい声で俺を雷は俺を導いてくれる。ぬぷ、と開いた膣の感触に、俺は腰を慎重に突き出し、
ついに雷に侵入を始めた。やけどしそうなほど熱く、そして押し返される狭さをねじ伏せて、力をこめる。
ぬるり、と愛液ですべり、ついに亀頭が飲み込まれる。そこから先は手を添える必要も無く、雷の身体を
抱き寄せ、少女を犯す至高の快楽に酔いしれた。すぐに処女膜と思しき抵抗に突き当たり、雷の顔を見る。
 こくり、と頷いて、微笑んでくれた。
 唇についた愛液を手の甲でぬぐい、俺は雷にそっとキスをしながら、処女膜を突き破った。
「んっ……!」
 さすがに痛いのだろう、雷は目をつぶり眉を寄せて耐えている。俺はさらにずぶずぶと沈みこんで行き……
一番奥に達した時点で、勝手に射精してしまっていた。
「ふあっ、司令官のが、中で、びくんびくん、って震えてる……」
 身体ががくがくと震え、目の前が真っ白になるほどの快楽を味わう。どくんどくんと、自分でも信じられないほど
長く射精が続き、雷の子宮を精子で侵していく。
 射精が終わってもなお、俺のは硬いままだった。雷の身体を、まだまだむさぼりつくしたかった。
「んっ……司令官、その、もう大丈夫だと思うから……」
 うごいて、いいよ。
 顔を真っ赤にして、かすれるようなささやき声のその言葉で火がついたように、俺は腰を振りはじめた。
「んんっ、あ゛うっ! あぁっ!」
 雷自身の愛液に俺の精液が加わり、処女の膣内であってもすべりは十分だった。ぐぷっ、ぐぷっ、と
粘液を肉壷の中でかき回す卑猥な音を立てて雷の処女膣をこね回すと、今までのあえぎ声とはさらに
違う、搾り出されるような、どこか獣のようでもある、生々しく雌を感じる声をあげて雷はもだえた。
 初めて目にする汗に濡れた平坦な胸に吸い付いて、しょっぱさと共に感じる不思議な甘さを味わう。
みっちりと締め付け、まとわり付いてくるような雷の膣の感触に、俺はピストンの途中でも我慢することなく
射精していた。
「んひいぃいいんっ!! ひぐっ、うああぁぁあああんっ!」
 まるで萎えることも無く、もはや泣き叫んでいるのと判別がつかないよがり声を上げている雷に
精液を流し込む。俺の脈動に合わせて膣をうねらせ、精液を搾り取ろうとするのに逆らわず、最奥で
じっとしてそのサービスを余すことなく享受してから、また腰を振る。いつの間にか握った手は離れ、
お互いに抱きついて密着し、舌を絡めあう。
 それから何時間も同じ体勢で、抜かずの生殖行為に励み続けるのだった。

295 : ◆NQZjSYFixA :2014/05/10(土) 18:03:18.89 ID:I5F9d3oR
 視界がなんとなく明るいのを感じ、目が覚めた。
「司令官、おはよ」
 窓の外の薄明かりで照らされた雷は、やはり見とれるくらいに綺麗だ。俺の腕の中で、股間から俺の精液を
あふれさせている姿とくれば、特に。
 どちらからとも無く唇を重ねて、一緒にシャワーを浴びた。当然また欲情して、ボディーソープを
塗り付けあいながらの対面座位で1発射精した。
 せがまれて備え付けのドライヤーで雷の髪をぶおんぶおん乾かし、ちょいちょいと髪型を整えると、
持ってきた枕を抱いて雷は帰って行った。
「マルロクマルマルから訓練しようって、昨日みんなで話し合ったの」
 だそうだ。にっこりと微笑みながら、小さく手を振って廊下を早足で去っていく雷を、俺はぼーっと
見送った。

 一人自室で考えることは……
「やっぱり、何かあるんだろうな……あの注射か?」
 キスで目覚める、うら若き娘の形をした兵器。好感度の高さ。身体の相性。何より俺の絶倫さ。
つまりは、そういうことなのだろう。艦娘と、それを率いるものを括る、鎖。女性の場合どうなるのか
興味がわかないでもないが、この分だと希少そうだ。

 性臭漂う部屋の窓を開け放つ。大きなしみがついたシーツをはがして、洗濯機に放り込んだ。放って
置けば妖精さんが洗ってくれそうだが、さすがにそんな気にはなれない。

 100人以上の提督。毎日数人増える艦娘。それらが社会に放たれ、まともな仕事にありつけるかどうか。
元クラスメイトの言葉を思い出す。性風俗に関わる艦娘は、すでにいるのだ。もしかしたら、雷と
同じ姿、同じ性格の娘が。
 いや、むしろ普通に仕事に就いて生活しているほうが、周りの男がほうっておかないか。
「軍は、艦娘との混血を進めようとしているのか……?」
 昨日見たとおり、時空がゆがんだ領域に侵入し、超高速で戦闘する力を艦娘は持っている。
人の形をしているが、明らかに人の領域を超越した力を持った存在。さらに、常人以上の美しさを持っている。
個人的には彼女たちと子孫を残せるのならむしろうれしい位だが、嫌悪感をもつ人もいるだろう。
特に女性側は淘汰の危機に晒される。
 目的は、深海棲艦に対抗するためなのか、もっと先の何かを見据えているのか、それとも……
「……考える意味もない、か」
 俺はため息をついて思考を中断した。仮に目的が分かったとしても、それを止められる立場でもない。
世に何百人の雷がいるのか分からないが、俺にとっての雷は今日抱いた彼女だけだ。そしてまだ見ぬ艦娘達もまた。
 深海棲艦の脅威は実際あり、領域一帯を占領してしまうものと分かった。それに艦娘で対抗する行為は、
間違いなく人類のためにはなっているだろう。それで十分だ。俺にできることは、自分の艦娘を大事にすることだろう。
「さ、今日も一日、がんばりますか」
 こうして、俺の提督としての人生が始まったのだった。


+ 後書き
おわり
最初は北上さんとだらだらHするのを書こうとしたがそこまで進まなかった

これが気に入ったら……\(`・ω・´)ゞビシッ!! と/

最終更新:2015年03月02日 13:33