非エロ:提督×龍田7-739


739 :提督×龍田:2014/02/25(火) 19:42:31.15 ID:JnNbkOGm


「それでねぇー装備の開発をしたら全然成功しなくて。
もう諦めたらいいのに、あの人ったら自棄になっちゃって続けたの。
三式ソナーか三式爆雷が作りたかったみたいなんだけど、笑っちゃうくらい出来なかった。
それにあれって電探に比べたらそんなに資源を使わないでしょ?
次は、次こそは…ってブツブツいいながらあの人はやっていたんだけど、
大量のペンギンちゃんと九九式艦爆で開発室がいっぱいになっちゃって~
でも消費資源が少なくても何百回もやれば資源もなくなるでしょ?
ボーキが2000ですよ~って教えたら顔が青ざめちゃって、おかしかったわぁ」

 晩御飯を食べて風呂で身を清めて就寝する前、隣の布団で枕に顎を乗せながらこちらを見ている天龍に龍田は子守唄を歌うように開発室での出来事を話していた。

「…ったく、限度ってもんわかんねーのかな、あいつ。開発のせいで出撃できなかったらどうすんだ」
「ホントよね~それでね、これが最後だ!龍田頼むぞ!って言って私の手を両手で…こうぎゅっと握ったの。
神様にお願いするみたいに拝んじゃって。なんだかその姿を見たら少しは頑張っちゃおうかな~って思っちゃった」
「最初から頑張ってやれよ…」

 天龍の突っ込みに龍田は楽しそうにウフフと笑うだけだった。

「それで、その最後はどうだったんだ」
「そうそう!それで私もあの人も気合をいれて開発したら~……出来ちゃったの。
 零式水上偵察機が!」

 アハハハ、と高くて柔らかい声が部屋に響く。龍田はおもしろそうに自分の枕をポンポンと叩いていた。対照的に天龍は呆れた顔だ。

「あーぁ、どうせまた俺が長期遠征に行く破目になるんだろーな」

 枕を叩く音と笑い声が小さくなっていく。

「その時はお弁当作ってあげるよ~」
「いらねーよ!ピクニックじゃねーんだぞ」

 残念、と龍田は思ってもいなさそうな顔で呟いた。

「私の作ったおにぎりと唐揚、とってもおいしいってあの人も言ってたんだけどなぁ~」

 龍田は枕元に置いてある時計を見た。そろそろお喋りは止めて寝ないといけない時間だ。おやすみ、と龍田が言おうとした時、天龍が口を開いた。

「……お前、あいつのことをよく喋るようになったな」

 淡い紫色の瞳がパチパチと瞬きをした。

「そう、かな」

 あぁ、と天龍は頷く。

「秘書艦やり始めた頃は俺も一緒だったらいいのに、とかよく言ってたけど、最近は言わなくなったし…龍田が楽しそーにやれてんなら良かったよ」

 天龍は体を回転させ枕を後頭部の下にした。上の毛布も被りなおす。

「んじゃおやすみ」

 部屋が静かになった。
 龍田はおやすみを返すのを忘れ、天龍の言葉を頭の中で反芻する。私があの人のことをよく喋るようになった?
 龍田は無口な性格ではなかったし、お喋りは嫌いではなかった。他の艦娘や装備妖精と話をすることも多かったが、彼女たちの何人かから「龍田さんは天龍さんの話をする時とても楽しそう」と言われたことがあった。
 それは恐らく言葉にしていない者も思っているだろう。龍田自身も天龍のことばかりを話す自分を自覚していた。
 龍田にとって世界は天龍を中心に回っているようなものだったからだ。天龍と話をする時も天龍の話ばかりを聞いて満足していたような気がするが、ここ最近は天龍の言う通り提督の話を自ら進んでしていたのかもしれない、と龍田は言われて初めて気付いた。

「……寝よう」

 龍田は天龍に背を向けて毛布を被り、目を閉じた。



「…た、龍田?」
「えっ」

 龍田はパッと顔をあげると執務机に座る提督が見えた。

「大丈夫か龍田?気分でも悪いのか?」
「え…あ、…ううん、何でもないですよー」

 龍田は右手を軽く振って小さく笑った。提督の心配を振り払うように右手を揺らしたが、提督は苦笑した。

「そんなに天龍が心配か?」

 本日の天龍は遠征ではなくリランカ島に出撃していた。深海棲艦の潜水艦が多数目撃されたという情報があったので殲滅のために天龍を旗艦とする第二艦隊は海に出ていた。
 秘書艦なので必然的に留守番になっている龍田の元気がないのが天龍の身の安全を心配しているせいだと提督は考えた上での発言だったのだろうが、 龍田は天龍のことを考えてはいなかった。
 微塵も考えていなかった訳ではないが、それ以上に昨晩天龍に言われたことが龍田の頭を占めていたのだ。

「……違います。本当になんでもないから、気にしないで」

 ガタっと提督は椅子から立ち上がった。

「そろそろ昼にしよう。食堂に行くぞ、龍田」
「あ、私はまだお腹すいてないから…後で食べます」

 提督は龍田の傍まで来ると肩に手を置いた。

「秘書艦も同席、命令だ」

 龍田の肩から手を離して提督は歩いた。龍田はパチクリと瞬きをする。提督はドアを開けると後ろを向いて龍田を見た。そのままお互い動かないまま時間が流れる。
 どうやら提督は自分も行かない限り昼ご飯を食べないつもりだ、と悟った龍田は、やれやれと溜息をついて足をドアの方へと向けた。



 白く清潔な軍服に身を包んだ男は初めて出会った時と比べて軍服を着こなせるようになっていた。龍田の提督は元から軍人ではなく、深海棲艦との戦争が始まってから指揮官として引き抜かれた一般人であった。
 艦娘の指揮官となる人材には軍人もいるが、一般人の中には艦娘の力を上手く引き出せる潜在能力を持った者が少なからずいた。政府はそういう人たちをあらゆる方法で探し出し上手い餌を巻いて戦争に巻き込んでいた。
 最初は頼りない人という印象を抱いていたが、提督が深海棲艦との戦いの中で試行錯誤し、戦術を学ぶ傍ら自らも肉体を鍛えて成長していった。
 ある艦娘が提督が体を鍛える必要はないのではないか、と言えば、ひょろひょろよりガッシリしていて自信がある上司の下にいる方が安心感があるだろう?と笑顔で答えたと聞いたことがある。
 さすがに何年何十年も軍人をやっている人間の体と比べたら丈夫ではないが、少なくとも以前の提督よりも頼もしく感じるっようになっていた。

「……上手い!この鯖の味噌煮、最高だな」

 提督はガツガツと昼ご飯を堪能していた。味の濃い鯖の味噌煮、プリッとした白米、ジャガイモ入りの味噌汁、香ばしいごまドレッシングのサラダ、とろとろチーズのハンバーグ。
 龍田は頂いたお冷を少しずつ飲みながら目の前で提督の食事風景を見ていた。提督は本当においしそうに食べている。そんな所をじーっと見ていたら、失せていた食欲がむくむくと龍田の中で湧き出てきた。
 同時に天龍の言葉に悩んでいた自分がバカらしく思えてきた。

(秘書艦をすることが多くなってこの人といる時間が増えたから、自然とこの人の話もするようになった…きっとそれだけね~)

 龍田は通りかかった間宮に声をかけた。

「私にもランチBをくださいな~」

 間宮はハイ、と笑顔で返事をした。

「おっ龍田も食べるのか」
「人がおいしそーに食べてるのを見るとつられてお腹が減ってきちゃいます」
「ハハっそれもそうか。間宮さん、俺もおかわりお願いします。龍田と同じやつで」

 提督の注文にも間宮は笑顔で答えて台所がある部屋へと入っていった。龍田はクスクスと笑う。

「あら、まだ食べるんですかー?元気ですねぇ」
「上手い飯だと箸が進むんだ…あ、そうだ、龍田」
「なんですか?」
「唐揚作ってくれ、龍田揚げ」

 前に天龍に食べさせるつもりで作った唐揚を気紛れで提督にも分けてみたらかなり気に入っていた。提督はこうやって唐揚を要求するようになった。
 二日連続でお願いしたり、一週間以上何も言わなかったり、本当に提督の気分次第だった。もしかしたら唐揚が食べたい気分になった時に龍田がいて欲しいから秘書艦を任されることが多いのかもしれない。

「しょうがないですねぇ…夕方に作りますよ」
「楽しみにしてる」

 提督が微笑んだ。龍田が何故か直視できなくて目を逸らしたちょうどその時、間宮が二人分のランチBをテーブルに置いた。白米、豚汁、シーフードカレー、シーザーサラダが二人を待っている。
 またおかわりしたくなったら遠慮なく呼んで下さいね、と言うと間宮は提督が食べていたランチAが乗ったトレイを代わりに持って行った。

「……間宮さんに作ってもらったらいいんじゃないんですか、唐揚」

 目の前に置かれた胃袋を刺激するようなランチBの品々を見ながら龍田は呟く。提督のスプーンがカレーに届く前にピタリと止まる。

「料理上手ですし、私が作ったものよりおいしいんじゃないかしら」

 龍田は箸でシーザーサラダのコーンとレタスを持ち上げて自分の口へ運んだ。チーズの風味とシャキシャキとした野菜の歯ごたえが龍田の口の中を幸せにさせる。おいしいなぁ、とゆっくり味を噛み締めていたら提督の手が以前止まったままであることに気付いた。
 提督を見ると、おもしろくなさそうに龍田を見ていた。

「龍田が作ったやつが食べたいんだ。それじゃあダメか?」

 何を、と思い、すぐに唐揚のことを言っているのだと龍田は察した。

「別にダメではないですけどぉ…私、特別なレシピなんて使ってないですよ?ふつーに作ってるから」
「いいんだよそれで。とにかくよろしく」

 スプーンがカレーを掬う。提督は無心にカレーを口へ運んだ。おいしさを堪能するというよりも、龍田の反論を許さないとでも言わんとするその態度に龍田はキョトンとして、それから箸を置いて自分のスプーンも動かし始めた。
 舌にお米とルーが乗った瞬間、あっやっぱりおいしいなぁ、と、嬉しくなるのだった。



 それから数ヶ月経過した頃か、今日も執務室で秘書艦の仕事をしているとバンッとドアが勢いよく開いた。その音にビックリしてドアに目をやると、息の荒い提督がいた。

「おかえりなさい。どうしたんですかそんなに慌てて。会議で何か言われたんですか?」

 本日、提督は朝から議事会に赴いていた。隔月に一度行われる集まりに参加をしていたのだが、提督の様子がおかしい。不思議に思っている龍田に提督は脇目も振らず真っ直ぐに近づくと小さな両肩を強く掴んだ。
 その強さに龍田の体が一瞬跳ねたが、提督は気にも留めず興奮気味に言った。

「龍田!オリョールだ!オリョール海の最深部に行くぞ!」
「オリョール海?でも朝に南西諸島の任務は終わったんじゃなかったかしら」
「もう一度行くんだ。とにかく準備をしろ」
「えぇ…わかりました、それじゃあ編成はどうします?潜水艦ちゃんたち?」

 手が龍田から離れ、提督は顎に手をかけグルグル回り始めた。

「赤城と加賀、…うん、潜水艦はなしだ。先手必勝で攻めよう。北上、大井、木曾、そして旗艦は龍田で出る」
「赤城さんと加賀さんと北上ちゃんと大井ちゃんと木曾ちゃんと…え?私?」

 編成メンバーに自分の名前があったことに龍田は驚いた。聞き間違いかと思ったが、提督はブンブンと頷いた。

「龍田、お前を旗艦にして第一艦隊をオリョール海に出撃、時刻はヒトヨンヒトゴーだ」
「え?それって…」
「早く準備をしろ。他のやつは俺が連絡しておくから」

 提督は龍田の背中を押して執務室の外へと押しやった。呆然とする龍田の前でバタンっと執務室のドアが閉じた。

「……出撃時刻が十五分後って、急ねぇ…」

 いつもの提督なら出撃も遠征も前日までに予定をたてて伝えていた。当日に何か変更があった場合でも一時間は余裕をもって決めていた。
 極たまに危険海域に出撃中の艦隊に緊急事態が発生して慌しくなることもあったが、今回の第二・第三・第四艦隊は比較的安全な資源獲得の遠征中であり、例え何かあったとしても通信室から緊急サイレンがなるので身の安全の意味での緊急事態なら基地にいる者すべてに分かる。
 しかしそのサイレンもない。
 龍田は訳がわからないまま、とにかく出撃の準備をすることにした。
 艦娘たちの装備品を格納している倉庫へ歩を進めながら、そういえば、と龍田は思い出す。自分は久しぶりの出撃だ、と。



「よし!準備は整ったな?!あっ倉庫!倉庫今どうなってる?!……ちょっと詰めすぎか…少し廃棄しよう。
 とりあえず流星・流星改・彗星一二甲・烈風以外の艦載機は全部廃棄、あと零式水上偵察機もいらん。あ、お前たち腕ならしに演習してこい。
 ………終わったな?よし、第一艦隊、オリョール海最深部へと出撃せよ!」

 予定の出撃時刻より三十分遅れて、第一艦隊はついに海へ出た。目指すはオリョール海の最深部だ。天気も悪くなく、視界も良好。

「良いお天気~ お昼寝したくなっちゃうなぁー」

 龍田はのほほんとした気持ちで海の上を進んでいた。水面は太陽の光を受けてキラキラと輝いている。

「ここもまだ深海棲艦の勢力は残ってるわ。気を抜かないで頂戴」

 暢気な龍田を加賀は咎めた。龍田はハーイ、と楽しそうに答える。

「大丈夫ですよー、久々の出撃だからちょっと…気分が高揚します、よ?」

 ふわふわと微笑む顔の中にある目は好戦的であった。加賀がよく言う言葉を龍田はわざと使ったが、加賀はそう、と興味がなさそうに流した。

「それにしても、貴方が出撃なんて何かあったのかしら。演習も一緒にやらせるとは思わなかったわ」

 加賀の隣にいた赤城が頷く。

「それに私たちも久々ね…数週間ぶりかしら?」
「っというかぁ~ここにいる面子って基本お留守番組じゃないー?」」

 赤城に答えるように北上が声をあげた。大井は楽しそうに海を見つめる。

「フフフ…魚雷、いっぱい打ち込めるわね…」

 木曾は右手の拳を左の手の平にぶつけた。

「あぁ、全部沈めてやるさ」

 大井と木曾は傍から見て分かりやすすぎるほどワクワクしていた。

「でも、やっぱりおかしいわね…あの人、何が狙いなのかしら… 作戦説明の時も今回の出撃の目的は私たちに伝えていない。わざと話を逸らしたような気がする」

 考え込む加賀に合わせて赤城もうーんとうねる。

「私たち、提督が着任した時期からいる古株だから他の艦娘より錬度はかなり高い。他の子を強くさせるために、

 ここにいるメンバーは出撃はおろか演習もほとんど参加させなくしていたのにね。装備の開発が今の私たちの仕事みたいになっているわ」

「えぇーでもあたしと大井っちとキッソーは開発もろくにしてないよー」
「そうね、艦載機は赤城さんか私、46cm三連装砲と電探は榛名さん、対潜装備は龍田さんが、っていう担当がいつの間にか定着している。…龍田さん、貴方は何か聞いてないの?」
「え?ううん、特に何も聞いてないですよ」

 加賀から話題を振られ、龍田は首を横に振った。加賀は龍田を見つめる。

「私たちを海域や演習に出すのはまだ分かるけど、龍田さんは………あ」

 加賀は何かを思いついたのか、龍田を見ながらうんうんと何度か頷いた。龍田は加賀の意図が分からず首を傾げる。

「加賀さんどうしたの?」

 赤城の質問に加賀はいえ、とスッキリしたような顔をした。

「多分、アレなんじゃないかと」
「アレ?アレって… ……… ……… あー、大抵の任務って最深部限定だからね…そういうこと」

 何々?と球磨型三人が正規空母の周りに集まる。内緒話をするように加賀は手で口を隠しながらヒソヒソと何かを喋ると、あぁーと三人同時に納得の声をあげた。

「え?なに?」

 蚊帳の外の龍田は五人に聞くが、五人はただ優しく笑うだけで何も言おうとしない。

「加賀さん、何が分かったんですか」
「帰還したらわかるわ、多分」
「多分…」
「私も予想通りかどうか分からないから何とも言えないけど、まぁ…早く終わらせて基地に帰りましょう」

 予想通りか分からないことを自分以外の艦娘には教えるのかと、龍田は思ったが他の四人も教えてくれる雰囲気ではなかった。

「あのぉ…」
「あ、もうすぐでオリョール海に入りますよー」

 北上が明るく言った。加賀はパンパンと手を叩くとポンッという煙と共に羅針盤娘が現れた。今回はいつも眠そうな緑髪ショートの娘だった。羅針盤娘は目をこすって加賀の前をふわふわと浮かんでいる。

「こういうことに長く付き合わされるのも嫌だから、分かっているわよね」
「んっんぅ~?」
「最深部以外に行かせたら…分かっているわよね?」

 眠気眼がバッと見開かれた。龍田からは見えないが、恐らく加賀は羅針盤娘にものすごい睨みをきかせているのだろう。
 艦娘だけではなく妖精や羅針盤娘たちの中でも厳しくて怖い、と共通認識のある加賀が相手では寝坊助の目も覚めるものだ。

「りょ、了解であります…」

 珍しく気合の入った緑髪の羅針盤娘、何故かヤル気が出ている他の五人、龍田は何だかむず痒くなった。

(もう…教えてくれてもいいじゃない…)

 はぁ、と溜息をはいた時、赤城が声を張り上げた。

「艦載機のみなさん、用意はいい?」

 その声を合図に、あたりに充満していた緩い空気が一瞬にして変わった。龍田の目がスッと細くなる。鋭い目は遠くにいる敵を捉えた。

(気になることは…後でいいかしら)

 潮の香りが一層強くなった気がした。波の音も荒々しい。

「あはははっ♪砲雷撃戦、始めるね」

 戦闘開始だ。


つづく




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最終更新:2020年02月26日 08:50