提督×摩耶6-527

前回の話

 


『雲外鏡』


提督の前に、青い服を着た長い銀髪の少女が立っていた。
人間でも艦娘でもない彼女を前に、ラバウル赤旗艦隊の艦娘たちは、ドロップ組も建艦組も等しく、
好奇の目を彼女に送っている。

「霧の艦隊?」

提督が眉を吊り上げると、机の前に立った、霧の艦艇のメンタルモデル――イオナは、周囲の奇
異の視線も意に介さず、悪びれた様子もなく言った。

「そう。私もその一つ。霧の艦艇イ-401、そのメンタルモデル」

提督は手元の報告書へ目を落とした。新たな敵勢力に関する情報が記されていた。すでに霧の
艦隊と交戦した他の提督が鎮守府で公表したものだ。
手短に目を通してから、提督は書類を机上へ投げた。

「よくわからんが、その霧の艦隊は深海棲艦と共同行動をとってるんだな? では絶滅させる。そう
だな、長門」

長い黒髪の美女――戦艦・長門は夢見るような微笑を浮かべた。

「造物主殿……お父様。長門が、この身に代えても絶滅する」
「んー、絶滅は、できるかどうかわかりませんが」

建艦組の長門と違って、ドロップ組の重雷装巡洋艦・北上は、彼女の上官と同僚が用いた奇妙な
単語に渋面を作りつつ言った。

「私も大井っちも強化されましたし、もう並大抵の敵艦隊には負けませんよ」

イオナが表情を動かさずに言った。

「絶滅? それは困る。私はいずれ群像や僧たちの元へ帰らなくてはならない」
「そうなのか?」
「提督。何故おなかを見ようとするの?」

彼女の服をめくりながら尋ねた提督に、イオナは静かな目を向けた。彼女の白い腹部を観察する
と、提督はイオナの服から手を離して、彼女を見下ろした。

「君は味方だろう。味方は殺さん。では本隊に帰投するまでよろしく、イオナ」



「ごめん、司令官。悪いんだけどさ、ちょっと休ませてもらってもいい?」

霧の艦隊とラバウル赤旗艦隊が交戦を開始して数日が経過した。 幾度目かの出撃から帰投した
北上は、いくらか申し訳なさそうに申告すると、提督は合点のいった表情で首肯した。

「しばらく第一線を任せっぱなしだったな。問題ない。君の雷撃は艦隊の誇りだ」
「あはは、ありがとね、司令官。直したらすぐ帰って来るから」

北上が答えると、提督は、二人の様子を部屋の隅から楽しそうに伺っている、彼が建艦した、もう
一人の北上に冷たい目を向けた。

「では北上。しばらく北上さんの代わりをお前に任せよう。準備はいいな?」
「もちろんだよ、司令官」

建艦組の北上は、新しい殺戮ゲームへの期待を隠さずに答えた。彼女は、ドロップして艦隊に組
み入れられた北上と同様、二段階の改造を終え、もう一人の彼女に劣らない攻撃力をすでに身に
つけている。
提督は彼女に歩み寄ると、建艦組の北上の目を見返して言った。

「まだお前が戦ったことのない敵だ。用心しろ」

ドロップ組の北上も、気をつけろと言われたことがあった。だが、提督は、彼女の頬に手を添え、
彼女の瞳を覗き込んだりはしなかった。提督が建艦組の北上の顎に手をやると、彼女は陶然と目を
閉じた。

「ん、ちゅ、司令官、ん……」

彼女は提督と唇を重ね、さらに彼を求めて提督の胸にすがりついた。
彼の舌に唇を嘗められ、歯をなぞられ、涎を垂らして、建艦組の北上はキスを受け容れ続ける。

「は、あう……ふふ、造物主様……」

建艦組の北上が提督から唇を離すと、唾液が糸を引いて、二人の間に淫靡な弧を描いた。ぼうっ
とした表情の彼女の頬に提督が手を伸ばし、頬をついた唾液を指で拭うと、彼に建艦された北上
は、その指先を唇に含み、唾液をゆっくり嘗め取ってみせた。
建艦組の北上が、名残惜しげにピンク色の舌で彼の指をひと嘗めすると、提督は言った。

「死ぬなよ」
「うん」

建艦された北上は提督に蕩けた目を向けた。そんな二人を、ドロップ組の北上は複雑な表情で
見つめていた。建艦組の北上はその視線に気づくと、もう一人の自分へ、あからさまな悪意の目を
向けた。

「ゆっくり入渠してきなよ、ドロップ組の私。仕事と造物主様は私に任せてさあ。そうだね、2,3世紀
くらい入っててくれてもいいよ」
「……司令官、すぐ戻るよ」

北上は抑制の利いた声で提督に言い足すと、建艦組の北上が露骨な嘲笑とともに言った。

「ねえ、ドロップした私。出撃中の私に万が一のことがあったら、司令官を頼むね。……じゃ、よろし
くね、大井っち」

建艦組の北上に手を振られて、重雷装巡洋艦・大井は、彼女が愛する友人と同じ姿の艦娘に複
雑な目を向けた。大井は、彼女の友人の北上と同様、提督が作った艦娘ではなかった。
提督は嘆息した。

「北上、北上さんをからかうのはやめろ。俺は君たちを一人も沈めるつもりはない」
「はーい」
「加賀、お前も出番だ。北上と一緒に、殺せるだけ殺してこい」
「造物主様の仰せのままに」

恭順と一礼した正規空母・加賀は、頭を上げるや大井に冷淡な目を向けた。

「ドロップ組の子ですか。どこの海域で拾われたか知りませんが、私たちの足を引っ張らないで」

スターリン主義に特有の被害妄想だった。
提督と、彼に盲従する建艦組たちによって、この鎮守府は異形の突然変異を起こしつつあった。
現実的な実用主義と、古代ペルシャ式の権威主義が同居することで、艦隊は末期のアレクサンドロ
ス大王と同じく、バルカン半島往年の僭主政のようなものへと堕落していた。



「通商破壊作戦は上首尾か。よくやった、摩耶」

机の上に健康的な脚線美を投げ出して、重巡洋艦・摩耶は満面の笑顔で答えた。燃料の増加量
を書き入れながら、提督は摩耶の太ももを撫でた。健康的に締まった摩耶の足は、ある種の猫科の
動物を思わせる。任務の疲れをねぎらって、提督は摩耶の足を撫で続けた。

「メンタルモデル勢は強力だが、消費する資材が比較にならんな」

提督は手元に置いてあったレーニン全集の一冊を開いた。そこには、ロシア内戦中、この冷酷な
理想主義者が各前線に送った命令も収録されている。

「“石油がなければ……戦争ができない”」

皮肉に満ちた口調で口にすると、彼は諧謔に満ちた笑声を零した。

「初めて吹雪と始めた時には、想像もつかなかった状況だ。あの時は、俺が戦艦や空母を編成して、
艦隊を運用する資材にすら困るようになるなんて、夢にも思わなかった」

吹雪の名が出た途端、摩耶はとたんに不機嫌になった。

「ふん。で、初代秘書艦様は、いったいどこだよ?」
「鼠輸送作戦だ。海上護衛任務から戻ってすぐにな。さすがだよ、吹雪は」

摩耶は舌打ちした。
吹雪がこの艦隊の最古参なら、摩耶は建艦組の艦娘たちの長姉だった。提督が初めて建艦した

大型艦の摩耶は、空母や戦艦が艦隊に加わるまで、強敵の空母ヲ級も、戦艦ル級も、全部沈めて
きた。摩耶は彼のもっとも苦しい時期を支えたのだ。
提督の一番は自分だ。
そう自負する摩耶は、提督が建艦組の姉妹たちと肉体関係を持っても、些末なこととしか思わな
かった。だが、自分より長く艦隊に所属する吹雪には、埋めようのない差を感じていた。
提督が、ドロップ組の艦娘に一切手をつけないことにも、摩耶は当初、建艦組の多くと同じように、
優越感を抱いていた。だが、吹雪の場合に限っては、彼女だけが特別扱いされているように思えて、
今ではどこか不愉快だった。
愛してるって言われたことがあっても、特別だって言われたことは一回もないんだぞ、くそっ。
摩耶の締まった腰を自然な動作で抱き寄せると、提督は彼女の白い首筋に幾重にもキスを落とし
ていく。吸血鬼のキスに神経を焼かれながら、摩耶は口にした。

「なあ提督。吹雪は特別なのか?」

提督は鼻先を彼女の首筋へ埋めた。

「ひゃん!」

卒然に首筋を舌先でなぞられて、摩耶は普段とは違った様子の声を上げた。声を上げてから、顔
を真っ赤にして、悔しそうに提督を睨みつける摩耶を、提督は冷めた目で見返した。彼は摩耶の額
に、駄々っ子を寝かしつけるようなキスを落とした。
提督は摩耶とキスしながら、彼女の胸元のリボンを解いていくと、真っ白な胸を晒させた。ブラジャ
ーをずらすと、期待に震えている先端をひと嘗めし、もう片方をやさしく揉んでいく。摩耶が口元を
押さえ、生娘のように声を抑えていると、提督は彼女の胸元から冷たい目を向けた。

「スターリンは、役に立たなければ友達でも殺したよ」
「はあ? それ、ちゃんと答えてんのかよ……あう」

摩耶が柳眉を吊り上げると、いつのまにか摩耶の股に添えられていた提督の指が、下着の裏に
滑り込み、摩耶の中へ入った。提督が軽く摩耶の中で指を動かすと、彼女は切なく喘いだ。摩耶の
反応を楽しんで幾度も指を動かす提督から、摩耶は気恥ずかしげに顔をそらした。

「お前は敏感だからな」
「変なこと言うな! 提督のバカ!」

摩耶が無感情に言ってのける提督の胸に拳を叩きつけると、提督は摩耶の栗色の髪に手を添え、
有無を言わさず彼女を抱き寄せた。

「この口か」
「んっ、ちゅぷ、あん……こら、息が……ちゅ、ん、ふ……できないってばあ……」

提督が強引に摩耶の唇を奪うと、口では逆らいながら、摩耶は自分の中に侵入した舌に自分の
舌を絡めた。提督が送り込んでくる猛毒に満ちた液をすべて飲み干すと、彼女は提督の腕の中で
脱力した。
摩耶が、熱に浮かされた顔で胸を上下させている前で、提督はベルトを緩めて黒々とした怒張を
露出させた。助けを求めるように摩耶が見上げると、彼女の創造主は恬淡に命じた。

「ほら、脱げ」
「う、うん……」

提督の唾液で口と胸元を濡らした摩耶は、もう彼に弄ばれて脱げかかっている白い下着に指を
差し入れた。提督は、彼の蹂躙を待ち焦がれている摩耶を丁寧に机の上へ横たえた。

「綺麗だ」

こめかみにキスされ、摩耶は咽び泣いた。

「バカぁ」

足をゆっくり広げられ、太ももの裏側を提督の充血した先端がなぞっていくと、摩耶の背筋に戦闘
や殺戮とは違った甘美な電流が走った。摩耶は頬に手が触れられ、熱く滾った肉の塊が、欲望の
捌け口を求めて自分にあてがわれるのを感じた。
目を閉じた摩耶は、子供のように身を縮こまらせた。
提督はそんな彼女を楽しそうに見下ろし、一気に貫いた。

「んッあ、うあッ!」

悲鳴のような声を上げ、摩耶は背をのけぞらせる。
上の口からも下の口からも涎を垂らす摩耶に覆いかぶさり、提督はまた唇を重ねた。
彼の首に手を回す摩耶の唇を貪りながら、提督は彼の唾液で汚された彼女の胸に手をやった。
吸い付くような柔らかい胸を好き放題に弄ばれて、摩耶は目尻から涙を零した。

「あう、提督……」

提督は摩耶の涙を嘗め取ると、彼女の真っ白な片足を持ち上げ、側位の体勢へ持っていった。
摩耶のすらりと伸びる足を抱きしめると、摩耶の締まった体は柔らかな弾力で押し返してくる。提
督はさっきと同じように無言のまま、摩耶の一番奥を思い切り突いた。

「ひゃう!」

摩耶の嬌声と、彼の動きに合わせて揺れ動く彼女の胸、ぶつかる体を押し返す柔らかい弾力、そ
れから彼女の潤んだ瞳に、提督は唇を歪めた。唇を嘗め、彼は摩耶に思い切り突き入れ始めた。

「あ、あ、あ、あ……」

提督は摩耶の尻に指を喰い込ませると、子宮の入り口に先端を押し付けて擦ってやった。お気に
入りの場所を責められ、摩耶は両足を提督の腰に絡みつけた。
摩耶はこの上なく淫靡な笑顔を浮かべた。

「あは」

摩耶の真っ白な胸も手で楽しみながら、提督は叩きつけるように腰を動かし、摩耶を思うさま掻き
回した。彼の胸にしがみついた摩耶は、呂律の回らない舌で嬌声を漏らしながら、自分でも尻を振
り出した。
摩耶のしなやかな上半身を抱きしめ、提督は彼女の期待に応えた。
悶える摩耶が垂れ流す粘液を潤滑油に、力を込めて彼女の一番奥を突き上げる。提督の体を挟
んで伸びた摩耶のつま先が、彼女の喘鳴に合わせて震えた。
提督の胸に包まれ、摩耶は彼を見上げた。涙の浮かぶ目で彼女は懇請した。

「キスして……」
「好きだな、本当」

提督は今日で一番優しくキスした。
唇を舌でなぞられ、摩耶は甘い息を漏らした。

「ん、う、すご……幸せ……ん……」

提督を胸元に抱きしめ、摩耶は消え入るような声を漏らした。摩耶の熱い肉に、肉の剣全体を締
め上げられ、提督は最後の仕上げにかかった。

「提督、このまま、中に……」

溶かされるような快楽と摩耶の声に促され、提督は歯を食い縛った。摩耶の尻に思い切り指を喰
い込ませながら、最後の一突きを打ち込むと、提督は彼女の中に溜まりに溜まった情欲をぶち撒け
た。断続的に遺伝子を注ぎ込む提督の動きを感じ、摩耶は満足しきった顔を浮かべた。
絶頂の余韻に浸り、冷めやらぬ熱を楽しみながら、摩耶は提督の胸元に顔を埋めた。

「えへへ」

提督はそんな彼女の頭を見下ろした。

「どうした?」
「なんでもない! あたし、提督のいちばんがあたしだって知ってるもん」
「そうだな」

嬉しそうに笑っている摩耶の頭を抱いてやりながら、提督は言った。

「一番の重巡洋艦だな」



轟然――
爆音とともに、引きちぎられた手足や砕け散った艤装が夜の海上に飛び散った。火薬と重油のに
おいを漂わせ、さざ波に揺れる海面に、血の気が引いた大井の顔が映っている。

「あ、あのね、北上さん……」
「新しい艦娘は、ドロップしなかった」

北上ではなく、長門の断固たる声が落ちた。腕を組んだ長身の美女は、血の混じった水面に浮き
沈みしている肉と鉄の欠片を、死刑執行人のように冷然と見下ろした。

「遺憾ながら、想定外の夜戦で弾薬を消費してしまった。だが、造物主殿もお喜びになるだろう。深
海棲艦を予定よりも一匹多く沈めたのだからな」
「そうですね、長門。造物主様は仰せられました。殺せるだけ殺せと」

長門と加賀が平然と宣言する中、建艦組の北上はけらけらと笑った。

「だよね。私たちは深海棲艦を殺したんだからね」

Das Ende/Koniec/Конец/おわり
 

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摩耶
最終更新:2014年01月10日 18:25