提督ハーレム6-452


私はいま、人生最大のピンチを迎えていた。

まず私のことを順不同に解説すると、男、小太り、薄い頭髪、ブ男、童貞、提督、となる。

外見から想像される通り、これまで女性に好意的な視線を向けられたことも、手を握ったこともない。
それは仕方ないものとあきらめていたから、勉学に励み、士官学校を優秀な成績で卒業した。
軍人になったのは、女性という苦手な存在に極力関わることなく人生を送れると思ったからでもある。

そんな私がなんの因果か、女性ばかりの……そう“艦娘”の指揮官として鎮守府に配属されたのは、
まさに皮肉というほかなく、着任以来私自身もたいそう肩身の狭い思いをしていた。

任務に支障はないが、艦娘たちにどう接していいかわからない。
彼女らにしても時折、通路の陰などから私をちらちら見ては、ヒソヒソと言葉を交わしたりする。
おそらく、私の視線がいやらしいだの、足が臭いだの……まあそういうネガティブな感想だろう。
あるいはもっと若くてイケメンの提督がよかっただの話しているのかもしれない。

……いや、彼女らはいい子たちばかりなのに、ついそう卑屈に考えてしまう自分がイヤになる。

もちろん、美しい彼女たちに内心、男としての劣情をおぼえないといえば嘘になるが、
私のようなブ男が女神のような艦娘らにふさわしいとは到底思えなかったし、
第一職場恋愛などもってのほかだから、そんな期待など心の片隅にも置かなかった。

そんな私の前に、いま、

「て、提督……んっ、これでよろしいでしょう、かっ……?」

秘書艦の扶桑がひざまずき、醜い肉の棒に桜色の舌をけんめいに這わせている。
その瞳に服従と恐怖、あきらめ、そしてわずかばかりの期待をにじませて。

どうしてこうなったのか、私にもわからな……いや、わかる範囲で説明させてほしい。
……頼むから。

* * * * *


「あの……その、提督……お話が、あります」

どこか思い詰めた瞳で、扶桑が私の執務机の前に立ったのは数十分ほど前だろうか。
なんだろう、またボーキサイトでも尽きたか……と想像を巡らせたが、次の言葉は予想外にすぎた。

「私が、私がなんでも言うことを聞きます。ですから、山城にだけは手を出さないで下さい!」
「……は?」

思わず、万年筆を湯呑みの中に取り落としそうになって、彼女の顔をまじまじと二度見した。
憂いを湛えた美貌、口元が悲壮なまでの決意にきっと結ばれている。

「ええ、存じております。提督がその獣欲を、今度は私の大切な妹に向けていることは……!」
「まてまて待て、ちょ、ちょっと待ってくれ!」

獣欲ってなんだ。いや、そもそも「今度は」ってなんだ。なにもかもが寝耳に水である。
だが私の疑問を待ってはくれず、彼女はその薄幸そうな目尻からはらりと涙をこぼした。

「ええそうです、提督の脂ぎった肉体に溜め込まれた性欲ときたら、まるで飢えたオークのごとく……。
立場を利用して次々と艦娘を脅迫し、毒牙にかけ、その肢体をむさぼって飽き足らず、
常に新たな生贄を血走った眼で探していることは、今や鎮守府の皆が知っています……っ!」

「いや、その、あの、え?」
「でも! 命よりも大切なたった一人の妹艦……山城の花が無惨に散らされるくらいならば、
私が代わりにこの身を挺しようと、そう決心して、死ぬ思いで私はっ……!」
「えーと、扶桑? 扶桑さん? 聞いてます?」

なんだか思い込みの世界に入ってしまった彼女には、私の困惑する声など届いていないようだ。
それにしてもひどい誤解もあったものだ。だいたいオークって何だ、太ってるからってあんまりだ。

「だからその、とんでもない誤解があるようだから……ちょっと落ち着いて話し合おう、な?」
「……ええ、わかっています。代わりに私が、こうするしかないと……!」
「いやだから話を聞……うわっ!?」

いきなり、そのすらりとした肢体が、呆然と座る私の股ぐらに倒れ込んできた。
あのとんでもないボリュームの艤装を展開したままだったら、潰されて死んでいたかもしれない。
硬直している隙に、彼女にたどたどしい手つきで軍服のズボンの前を開けられてしまった。

「ああっ……お、大きいです、この凶悪なものがみんなを責め抜いたのね……っ」

いい匂いの黒髪が股間をさわさわ撫でるのだから、大きくなるのは男として不可抗力である。
とはいえ断じて、そんな幸せな用途に使ったことは一度もないムスコなのだが……。

「わっ私、はじめてでうまくできるか解りませんけど、精一杯ご奉仕しますので、どうかっ」
「だ、だからね、さっきから言ってるが私の話も……うっ!?」

温かくぬめる口内に勃起したモノが捕らえられ、おずおずと扶桑の舌が這い回る。
それはきっと稚拙な愛撫なのだろうが、私にとっては初めて経験する天上の快感だ。
情けないことだが、抵抗しようとする力が抜け、彼女に身を任せてしまう。

「ん、ふぅっ……て、提督の、とても大きくて、熱くて……あふ、れろろっ……じゅぷっ……!
はぷっ、どうで……しょうか、私のご奉仕で、ご満足いただけているでしょうか……?」
「あ……いや、その、待てっ……やめっ……!」

とろけるような快楽に流されそうになりながら、必死で理性をつなぎとめて誤解を解こうとする。
……だが、その静止は扶桑にとっては、何か私の機嫌を損ねたと映ってしまったようだった。
みるみるその顔が蒼白になり、今にも自殺せんばかりの不幸オーラをまとわせ始める。

「わ、私なにか粗相をっ……!? ああっすみません提督っ、私はどうなってもいいですから、
山城には……! 縛り&吊るし極太バイブ責め二穴調教フルコースだけはご勘弁をっ!」
「いやだから何それっ、ううっ!?」

突然、じゅぼじゅぼと品のない音まで立てて、黒髪を振り乱し、一心不乱に顔を前後させる扶桑。
――どうやら私を満足させないと、妹がひどい目に遭うと思い込んでいるらしい。

たどたどしい(といっても私も経験がないので想像に過ぎないが)行為とはいえ、
彼女の美貌がそうして乱れる背徳的な光景は、肉棒に与えられる快楽と共に私を追い詰めていく。

「は、離れてくれっ、このままじゃ出てしまっ……」
「んぶっ、えうっ、ぷあっ……はっはい、言いつけ通り提督の精液っ、すべて飲みますからっ!」
「誰もそんなこと言ってな――くぅうっ!?」
「ッ!? っぷ……んんっ……! んぅぅぅっ……んっ!」

たまらず、びゅるびゅると注がれる私の白濁したものを、扶桑は口を離そうともせずに受け止める。
その細い喉がこくこくと動くさまを、私は魂が抜けるような射精感の中で呆然と見ていた。

* * * * *

「い、一体なんだったんだ、あれは……まだ夢でも見てるようだ……」

ようやく扶桑を部屋から閉め出して、私は大きく息をついた。

彼女ときたらあの後も私の話をまるで聞かないどころか、今度は衣服を脱ごうとし始めたので、
このままでは埒が明かない以上に、取り返しのつかない結果になりかねないと考えての緊急避難措置だ。
しかし、私に対するあのとんでもない誤解、出所は一体……。

「いや~、見ちゃいました! ついに現場を押さえましたよ、司令官っ!」
「うおっ!? ……あ、青葉っ!?」

タンスの中からメモ片手に出現した、鎮守府きってのゴシップ屋(ずっと潜伏していたのか?)。
そのにやにや笑いを見て、ようやく私の中ですべてに合点がいった。

「……おまえかっ、根も葉もない噂を流したのは!」
「ええ、そのとーりです。いや~、さすがに気付きますか」
「気付かいでかっ!? お前、どういうつもりだ!?」

うら若き娘が、好きでもない私にあんな……身を捧げかけるところまでいってしまったのだ。
悪戯にしても度が過ぎると、さすがに怒り詰問しようとするが、青葉は余裕の表情で指を振る。

「違いますよ司令官。これは扶桑さんや、この鎮守府のためなのです」
「!? それはどういう……」
「いいですか司令官。いくら不幸慣れしてて妄想癖のある扶桑さんとはいえ、
山城さんに裏をとったわけでもない不確定な情報で、自分から身を捧げようとするでしょうか?」

……そう言われると、確かにいくらなんでもそうかもしれない。
だが、ならなおさら一体。

「私たち艦娘だって女の子です。そして女の子にも性欲はあるもので、
それでもって女性心理ってヤツは時に複雑なものでして。
男の人に支配されたい、荒々しく散らされたい、汚されたい……って思うコは、案外いるんですよ?
扶桑さんなんかはまさにそれ……まあ、ぶっちゃけマゾですしね、あのひと」

それは、扶桑が内心望んで私にあんなことをした、ということなのか……?
女性の心理というやつにはまるで縁がない私にとって、青葉の言葉はすべてが予想外だった。

「いや、それにしたってだよ、こんな私をわざわざ相手に選ぶなんて……」
「まあ言っちゃなんですがこの鎮守府で、他に出会いもありませんしね……って、あはは、冗談ですよ」

私を励ましているつもりなのか逆なのか。

「司令官はどう思ってるか知りませんが、仕事はできるし誠実だしで、
みんな司令官のこと尊敬してるんですよ。てか、心底嫌ってる相手にあんなことできませんって」

青葉の説明によると、一部の艦娘は内に性的な欲求不満を(それこそ前世から)抱え……そして、
それを自覚しているわけではないから自分から解消することもできない。
だが、きっかけがあれば別だ――と。

「それが、私がケダモノのように彼女らの体を欲しているっていうお前の流した噂だ、と?」
「はいです。そして姉妹艦や同僚を守るって大義名分が決定打になってようやく思いを遂げ、
鬱屈した性欲は満たされて今後の任務にも身が入り、鎮守府も万々歳ってわけです」
「……………………」
「だからですね、さっきフェラだけで終わっちゃったのは扶桑さんに可哀想ですよ~?
今度はちゃんと最後までしてあげてくださいね。彼女好みに、ちょっと乱暴に」
「……それが全部、お前の思い込みじゃないって根拠は……」
「そりゃ、青葉の目は確かですからね! 優れた記者にかかれば真実は一目瞭然です!
いいじゃないですか、皆さんの欲求を満たせる、司令官も気持ちいい、で一石二鳥でしょう?」

彼女の言うことが本当だとしたら……いや、朴念仁の私なんぞより同じ女性の心理を理解しているだろうし、
第一彼女なりに仲間たちの幸せや鎮守府のことを考えているのは、私の見るところ確かだ。
おもしろがっている部分はあるにせよ、根拠のない計画というわけではないのだろう。
しかし、かといってそれでいいのだろうか……いや、男としては喜ぶべき所なのかもしれないが……。

「部下に期待された役目を果たすのも、提督たるお方の務めですよ?
……おっと、さっそくまた別の方が来たようですね。それでは頑張ってくださいっ!」

呼び止める間もなく、しゅたっと敬礼して窓から身軽に出て行ってしまう青葉。
入れ違いに、執務室の扉がためらいがちにノックされた。

「……提督。私だ、長門だ……折り入って、な、内密に話があるのだが……」

どうやら、青葉の見立ては正しかったらしい――。

* * * * *

それからというもの、私の新たな“任務”は大いに忙しいものとなった。

「うぁあっ!? せ、世界のビッグ7たるこの私がっ……こ、こんな屈辱的な格好でっ……!
だっだが、これは陸奥を、そう陸奥を守るためっ! 私は耐えて……んぁ、ひううぅっっ!?」
「うぐ、長門っ、そんなに締め付けると、出っ、出るッ!」
「あ、熱いっ……!? ああっ、私の中で、脈打って……そ、そんな、まだこんなに大きく……!?
なんて荒々しい、若い獣のような性欲……で、でも私が、陸奥のかわりに全部受け止めなければ……」
(……まあ、そりゃこの年になるまで経験がほとんどないというか、さっきまで童貞だったからなあ)

* * * * *

噂が部分的にでも真実になった今、まあ次から次へと――。

「今度こそ大和を守るためとはいえ……こんな、お、お尻の穴なんかをッ……ぁうっ!?」
「(なるほど、確かにここが弱いんだな……って、毎回思うがどこで調べてくるんだ、青葉のヤツ)
『ぐふふ、そうは言っても矢矧、おまえのケツ穴は私の指をキュウキュウ締め付けてくるぞぉ』」
「ひっ卑怯よ提督っ、んぉ、ぜっ絶対負けな、まけなっ……あっああっっ!?」
(それに、渡された“台本”に書かれてるセリフ読んだ方が反応がいいのも、複雑な気分だぞ)
「んぅっ、ふぅぅうっっ、ひあぁっ!? ご、ごめんなさい大和っ、わたし、私お尻でぇぇぇっ!」

* * * * *

やってくる中には、年端もいかぬ駆逐艦や――。

「クッ、このロリコンのド変態ッ! あたしみたいな駆逐艦にっ……ひっ、ひぅぅっっ!?
いやっ、そんなとこ舐めな……ひぁぁぁっっ、やっやだぁぁぁっっ!?」
「(まだ固くて狭いし、万一傷でも付いたら大変だからな、丁寧に愛撫してやらないとな)
『ぶひひ、未発達な穴を舐めほじくるのはこたえられん快感よなあ、どうだ霞ぃ?』」
「へっ変態っっ、ド変態っ、卑怯者のクズッ……! あぁ~~~~~っっ!
やっああっ、何かきちゃうっ! こ、こんなヤツにイカされちゃうよぉぉぉ!?」
(……どうでもいいが、いくらなんでも『ぶひひ』って笑い方はどうなんだ。霞も疑問に思ってくれよ)

* * * * *

時には、複数まとめて来るような艦娘まで――。

「くっ、あたしと千歳お姉の胸、いつもいやらしい目で値踏みしてると思ったら……っ、
やっぱりこんなことさせる機会を狙ってたのね……っ! こ、このケダモノ!」
「耐えるのよ、千代田……! 提督には逆らえないんだから、こうやって、二人のおっぱいで……っ、
は、挟んで……しごいて、ずりずりって……おちんぽを、満足させないと……きゃあっ!?」
「ひっ、いやああっ、熱くて臭いのが顔中にぃぃ……よ、汚されちゃったよぉ、千歳おねぇ……!」
「かわいそうな千代田……綺麗にしてあげるわ、んっ、ちゅっ……れろっ……!」
(うーん、なんだか二人がいちゃつくダシにされてる気分だ、まあいいんだが――)

* * * * *

「……つ、疲れた……あいつら毎日毎日、次から次へと……というか欲求不満の艦娘、多すぎないか……?」
「はい、精力剤入りのお茶です。いや~大した絶倫振りですねぇ、司令官」

机に突っ伏した私を茶化す青葉。すっかり、夜の任務における秘書艦といった貫禄だ。

「でも、言った通りだったでしょう? 皆さん、溜め込んだものを解消してあんなキラキラと」
「……確かに、任務にまでいい影響を及ぼすとは予想外だった。少しは報われたかもしれん」
「またまたあ~。司令官だって役得のハーレム状態で、嬉しいくせに」
「う……否定はしないが……」

確かに、一夜にして世の男たちが羨むような立場になったと思えば、
そしてどんな形であれ、鎮守府で皆とうまくやっていく結果になったと考えれば、
私は青葉に感謝してしかるべきなのかもしれない。

「それでは、明日も頑張ってくださいね司令官。明日やってくる艦娘は、このリストに――」

……そして、私の中でもいささか変化があったようだ。
こうやっておどけて報告する青葉の瞳の中に、別の“色”を発見できる程度には。

「じゃあ私はそろそろ――え? し、司令官? この手はいったい……きゃっ!?」
「なあ、青葉……私とつるんでることがもし知られれば、お前は皆から責められる立場になるよな」

辞去しようとする彼女の腕を掴んで引き寄せ、耳元でささやく。
たちまちその耳たぶが真っ赤になり、ドキドキと高鳴る鼓動が伝わってくる。

「きょ、脅迫するつもり、ですか……?」
「どうとってもらっても構わない。だがこういう時、『どうすればいいかは分かるだろう?』」

青葉は視線を彷徨わせ、しばし悩む“ふり”をする。
私はこれまでになく落ち着いた気持ちで、彼女にたっぷりとその時間を与えた。

『部下に期待された役目を果たすのも、提督たるお方の務めですよ?』

ああ、まったく青葉の言う通りだよ。

(おわり)

最終更新:2014年01月10日 18:24