提督×青葉6-407

「うーん、やっぱり噂は噂なんでしょうかねぇ」
ついさっき遠征から戻ってきたばかりの青葉が呟いた。
手には愛用の手帳とペンが握られているが、開かれた手帳は持ち主に渋い顔をさせている。
このところこの艦隊に所属する艦娘達の間で流れている「提督が夜な夜な鎮守府内を徘徊している」という噂。
この噂について真相を確かめるべく、数日前から取材して回っているのだが……

「○月×日二三○○、トイレに行こうとして営舎の廊下を歩いていたら、営舎の外の茂みからしれぇが出てくるのが見えました」(駆逐艦Yさん)

「×月△日二二四○、間宮さんから訳あって試作品のお菓子を頂いたので、お茶請けにと姉さまたちの部屋へ行く途中提督らしき人影が執務室から出ていくのが見えました」(戦艦Hさん)

得られる情報はこの程度で、それ以上詳細な情報は何もつかめなかった。
それで渋い顔をして手帳をにらんでいたわけであるが、それでただの噂と決めつける青葉ではない。
好奇心の女王こと青葉にしてみれば、むしろこれぐらい骨があったほうが燃えてくるというものだ。
「かくなる上は……仕方がありませんね」
ポン、と勢いよく手帳を閉じて青葉は誰ともなしにつぶやく。
やはり何事も、自分の目で確かめなくては。

「それにしても、司令官はああ見えて意外とガードが固いですね」

その夜、こっそりと営舎から抜け出した青葉は、昼間のうちに用意した今夜のための「艤装」を取りに営舎裏の茂みに入った。
青葉の言うとおり、彼女たちの指揮官としてずいぶん前に着任した提督は、豪放磊落で飄々とした兄貴分といった感じの人物で、
筋骨隆々とした体躯と相まって海軍将校というよりは海賊のお頭や戦国武将といったほうが近い印象があった。

そしてそんな豪傑でありながら、その過去や作戦時以外の行動はその多くが謎に包まれている。
青葉にしてみれば、ここまで調べがいのある相手というのもそう多くはないだろう。


―純粋にただの好奇心だけかと青葉を問いただせば、赤くなってはにかむ彼女を見ることもできるだろう。

やがて茂みから一体の異形が這い出してきた。
この緑色の塊を、いったい誰が青葉だと思うだろうか。

「ふっふっふ。それでは青葉島取材行ってきます」
青葉だった緑の塊はそこだけ色違いの白い歯を見せて笑った。

顔には緑のドーランを塗り、どこで手に入れたのか鎮守府内に実際に生えているものと同じ種類の植物を編み込んだギリースーツを着込んだその姿は、
彼女の前世の記憶を参考に作り上げた自信作だ。
仕上げに愛用のカメラにレンズ保護と光の反射防止を兼ねたカバーをつけ、目撃情報のあった営舎脇の茂みのほうへ慎重に近づいていく。

あの後、これまでの取材をまとめ、提督がここを通る可能性が高いと踏んだ青葉は直接尾行することを思いついた。
地面と同化し、ターゲットの出現を待つこと数十分。
青葉の主観ではもうすぐ日が昇ると思うくらい待ったような気がしてきたころ、周囲を警戒しながら提督が現れた。
きょろきょろとあたりを見渡しているがしかし、茂みに同化している青葉を見つけられず、異常なしと判断したのか背中を向けて足早にどこかへ向かう提督。

(よし、慎重に尾行しましょう)
その後ろで緑の塊が動く。
時には地にふせ、時には木陰に隠れ、時には植え込みに飛び込みながら尾行を続けるが、唐突に提督が立ち止り、何者かと話し始めた。

(誰かと密会ですか!?これは大スクープでは!?)
茂みから頭だけ出してカメラを構える青葉だったが……

(なんだ、警備の人か)
提督が話していたのは、通りすがった二人の兵士だった。
おそらく警備中の兵士に見つかり、出歩いていた理由を説明していたのだろう。

上手くはぐらかしたのか、はたまたまっとうな説明だったのかはわからないが、兵士たちは納得したらしく、敬礼をして元の巡回ルートに戻っていった。

しかしここで青葉に問題が起きる。

兵士たちは青葉の読みが正しければ間違いなく自分の目の前を通る。
その上茂みの前には煌々と光る電灯があり、下手に飛び出せばすぐに見つかってしまう。

当然、こんな格好で潜伏しているのがばれたら問題になるし、最悪の場合侵入者としてその場で射殺されることもありうる。
隠れてやり過ごすのが無難だが、そうしているうちに提督を見失ってしまっては元も子もない。
となれば、なんとかして二人の兵士のいる道を横切らなければならないのだが……

どう突破するべきか思案していた青葉の耳に低いエンジン音が近づいてきた。

音のする方向を見てみると、ちょうど兵士たちとは反対側からトラックが走ってくるのが見えた。
そういえば今日は鋼材の搬入が夜になると提督が話していたのを青葉は思い出した。

(ちょうどいいや。あれを使いましょう)
チャンスをうかがう青葉にトラックがさらに近づいてくる。

(ステンバーイ……ステンバーイ……)
思わずそう呟いたとき、兵士たちがトラックの接近に備えて青葉側の道の端によけた。
やがてトラックが青葉の前を通過した瞬間、青葉は茂みから飛び出し、徐行するトラックのすぐ後ろについて走る。
こうすることで、兵士たちからは死角となっていて、堂々と道を横断した青葉を発見できない。

なんとか危機を脱した青葉は提督の尾行を再開した。

青葉が再び提督を発見したとき、ちょうど提督が今は誰も使っていない鎮守府はずれの小屋に入っていくところを目撃した。
小屋に近づいてみると中から小声だが何か話し声が聞こえる。

(やはり密会だったのですね……相手は誰かな?)

青葉の好奇心はいまだかつてないほど盛り上がっていた。
謎に包まれた提督の一面を見ることができる。

もちろん、軍人の密会というと良からぬイメージがないわけでもなかったが、あの提督に限ってそんなことはないと青葉は信じていた。

誰だって他人に知られたくないことの一つや二つはある。勿論、青葉とて例外ではない。

だからこそ、青葉は相手の嫌がりそうな過去を穿り返すようなことはしなかったし、
芸能レポーターのようにそれを騒ぎ立てるよりも、事件の真相を究明したり、最新情報を仕入れることに好奇心を刺激されるタイプでもあったが、
気になる相手の一面を知ることになるとなれば別らしい。

(では……青葉見ちゃいます!)
手ごろな隙間を見つけた青葉は、意気揚々と中を覗き込む。

そこから見えたのは提督と、
(えっ……)

口づけする古鷹だった。

(古鷹……?)

口を離し、うるんだ瞳で愛おしそうに提督を見つめる古鷹。
そんな古鷹をやさしくなでる提督。

たくましい腕で古鷹を抱き上げ、近くにあった古い寝台に運んでいく提督。
お姫様抱っこされながら、提督の首に手を回し、寝台に下されるときにもう一度濃厚な口づけを交わす古鷹。

(なんで……古鷹、司令…)
青葉はただ、くぎ付けになっていた。

提督は再び古鷹を抱きしめるように腕を背中に回し、服を脱がせながら古鷹を寝台に寝かせる。
寝かされた古鷹はその足を提督の胴体を挟み込むように絡め、指で己のまたぐらを触っている。

提督はまるで母乳を求める子牛のように、古鷹のまたぐらに頭をうずめている。
時折古鷹の体がびくり、びくりと跳ね、その度に「んっ!」「あっ…」と嬌声を上げる。

切ない声を上げ、頬を紅潮させながら提督を求める古鷹に、求められた本人は下を脱ぐと、
一度自分の胴に巻き付いている足をやさしく外し、いきり立つそれを古鷹の二つの膨らみへと持っていく。

(あ、あ、あ……)
二つの膨らみで提督のそれを挟み込み、前後に扱く古鷹

(やめて、やめて…)
むくむくと大きくなった提督のそれから白濁液が噴出し、古鷹の顔にかかるが、古鷹はそれでも嬉しそうに笑う。

青葉の視界はここで歪んだ。

見たくない。認めたくない。
そんな思いを表現したかのように青葉の両目からはとめどなく涙があふれている。

古鷹は青葉にとって今も昔も恩人だ。

ここの艦隊に配属されたとき、青葉は先に配属されていた古鷹に前世の謝罪をした。
そんなことで許してもらえるとは思っていなかったけれど、そうしないわけにはいかなかった。
そんな青葉に返ってきたのは「気にしないで。またこれからもよろしくね」という言葉と、差し出された握手だった。

この日から青葉は、今度は自分が古鷹を助けることを決めた。
作戦海域の資料など、古鷹が求めれば青葉は持ちうる全てを提供し、足りなければ持ち前の取材能力をフル動員した。
ともに前線に出れば、古鷹をかばって戦艦の砲撃を受けることもあった。

古鷹には幸せになってほしかった。

だがその幸せが実際に目の前で展開されたとき、青葉はそれを見ていられなかった。
その幸せが嘘であってほしいと願った。
そこにいるのが古鷹ではなく自分であることを願った。

目の前の現実と、古鷹を恨めしく思ってしまった己自身から逃げるように、青葉は一目散に走った。
走って走って、気が付いた時には元の営舎脇の茂みに戻ってきていた。

まだ涙は止まらない。本当は声をあげて泣きたいけれど、それだけは何としてもこらえなければならなかった。
そんなことをすれば誰かが聞きつけるだろうし、泣いている青葉を見つければ訳を聞くだろう。
そうすれば提督と古鷹の関係が露呈してしまう。

それだけは何としても避けたかった。

提督と幸せそうにまぐわる古鷹を恨めしく思ったのは事実だし、
一瞬だがどうにかして提督を彼女から奪えないかと思ってしまったのも事実だ。

だがそんな己の心を抑えたのは、皮肉にも前世の「あの記憶」だった。
自分のせいで古鷹が辛い目を見るのはもうたくさんだ。

青葉は泣いた。悔しさと悲しさと自己嫌悪とで自分でも訳が分からなくなりながら声を殺して泣き続けた。

そして数日後の夜、鎮守府はずれの今は使われていない小さな乾ドック跡に青葉は現れた。

周囲をこそこそ見回し、誰もいないことを確かめると、放置されたガラクタの中から案山子のようなものを引っ張り出す。
成人男性ぐらいの大きさのそれは、ぼろ布を巻き付けて柔らかさと厚みをだしており、服を着せれば遠目には人間に見えるだろう。

その案山子を地面に寝かせると青葉は懐から今回の肝を取り出した。

提督の顔写真と男性器の張型。

顔写真を案山子の顔部分に、張型を股間部分にそれぞれつけると青葉はその「提督人形」を抱き起し、
自分を抱きしめるような形を作り、写真の口にキスをした。

ちゅ。ちゅと写真の表面をなめるように吸う青葉。

やがて直角におれるようにした人形の腕の部分を自分の胸に当て、押しつけたりこすったりし始める。

「司令っ!…司令っ!!」

物言わぬ人形に語りかけながら、青葉は張型を今度は自分の胸に持ってきて、その谷間に挟み込む。

覗き見た古鷹を再現するかのように谷間に挟んだそれを上下させ、自分の性感帯を何度も往復させる。

その後、懐から小瓶を取り出すと、人肌のぬるま湯で溶いた強力粉を張型の先端に塗り、それを咥え込む。

「んくっ…ん、むぅ…んっ、ぷはっ」
咥えたそれをチロチロと拙い舌づかいで舐め、途中で口から離すとだ液と混ざった白濁液が口の周りに流れた。

「うふっ。そろそろ良いですよ」

自分の股間に手をやると、生暖かく湿ってくちゅくちゅと音を立てているのがわかる。
仰向けになった青葉は、ちょうど提督人形が馬乗りになるように自分の上に乗せ、張型の先端で秘所の周りをくすぐってみる。

「ひゃ!あ、あ、ひゃん!」
わずかな刺激でも快楽が押し寄せるほどになった青葉は、そのままゆっくりと張型を挿入していった。

「ううぅ、ふぁ!ああっ!」
張型はみるみる内に青葉の中に入っていき、少し進むごとに嬌声が上がる。
やがて最奥部に張型が到達すると、青葉は嬌声を上げながら提督人形を小刻みに揺らし始め、揺れに合わせて一段と大きな嬌声を上げる。

「くぅ!ああっ!くひゃあ!」
上気した肌には汗がにじんでいる。

「あん!あっ……あ、ふぅ……」
絶頂に達した青葉は張型を抜き、人形の重さを腹で感じながら壊れた屋根の隙間から星空を眺めていた。

「古鷹……本物はあげるね」

これが青葉の出した答えだった。

古鷹からは奪えない。しかし何の未練もないほど提督への思いは小さなものではない。
ならば、古鷹の追体験をすればよい。

自分にはこの、自分だけの提督がいてくれればよい。
撫でてくれて、口づけしてくれて、初めてを奪ってくれて……。

「おやすみなさい司令官。また今度お願いします」
写真と張型を外し、ただの案山子に戻ったそれを元の場所に隠した青葉は、
寝転んだ際の汚れを払い、外したそれらを大事に懐に隠して部屋へ戻っていく。

古鷹を守るための懸念事項の一つは取り去った。
あとは、この一件を有耶無耶にできるようなネタをそれとなく流し、他の者の注意をそちらに引き付ければそれでおしまい。

一筋の涙が頬を伝ったが、すぐに拭い去って歩き出した。

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青葉
最終更新:2014年01月10日 18:21