提督×榛名6-278

「提督は真面目で重たい傾向の女の子は苦手と伺いました。事実ですか?」
「はい事実です。だから基本的にお前ら艦娘は全員キライです」

カッコつけて足を組み、長駆に金髪をツンツンと立てた若い男の容赦のない回答に、黒髪の美しい娘は両手で持った極上チーズバーガーを食べる手を止めて目を見開いた。

「だって『軍隊』『幽霊』『戦艦』三役揃ってんだもん。自分たちより重たい女の子いると思う?」
さほど大きくもないファーストフード店内。二人の間の安っぽいテーブルに載せられたトレイの片方には、紙包みがきちんと畳まれて重ねられている。その量、四枚。

「そ…それは嘘です!でなければ『陸に上がってみたい』という榛名の願いを即座に叶えてくれたりするはずがありません!」
「しかも結構いい服を買ってやったり、なぜか気にいったファーストフードを食わせてやったりな。ところで食いながら怒鳴るなよ行儀悪い」
オレもサボりたかったからだ、という本音は決して言わない。
さほどの高級店ではなかったとはいえ、サラシ着用が常態の彼女に下着から何から全て揃えたため『女性下着は意外と高い』ということを知った提督のサイフの中身はだいたい中破といったところだった。

「ま、それは冗談だけど。それにだいたい上からの報奨金も運営費もお前らの金であって、オレが受け取る筋合いのもんじゃねーし。だから機会があれば、遠慮無く甘えろよ」
貧乏時代が長かったにしては金銭には執着がない。『ケチなヤンキー格好悪い』という美学もあり、その点、無駄に大物であった。
それに道行く人の多くが振り返るほどに美しくなった女子を連れて歩くのは、男として当然悪い気はしない。

「はい、ありがとうございます!榛名は今、とても幸せですv」
笑顔でふたたびもくもくと食べ始める榛名。ハートマークの飛び出しそうなその表情は、提督の見立てで大人風にピシっとキメた服装とのギャップが激しい。

「しかしいきなり飛び出してきちまったが、今日の指揮は…」
「金剛姉さまが喜んで引き受けてくれました」
「あそ。…しかし、報告書も結構溜まってて…」
「霧島が全部片付けてくれるそうです」
「でもいきなりオレがいなくなったらさすがに他の奴らに不審に思われ」
「そこも大丈夫です。比叡姉さまが青葉と一緒に『司令はお腹が大破してトイレに入渠32時間コース!』と言いふらしてくれるそうですから」
「格好悪ッ!しかも無駄に長い!!」
カンペキです、とぴっと親指を立てる榛名。
「…ホント、金剛型のバックアップは完全だな。もうあれじゃん、お前ら四人揃ったことだし、明日オレが辞めても誰も困らないんじゃね?」
「そんな勝手は、榛名が許しません」
追加の補給物資にぱくりつきつつ、軽いジト目で榛名が答えた。提督は苦笑いしながら目を逸し、右手の新しい指輪をなんとなく眺める。

――本物の戦艦、『榛名』の鉄で作られたという装身具。

先の大戦で轟沈していない艦娘は、国の奴らが大枚を叩いてこの平成の世から素材を探し出しこのようなカタチに『建造』して持ってくる。
国も艦娘たちも「何か」を期待して協力してくれるのだろうが、この提督には自分の何がどう必要とされているのか未だにピンと来ていない。

「あの――もうひとつだけ、頼んできても良いでしょうか?」
「…ハラ壊すんじゃねーぞ」
「ありがとうございます!提督はやさしいですね!」

――その純真無垢100%の笑顔が、どうもキライなんだよな。
信用されたり期待されたり、そういうのがそもそも自分には向いていないのかもしれなかった。

「ごちそうさまでした~」
「うむ。さて、学生みたいなサボリはそろそろ終わりの時間だ。食い終わったら鎮守府に帰んぞ」
「え……あ、…はい……」
オレたちには立場があるからな。腕時計を見ながらそう言って立ち上がった提督を、榛名は名残惜しく座ったまま寂しげな表情で見上げる。

「で。こっからは大人のサボリタイムだ」
翻って確信犯的な笑みを浮かべた提督のその表情に、榛名は一瞬虚を付かれる。
「――当然、付き合ってくれんだろうな?榛名は」

「あ――」
目をぱちぱちと瞬かせて。
「は、はい!は、榛名でよろしければ、どこまでもお相手致します!」
言葉の意味をようやく理解し、店内中に響く声、期待に満ちた表情で、即座に榛名は立ち上がった。

――まぁ、面白い奴らではあるのは間違いないんだけどな。
懸命に、置いていかれまいとするかのように彼の腕に両手で縋った榛名の勢いに、提督は苦笑しながらそう思った。

 

***

 

「はい、おひとつどうぞ。提督」
「おっとっと。――ふふふ、たまんねーなコレは」
頭上には、快晴の平日午後三時過ぎの夏の空。

隣には白のタオル一枚で裸体を覆った美女――満面の笑顔で銘酒の徳利を構える榛名。
手元にはキラキラの光に満ちた盃。
しなった金髪の上には湯気の立つ手ぬぐい。ハダカのカラダは心地よいお湯のなか。

横須賀鎮守府は居住棟・執務棟のほか、なぜか純和風の『湯屋』が別棟で用意されている。
ケガした艦娘などはしばらくここで休むと治って帰ってくるという、提督にとって謎多き施設である。
「男湯」「女湯」が用意されてはいるが、男湯側の室内三槽と露天一据えは事実上完全に提督の専用であった(なおトイレも同様である)。

「『仕事中』、『昼風呂』、『美人秘書』、『高級酒』!これこそオトナの極上サボリって奴だな」
「ふふ、美人秘書だなんて榛名にはもったいないお言葉です。…はい、どうぞ」
一回やってみたかったと上機嫌の提督に加え、それよりもなお嬉しそうな笑顔を浮かべる榛名。
「楽しいですねぇ~」
「だねぇ、ちょっとオッサンぽいけど。…しかし、あれだけ食べて全く崩れないボディラインは凄いよな。やっぱ毎日腹筋とかしてんの?」
提督の手が、抱き寄せる形でタオル越しに榛名の腹部に触れる。
「ふふ。軍事機密です。金剛姉さまは私の三倍は食べますよ」
榛名は特に嫌がることもなく、提督の手に身を任せる。

胸元まで沈んだ榛名の喫水線の下は、バスタオルなどではない薄手の白手拭い一枚。
隠し切れない横乳を惜しげもなく晒しつつ、柔肌にぴったりと張り付いてそのボディラインは無論のこと、凝視すれば薄布越しに透けた胸先の色も形も確認できそうな大胆な艤装である。
当然、背中と下半身に至っては、ほぼ隠せていない。

「さすが。…榛名も一杯、付き合えよ」
「あ、ありがとうございます。いただきます」
猪口を提督から受け取り、きゅっと喉に流し込んだ榛名は、満足気にはふーと溜息をついた。
「美味しいです。こういう場所でいただくのは、特に」
「だろう。一人じゃ勿体ない」
飲める奴来て嬉しいわ―、他の奴ら弱すぎるしーとご満悦の提督の姿に、榛名はなぜか言いようのない安心感を覚えていた。


「…守るも攻むるも黒鉄の、浮かべる城ぞ頼みなる…」
「…浮かべるその城日の本の、ミクニのヨモを守るべし――か」

思わず口をついて出ていた歌を、提督の声が追った。榛名は驚き、提督を見る。
「ご存知で…」
「パチスロ良く行くからね。なんつって」
いつまでも無知なチンピラだと思うなよ、と何故かため息混じりに答える提督。
「ったく。お前らのおかげで余計な知識ばっかり増える。アホみてぇに大量の犠牲の上に成り立った時代、もう前みたいになにも考えず笑って生きられる気がしないぜ――ホント、重たい奴ら」
「提督は、根がとっても真面目で優しいのですね」
「それはないね」
提督の口から、再びのため息が思わず漏れた。

二人で肩を並べ、しばらく無言で空を流れる雲を眺める。

「天気良いな」
「…はい」

雲を眺める。

「…あの」
「ん?」
「…えぇっと…いえ、その…」
湯を見つめたまま、真っ赤な顔で榛名はもじもじと続ける。
「…て、提督は…あ、あちらの経験が大変豊富な方であると、伺っていますが…」
「…あ…そ。まぁね、結局お前らにも手ぇ出しちゃってるしね」
あんまこっちからは誘ってないつもりなんだけどなー、と呟く声が空に消える。

「…き…今日、この先その方面へ行かれても、榛名は構わないのですけどー……………………………さ、されないの……ですか…?」
後半が震え消え去りそうな小声になりつつも質問をなんとか言い切って、恥じらいつつもちらりと提督を伺い見る榛名。

「あー…いや、行きたいよ。うん。ていうか、行く」
視線を空に向けたまま、提督は甘やかな勇気に応えた。
「でももう少し、榛名とこのどきどきする感じを味わっていたい気もしてる。…悪いことをしてっかな」
「…いいえ。安心しました。そうですね、榛名もすごくどきどきしています。会敵前のような…でも、気持ちの良いどきどきです」
「ふうん。…どれどれ」
提督の手が、鼓動を確かめるように腹部から胸元に到達した。思わず息をのむ榛名の鼓動が、更に高まる。
「本当だ。お前らでも緊張とかするんだな」
そのまま流れるように躊躇なく動いたその手により、身体に巻かれた布がゆっくりと解かれ、湯中に榛名の健康的な裸体が露わになる。
「さてと。それじゃ――」
「あの…お酒…もう一口、頂いてもよろしいですか…?」
「イケるクチだね」
そう言いながら裸の提督は自ら杯を空けると、ゆっくりと同じく全裸の秘書艦に唇を合わせた。
「…ん……ふ……」
受け入れた唇と、細い喉があえぐように蠕動する。
口元から溢れた一滴が、上気した榛名の顔を伝って湯に落ちた。

「そんじゃ次、行こうか」
「…はい。全力で、お相手させていただきます!」

コトの予感に火照って蕩けた女のそれではなく、例えるなら信頼し尊敬する師匠からの稽古を待つ弟子のような、栗色の大きく純粋な瞳が自分を見つめている。
――手強いかもなー、という思いがちらりと提督の脳裏をかすめた。

 

***

 

「気持ち良いぜ――上手いな、榛名」
「あ、ありがとうございます…」

全裸で胸を揺らしながら励む榛名の、正面には提督の背中。

――まさか背を流すだけだったなんて。
想像と違ってはいたがとりあえず手に持った手拭いで丁寧にこなすあたり、姉と同じく根は生真面目である。

「嫁が欲しいと思ったことはないけど。毎日こんな感じなら全然悪くないな。――良かったらオレと結婚しないか?榛名」
「は……けっ……?」
驚いた顔のまま固まった彼女に、提督は背を向けたままにやにやと追い討ちをかける。
「んー?いつもの『ハイ、ハルナデイイナラ!』はどうしたんだ?」
「…も、もう!いきなり!重たいのはどっちですか!」
「ってぇ!」
許しがたいクオリティの自分の声真似に、やっとからかわれたと気付いた榛名の平手打ちが、提督の背にくっきりと紅葉を描いた。


「さてじゃあオレの番だ。おっと手がすべった」
石鹸の泡のついた手拭いが、石造りの床にぺたんと座らせた榛名の胸を背後からふにふにともみ滑る。
「あの、提督?前は……」
「遠慮すんなよ。オレが好きでやらせて貰うんだから。…結構デカイね。意外」
ふにふに。
「はぁ。……提督は、女性の胸が、お好きなんですか…?」
もみもみ。
「まぁ胸にもいろいろあるからな。サイズ・色・形のマッチした、好みのおっぱいに出会えたら男はみんな幸せだぜ」
ぬるぬる。
「は、榛名のは、如何でしょうか……?」
「ん、合格です。…この辺かな?」
マシュマロのような絶妙な柔らかさのなかに、こりこりと抵抗を始めた乳首の手触りを発見した提督は、そこを重点的に優しく摺り始める。
「……っ……~~~!」
さらさらと、胸の感じやすいところを中心に円を描くような手拭いの動き。それを通して感じる、提督の熱。
顔を赤くして息を荒げ始めた榛名に気を良くした提督は、直にぬるぬるの指でツンと色づいた榛名の両方のそれを摘んだ。

「んぁ、はぁん、そ、そんな、直接……ッ!?」
「綺麗にしてやるよ」
そのままこりこりと、榛名の胸先を摺りあげる提督。

「そこは、感じちゃいます……!ぴりぴりって、あ……ッ!」
びくんびくんと悶え始めた榛名の背を抑えこむように、身体を密着させて更に榛名の胸をいじる。
しかし無意識に提督の泡まみれの手に自分の手を載せつつも、榛名は抗おうとはしなかった。

「じゃあそろそろ、こっちも洗ってやろうかな」
背後からふとももの間へ伸ばした提督の右手がそこへ到達した瞬間、びくりと榛名の身体が大きく震えた。

「…そ、そこは…」
「ん…もう熱いな?榛名」
「…い…言わないで、ください…ッ!」

左指で胸を責めつつ、提督の右指が榛名の陰、肉芽と入り口を確かめるようにゆっくりなぞり始めると、榛名は高く鳴いて天を仰いだ。

 

***

 

「人間と全く同じところで感じるのが、面白いよな…お前ら子供とか出来るの?」
「…はぁ…あん…し…りませっ……!!」
提督の指は榛名の秘肉の間を滑らせつつ、ぬるぬるに溢れた入り口に浅く挿し、引き抜いては肉芽に愛液を擦り付けた。
強すぎる快楽に榛名をびくびくと震わせたのち、やがて再び秘肉の谷間を撫でつつ、提督の指は入り口に戻る。
その動作を何度も繰り返すと、やがて榛名は大きく身体を震わせ、首を左右に振りつつぎゅっと提督の腕を掴んだ。

「……うぁ…っ、くうぁぁぁ…ていとくぅ……っ!そ、それ……だめ……あはぁぁぁ…っ…」
「…いいね。やっと、お前の本気の声が聞けたような気がする。…こっち向いてよ」

しびれるような腰からの快楽に全身を震わせながらも提督の声に従った榛名に、提督は上から唇を合わせた。
舌を侵入させ榛名の甘い口腔を味わいつつも、提督の二本の指が、榛名の膣中に本格的に進入する。
じゅぷ、じゅぷ、と卑猥な水音が、上と下の二箇所から露天の構内に響き渡った。

「~~~~!」

声にならない甘い悲鳴が、外へ漏れ出せず提督の口中に伝わる。しかし提督は容赦せず唇を捕らえたまま、内部、腹側のざらざらした部分を絶妙な力で掻き撫でる。
「んふぅ、あふ……ふ、ふぁふ、いふぅぅぅぅぅぅ…ッ!!!……ふあぁっ!くぅぅ、ふ……ぅッ!!」

二度、三度。あまりに感じやすい場所への集中攻撃に、口を塞がれたまま絶頂の快楽を数回ぶん迎えた榛名はようやくキスから開放されると、背後にくたりと仰け反り倒れた。

「はぁ――、は、ふぁぁぁ――……はぁ……はぁ……」
石床に背を預け、天に胸を晒し、眩しい空を見ながら呼吸を求めてただ、喘ぐ。
やがて提督に震える素脚を大きく開かされ、充血してひくひくとだらしなく熱いものを溢れさせるふしだらな自分の性器を晒されても、抵抗する余裕もなく――
むしろ自ら積極的に脚を開き、腰を持ち上げている素振りの自分の身体に、榛名は驚きを覚えてさえいた。

「悪い、ちょっとだけ虐めてみたくなって。でも――そんなになってもおまえは美人だな、榛名。太陽の下でここまで見れる女は、なかなか居ないぜ」
「んうぅ……」
抗議に眉を潜めて見せるも、反抗が言葉にならない。
「答えは要らない」
軽く笑った提督が、今度は優しく唇を合わせてくれた。

やがて震える自分の脚の間から、熱くて、硬くて、例えようもないほど心地よいものが、下腹の中へと侵入してくる。
「うあぁぁぁッ……!提督、て…いとく……ッ!!」
最奥にこつんと辿り着いた後、ゆっくりと引き抜かれる。繰り返されるたび、眼の奥がちかちかするような、甘すぎる刺激。
「んぅぅ…は、はぁん……」
浮かせた腰が、更に快楽を求めて勝手にくねりだす。提督のリズムとひとつになる、自分のリズム。
結びついている場所から伝わる熱が、精神を容赦なく突き上げる快楽が、提督の微かな呻きが、自分に悲鳴を上げさせて、『何か』が体の奥から迫ってきて、そして――


――榛名は初めて、心の底から肉欲に溺れた。

 

***

 

「…本当に。今日は綺麗な空ですね…」

激戦に荒れた息を整え、身体を清めた後。

湯に浸かったままおおらかに身体を伸ばした提督に、榛名は身を重ねるように裸身の背を預けていた。
岩造りの露天の湯殿、情熱の残る相手の体温が、眼に鮮やかな青空と白雲とが、心地よい。

「…こうしていると、やっぱり思い出してしまいます」
「へぇ…何を?昔の彼氏?」
憎まれ口も、この余裕も、もはや心から愛おしい。
一瞬でも、確かにすべてを忘れさせてくれた人。――しかし。

「――最後のお仕事を」
細身だが美しい脚を水中に伸ばし、蒼穹を見上げた彼女は、呟くようにそう言った。

「…あー。榛名は近海に係留されての、対空戦闘か」
「はい。将も兵も、皆が一丸となっての戦いでした」
遠い日を思い出すように、目を細める榛名。
「それはそうですよね。私たちのすぐ背後にあったのは、彼らの愛する人たちが住む故国。ここを越えられたら、もう後がない。勝利を信じて死ぬ贅沢は、与えられなかった」
「……」
「誰も彼もが、大切な者を守るためと必死でした。やがて被弾して浸水し、浅瀬に着底してまでも、動ける砲はなお攻撃を続けていたんですよ」

――それでも結局、護れませんでしたけどね。
そう呟いた榛名を、提督の両腕が背後からぎゅっと抱きしめた。

「…それなのか。四姉妹で一人だけ、なんか表情が少ないと思ってた。――お前は他の奴より長く、ヤな思いをしてきたんだな」
「そんなにも気にかけていただけていたんですね。本当にお優しい…ですがどうぞお気遣いなく。――榛名は、大丈夫ですから」

そっと自分を包む腕に触れる。
不器用な優しさが、この上なく暖かく、嬉しくて――もう少しだけ、言葉が欲しくなる。

「すみません、艦娘の昔話は本当に真面目で重たくて。結局、不愉快な思いをさせていますね?」
「あーまぁな。そういうのホントにキライなんだわ。性格上」
背後の提督の軽い身じろぎに、ちゃぷん、と湯が響く。腕を頭に組んだらしい。
「――でも今日は意外と榛名のいろんなカオが見れて、結構仲良くやってけるかもと思えて嬉しかった。結局また戦わせてゴメンだけどな…これからも、よろしく」
期待以上の言葉に、思わず頬が緩む。
「全部終わったら、今度は皆でラーメンでも食いに行こうぜ。旨い所知ってんだ」
こんなにも自分に正直で素直で可愛い人が、私たちの、司令官。

戦争には、負けた。
完膚なきまでに。
目と鼻の先の本土に超大型爆弾が投下されたあの日、目の奥に焼き付けられた絶望は、決して忘れられるものではない。

しかし――それでも、この国は屈せず立ち上がった。
かつての人々の優しさと強さを備えた心根がまだ生きているということは、このひとを見ればそれだけでよく理解できる。
そしていまふたたび私は、大好きな姉妹艦や仲間たちと共に、またこの背に守るべき温かく大切なものを感じられている。――それはきっと、この上もなく――。

「…、とっても美味しかったですね」
「え?」
「いえ、なんでもないです。…提督」
榛名は湯を揺らしながら身を翻すと、至近距離、大好きな提督の眼前に自分の正面を晒した。
濡れ髪と乳房を伝い落ちる水滴が、水面を揺らし、自分よりも先に愛しいその身体に到達してゆく。
「……」
慈しむような、酔いしれるような瞳をした彼女はゆっくりと提督にその柔らかな唇を合わせ、その耳元にこの上なく熱い囁きを届けた。

「もうなにも言わずに、もう一度――榛名を、抱いて下さい」


――そう。今のわたし以上に幸福な奇跡が、他にあるはずがない。


「うーし、じゃあ今日は西方海域の4-1地点。国境越えるけど、上がまた上手いことやってくれるってよ」
「了解デース!…テートク、本日の旗艦は?」

横須賀鎮守府前の岸壁。器用に海上側に立ってラジオ体操しながらの金剛の問いに、ペンキも剥げかけた自慢の型落ちクルーザー上の提督が答える。
「今日は榛名がやりたいらしいので、やらせてみたい。良いか?」
「トーゼン!テートクにこのワタシが逆らうハズがありまセン!」
「異存なーし!」
「榛名なら、間違いはありません。私も賛成です」
「金剛姉さま。比叡姉さま。霧島。皆を差し置いてすみません、榛名は今日はその、特別な…」
「ノー・プロブレムよ!今日は提督の誕生日、知らない人は鎮守府に居ないネー!旗艦は譲ってあげるけど、MVPはワタシがいただきデース」
もじもじと述べる妹艦の肩を、金剛が力いっぱいバシバシと叩く。やがて榛名の耳元に近づけ――
「良いカオになったネ、榛名。――たっぷり可愛がって貰った?」
「……えぇと、その………はぃ……」
顔を真っ赤にした妹に「タマンナイネー!」と抱きつく金剛を見て、比叡と霧島もにやにやと笑う。

「さてそろそろ良いかねー。行くぜー」
つられてちょっと恥ずかしくなってきた提督の声に、榛名がぴっと敬礼をして答える。

「はい!第一艦隊、出撃します!………勝利を、提督に!!!」

やがて彼らの姿は、今日も水平線の彼方へと消えた。



そして。
――その日の戦闘は、横須賀鎮守府にとってひとつの区切りとなった。


(end)

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榛名
最終更新:2014年03月13日 22:06