提督×大井5-837

前回の話

 

「なんだ、提督なの? ……あ、いえ、いいんですけど。はい。提督も、愛してます」

「そうか、キスでもするか」

「やめてください。魚雷20発撃ちますよ?」

「ははは、直線状に進む魚雷を避けるのは簡単なんだぞ」

その代わり魚雷の損失額としては痛いものがある。
別に鎮守府の運営費は自分の財布から出しているわけではないが、
逆に言えば他人の、つまり上からのお金であるので、あまり変に浪費するとお叱りを受けるのは火を見るよりも明らか。
更に追求するとそのお金は根本的にはこの日本国民の税金から来ており、
散財を続ければ結果的に巡り巡って自分が損失を被ることになるだろう。
自分も日本軍人であり日本国民なのだ。

しかし大井はこう言うものの本当に魚雷を撃つことはない。
その信頼が自分の中に根付いているからこそ、その冗談に対し自分は恐れることなく軽口で返すことができる。
もし自分でない他の提督であれば、魚雷を無駄遣いすることを圧力で止めるか、あるいは懇願して止めるか……。

そもそも魚雷は水の中でないと進行も不可能なのだが、そのツッコミは野暮というものだろう。
何が言いたいのかというと、
自分は大井の考えていることも少しずつ分かるようになってきたと思う、ということだ。
では茶番はここまでにしよう。

最近大井の被弾率が上がっている。
元は軽巡洋艦なのでどちらかと言えば素早く動けるはずなのだが、どうも調子がよくない。
今日も艦隊の足を引っ張る形で大井とその随伴艦が帰投した。
北上に肩を借り、服とも呼べない布切れで体を隠す大井が不満をぶつける。
よく見ると下着も確認できるのだが、この状況でそういう気分にはなれない。

「さ、作戦が悪いのよ……」

「……」

こうは言うが目はこちらを見ていない。
言われるごとに幾度も作戦を練り直したが大井の戦況は改善されないのだ。
何より同じ重雷装艦の北上の調子が普段と変わらずキープされているので、
自分の中にあった魚の小骨のようなとっかかりは数日かけて確信へと成長した。
ひとまず大井を尻目に艦隊に指示を出す。

「……ご苦労だった。艦隊は一旦解散とし、次の招集まで待機していろ。
大井は至急入渠し、修復完了次第執務室へ出頭するように。いいな」

『はっ!』

「……」

随伴艦全員が凛とした返事で敬礼をくれるも、旗艦だけはだんまりを決め込むだけだった。
しかし自分は特に咎めるようなことはしない。
最後に自分も敬礼をしてやめ、背を向けると後ろで各々が散って行くのが音と気配で分かる。
最近の任務遂行の鈍りをどう上に言い訳しようか考えながら執務室に戻ろうとしたが――

「提督」

執務室を目指す自分を呼び止めたのは北上だ。
そこにいたのは北上だけで、他の随伴艦や大井はいなかった。
大井を他の随伴艦に任せてまで自分に言いたいことがあるようだった。

「あんまり大井っちを責めないであげてよ。
旗艦なのに守ってあげられなかったあたしらが悪いんだ。処罰ならあたしらに――」

「責めるつもりはない。処罰もない。私にも原因があるかもしれないのだ」

「作戦のこと? 敵艦隊には勝てたし、問題はないと思うよ」

「作戦のことではない。心当たりはあるが個人的なことでな」

「ふうん……。大井っちとなにかあった?」

「分かるのか」

「具体的には分からないけどね。大井っち、最近は提督に懐いてるからさ」

「大井には合わん言葉だな」

軽く笑いあってから北上と別れた。北上は大井の様子を見に行くようだった。
入渠ドックは男子禁制なので北上や修復妖精に任せ、自分は執務室へ赴く。

"懐いている"。
その大井の行動の裏に隠された心理を自分は二つ推測する。
そして答えを知りたい。
大井は自分にどうしてほしいのか。

「大井、修復完了しました」

「よし。では執務の手伝い、やってくれるか」

「はい」

体の傷や服さえも元通りにした大井が艤装を下ろして復帰したときは既に日は沈んでいた。
しかし今日はほとんど出撃できなかったのが大方の理由か、
執務も普段より早く終わる目処が立っているため結局やらせることは少ない。

「……これだけなの?」

「む、今日はな。こっちも直に終わる」

拍子抜けしたような様子だ。
流石に始末書を書かされるのではないかと予想していたのかもしれないが、
始末書なんて適当に反省の言葉をつらつら並べていれば終わってしまうし、
読む方としても何も面白くない。
何一つ得られるものがないのに紙と時間を無駄に使うだけの徒労なんてしたくない。
お互い無言で執務を消化していき、まず大井が執務を終えた。

「提督。私は終わりましたのでお茶を淹れますね」

「頼む」

茶も何ヶ月もやらせたことなので、
顔を上げず一言伝え大井に任せることにした。

……………………
…………
……

「どうぞ」

「ありがとう」

湯気が少しだけ出ている如何にも適温そうな煎茶が出された。
礼を言い、思わず座っている自分よりも高い位置にある頭を撫でようとして――

「あっ」

自分はある事を思い出しながら小さく声を漏らし、伸ばしかけた手を所在なくゆっくりと下ろした。
いつしか休憩中に大井が膝枕と頭を撫でる事を強請って来たことはあったが、それだけだ。
夜這いのことも置いておくとして、
基本的に大井はこちらからのスキンシップは嫌がるので控えなければ。
横に立ったままの大井は何も言葉を発しない。
少し居心地が悪くなったのを紛らわす気持ちで出されたお茶を味わう。
薄くなく渋くなく、丁度良い濃さで淹れられている。

「……うん。今日も美味いね、……?」

茶の味を顔を合わせて伝えようと首を回したが、上がりかけていた自分の口角が下がった。

「そうですか……」



なんだ。その悲しみを殺したような淡い笑みは。

「……私、北上さんのところに行ってきます」

大井は突然扉に向かって駆け出した。
ここで大井に何の布石も打たずして行かせるわけにはいかない。
別に大井と二度と顔を合わせられなくなるわけではないはずだが、
自分はとっさに現れた焦燥感に襲われていたせいか席を立ち上がってまで大井を止めた。

「待て」

「……」

「今日の深夜、いつでもいい。私の寝室に来てくれ。寝ていたら引っ叩いてくれていい。話したいことがある」

「……」

「……」

「……マルマルマルマルに」

長い沈黙を経て一言ポツリと残して出て行ったが、自分には確かに聞き取れた。
それから椅子にどっかと深く座り込み、
湧き出た安堵感とこれからの期待と緊張を五月蝿い心臓のある胸に手を当てることで抑えた。
茶はいつの間にか湯気が出なくなっていた。

先は"寝ていたら引っ叩いてくれていい"、言い換えると"寝ていても出ていくな"と保険をかけたが、結論から言うとその必要はなかった。
こちらから呼び出しておいてすっぽかすというのも有り得ないことなのだが、全く眠気が来ないのだ。
執務を早めに切り上げられたのもあるだろう。最後に見た大井の様子が変だったのが気になるのもあるだろう。
指定時刻は今か今かと待ち構えているのもあるだろう。
呼び出したこちらが落ち着いていないと非常に恰好が悪いので文庫本を開くも、全く内容は頭に入ってこない。
内容が頭に入っていないのに頁をめくり、我に返って読み直そうと前の頁に戻ることを繰り返した。
しきりに時計を気にし、いよいよ日付が変わると同時に扉が叩かれた。

「いいぞ」

ベッドの上で胡坐を掻いて扉が開くのを待った。リラックスを装っているが内心緊張が収まらない。
扉の先の真っ暗な執務室に立つ大井は顔に何の表情も浮かべずそこから動かずこちらを見つめるだけだ。

「……」

「……おいで」

大井は振り返って扉を静かに閉め、艦娘に必須装備の海を走れる靴を脱ぎ、ベッドに上がる。
2人の体重がかかったシングルベッドが軋む。自分は胡坐を掻いているのに大井は正座の姿勢をとった。
大井は何も言わない。こちらをじっと見つめて言葉を待ってくれるだけだ。

「……大井」

「……」

「北上のことは好きか」

「……はい」

「私のことは」

「……好きですよ?」

目を見て言ってくれるが、私の疑心は消えない。
もしこの疑問が間違いだったら大井を傷つけてしまうかもしれないが、それでも確かめずにはいられない。
自分勝手な私を許してくれ。

「もう夜這いはやめろ」

大井の目が皿になる。

「北上から遠ざけようとしているならやめてくれ。私は北上をそういう目で見ていない」

「寝不足の理由がそれならしっかり寝るんだ」

突き放すようなひどい言い草。
しかしどんな理由であれ二度と鎮守府に帰って来られなくなるようなことにでもなれば自分は後悔する。
寝不足も立派な慢心だ。
もしどうしても休む時間を削らなければいけない理由があるなら出撃を控えさせる。
重雷装艦は戦力的に外したくないが、大井に限ってはそれに加えて――

「嫌いになったんですか?」

「は?」

「私のこと、嫌いになったんですか?」

目を伏せて震えている。
しかし大井が私のことを嫌いだと言ったことがないように、こちらとしても嫌いなどと言った覚えはなく、むしろ――

「最近は私に触ってこなくなったし、さっきも……」

大井は何を言っている?
それではまるで触られることを望んでいたみたいじゃないか。
それにさっきとは……。
もしかして……。

「今までもひどいこと言ってきたし、はしたないこともして、戦果も悪くなってきたと思うわ……。でもね」

「提督を好きっていう気持ちは嘘じゃないの。提督が私のことを嫌いになってもそれは変わりません。だから――」

――先ほどのお願いは受け入れられません。
顔をようやく上げてそう締め括った大井は頬に一つ哀しみの道を作っていた。
やはり言わなければ良かったかという罪悪感はあるが、
2つの推測のうち自分にとって嬉しくない方の推測が打ち破られて出た安堵感が大きい。
しかし自分だけ悦に浸っている場合ではない。
大井を泣かせたのは誰だ。自分だ。それならやることがある。
嗚咽も上げず膝の上で拳を作り、目を閉じてなお涙を零す大井に近寄り静かに抱きしめることにした。
この肩の華奢さは普段の様子からはイメージできないものだと思う。

「すまん。そういうつもりじゃなかったんだ。
寝不足で戦闘は拙いだろ?
大井が好きだから、私はただ大井に死んで欲しくなかっただけなんだよ。
嫌いになんかなってない」

それからあとは片手で抱きしめたままもう片手で後頭部をただ撫でることしかやっていない。
先より気の利いた言葉なんて浮かんでこないし、沢山浮かんできたところで言葉の価値が下がるだけだ。
こういうときは泣き止むまで待つのが最善なのだ。
しかしあまり長くはたたずに大井が口を開いた。

「……提督」

「うん」

「私は2回提督にしてあげたわ」

「……」

「そろそろ提督からも欲しいかな、なんて……」

私の肩に顔を埋めたままの大井を離した。

「あ……」

まだ涙腺は緩んだままのようで、頬伝う粒を指で拭ってから顔を近づけ、
小さく開いたそこを自分のもので重ねた。

「ん……」

……。

「……はぁ……」

「……こっちでのキスは初めてか?」

「……そういえばそうね」

下の方には散々しておいて上の方はまっさらというのもおかしな話だ。
なので上の方も回数を重ねることにする。

「ちゅ……ん、んー……」

自分の少しカサついた唇が不快に思われていないかとか、鼻息が当たっていないかとか心配事が一瞬浮かぶも、
抱いている大井の体の柔らかささえ忘れるほど自分が今味わっている柔らかい唇の感触一点に意識が吸い込まれていくようだ。
それでも目の前の光景もまた気になるもので、無粋と分かっていながら瞼を開いてみる。
勿論眼前には大井の顔が広がっていて、それ以外のものは目に入らない。
ああ、こいつ意外とまつ毛長いな。綺麗だな。

「はっ、ん……ん、ぅ……?」

いけない。見とれて口を動かすのを忘れた。ほらバレた。
同じく瞼を開けた大井と目が合い、唇の感触は惜しくも失われた。

「もう……、目は閉じないとダメですよ」

「悪い。もう一度、いいよな?」

それが愚問だとでも言うように再度瞼を下ろして顎をくいと前に出すので
顔をゆっくりと近づけ事の次第を再開した。

「……ふ、……ん、ぁ、ちゅ」

そろそろステップアップしたい。
少し口を開いて舌を出し、大井の唇をつついて開くように促す。
意思表示は難なく伝わったのでゆっくり差し込んでいくと、抱いている肩がほんの少しだが震える。

「っ……あ……はぁ、あ……」

しかし大井は受け入れる事をやめないし、こちらとしてもやめさせたくない。
あまり驚かせないようにちろちろと大井の舌を探す。

「……ぁ、ぅ、……っ」

すぐ見つかったのでわき目も振らずその舌に自分のを絡ませていくと案外そちらもすぐに絡み返してきた。
口の中は熱い息で充満していて、その舌もまた蒸されたように熱い。
味覚の役割を果たす舌が別の舌を味わうというのは新鮮で、ざらざらした独特の感触をよく味わう。
たった数十秒それを続けていると唾液が生産され、感触はぬらぬらしたものへ変わってきた。
半ばわざと立てるようになってきた音も水っぽくなり、淫らさは増す一方だ。

「えぅ、ちゅ、んんー……、んむ、んく、ちゅぷ、ぁ……」

口で一旦空気を吸い込もうと惜しくも唇、舌の順に離すと互いの舌の間を糸が引くのが分かる。
少しだけ瞼を開くと飛び込んでくるその顔にもはや普段の面影はなく、上気した顔で接吻を楽しんでいるようだった。
自分もこのような緩みきった顔をしているのだろうな。大井が瞼を閉じたままでよかった。
また先のように瞼を開かれないうちに再び口を塞ぐ。

「んうっ、んん……ちゅる、あ、はぁ……」

こうした唾液の交換が短くても数分以上は続いたと思う。
大井の唾液をもらって飲み込む代わりに自分の唾液も結構持っていかれたはずだが、唾液の生産は止まることを知らない。
自分も大井もみっともなく唾液を口の端から漏らし顎を伝っている。

「……ぷぁ……はぁ……はぁ……」

口を離すと自分の胸にくたと額を預けてきたので抱き留め、空いている手でこっそり自分の涎を拭う。

「はぁ……んくっ、はぁ……」

口を長く塞ぎ、息苦しくさせてしまったのかもしれないので少し休ませる事にする。
その間、自分の腕の中の大井の髪を撫でたり梳かしたりして手触りを楽しむ。
そうしているともぞもぞ動いたかと思えば自分の心臓に耳を当てて来て、心臓が跳ねる。

「……ふふ。提督、緊張していますね」

バレたか。
しかしこういう事には慣れていないので速くなってしまう鼓動を抑えることはできない。
仕返しと茶化しの意味で、密着させてくる大井と自分の体の間に手を差し込み――

「あっ……」

「……うん、お前も緊張しているみたいだな」

大井のふくよかな胸を、あたかも鼓動を確かめるかのように触る。
感じるのは服越しでも分かるタンクの柔らかさだけ。
それはどちらかといえば大きいもので、その向こうにある鼓動の具合など分かりゃしない。
大井にこのようなセクハラじみたことをするのは久しい。
だが以前と違うのは大井の反応だ。

「……」

体を離し、診察台で聴診器でも当てるかのように自分で服を捲り上げてくれた。
しかし今から体に当てるのは聴診器ではない。

「ほら、触っていいんですよ……」

上着をかなり上まで捲り上げると姿を現したその二つのタンクにカバーはつけられていなかった。
見惚れる間も与えず大井は私の手を掴むとそのタンクの片方に押し付けた。
私の手が当たると自分でやったというのに大井は一瞬だけ体を震わせる。

「っ……」

「……大丈夫か」

「え、ええ……ちょっと、手が冷たかったから」

なるほど、そういえばこの部屋には暖房器具がなかった。
それでも体は火照っているが手足など末端は中々体温が上がらない。
大井も体は自分と同じくよく火照っているようで、
まるで中身が沸騰しているかのようなタンクに手を沈ませると自分の手の冷たさがよく分かる。
もう片手も使い、二つのタンクをそれぞれ全体を撫でる。
タンクの頂点にある突起物は勿体ぶって触れないように。

「っ……はぁ……」

あくまでも最初は撫でるだけ。
この程度では大井も自分もそこまで息を荒げることではない。
しかし最初はこれでいい。

「んっ……焦らさないで……」

「……」

ひとまずはこれくらいにしてさっさとその突起物を口に含むことにした。
まだ弱い愛撫しかしていないのによく膨らんでいる。

「ぁ……」

口をつけていないほうのタンクも撫でるのをやめ、指を使って突起物をこねくり回す。
口をつけたほうは吸い付いたり、多量に唾液を乗せた舌でわざと音を立てて舐る。
その突起物は柔らかいのか硬いのか表現しづらい独特の舌触りだ。
また甘味料が付与されているわけでもないはずだが、どうしてか甘く感じる。

「んぁ! あっ……、んん……」

開きかけた口を閉じて声をあまりださないようにしているようだ。
……とても攻め甲斐がある。
普段大井にはあまり向けない感情が首をもたげる。
緩い愛撫は抜きにして、ただ乱暴にタンクを揉みしだき、息の続く限り強く突起物を吸い上げる。

「んああっ! あっ! ちょっと、ひっ!」

どうだ。口が再び開かれ、激しくなった喘ぎのほうがこちらも気分が高揚する。
口つけた突起物の周囲も存分に舐め回すし、手を使ったほうもタンクと突起物両方を弄り倒す。
次第に汗ばんで来たのかしょっぱいような味も混ざってきた。

「ううんっ、……ん、ああぁ!」

大井が自分に強気に突っかかり、自分が飄々と躱すいつもの関係はどこへやら、ここでは自分が優勢だった。
大井は自分の攻撃を正面から受け続ける。
ひょっとするとこれは初めてではないだろうか。とても面白い。
顔が見たくて口を離す。
タンクの突起物は赤く点灯していて自分の唾液でてらてら光を返している。
赤く点灯しているのは顔もだ。
この突起物をボタンのように押し込んだら顔も更に赤くなるのだろうか。

「も、もう怒ったわ!」

「うおっ」

うっとりした吊り目と視線が合うな否や、急に自分の肩を両手で突いてきた。
突然のことに反応が遅れあっけなくベッドに倒される。
壁に頭をぶつけないか一瞬の恐怖感に襲われたが着地したのは柔らかいベッド。
押し倒す場所の判断ができるほど大井もまだ理性を捨ててはいなかったようだ。
自分にすっかり馬乗りになった大井は顔どころか髪も乱れているが、
その顔に貼り付けていたのは不敵な笑み。
どうやら形勢逆転されてしまったらしい。

「硬いわね」

挑戦的な声で大井が見つめる先は下腹部、正確には大井のもう一つの補給口で押し潰された自分の男の象徴。
大井よりも乱れている自分がそういうところに反応を表さないはずがない。
見つめると言っても自分のモノはズボンの中だし大井のスカートもあるし、
押し潰されているところなんて見えないのだが、これはこれで想像力を掻き立てられる。
そしてこの体勢でやることと言えば一つしかなく、腰を前後に動かし始めた。

「はぁ……形がよく分かるわ……」

自分のモノはズボンの中だし、大井の補給口もおそらくカバーがかかったままなのだろうが、
それでも微妙に快楽を得ている。

「あっ、んん、これ……意外、と……っ」

こっちは声が出るほどではないが大井は恐らくカバー一枚だ。自分よりも快感が伝わっているのかもしれない。
一方自分が感じている快感はあくまでも微妙なもので、これだけで達することはできない。

「ん……脱がすわよ」

少し後退して、ベルトに手をかけられる。金属音も程々にズボンと下着はすぐに下ろされた。
二度の夜這いのこともあるだろう。しかしそれ以前にもしかすると予習でもしていたのかもしれない。
そもそもこういうことは大井には何一つ教えた覚えなどないのだ。
改めて確認するにはやや抵抗あるが、この鎮守府に男手は自分しかいなかったはずだし、
もちろん自分がそういった本などを職場であるこの鎮守府に持ち込んだ覚えもない。
そういえば面倒になってここ何日も自宅のほうに帰っていない。
ああいうのも処理のお供に使わなくなってきたし処分でもしようか。

「……大きいわね。昨日は出してないんですか?」

「昨日はやってないね」

鎮守府提督とは決して楽な仕事ではない。
今日はこうだった明日は何があるなどやらなければならないことは考え始めるとキリがない。
結果性欲そのものを自覚しない日が出てくるのも何ら不思議ではないのだ。
しかしそれはあくまでも自覚していないだけのことであって、
例えば今のような状況や気分になったら自覚しなかった日の性欲が繰り越されて襲ってくる。
正直これでは物足りない。
その旨を目に乗せて大井の目に届くよう願う。
少しのアイコンタクトの後大井は一旦ベッドを降りてスカートに手を入れた。
何の装飾もない白い下着だけが下ろされ、床に放置される。
自分は服を全て脱ぐつもりはなく、大井も何となく同じ考えのように見える。
すぐさまベッドに上がり、天に向かってそびえる自分のそれをスカートで隠して跨った。
自分のモノは湿った何かに倒される。
先と違って直に大井を感じる。
しかしこれはまだ入っていない。

「あっつ……」

まるで夏に屋外に出たときのような、しかし似て非なる声だ。
腰を動かすと互いの肉がダイレクトに擦れ合うので先とは全く違う。
竿の腹が補給口の割れ目にめり込むのが見えなくてもわかる。

「あっ、あっ、はあ、は、ああっ」

湿っていた大井の補給口からはどんどん愛液が漏れてきて、互いの局部を濡らしていった。
自分も大井に追いつくように息が荒くなっていく。
大井の晒されたタンクといやらしい腰使いは視覚に、
くちゅくちゅという水音と大井の色っぽい声が聴覚に、大井の補給口と擦れ合う局部は触覚に、
性欲を満たしてくれる材料が五感の半数と精神を攻め立てる。

「あはっ、ん……もう、我慢、できない……」

突然前後運動をやめ、腰を浮かせてスカートに手を入れたかと思えば自分のモノを掴む冷たい感触。
先端には熱く濡れた感触。
もしかしなくても分かる。

「待て早ま――」

「んあああぁぁっ!!」

「ッ!」

大井はこちらの気遣いを棒に振るように腰を下ろした。
狭いところを無理やり押し広げる感覚を一瞬だけ感じ、それはずるりと飲み込まれた。
桁違いの快感に歯を食いしばって抗う。
大井の中は柔らかいくせにきゅうきゅうと締め付けてくる。
しかし大井は初めての経験のはず。これが痛くないはずがない。
中の形は自分のと全く合っていないし、大井は動かなくなっている。

「う……だから待てと言おうとしたのに……」

「あっ、ひぐっ、……ッ」

「だ、だって……提督と早く、こうしたかった、んだもの……」

相当来るのか私の胸に両手を置いて俯いてしまった。
こういう時何をすれば確実に痛みをなくせるかなど知らず、ただ慣れてもらうまで待つしかできない。
せめてもの情け程度に服越しで腰を両手で摩る。
痛みに耐えてまでそういうことを言われて嬉しくないわけがないし、覚悟の気持ちも十分伝わった。
ここで、抜こうか、などという慰めは無粋極まりない。

「て、提督……、少し、ッあ、このままで……」

「いいよ、いいから」

震えるだけでまともに動けない大井を見る時間は精々一分程度しかなかった。
このまま待っても何も変わらないと判断したのか、私の胸についた手に力を入れて半ば無理やり動き始めたのだ。

「ん……んぃぃ……ッ、いっつ……」

ずるりと腰が持ち上げられ、カリまで外気に触れたところでまた落とされる。
その動きは一往復し切るまでに文庫本一行を読めるほどゆっくりとしていて、
正直言って摩擦による快感などないに等しい。
キツい締め付けも一応快感は生んでいるが、これではこちらが動きたくなる衝動に駆られるだけだ。
しかしこの大井の懸命に苦痛に耐える姿をしかと目に捉えることでその衝動は抑えられている。
自分が今相手をしているのは自己処理するための玩具でもなく、道具でもない。
ならば兵器? 最近の兵器は人間の性欲を処理する機能もついているのか。なんと都合のいい事だ。
だがそれも違う。
今相手をしているのは、周囲から艦娘と呼ばれているだけの人間だ。
私に奉仕したいという一心で私にこんなことをしているんじゃない。
私とこういうことをしたいという自身の意思でここにいるのだ。
それを分かってなお大井のことを考えずに行動する思考回路は自分の頭にはない。

「く、はあ……あぅっ……ん、んぅ……」

少しずつだが確実に抵抗は落ちてきているようで、よく耳を澄ますとにち、にち、といった粘液の音が聞こえる。
大井も次第に食いしばっていた歯の力を緩めてきてちらちら口の奥が見えるようになってきた。

「ん! ふ、あっ、は、てい、とくっ? どう、なの? ッ!」

「ッ、ん、ああっ、よくなってきたぞっ」

上下運動と言える十分な速度にまでなってきて気持ちよくないわけがない。
つい先までは悲鳴じみた声だったはずだが、今やすっかり艶と色気のある喘ぎが完成していた。
そんなことを質問する程調子付いてきたのならと大井の腰に添えて動きを緩く手伝うだけだった両手を、
揺れる二つのタンクに向かって伸ばした。

「ああっ! 胸、そんなに強くっ!」

滅茶苦茶にタンクを揉みしだく。滴る汗が自分の腕に数滴飛び散る。
そのタンクは手で完全に包み込むには少し大きいので、指の動きをそれぞれ変えてタンクに沈めたりしてみる。

「んんっ、い、やらしい、手つきね、あっ」

「人の事言えるか、このっ」

「あぅっ!」

生意気な口をきいてくるので、今まで動かさなかった腰を突き上げてやると面白い反応をした。
タンクのすべすべした手触りと補給口の中の絶妙な凹凸具合を堪能する。

「うぁっ! はっ! ああっ」

「ほらっ、ほらっ!」

「ちょっ、と、止めてっ、あ!」

「……」

「はぁ、はぁ……提督」

「うん」

「あの、最後は、抱きしめてもらいながら、イキたいの」

その時自分はどんな顔をしていたのだろう。心にずんと重い衝撃があったのは分かる。
事に及ぶ直前から大井と顔を合わせてしたいと考えていたのはそうだが、
今の大井の台詞はコピーしたように自分の意思に上書きした上で反映された。
上体を起こし、繋がったまま先と体勢を入れ替えて大井を横たえ、正常位で行うことにする。
これで抱きしめることもできるしなおかつ速度を上げることができる。
大井のスカートがめくれて下腹部が見えた。
大井の補給口周りは乾いた愛液の上にまた愛液で濡れているし、自分のモノはといえばところどころが赤くなっている。
ここまで乱れて来てそういえば大井は初めてだったことを改めて思い出したが、
あと少しで達することができそうなので構わず事を再開し、速度を上げていく。

「ああっ! やだっ、はげ、し、いぃっ!」

「てい、とくっ! キス、してっ、くだっ、あ!」

望みに応える事と、精一杯の想いを伝えたい気持ちで唇を合わせつつ、速度は落とさない。
唇を合わせるのが少し難しい。

「んっ! ぅ、んふっ、んんっ、ちゅく、ちゅるっ」

声が篭るも、ピストンしながらの唇を完全に合わせるのは無理なので、唇の端から声が漏れる。
想いを口に出したいがために割とすぐに離す。
抱きしめるために上体を大井と重ねるように下ろし、両手を背中に回す。
大井の耳元まで顔を持っていき、口を開く。

「大井っ、大井っ、前から、好きだったんだっ、愛してるっ!」

「はっ、て、提督っ、私もっ!」

こちらの背中に微かに回されていた手に力が込められる。
自分はこの時、初めて自分らが一つになれたかのように感じた。
最初は大井の気持ちの変化を曲解した結果涙を流させる事になってしまったが――

「ぐっ……」

「んっ! ~~~~ッ……」

これから先も流させるとしたら、それは嬉し涙だけにしたいものだ。

流石に熱も落ち着いてきて寒さを感じてきたので布団を被ることにする。
狭いシングルベッドに二人で横になるなら密着するしかないが、むしろ好都合のように思う。
普段の調子がああなのであまり意識していなかったが、服を着ていても大井の体の凹凸はよく分かるものだ。
――抱き合っていれば嫌でも分かるな。
服装をしっかり整えた大井の顔は、先までの事が嘘と思わせる位には涙の跡も残らず普段の微笑みを取り戻している。
自分も人のことは言えないが、愛だとか恥ずかしくないのかコイツは。
――愛してるは普段から言ってるしこんなものか。

「で、寝不足の原因は一体何だったんだ」

ピロートークの第一声がこれとは自分もどうかと思う。

「提督は最近四十六サンチ砲を欲しがっていたじゃないですか」

「まぁそうだね」

「だから夜中に工廠の資料を読み漁っていたんですよ」

「……まさかとは思うがそれを開発しようと?」

「はい」

「私のためにか」

「……ええ」

半分分かっていながら少しからかいを込めて言ってみると目を逸らした。
自分の中で嬉しい気持ちと怒りたい気持ちが葛藤を始める。
開発艦が戦艦でも難しいというのに、戦艦以外が携わって開発できるとは思えない。
それぞれ得手不得手というものがあって、勉強すればどうこうなるものではないはずだ。
何事も学ぶのはおそらくいい事だとは思うが、
私のためを思っての行動が艦娘を殺してしまいかねないとなると喜んでもいられない。
大切な存在を失うことがどれほどの恐怖であるかを想像してみて、大井をさらに近くへ手繰り寄せた。

「まぁ勉強はいい。だがそれで睡眠時間を削るのはやめてくれ。
私も沈ませないような指揮を取っていくつもりだが、全知全能の神でもない限り何が起こるか分からん」

「……分かってます」

「それでも生活習慣を崩すようなら艦隊に入れないからな。
私自身としては大井には存分に活躍してほしいんだが……」

「輸送任務とかかしら」

「魚雷を没収されての輸送任務は楽しかったか?」

「……いえ、退屈だったわ。とても」

最終的な重雷装艦への改造を完了した際に大井自身も言っていたように、
伝聞や資料にもあるが前世では重雷装艦としての役目はほとんど果たせなかったようだ。
決戦切り札の誇りを持って世に生まれたのに、設計時と全く異なる使い方をされた時の大井はどんなに悲しんだだろう。

「お願いだから死ぬような真似はやめてくれよ?
別に四十六サンチ砲なんか開発できなくたってお前に失望したりはしない。
重雷装艦としての役目を存分に果たして、私の目の届くところにいてくれれば満足だ」

「……ごめんなさい」

謝罪に対しては大井の頭を撫でる事で返した。
分かってくれればいい。どうしても開発に協力したいというのなら支障が出ない程度に受け入れようと思う。

「こんな私を選んでいいの? ……私を裏切ったら、海に沈めるけどね」

大井にしては珍しい控えめな態度と、いつもの強気、というより最早脅しじみた態度を混ぜておかしな確認を取ってくる。
先まで散々求め合ったのに、ここに来て断るならばそれは支離滅裂というものだ。
これはたった一晩だけの関係ではない。一晩だけの関係で済ませたくない。

「へぇ。それよりも先に私を裏切って海に沈んでいくような馬鹿はあまり好きじゃないかな」

「……もうっ」

うまい具合に言い返してやると負け惜しみのような反応が帰ってくる。
私の体に伏せていたがこちらに合わせるために上げたその顔は、
以前の愛想笑いでも、悲しみを隠すような笑みでもなく、濁りのない笑顔だった。

「やっぱり、提督の事、愛してますっ」






スキンシップも大事だな。大井の姉妹艦がそう言っていた。その意見には賛同の意を表明したい。
その姉妹艦とは逆に嫌がっていると思っていた大井も心を開いてみれば、やはり姉妹艦という繋がりは伊達ではなかった。

「提督、この手はなんですか? 何かの演習ですか? ……まあ、いいかな」

 

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最終更新:2014年01月10日 17:15