提督×鳳翔5-223

前回の話

 


E-1-1
「水道を…抜けましたよ、提督」
「うむ。どうやら無事に帰ってこれたな…」
長く美しい黒髪の艦娘にうなずいた艦隊司令-提督は沈痛な面持ちで南洋の島々を見つめた。
南洋の青い空を鎮守府のある主島の目印である1000m級の山がのんびりと佇んでいる。
泊地では鎮守府に所属する艨艟が憩っている。
遠征から帰ってきた神通を旗艦とした水雷戦隊が補給作業に勤しんでいる。
駆逐艦数隻を連れて艦載機の発着艦訓練を行っている精悍な空母蒼龍は比較的新顔だ。
先ごろ艦隊に配属された高速戦艦の比叡と霧島。
巨体ながらも引き締まったフォルムを水面に映している戦艦二隻の威容が彼方の水平線に睨みをきかせている。
その横に4隻の姉妹が仲良く並んでいる。
隙のない艦影はウォーシップの名に恥じない獰猛な印象を敵に与える。
同時に優美に伸びた艦首から流れるようなラインを持つ波形甲板と中央にバランスよく配置された兵装が一種の芸術品を思わせる美しさも持っている。
鎮守府で随一の武勲を誇る第5戦隊-妙高型重巡洋艦だ。
艦隊は今、敵の一大根拠地《沖ノ島海域》を完全攻略するべく準備を進めていた。
4隻の妙高型は戦隊を解き、経験不足の新鋭艦達の練度を上げるために常に1,2隻が艦隊に編成され出撃を繰り返していた。
護衛、雷撃戦の露払い、夜戦での大立ち回りと活躍した彼女達は順次ドッグでしばらく体を休めていた。
蓄積したダメージを回復すると同時に装備を一新、改装工事も終えていた。
高角砲、酸素魚雷、電探と最新式の装備を施された艦影は以前にも増して頼もしく見えた。
それ故、4隻が並んで泊地にその姿を見せているのは久しぶりの事だった。
「…第5戦隊は全艦出渠したようですね」
いつの間にか四姉妹を目で追っていた提督に今作戦の旗艦=秘書艦の扶桑が柔らかに一声をかけた。
「うん、良かった。綺麗になったね。休養も十分なようだ」
「妬けますね……」
「え?何か言ったかい?」
憂いのある笑いを浮かべて扶桑は、なんでもありません、と首を振った。
こころの底がチクリとするが彼女は従妹?の伊勢と違って感情をストレートに表現する事は無かった。
「…確かに良かったですね。第二戦隊と四航戦がこの有様では…」
後ろに続く出撃艦隊を振り返り、ひどく冷えた声で彼女は言った。
第二戦隊の航空戦艦4隻と第4航空戦隊の軽空母二隻で実施された第一次沖ノ島攻略戦は失敗に終わった。
最奥部で対峙した戦艦を中心とした敵艦隊に攻略艦隊はなすすべもなく文字通り叩き潰された。
伊勢、日向小破、隼鷹中破、山城、飛鷹大破。残る扶桑も無傷ではない。
対して、敵に与えた損害は駆逐艦撃沈1、中破1と僅少なものでしか無かった。

E-1-2
「轟沈が出なかったのは奇跡だったな……」
「いえ、提督があそこで引き返したからこそ、誰も沈まずに帰って来られたのです」
「いや、俺の編成ミスだ……もう少し攻撃用の艦載機を積んでいればっ!」
奥歯を噛みしめて提督は目深に軍帽をかぶリ直した。
扶桑の優しさはありがたかったが、悔恨の情が薄れる事はなかった。
第四航空戦隊の隼鷹と飛鷹には制空/直掩隊を担当する戦闘機隊に偏った編成を取っていた。
航空戦艦4隻に積まれている水上偵察機'瑞雲’の対艦攻撃力を期待してのことだった。
瑞雲は偵察機ながら急降下爆撃もこなせる画期的な水上機として期待されている新鋭機だ。
瑞雲が八個飛行隊揃うまで出撃を待ったほど、彼はこの新鋭機に期待を込めていた。
テストを兼ねた東部オリョール海の輸送船狩り、敵空母部隊との戦闘で勝利を収め、自信を持っての出撃だった。
だが、結果は惨敗だった。
敵の編成に空母は無かった。
直前の空母戦では活躍した零戦52型の制空隊だが、対艦攻撃力は無い。
空母には有効である瑞雲の25番爆弾による急降下爆撃も戦艦に致命傷を与える事は出来なかった。
本来なら航空雷撃で足を鈍らせた敵に叩き込むはずだった35.6サンチ砲は敵を捕らえるまで時間がかかってしまった。
その間に接近した敵ル級戦艦による近距離砲戦で元々装甲の薄い山城が大破し、二隻の空母も次々と被弾していった。
艦隊の撤退を支援するためその身を盾として損傷した日向と伊勢のおかげで艦隊は虎口を脱した。
『痛いっ……て、敵弾複数命中。三番砲塔旋回不能!……煙で見えない…姉さまは!無事?』
『飛行甲板に被弾……消火ポンプが故障?火災鎮火急いで!』
『隼鷹、これより飛鷹の消火作業に協力しまーす……駆逐艦接近?無視、無視!』
『敵に頭を取られちゃったか……日向、私たちで前に出よ!』
『航空先制が弾かれたか。砲戦力はこちらが不利だが、やるしかないな』
『痛っ、敵魚雷命中……でも、火は消したよ飛鷹、へへへ…』
「じゅ、隼鷹、大丈夫!私は大丈夫だから、早く、早く離脱して……』
『きゃぁー!!!ぜ、全主砲発砲不能……各艦は私を顧みず前進して!』
『や、山城!提督、私を前にっ!山城を、妹を助けなきゃ!』
敵の大口径弾が降り注ぐ風切り音、爆発で艦体引き裂かれる艦娘達の悲鳴。
陽炎のように揺らめき近づいてくる敵大戦艦の黄色く光る眼光。
仲間や姉妹艦を死にもの狂いで助けようとする艦娘達の鬼気迫った顔。
忘れように忘れられない。
恐怖。
それもある。
だがそれ以上に彼の心を苦しめるのは悔恨。
命を預かった艦娘達を一歩間違えれば殺してしまったかもしれない自分の迂闊さと軽率さ。
-俺の責任だ、

E-1-3
「俺のミスだ。敵にヲ級が多数含まれていると誤認した、俺が!」
提督が右拳を羅針艦橋の窓枠フレームに叩き付けた。
「提督!」
拳に血が滲む。
走り寄った扶桑が手布で提督の手を包む。
「……すまない、扶桑。でも!もし雷撃隊を中心に航空隊を編成していれば!君の妹を傷つけることも無かった!飛鷹だって!」
「提督っ!艦隊司令が海戦の損害で騒ぐなど言語道断です!」
普段大人しい扶桑が一括する。
「総司令たるもの、艦隊の半分沈められようが平然と構えなさい」
前世というべきか、かつて彼女が連合艦隊の一艦だったころに艦橋に座った数々の提督たちを思い返しながら彼女は厳しい口調で諭した。
しばしの沈黙の後、今度は優しい姉のような口調で提督の頬に片手を添える。
「……落ち着いて、ね」
-私も、甘い。提督以上に甘いわ。
内心苦笑しながら、扶桑は優しく提督を見つめた。
奥歯を噛みしめ、絞り出すように提督は頭を下げる。
「すまない、扶桑。興奮して悪かった」
眼下には戦場とはかけ離れた南洋の青い海が優しく広がる。
中途で仲間に加わった島風が、敗残の艦隊の周囲を心配そうに並走している。
皆、傷ついてはいるが連合艦隊の矜持を示すかのように胸を張って進んでいる。
艦隊司令が率先しないでどうする、そう思い直し、提督は軍帽を正して泊地を見つめる。
「いずれにしても、再攻勢に出るのは先の話だな」
気持ちを切り替えるように提督は呟いた。
知らず知らずのうちに視線は妙高型4姉妹を見ている。
「第5戦隊には頑張ってもらわなくてはなりませんね」
「ああ、そうだな……我々の仕事は戦う事だからな」
何か救いを求めるように五戦隊を見つめる提督の視線に気づいて扶桑が声をかけた。
この艦隊でまともに実戦経験がある戦艦は4隻の航空戦艦を除けば榛名だけだ。
姉妹の比叡も霧島もまだまだひよっこ、長女の金剛は未だ艦隊に参加していない。
航空戦力の要-一航戦は獅子奮迅の活躍をしているが、それ故ドックに入っている時間も長い。
蒼龍や軽空母達も頑張ってはいるが決め手となるほどの練度ではない。
艦隊自慢の水雷戦隊達は最近は苦しい資源事情を支えるため遠征に出ている事が多い。
失敗の許されない遠征任務故に練度の高い艦娘が中心になってしまうのが痛い。
必然的に戦力の中心は第5戦隊に任される事になる。
あの死地に愛しい娘達を送り込む。
果たして自分にできるのか。
「大丈夫です。あなたは自分が思うよりもずっと強い方です」
この鎮守府に一番最初に配属された戦艦だけあって扶桑は提督を良く知っていた。
「私たちはどこへでも行けます。戦えます」
-私は、決してあなたの一番にはなれないけれど、
「あなたと一緒なら」
内心の寂しさを隠して笑顔で扶桑は言った。
「さあ、浮標が近づいてきました。後は陸に上がってから考えましょう」
扶桑の優しさに感謝しながら提督は号令を発した。
「ありがとう……両舷全速後進、機関停止用意!」

E-2-1
「んんんっ、あ、はぁぅん…うふふ」
障子、畳、箪笥、掛け軸、布団。
南洋でありながらこの部屋は内地の香りで満たされている。
薄らと入るドッグの明かりが男を組み敷いた女を浮かび上がらせる。
汗が浮かんだ白い裸身が夜具の上でしなやかに踊る。
小柄で慎ましい美しさが布団という和の様相に映える。
だが、乳房や臀部はまろやかな曲線で構成され瑞々しさよりも艶ややかさを印象付けた。
「ふふ、もぅ、ぁんっ、限界?」
右手で顔にかかる前髪を払いのけて、女は組み敷いた男に優しく笑いかけた。
既に提督自身は鳳翔の秘肉に咥えこまれている。
成熟したローズピンクの媚孔は丸い輪のようにペニスを包みながら蜜を吐き出している。
くいくい、と軽く腰を前後に動して胎内にある男根へ柔らかな刺激を続ける。
「ああ、ぐっ……鳳翔、凄すぎ…うわっ」
切羽詰まったように提督が呻く。
体を前傾させた鳳翔は、苦痛に耐える様な男の顔を両手で優しく包む。
にゅちっ、という淫らな水音が二人の繋がっているところから聞こえる。
たぷんと肉付きの良い臀部が揺れ肉棒を食い締める陰唇が露わになる。
程よく熟した女肉がペニスを離さないように吸い付いている。
結合部は鳳翔の愛液と射精された提督の精液でぬらぬらと光っている。
鳳翔は提督に一つ口づけるとそのまま腰の動きを再開した。
「んんっ、あふぅん、折角の提督からのお誘い。もう一度くらい中に、ね」
そう言いながら、細い指を提督の体に這わせていく。
顎を撫で上げ、首筋を掠め、鎖骨をなぞる。
優しく労わるように指が潮風で鍛えられた体を滑っていく。
そして胸板の辺りでのの字を書くように指を遊ばせる。
「ふふふ、あら?ちょっと元気が無いみたいね」
「無理を言うな、うぐ、もう若者って、歳でもないんだ、ぐっ」
後背位で一回、正常位で一回、おまけに鳳翔の口の中で一回。
今夜は既に三度も射精している。
"鎮守府の種馬"と口の悪い曙や五十鈴などが言うほど、結構な割合で艦娘達と床を共にする提督だが、流石に一晩に四度の射精というのは経験が無い。
「嘘おっしゃい。足柄さんや加賀さんを一晩中、啼かせているのは誰ですか?」
「あれは……それに、一晩にそう何度も出してるわけじゃないよ」
自分で言った通り、あまり若くないからか最近、若干遅漏気味な提督である。
射精感はこみあげては来るものの中々頂点には達しない。
だが鳳翔の熟練の床技は、"鎮守府の種馬"を初めて女を知った新米中尉のように瞬く間に射精に追いやられてしまった。
故に最初は握っていた主導権をいつの間にか鳳翔に取られてしまった。
「じゃあ、ここを弄って、あげますね」
優しい笑顔で彼女は提督の乳首をペロリと舐めた。

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「うわっ、それはっ、待った、ダメだっ、んっぐっ」
そのままチロチロと右の乳首を舐めあげる。
ぞくぞくした感覚が提督の背筋を伝う。
「ちゅる、ちゅぱっ…ほぉら、うぅん、おちんちんが硬く、なったぁ」
自らを貫く男根が甘美な刺激に反応して膣内で硬くなるのが解る。
妖艶というよりも柔和な笑顔でウフフと鳳翔は笑った。
我が仔を愛する母犬のようにチロリチロリと提督の乳首を舐める。
左の乳首も難を逃れられず細指につかまってコリコリといたぶられる。
男の弱点を的確に攻めながら腰は緩やかに円を描く。
硬度を回復した男性自身が熱い滑りの中をぐり、ぐり、と動く。
「ちゅちゅ、んちゅっ、んんんんんっ、はぁぁん」
硬い肉棒が粘膜を擦ると自然に甘い声が出てしまう。
「ふぅぅん、おちんちんが膣で擦れてぇ、あぁん、いいっ」
腰の動きが加速し提督の目の前で熟れた双乳が揺れる。
色づいた頂が淫靡にしこり立っている。
上半身を起こして思わず敏感な尖りに吸い付いてしまう。
「ふ、ぅぁんっ、あぁん、もう、いきなりぃ、くぅぅぅん」
赤子に乳をあげるように鳳翔は提督の頭を優しく抱く。
柔らかな乳肉に口元が覆われ、鼻孔を鳳翔の匂いが満たす。
口中でコリコリとしこり立った乳首を舌で転がす。
「あはぁぁ、んんぅ、提督はおっぱいが好きなんだからぁぁん」
ちゅうちゅうと乳首を吸われながらも鳳翔は柔和な笑みを崩さない。
だが、色白のうなじは朱に染まり、瞳は色欲に染まっている。
汗で張り付いた額の黒髪が奥ゆかしさと艶やかさを彩る。
艦隊の母と言われる彼女が、今は一人のオンナになっている証左だった。
乳首を吸いながら提督が抽送を再開する。
「んあう、あ、あ、あ、あはぁぅんっ、そこぉ」
完全に力を取り戻した提督のペニスに膣内を抉られ鳳翔はあえぐ。
媚肉は蕩けたように熱を持ち剛直に絡みつく。
ぞりぞりと膣壁のスポットをカリに擦られ鳳翔は頂点に昇っていく。
「あはぁぁぁ、んんんん、ね、提督、私、イキそう」
「んっ、俺も、もう、出る」
乳房から顔を離し鳳翔の熟れた腰を掴みながら提督も限界を告げる。
突くと、亀頭先が熱いぬかるみを押し分ける快感が、引けばカリが襞をかき分ける快感が肉棒から脊髄に駆け上がる。
更にペニス全体が暖かな柔肉に包まれる快感で頭の中は鳳翔の膣を突く事のみに支配される。
「んっんっんっんっ、イぃっ、そのまま、きて、出して」
ひときわ強く腰を突き上げられる。
肉棒に絡みついた粘膜がぐゅりと押し上げられる。
亀頭の先端がトロトロの子宮口にぶつかった瞬間、提督の背筋を快感が走る。
「ぐ、出るよっ」
膨れ上がった亀頭が爆発したかのように熱い迸りが飛び出す。
子宮口に叩き付けられる衝撃と熱さが鳳翔を急速に絶頂へと押し上げる。
「んっん~、キます……イきます、くっんんんんんんんんんっ」
背筋を弓なりにして鳳翔が絶頂する。
断続的に震える肉棒が鳳翔の中をかき回す。
暴れる肉棒を収縮した肉壁が食い締める。
陰茎と膣が溶け合うような快楽が二人を包む。
全身の筋肉が緊張から弛緩へと移り、鳳翔はとさりと提督の胸に落ちる。
鳳翔の股間からぬるりと力を失った男根が吐き出され、後を追うようにドロリと白濁が漏れる。
お互いに荒い息をしながら二人はそっと抱き合った。

E-2-3
お互いの体温と少しずつゆっくりになっていく鼓動が心地よい。
幾許かして、おもむろに提督は鳳翔の頭をかき抱いた。
鳳翔はそのまま男の胸に顔を埋め、残り香を楽しんでいたがそっと顔を上げた。
「……何かあったのですか?」
先程の淫らな女の影は潜み、艦隊の母に相応しい柔和な視線が提督を見つめる。
目の前の男は視線を天井に向けたままポツリと話し始めた。
「今日の海戦、惨敗した」
一点を見つめたまま、提督の顔が悔恨に歪む。
「気付いてしまった。戦で負けるということは君たちを傷つけるのだということを」
知らず知らずに提督は鳳翔の体を抱きしめる。
柔らかな小柄な体が暖かい。
心の壁が溶かされて提督の心が無垢の子供のように解放される。
「今更、怖くなった……戦場が、君たちを傷つけるのが」
提督の口から本音が漏れる。
ゆっくりと提督の右頬を鳳翔の手が優しく包む。
「……どうしますか?…もう戦うのをやめますか」
咎めるでもなく、憐憫でもなく、いつもと変わらぬ柔和さな顔で鳳翔は尋ねた。
そんな鳳翔の顔を暫く見つめていた提督が口を開いた。
「……いや、止められないな」
「どうしてですか?」
「私は海軍軍人だ。海から迫る脅威を排除するのは私の仕事だ」
「お仕事だから戦うのですか」
自らの頬に当てられた鳳翔の手をそっと握り返した。
柔らかで暖かだが芯に強さを感じる。働き者の手だ。
「……子供のころから憧れていた。大艦隊を率いて運命の敵前回頭を命じるような提督に」
提督の顔からいつの間にか悔恨は消え、柔和な表情が浮かんでいる。
「海軍士官になれて嬉しかった。命をかけてみんなを守るって使命を負えた事に」
「使命…ですか」
鳳翔は提督の頬から手を外し体を起こした。サラリと解いた黒髪が肩に落ちる。
「鳳翔?」
止める間もなく、提督の横に正座をした鳳翔は目を閉じながら、歌い始めた。
「守も攻めるも黒鉄の浮かべる黒城ぞ頼みなる♪」
静かな歌声が寝室に響く。
行進曲「軍艦」。
本来なら力強い歌であるはずだが、今は子守唄のように聞こえた。
「~皇國の光輝かせ…」
歌い終わった鳳翔は目を開けた。
いつの間にか体を起こした提督が目の前で静かに歌を聴いていた。
「私の使命は大八州を侵す夷敵があればこれを退けることです」
提督の目を真っ直ぐ見つめて鳳翔は続ける。
「そのために私は、私たちは生まれてきました。昔も、多分今も」
かつての戦いの記憶を彼女は、艦娘達は持っている。
鳳翔の記憶には華々しい戦いの記憶はほとんどない。
でも、彼女は覚えている。
史上初の正規空母として誕生し、全速力で駆けた海原の潮風を。
太平洋を圧して進軍する大艦隊の一員として巨大戦艦の傍らにあったことを。
飛行甲板を蹴って飛んでいく艦上機達が奏でる高らかな爆音を。
初々しい少年飛行兵が初めて彼女に着艦し、誇らしげに見せた笑顔を。
幾人もの搭乗員が艦長が彼女の元で育ち巣立って行った。
幾隻もの艦達が”皇國の四方を守る”為に港から出航していった。
そして、そのほとんどに、人も艦も、もう二度と会うことは叶わなかった。

E-2-4
「あなたの使命を助けるのが、私たちの使命です」
優しく静かに鳳翔は言葉を続ける。
そっと提督の膝に手を取り両手で包む。
「私たちはいつも一緒です。あなたとならばどこまでも征けます」
まじまじと鳳翔を見やった提督は、やがて降参したように苦笑しつつ首を振った。
「……俺は提督、君たちは艨艟。征くなら共に、か」
「はい、提督」
「吹っ切れた。ありがとう、鳳翔」
彼女の手を握り返して提督はいつもの表情に戻った。
潮風に鍛えられた海の厳しさと優しさを合わせたような男の顔に。
ドキリと鳳翔の胸が高鳴る。
―ああ、提督。私の司令長官…。今度こそ、最後までお傍に。
自身の深い悔恨を晴らしてくれるであろう男の胸に鳳翔は体を預け、口づけをする。
提督は彼女を優しく抱き止めそれに答える。
「すまないな。弱った時にばかり君に甘えて」
唇を離して提督は頭を掻いた。
目を伏せた鳳翔は頭を振った。
「……いいえ、弱ったあなたも私は好きですから」
顔を上げた鳳翔の目には再びオンナが燃え上がっていた。
「えっ?ほ、鳳翔さん?」
若干、顔をひきつらせた提督が体を離そうとするが流石に腰が立たない。
そのまま押し倒されるように鳳翔の下に組み敷かれる。
「ね、提督、私も弱ってるからあなたに甘えたいの」
ぺろっと舌を出しておどけて見せる鳳翔だが、提督には舌なめずりをするネコ科の猛獣に見えた。そのまま人差し指をチロチロと舐めながら荒い息で提督を見下ろす。
「それに、イくなら一緒に、でしょ?」
「いや、それ違うし、さすがに、もう無理だって!」
撥ね返そうとするが、帝国海軍初のジャイロスタビライザーを装備した抜群の安定性はそうそう撥ね返せるものではない。
「うふふ、私知ってましてよ。殿方のカタパルトの位置」
完全にマウントポジションを取った鳳翔の細指が提督の菊のご紋に伸びる。
「なっ、ちょっ、それは、ダメだ!」
ずぶりと提督のバイタルパートがやすやすと鳳翔の指に貫通される。
「うふふ、ここね…それぇっ」
「アッー」
「ほーら、硬くなった。うふふ、やる時は…やるのです」

……
………
…………
翌朝、妙につやつやとした鳳翔の作る朝ごはんはいつになく美味しかった。
が、提督が朝食の席に姿を見せることは無かった。
昨晩、鳳翔が提督の部屋にいた事を知っていた艦娘の何人かは提督にそっと手を合わせた。
当の鳳翔はいつもの柔和な笑顔で味噌を鍋の出汁に溶いている。
「私が無茶させてはダメですね」
新妻のようにお茶目に舌を出して鳳翔は呟いた。
―でも、提督。半分は、私を心配させた罰ですよ…。
 

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鳳翔
最終更新:2013年12月10日 17:45