非エロ:提督×ヲ級3-472

前回の話

 

横須賀鎮守府。
イベントが始まって大量の猫が襲来したとしても冷静に対処できる歴戦の古強者が集う最前線。
もちろん、秘書艦を勤める艦娘達も激戦を潜り抜けてきたエリート揃いであるのが一般的である。
そう、あくまで一般的な話ではある…

「司令官、第二艦隊ただ今帰投したよ。」
「お帰り響。今回も遠征ご苦労だった」

この鎮守府においてもイベントに備えて資材を貯蓄するべく、ここ最近は第二艦隊から第四艦隊までが遠征に繰り出している。
その甲斐あって、ようやく目標とする量の資材を確保することが出来た。

「これで鉄底海峡の攻略を行う準備が整った。作戦は明日の早朝から開始される予定だ。今夜はゆっくり休んでくれ。」
「ああ、そうさせてもらうよ。お疲れ。」

コトッ

報告を済ませ、駆逐艦寮に戻ろうとする響に、秘書艦が労いの気持ちをこめて茶を出す。

「ヲッ!」
「ほう、これはいいな、スパシーバ。」

一般的な鎮守府とは異なり、我が鎮守府において秘書艦を務めているのは、正規空母「ヲ級」と呼称されている深海棲艦だった。
詳しい経緯については、保管庫を参照されたし。

コトッ

「ヲッ!」
「ああ、ありがとうヲ級。折角だから私たちも少し休憩するか」

ついでではないだろうが、ヲ級は響にだけではなく、私にも茶を淹れてくれた。
書類仕事をしていた執務机から、最近司令室に用意された炬燵へと移動する。
某球磨型軽巡も思わず丸くなりそうな逸品というだけあって、中々に上等なものである。

「折角だ。響も少し温まっていくといい。」
「いいのかい?愛する二人の邪魔をするのは少々気が引けるんだが…」
「そういう気の遣い方を一体どこで覚えてきたんだ…」
「ヲッ?」

先日の青葉の襲撃によって、鎮守府内において俺とヲ級の誤った関係が明らかになってから数週間が経過した。
その間に正規空母達からは祝電が届き、駆逐艦達からは質問攻めにあい、上層部の査察に対しては一部戦艦・重巡・軽巡によるHANASHIAIなどがあり、あっという間に今日に至った。
当のヲ級はというと、以前と特に変わりなく過ごしている。ただ、今の響のように他の艦娘が気を遣うようになったためか、以前よりも私と一緒に過ごす時間が多くなった。
私としてはありがたいような、気恥ずかしいような気持ちだが、何とか平常通り過ごしている(はず)。

「ヲッ!」

中々炬燵に入ろうとしない響に業を煮やしたのか、ヲ級は響の体を抱き上げて自分の膝の上に乗せるような形で炬燵に入れてしまった。

「さすがにこれは、恥ずかしいな…」
「観念してそのまま少し休んでいけ。それに、ヲ級がそうしたがっているようだから遠慮はいらんぞ。」
「ヲッ!」

恥ずかしがってか頬を染めて、それでも少し嬉しそうな顔をしている響と、響を抱っこできてご満悦なヲ級。
そんな二人の微笑ましい光景を眺めつつ、炬燵に入って茶をすする贅沢な時間。

「しかしそうしていると、まるで仲のいい姉妹みたいだな。」
「ヲッ?」

二人とも白い肌と白い髪で、眼の色は違っているが、見た目が何となく似ていたため、ふとそんなことを呟いてしまった。

「それを言うなら親子じゃないかな、“お父さん”?」
「ゲフッ!」
「ヲッ?」

響の不意打ちによって気管に茶が侵入しかけたが、何とか吹き出さずに済んだ。

「となると、司令官とヲ級が夫婦で、私と暁、雷、電が四人姉妹な家族か…。それも悪くないよね、“お父さん”?」
「すみません、この話はここまでにしてくださいお願いします…」
「ヲッ?」

響の手痛い反撃に抵抗の意思を挫かれた私は、早々に降伏を宣言した。それ以上いけない。

「仕方ない。このあとは弟が欲しい、とねだってみたいところだったがそれは次の機会にするとしよう。」
「堪忍してつかぁさい…」
「ヲッ?」
「冗談だよ。さて、そろそろ戻るよ。これ以上遅くなると雷や電が様子を見にきてしまうだろうから。」

そういって響は炬燵から出て、部屋へと戻っていった。

響がいなくなり、ヲ級と二人で炬燵に入ったまま、先ほどの会話を思い出す。

(ヲ級と夫婦…、第六駆逐隊が娘か…、悪くないどころの話ではないが…)
「ヲッ?」

(しかし深海棲艦と結婚となると色々と問題が発生するし、そもそも戦時中に司令官がそんなことをするわけには…)
「ヲッ!」

響の言葉に誘発され、妄想という名の思考を重ねている隙に、ヲ級が膝の上に乗ってきた。
どうやら先ほどの響が嬉しそうだったので、自分もやってみたかったようだ。

「ちょっ!ヲ級さん!」
「ヲー!」

膝の上で嬉しそうにしているヲ級。
密着したことにより、ヲ級の匂いや柔らかさなどを直に感じることが出来て、色々とマズイ事態になりつつある。
それに、万が一こんなところを誰か(主に某重巡)に見られでもしたら…、と思った矢先に、

ガチャ

「“お父さん”!もーっと私に頼って良いのよ!」
「あの・・・“お、お父さん”?」
「あ、暁は、ただ炬燵に入りにきただけなんだから!ほ、本当よ!」

ヲ級を膝に乗せたままの状態で、先ほど戻っていった響と同じ第六駆逐隊の三人が、突如として司令室に入ってきた。

「司令官、すまない。途中まで迎えに来ていたみたいで、遅くなった理由を話していたらこういうことになってしまって…。」

と、戻ってきた響がこの状況について説明をしてくれた。
どうやらうっかりヲ級の膝の上とか“お父さん”とかについて話をしてしまったようだった。

「あっ!“お母さん”ったら、“お父さん”に甘えててずるーい!」
「ちょっと、羨ましいのです…」
「うぅ…、暁は一人前のレディーだから羨ましくなんか…」
「それ、関係あるのかい?」
「お前ら、明日は朝から出撃なんだから早く休むように言っておいただろうに…」
「ヲッ?」
「なになに?なんの話ですか?」
「お前は帰れ!」

騒ぐを聞きつけた某重巡によって、更なる騒ぎが起きたためか、翌朝の作戦開始は予定よりも大幅に遅れることとなったのは別の話である。
 

最終更新:2013年11月13日 01:34